ニールスのふしぎな旅
NILS HOLGERSSONS UNDERBARA RESA GENOM SVERIGE
セルマ・ラーゲルレーヴ　Selma Lagerlof
矢崎源九郎訳

１　少年

小人

三月二十日　月曜日
　むかし、あるところに、ひとりの少年がいました。年は十四ぐらいで、からだは大きくアマ色の髪の毛をしていました。この子は、たいして役にもたちませんでした。眠っては、たべるのがいちばんの楽しみで、おまけに、いたずらをするのが大すきという子だったのです。
　ある日曜日の朝のこと、おとうさんとおかあさんは、教会へいくしたくをしていました。少年はシャツ一枚になって、テーブルのふちに腰をかけ、こいつはしめた、おとうさんとおかあさんがいってしまえば、二時間ばかりはすきなことがしていられるぞ、と思いました。そこで、「よし、おとうさんの鉄砲をおろして、打ってやれ。だれにもおこられやしないからな。」と、ひとりごとを言いました。
　けれども、おとうさんは、まるで子どもの考えていることを見ぬきでもしたようでした。だって、そうでしょう。おとうさんは出かけようとして、しきいをまたごうとしたとき、急に立ちどまったかとおもうと、子どものほうを振りかえって、こう言ったのです。
「おまえがおかあさんやおとうさんといっしょに教会へいきたくないのなら、家にいてもいいが、せめてお説教だけは読んでおきなさい。おまえにその約束ができるかね？」
「はい、できます。」と、少年は答えました。でも、もちろん、おなかの中では、読みたいだけしか読んでやるもんか、と思っていました。
　少年は、おかあさんがこんなにすばしこく何かするのを、いままでに一ども見たことがありません。おかあさんはたちまち本棚のところへいって、ルーテルの説教集をおろし、その日のお説教のところを開いて、窓ぎわのテーブルの上におきました。それから、聖書を開いて、これも説教集のそばにおきました。さいごに、おかあさんは大きなひじかけイスをテーブルのそばに引きよせました。このイスは、去年、ヴェンメンヘーイの牧師館であった競売のときに買ってきたものでした。そして、いつもは、おとうさんのほかは、だれも腰かけてはいけないことになっていました。
　おかあさんは、よけいな世話をやきすぎる、と少年は心の中で思っていました。なぜって、少年としては、一ページか二ページぐらいしか読むつもりはなかったのですから。けれども、またしても、おとうさんは少年の心の中を見すかしたようでした。おとうさんは少年のそばへやってきて、きびしい調子でこう言いました。
「よく気をつけて、ちゃんと読むんだぞ。おれたちが帰ってきたら、一ページ残らずきくからな。もしちょっとでも飛ばしていたら承知しないぞ。」
「お説教は十四ページ半あるのよ。」おかあさんは、まるで、はっきりさせておこうとでもいうように、こう言いました。「読んでしまおうと思うんなら、すぐにはじめなくちゃだめよ。」
　こう言いのこして、おとうさんとおかあさんは出ていきました。少年は戸口に立って、あとを見送りながら、きょうは、とうとうつかまっちまった、と、あきらめました。
「おとうさんとおかあさんは、るすの間じゅう、ぼくがお説教を読んでいなければならないようにうまくしむけて、うれしがっているんだ。」
　ところが、おとうさんとおかあさんにしてみれば、うれしがっているどころではありません。心から悲しんでいるのでした。ふたりは貧しい百姓でした。持っている土地といえば、わずかに庭ぐらいの大きさのものでした。ふたりがここへ移ってきたときには、ブタを一頭とニワトリを二羽飼っているだけでした。しかし、ふたりともふつうの人以上によく働く勤勉な人たちでしたから、いまでは牛やガチョウも飼えるようになりました。暮らしむきもたいへんよくなっていました。ですから、子どものことさえ気にかからなかったら、こんなすばらしい朝には、はればれとした、みちたりた気もちで、教会へもいけたことでしょう。おとうさんは、少年が、ぶしょうで、なまけもので、学校へいっても何一つ勉強しようともしないし、ガチョウの番がどうにかこうにかつとまるといったあんばいの、のらくら者であることを、しょっちゅうこぼしていました。おかあさんは、そのことにたいしては、べつに反対はしませんでした。けれども、少年がらんぼうで、意地が悪く、生き物にたいしてはざんこくで、人びとにたいしてはよくないことばかりするので、それを何よりも心配していました。
「ああ、どうか神さまがあの子のいじわるなところをなくして、心を入れかえてくださいますように！」と、おかあさんはため息をついて言うのでした。「さもないと、いつかは、あの子もあたしたちも、ふしあわせになってしまいます。」
　少年は、お説教を読んだものかどうかと、長い間じっと考えこんでいました。でも、けっきょく、いまは言いつけに従うのがいちばんだと思いました。そこで、牧師館のひじかけイスに腰をおろして、読みはじめました。けれども、低い声でしばらくブツブツ言っているうちに、眠たくなってきて、まもなくコックリコックリしはじめました。
　外はすばらしいお天気でした。まだ三月二十日になったばかりですが、少年の住んでいる村は、南部スコーネのずっと南の、西ヴェンメンヘーイにありました。そこにはもう春の香りがみちみちていたのです。木々はまだ緑になってはいませんが、いたるところに新しい芽がもえでています。堀という堀には水がいっぱいで、堀ばたにはフキの花がひらき、石壁の上に生えている草の茂みは、つやつやとして褐色になっています。はるかかなたのブナの森は、みるみるうちに大きくふくらんでいくように見えます。空は高く、青くすんで、頭の上にひろがっています。家の戸がすこし開いているので、部屋の中でもヒバリのさえずる声が聞こえます。ニワトリとガチョウたちは庭をあるきまわっていました。牛は、春のけはいが牛小屋の中にまではいってきたのを感じて、ときどきモウ、モウと鳴きました。
　少年は読んだり、コックリコックリしたり、眠るまいとがんばったりしました。「眠っちゃだめだ。」と、少年は思いました。「眠ったら、午前中にお説教は読みきれっこないぞ。」
　けれども、とうとう、ねこんでしまいました。
　どのくらい眠ったのか、じぶんでもわかりませんでしたが、うしろのほうで、なにか低い物音がするので、少年は、はっと目をさましました。少年のまん前の窓台の上には、小さな鏡が一つおいてあります。その鏡には、部屋じゅうのものが、ほとんどぜんぶ映って見えました。少年は頭をあげたとき、なにげなくこの鏡をながめました。すると、おかあさんの長持のふたが開けっぱなしになっているではありませんか。
　おかあさんは、鉄の金具のついた、カシワの木でできている、大きな重たい長持を持っていたのですが、これはおかあさんのほかは、だれも開けてはいけないことになっていました。おかあさんは、その中に、じぶんのおかあさんからゆずられたものや、とくべつたいせつなものを一つのこらずしまっていたのです。そこには、赤い布地でつくった古風な百姓の着物——短い胴着、ひだのあるスカート、真珠の飾りのついた胸着——がいくつか入れてありました。それから、のりをつけて洗ったまっ白な頭巾や、重たい銀の装身具や、くさりなどもはいっていました。いまでは、こんなものを身につけようとする人はありません。おかあさんは、売ってしまおうかと思ったこともたびたびありましたが、思いきってそうする気にもなれませんでした。
　ところで、少年は、長持のふたが開いているのを、いま鏡の中にはっきりと見ました。どうしたというのでしょう。さっぱりわけがわかりません。だって、おかあさんは出かけるまえに、ふたをちゃんと閉めていったのです。だいいち、少年がひとりっきりでるすをしているときに、長持を開けっぱなしにしておくようなことをするはずはありません。
　少年はまったくきみが悪くなってきました。どろぼうが忍びこんできたのかもしれない……そう思うと、こわくなって、身動きすることもできず、じっと腰かけたまま、鏡の中を見つめていました。
　こうして、そこに腰かけて、どろぼうが姿をあらわすのを、いまかいまかと待っていました。そのうちに、長持のふちに黒い影がさしているのを見つけました。おや、あれはなんだろう？　よくよくながめてみましたが、どうしてもじぶんの目のせいとしか思えません。けれども、さいしょは影のように見えたものが、だんだんはっきりしてきますと、それは影ではなく、ほんとうの生き物であることがわかりました。しかもまあ、なんということでしょう、それは、小人ではありませんか。その小人がいま、長持のふちにまたがっているのです。
　少年はいままで小人のことを話には聞いていましたが、こんなにちっぽけなものだとは夢にも思ったことがありませんでした。いまそこの長持のふちに腰かけている小人は、せいはやっと十センチかそこらです。そいつは年とった、しわだらけの顔をしていて、ひげはありません。すその長い黒の上着をきこんで、半ズボンをはき、つばの広い黒い帽子をかぶっています。なかなかいきで、スマートです。えりや、そで口には白いレースをつけ、締金でとめた靴をはき、靴下どめにはチョウ型リボンがむすんであります。ちょうどいま、小人は長持の中から縫取のしてある胸着を取りだして、感心した顔つきでその古風なつくりかたを眺めています。それで、少年が目をさましているのには、すこしも気がついていません。
　少年は、小人を見たときには、すっかりびっくりしてしまいましたが、べつにこわくはありませんでした。そうでしょう。こんなちっぽけなものを、こわがるわけはありませんもの。それに、小人は珍らしい胸着を見るのに夢中になっていて、ほかのことは耳にも目にもはいらないようすです。そこで、さっそく、少年は、よし、あいつを長持の中におしこめて、ふたをするとかなんとか、ひとつからかってやれ、という気になりました。
　でも、さすがに、小人にさわる気にはなれません。それで、何か小人をたたくものがないかと、部屋の中を見まわしました。まず、長イスからテーブルへ、テーブルからだんろへと目を走らせました。そして、だんろのそばの棚の上にのっている鍋やコーヒーわかしや、戸口にある水桶や、はんぶん開いている戸棚の中に見えるさじやナイフやフォークや鉢やお皿まで眺めわたしました。つづいて、おとうさんの鉄砲を見あげました。これは、壁にかかっているデンマークの国王と皇后の肖像画のそばにかけてありました。それから、窓台のところに咲いているテンジクアオイやフクシャを眺めました。こうして、いちばんおしまいに、窓の横木にかけてある古い虫とり網に目をとめました。
　この虫とり網を見るが早いか、少年は跳ねおきて、それをひっつかむと、長持のふたをさっとすくいました。と、どうでしょう。まったく、うまいものです。じぶんでもびっくりしてしまったくらいです。どうしてこんなにうまくいったのか、いっこうにわかりません。でも、ともかく、小人はこうして、生けどってしまったのです。かわいそうに、小人は長い網の底のほうに、さかさまになってころがっています。これでは、とうてい逃げられっこありません。
　さて、少年は、つかまえてはみましたが、さいしょのうちは、この小人をどうしたらいいのか、見当がつきませんでした。ただ、小人が這いあがってくることができないように、ひっきりなしに網をゆり動かしていました。
　そのうちに、小人が口をきいて、どうか許してください、といくたびもいくたびも頼みました。そして、じぶんはこの家のために、長い間ずいぶんいいことをしてきたのだから、もうすこし、よくしてくれたっていいはずだ、もし、少年がじぶんを許してくれるなら、古いお金を一枚と、銀のさじを一本と、それに金貨も一枚あげよう、その金貨といったら、少年の父親の銀時計の側っくらいもある大きなものだと、言いました。
　小人の申し出たお金は、それほどたいしたものとは思いませんでしたが、少年は小人をつかまえてからというもの、なんとなくこわくなっていました。つまり、この世のものではない、きみのわるい、何かふしぎなものとかかりあいになったのを感じていたのです。ですから、小人を逃がしてやることは、じつをいえば、うれしくてたまらなかったのです。
　こういうわけで、少年はすぐさまその申し出を承知しました。そして、小人が這いだせるように、網をゆり動かすのをやめました。けれど、小人が網から出かかったとき、少年は、ふと、逃がしてやるかわりに、もっといろんなものがもらえるように、きめておけばよかった、と、思いつきました。まあ、せいぜい、小人が魔法でもって、あのお説教をおぼえさせてくれることくらいは、取りきめておくべきでした。
「ただ逃がしてやるなんて、なんてぼくはバカなんだ。」と、少年は思いました。そこで、小人がもう一ど網の底へころがり落ちるように、またまた網をゆすりはじめました。
　ところが、少年が網をゆすりはじめたとたん、ほっぺたをいやっというほどなぐりつけられました。まるで、頭がメチャメチャになってしまったのではないかと思われました。そして、一ぽうの壁にたたきつけられたかと思うと、こんどはもう一ぽうの壁にぶっつかり、しまいには床の上にぶったおれて、そのまま気を失ってしまいました。
　気がついたときには、家の中にひとりっきりでした。もう小人の姿はどこにも見えません。長持のふたはちゃんとしまっています。虫とり網も窓ぎわのいつものところにかかっています。ですから、さっきなぐられた右のほっぺたがヒリヒリしなかったら、少年はたぶん、みんな夢だったんだと、思ったことでしょう。
「こんなことを話したって、おとうさんやおかあさんは、そりゃ夢さ、と言うだろうな。」と、少年は思いました。「小人が来たからって、お説教をかんべんなんかしてくれっこない。いそいで読むよりほかないや。」
　ところが、テーブルのほうへいこうとしますと、なんだかいつもとようすがちがっています。でも、部屋が大きくなるなんてはずはありません。それなら、テーブルのところへいくのに、いつもよりずっとよけいに歩かなければならないというのは、いったいどうしたわけでしょう？　それに、イスだってまた、どうしたというのでしょう？　まえよりも大きくなったはずなどありませんが、少年が腰かけようとするには、いったんイスの足のあいだの横木にのぼって、それからすわるところによじのぼらなければなりません。テーブルにしたって、すっかり同じことです。テーブルの上を見ようとすれば、イスのひじかけの上にのぼらなければならないのです。
「いったい、どうしたっていうんだ？」と、少年は言いました。「そうだ、きっと小人が、ひじかけイスにも、テーブルにも、そればかりか、部屋じゅうに魔法をかけたんだな。」
　説教集はテーブルの上にありました。見たところ、変わったようすはありません。でもやっぱり、ちょっとへんなところがあるようです。なぜって、少年は本の上にのぼらなければ、一字も読むことができないのです。
　少年は二、三行読むと、なにげなく顔をあげました。すると、ちょうど鏡に目がとまり、とたんに、大声でさけびました。
「やあ、あそこにまた、べつのやつがいるぞ！」
　そのとおりです。少年は鏡の中に、とんがり帽子をかぶり、革ズボンをはいたちっぽけな小人をはっきりと見たのです。
「あいつは、ぼくとまるっきり、おんなじかっこうをしているな。」少年はこう言いながら、びっくりして手をたたきました。と、どうでしょう、鏡の中の小人も同じように手をたたくではありませんか。
　そこで少年は、髪の毛をひっぱったり、腕をつねったり、ぐるっとまわったりして見ました。すると、鏡の中の小人も、すぐそのとおりにするのです。
　それから少年は、鏡のまわりを二、三どかけまわりました。ひょっとしたら、鏡のうしろにちっぽけな者でもかくれていやしないかと思ったのです。けれども、鏡のうしろにはだれもいません。こうなると、少年はこわくなって、からだじゅうがブルブルふるえてきました。そのはずです。じぶんは小人に魔法をかけられたということが、いまはじめてわかったのですもの。鏡の中に見えたちっぽけな小人は、まちがいようもなく、少年じしんの姿だったのです。

ガンの群

　少年は、自分が小人になってしまったとは、どうしても信じることができませんでした。
「こいつはきっと夢なんだ、気の迷いなんだ。ちょっと待ってりゃ、すぐまたもとの人間になれるだろうさ。」こう思いながら、鏡の前に立って、目をつぶりました。そして、こんなバカバカしいことが消えてなくなってしまえばいいと願いながら、二、三分して目をあけました。ところが、なんの変わりもありません。やっぱりまえと同じようにちっぽけなままの姿です。白っぽいアマ色の髪の毛、鼻の上のそばかす、革ズボンにあてたつぎ、靴下の穴、なにもかもが、もとのとおりです。そしてただ、からだだけが、ひどくちっぽけになっているのです。
　いや、こうやって立って待っていたところで、どうにもなりゃしない。なんとかしなくちゃだめだ。そうだ、いちばんいいのは、小人をさがしだして、仲なおりをすることだろう。
　こう思うと、少年は床にとびおりて、さっそく、さがしはじめました。イスや戸棚のうしろから、長イスの下やだんろのうしろまでさがしました。そのうえ、ネズミの穴にまで這いこんでみましたが、小人の姿はどこにも見あたりません。
　少年はさがしながらも、泣いたり、祈ったり、思いつくはしからさまざまのことを誓ったりしました。これからは、けっして約束をやぶったりしません。いじわるもしません。お説教のときにいねむりもしません。もう一ど人間の姿になれさえしたら、きっと、おとなしい、りっぱな、いい子になります……けれども、いくら誓ってみたところで、なんの役にもたちませんでした。
　小人はよく牛小屋に住んでいると、いつだったか、おかあさんが言っていたのを、少年はふっと思いだしました。そこで、さっそく牛小屋へいって、小人がいるかどうか、さがしてみることにしました。ありがたいことに、戸口がすこし開いていました。だって、もしそうでなかったら、錠まで手がとどかないのですから、戸を開けることができなかったでしょう。ともかくこうして、らくに抜けでることができました。
　玄関に出たとき、じぶんの木靴はどこにあるかと見まわしました。いままで部屋の中では、靴下しかはいていなかったのですからね。少年は心のうちに思いました。あんなに大きな、重たい木靴を、いったいどうしてはいたもんだろう。
　でもそのとき、よく見ますと、入口のところにちっぽけな木靴が一足そろえてあります。おや、おや、小人は木靴まで小さくするほど気をつかっているのです。それがわかりますと、少年はひどく心配になってきて、「あいつめ、ぼくにこんなみじめな思いを長いことさせておくつもりなんだな。」と、思いました。
　戸口の前においてある古いカシワの板の上を、スズメが一羽ピョイピョイととびはねていました。スズメは少年の姿を見たとたんに、さけびたてました。
「チュン、チュン、ごらんよ、ガチョウ番のニールスを！　あのチビ小僧を見てごらん！　チビ小僧のニールス・ホルゲルッソンを見てごらん！」
　すると、たちまち、ガチョウもニワトリも、ニールスのほうを振りむきました。そうして、みんなは、ものすごい勢いで鳴きたてました。
「コケッコッコ。」と、オンドリはがなりたてました。「ばちがあたったんだ！　コケッコッコ、おれのトサカをひっぱったのはあいつさ！」
「コ、コ、コ、コ、ばちがあたったのよ！」と、メンドリたちは、鳴きたてました。そして、いつまでもいつまでもさけびつづけました。
　ガチョウたちはかたまって、たがいにささやきあいました。
「だれがあんなにしたんだい？　だれがあんなにしたんだい？」
　しかし、何よりもふしぎなのは、鳥のしゃべっていることがニールスによくわかることでした。ニールスはあんまりびっくりしてしまって、入口のところにつっ立ったまま、ぼんやりとただ聞いていました。
「こりゃあ、きっと、ぼくが小人になったからなんだろう。それで、鳥のことばがわかるんだ。」と、ニールスは言いました。
　ニワトリたちはいつまでも、ばちがあたった、ばちがあたった、とさけびつづけています。ニールスはがまんができなくなりました。そこで、石をぶっつけて、どなりました。
「だまれ！　こんちくしょう！」
　ところが、つい、だいじなことを忘れていました。それはほかでもありません、ニールスは、いまではニワトリたちからこわがられるほど大きくはないのです。ニワトリたちはニールスめがけて走ってきて、そのまわりをとりかこむと、またまた、さけびました。
「コ、コ、コ、コ、ばちがあたった！　コ、コ、コ、コ、ばちがあたった！」
　ニールスは逃げようとしました。けれど、ニワトリたちがあとからとびかかってきては、大声にどなるので、耳がツンボになりそうです。もしもそのとき、ネコがそこへ来てくれなかったら、きっと逃げだすことができなかったでしょう。ニワトリたちはネコの姿を見ますと、たちまちだまりこんで、地面をつつきまわしては、一生けんめい虫をさがしているようなふりをしはじめました。
　ニールスはさっそく、ネコのところへかけていきました。
「ミーや、おまえはこの庭なら、すみのすみから隠れ穴まで、すっかり知ってるだろう？　いい子だから、小人がどこにいるか教えておくれよ。」
　ネコはなかなか返事をしませんでした。そこへすわって、しっぽをかわいらしく前足のまわりにまきつけてから、少年を眺めました。大きな黒いネコで、胸にぽっつり白いところがあります。毛なみはつやつやしていて、お日さまの光をうけると、きれいに輝きました。爪はおさめていました。目は灰色で、まんなかに小さな黒い点が見えました。見るからにおとなしそうな黒ネコです。
「小人がどこに住んでいるかぐらい、もちろん知ってるよ。」と、ネコはやさしい声で言いました。「といったって、きみに教えてやろうとは思っちゃいないよ。」
「かわいいミーや、ぼくを助けておくれよ。」と、ニールスは言いました。「ぼくが魔法にかけられているのがわからないの？」
　ネコが目をすこしあけますと、いじわるそうなようすがあらわれてきました。それから、満足そうにのどをゴロゴロならして、とうとうこう答えました。
「このぼくが、きみを助けるんだって？　きみはあんなにしょっちゅう、ぼくのしっぽをひっぱったじゃないか。」
　ニールスは、しゃくにさわってしかたがありません。それで、いまはじぶんがちっぽけな弱い者になっていることを、またまた忘れてしまったのです。
「よし、そんなら、もう一ど、しっぽをひっぱってやるぞ、いいか。」こう言って、ネコにとびかかりました。
　その瞬間、ネコはいままでのネコとは思えないほど、すっかり変わってしまいました。毛をさかだて、せなかをまるめ、足をのばしました。爪は地面をひっかきしっぽは短かく太くなり、耳はつったち、口からはあわをふき、目は大きくひらいて、ほのおのように輝きました。
　ニールスは、ネコなんかにおどかされてたまるものかと、なおも前にでていきました。しかし、ネコはおどりあがって、ニールスにとびかかり、そこにたおしてしまいました。そして、口を大きく開けて、ニールスののどをねらいながら、前足で胸をおさえつけました。
　ニールスは、ネコの爪がチョッキやシャツをとおして肌までくいこみ、鋭いキバがのどをくすぐったのを感じました。ああ、たいへん！　ニールスは声をかぎりに助けをもとめました。
　けれども、だれも来てはくれません。ニールスは、いよいよおしまいかと思いました。ところが、どうしたわけか、そのとき、ネコは爪をひっこめて、のどもはなしてくれました。
「そら、」と、ネコは言いました。「このくらいで、もういいだろう。きょうのところはかんべんしといてやる。きみのおかあさんにめんじてだ。なあに、きみとおれとではどっちが強いか、知らせてやったまでのことさ。」
　こう言いすてて、ネコは帰っていきました。そのようすは、来たときと同じように、すなおで、いかにもおとなしそうです。ニールスはがっかりして、ものを言う元気もありません。これでは、いよいよ小人を見つけるよりほかはないのです。そこで、おおいそぎで牛小屋へ、かけていきました。
　牛小屋には、牛は三頭しかいませんでした。ところが、ニールスが、はいっていったとたんに、三頭ともほえはじめました。まあ、そのさわがしいことといったら、どうみても三十頭は、いるのではないかと思われるほどでした。
「モウ、モウ、モウ、」と、マイルースがほえました。「この世の中にまだ正義ってものがあるのは、けっこうなことだ。」
「モウ、モウ、モウ、」と、こんどは三頭がいっせいに鳴きたてました。何を言っているのやら、とてもわからないほど、メチャメチャに、がなりたてました。
　ニールスは小人のことをきいてみたかったのですが、牛たちがすっかりのぼせあがっているので、じぶんの言いたいことを牛たちに聞かせることができませんでした。牛たちは、まるで見なれない犬をけしかけられたときのように、あばれるのです。後足でける、首輪をゆすぶる、頭をぐっと上へむけて角をふりたてる、といったありさまです。
「オイッ、ちょっとここへ来な！」と、マイルースが言いました。「ぐんとこたえるように、一けり、けってやろうじゃないか。」
「ここへおいで！」と、グルリリアが言いました。「あたしの角の上でちょいと踊らせてあげるよ。」
「ここへおいでよ、おいで。おまえに木靴をぶっつけられると、どんな思いをしたものか、ひとつおまえにも知らせてあげるから！」と、シェルナは言いました。
「さあ、おいでったら。おまえがあたしの耳にハチを入れてくれたお礼を、いましてあげるよ！」と、グルリリアはさけびました。
　マイルースはいちばん年とっていて、いちばんりこうな牛でした。そして、中でもいちばん怒っていました。
「ここへこい。おまえはおかあさんから、牛乳のしぼり台を、なんどもなんどもひったくったな。それから、おかあさんが牛乳桶を運んでいるときに、いろんないたずらをしたっけな。おかあさんはおまえのために、ずいぶん涙を流したものだ。いまそのお礼をみんなしてやるぜ。」
　ニールスは、いままでのひどいしうちをどんなに後悔しているか話したり、小人がどこにいるかを教えてくれさえすれば、これからはきっと、いい子になる、と言いたかったのです。けれど牛たちは、ニールスの言うことなどに、てんで耳をかしてはくれません。たけりたってほえていますので、もしかして、つないである綱が切れはしないかと心配になってきました。そこで、ニールスは、牛小屋からそっと抜けだすよりほかはないと思いました。
　ニールスは、やっとの思いで逃げてはきましたが、すっかりがっかりしてしまいました。むりもありません。家じゅうどこへいっても、小人をさがす手助けをしてくれる者はないのですもの。それに、こんなぐあいでは、小人を見つけだしたところで、たいして役にはたたないでしょう。
　ニールスは幅の広い石垣によじのぼりました。石垣は農場をとりまいていて、その上にはイバラやイチゴのつるが、いちめんにからまっていました。ニールスはそこに腰をおろして、つくづく考えました。もしも人間の姿にもどれなかったら、いったいどうなるんだろう。おとうさんとおかあさんが教会から帰ってきたら、どんなにびっくりするだろう。それどころか、国じゅうの人たちがみんなびっくりするだろう。そして、じぶんを見物しようとして、東ヴェンメンヘーイからもトルプからもスクーループからも、たくさんやってくるだろう。いや、ヴェンメンヘーイじゅうの人たちが集まってくるだろう。そして、おとうさんとおかあさんは、じぶんを市につれていって、見せ物にするかもしれない。
　ああ、そんなことは思ってみただけでも、じつにこわいことです！　こうなったうえは、もうだれにも姿を見られたくありません。
　ああ、それにしても、なんという、ふしあわせな少年でしょう。これほど、ふしあわせな者は、世界じゅう、どこをさがしたってありません。この子はもう人間ではないのです。いまではちっぽけな化物です。
　ニールスは、もう人間ではないということが、いったいどんなことなのか、だんだんわかってきました。いまでは、すべてのものから切りはなされてしまったのです。もうほかの子どもたちと遊ぶこともできません。おとうさんおかあさんのあとつぎをすることもできません。それに、こんなじぶんのところへは、お嫁にきてくれるひともないでしょう。
　少年は、わが家をながめました。それは、白くぬってある小さな百姓家でした。とんがった、高いわらぶき屋根をいただいていて、まるで地面の中にめりこんでいるようなかっこうです。納屋も小さく、そのうえ、畑の小さいことといったら、それこそ、馬でさえふりむいても見ないくらいです。だけど、どんなにちっぽけで、貧弱でも、いまのニールスにとっては、よすぎるほどでした。なぜって、いまのこの身の上では、牛小屋の床下の穴よりもましな家に住むことなど、とても望めないことですからね。
　びっくりするほどすばらしいお天気でした。少年をとりまくすべてのものが、何かヒソヒソとささやいていました。新芽は、いきいきともえでて、鳥は楽しそうにさえずっていました。けれども、ニールスの心は沈んでいました。これからはもう、どんなものを見ても、いままでのように、うれしいと思うことは二どとないでしょう。ニールスは、きょうのように空が青くすんでいるのを見たことがありません。見れば、渡り鳥が飛んでいます。その鳥たちは遠い外国から飛んできて、バルト海をこえ、スミューエ岬に上陸して、いましも北をさして飛んでいくところだったのです。いろんな種類の鳥がいましたが、ニールスの知っているのはガンだけでした。ガンのむれは、クサビ型に長い列をつくって、飛んでいました。
　ガンのむれは、もういく組もいく組も飛んでいきました。みんな空を高く飛んでいきましたが、それでも、「さあ、丘へいくんだ！　さあ、丘へいくんだ！」とさけんでいるのが聞こえました。
　ガンは、庭をぶらぶらしているガチョウを見つけると、さっと舞いおりてきて、「いっしょにこいよ！　いっしょにこいよ！　さあ、丘へいくんだ！」と、大きな声で呼びかけました。
　ガチョウたちは、思わずしらず頭をあげて、耳をすましました。けれども、すぐにふんべつのある返事をしました。
「ここで、たくさん！　ここで、たくさん！」
　まえにも言ったとおり、たとえようもないほどすばらしいお天気でした。こんなにさわやかで気もちのいい日に、あの大空を飛びまわったら、さぞ楽しいことでしょう。じっさい、新しいガンのむれが、頭の上を飛びすぎるたびに、ガチョウたちもじっとしてはいられなくなってきました。なんだか、いっしょに飛んでいきたいような気もちにさそわれて、ガチョウたちは、二、三ど、はねをバタバタやってみました。でも、そのたびに、年とったおかあさんガチョウが言いました。
「バカなまねをするんじゃないよ。あの連中は、いまにおなかがすいたり、寒くてこごえたりするにきまってるんだから。」
　まっ白な一羽の若いオスのガチョウは、ガンのさけび声を聞いているうちに、どうしても旅に出かけたくなってしまいました。そして、
「このつぎ、ガンのむれがきたら、いっしょにいこうっと。」と、さけびました。
　やがて、新しい一むれが飛んできました。そして、まえと同じように呼びかけました。すると、若いガチョウは、「待って、待って！　ぼくもいくよ！」と、さけびました。そうして、はねをひろげて、空に飛びあがりました。けれども、飛ぶのには慣れていないものですから、バタッと地面の上に落っこちてしまいました。
　でも、とにかく、若いガチョウのさけび声は、ガンのむれまで聞こえたのにちがいありません。ガンたちは向きをかえて、ゆっくりと舞いもどってきました。ほんとうにいっしょにくるのかどうか、たしかめようというのでしょう。
「待って！　待って！」と、若いガチョウはさけびながら、もう一ど、飛ぼうとしました。
　ニールスは石垣の上から、これをのこらず聞いていました。「あの大きいガチョウに逃げられたら、大損害だぞ。」と、少年は思いました。「教会から帰ってきて、あいつがいなかったら、おとうさんとおかあさんは、どんなにがっかりするだろう。」
　こう考えたときニールスは、またもや、じぶんがちっぽけで弱い者になっていることをすっかり忘れていました。すぐさま石垣からとびおりると、ガチョウのむれのまんなかに駆けこんで、その若いガチョウの首っ玉にかじりついて、さけびました。
「飛んでっちゃだめだよ、いいかい！」
　ところが、ちょうどその瞬間に、ガチョウは地面から飛びあがるこつをのみこんでしまったのでした。そして、ニールスを振り落すひまもなく、この子をつれたまま空に舞いあがってしまいました。
　ニールスは、上へ上へとつれていかれました。それこそ目まいがするほどものすごい早さです。ああ、これはいけない、ガチョウの首をはなさなければ、と気がついたときには、もう空高くのぼっていました。こんな高いところから落っこちれば、あっというまに死んでしまうでしょう。
　せめて、もうすこしらくな姿勢にでもならなければたまりませんが、そのためには、ガチョウのせなかによじのぼるよりほかありません。それで、ニールスは、さんざん骨をおって、やっとのことでガチョウのせなかにのっかりました。けれど、羽ばたいている二つのはねのあいだの、ツルツルしたせなかにしっかりとのっかっているのは、なかなかたいへんなことでした。ですから、ころがり落ちないように、両手をはね毛の中までつっこんで、一生けんめいしがみついていました。

市松もよう

　少年はひどくめまいがして、長いこと何がなんだかわかりませんでした。風はピュウピュウうなりをたてて、吹きつけてきます。すぐそばでは、つばさがバタバタと羽ばたき、その音は、ものすごい嵐のようです。十三羽のガンはニールスのまわりを飛んで、勢いよく羽ばたきながら、ガアガア鳴きたてています。ニールスは目さきがチラチラし、耳がガンガン鳴っています。いったい、高いところを飛んでいるのか、低いところを飛んでいるのか、そしてまた、どこへ向かって飛んでいるのか、さっぱりわかりません。
　でも、そのうちに、頭がだんだんはっきりしてきて、いったい、どこへつれていかれるのか、それを見きわめなければいけないぞ、と、ニールスは気がつきました。けれども、それは、なまやさしいことではありません。下を見る勇気なんて、とてもわいてきそうもないのです。ちょっとでも下を見ようとすれば、きっと目がまわってしまうでしょう。
　ガンたちは、それほど高いところを飛んではいませんでした。というのは、新しく仲間になったあのガチョウが、空気のすくない高いところで息をするのになれていなかったからです。それでみんなは、いつもよりも、いくらかゆっくり飛んでいるのでした。
　とうとう思いきってニールスは、下を見おろしました。目の下には、まるで、とても大きな布がひろげられているようです。そして、その布は、大小さまざまの、かぞえきれない四角い形にわかれています。
「いったい、どこへ来たんだろう？」と、ニールスはふしぎに思いました。
　見わたすかぎり、目に映るものは、市松もようばかりです。ななめになっているものもあれば、細長いものもありますが、どれもこれも、まっすぐの線にかこまれた四角い形ばかりです。円いのや、まがったのは一つもありません。
「下に見えるのは、なんて大きな市松もようなんだろう？」だれも答えてはくれないだろうとは思いながらも、ニールスはこうひとりごとを言いました。
　ところが、ニールスのまわりを飛んでいるガンたちがすぐにさけびました。
「畑と牧場だよ！　畑と牧場だよ！」
　そう言われてみますと、なるほど、下に見える大きな市松もようは、スコーネの平野です。そして、それがどうしてこんな市松もように見え、いろんな色に見えるかも、だんだん、のみこめてきました。あかるい緑色の四角が、まっさきに目につきました。それは、去年の秋に種をまいたライ麦畑です。冬じゅう雪の下でも、ずっと緑の色をしていたのでした。黄色っぽい灰色の四角は、去年の夏みのったカラス麦の畑で、いまは刈り株がのこっているのです。褐色がかったのは枯れたクローヴァの野原で、黒いのは牧場のあとや、いまは耕されていない休閑地です。褐色で、はしの黄色い四角は、たしかブナの森にちがいありません。なぜって、そこには、森のまんなかにあって、冬には葉の落ちてしまう大きな木々も見えますし、森のへりに生えている若いブナの木が、黄色くなった葉を春までつけているのも見えています。それから、まんなかがいくらか灰色の黒ずんだ四角もありました。それは黒くなったわらぶき屋根のある大きな百姓家で、前庭には石がしいてあるのです。それからまた、まんなかが緑で、ふちが褐色の四角も見えました。そこは庭園でした。そこでは、芝生はもう緑に色づいていたのですが、まわりのやぶや木々は、まだ、はだかで、褐色の木の肌を見せているのでした。
　ニールスは、あんまりなにもかもが市松もように見えるので、思わずおかしくなって、ふきだしてしまいました。
　けれども、ガンたちはニールスがふきだしたのを聞きつけますと、とがめるようにどなりました。
「肥えたよい土地だ！　肥えたよい土地だ！」
　ニールスはすぐ、まじめになりました。そして、「こんなこわい目にあってるというのに、ぼく、ふきだしたりして。」と、思いました。
　しばらくのあいだは、まじめくさっていましたが、ニールスはすぐまた笑いだしてしまいました。
　こうして、ガチョウのせなかに乗っているのにも、早く飛ぶのにも、なれてきますと、ニールスはしっかりしがみついているだけでなく、ようやくほかのことも考えることができるようになりました。気がついてみますと、たくさんの鳥のむれが空を飛んでいます。みんな北をめざしています。そして、たくさんの鳥のむれは、おたがいにさけびあい、話しあっています。
「おや、あんたがたは、きょう来たんですな！」と、さけぶものがあります。
　すると、ガンたちは、「そうですよ。で、どうでしょう、春らしくなってますかね？」と、ききました。
「木にはまだ一枚も葉っぱはないし、湖の水もつめたいですよ！」という返事です。
　ガンたちはニワトリが遊んでいるところへ来ますと、大声にさけびました。
「ここはなんていうとこだい？　ここはなんていうとこだい？」
　すると、ニワトリが頭をぐっとあげて、答えました。
「ここは『小畑』っていうんだよ。ことしも去年とおんなじだよ。ことしも去年とおんなじだよ！」
　このへんの家は、たいてい、その持ち主の名まえで、ペール・マッソンの家だとか、ウーラ・ボッソンの家だとか呼ばれています。それがスコーネ地方の習慣なのです。けれどもニワトリたちは、そうは言わないで、ニワトリ流に、いちばんふさわしいと思われる名まえをつけて呼んでいるのです。そこで、ガンたちが呼びかけると、貧乏な百姓家に住んでいるニワトリたちは、「ここは『穀物なし』っていうんだ。」と、さけびますし、もっともっと貧乏な百姓家のニワトリは、「ここは『食物なし、食物なし』さ。」と、どなります。
　大きな、お金もちの農家は、ニワトリたちからも『幸い畑』とか、『卵山』とか、『宝荘』といったように、すばらしい名まえをつけてもらっています。
　ところで、貴族のお屋敷にいるニワトリともなれば、こうまんちきで、ひとから、からかわれでもすると、たいへんです。そんなニワトリの一羽が、天までとどけとばかり、声をかぎりにさけびました。
「ここはデュベックさまのお屋敷だぞ！　ことしも去年とおんなじだ。ことしも去年とおんなじだ。」
　もうすこしさきへいきますと、一羽のニワトリが、もったいぶって呼ばわりました。
「ここぞスヴァーネホルム、その名も高きスヴァーネホルム！」
　ニールスが気がついてみますと、どうやら、ガンのむれは一直線に進んではいないのです。みんなはスウェーデンの南部の地方を、あちこちと飛びまわっているのです。まるで、このスコーネ地方にまた来ているのがうれしくてたまらず、一つ一つの場所にいちいちあいさつしていきたいとでも思っているようです。
　そのうちに、高いエントツの立っている大きな広い建物がたくさんあって、そのまわりに小さい家がいくつも並んでいるところへ来ました。
「ここはヨルドベリヤの精糖工場！　ここはヨルドベリヤの精糖工場！」と、そこのニワトリたちが大きな声で言いました。
　ニールスは、ガチョウのせなかで、思わずはっとしました。それなら、じぶんも知っているはずです。ここはおとうさんとおかあさんの家からそんなに遠くはありません。それに、去年、ここでガチョウ番にやとわれていたことがあるのです。けれども、いま高い空から見おろしますと、なにもかも、すっかりようすがちがっています。
　うん、そうだ！　ガチョウ番の女の子のオーサと小さいマッツは、あのときぼくの仲間だったっけ。あそこにまだいるだろうか。ぼくがいま、ふたりの頭の上を飛んでいるのを知ったら、ふたりはなんて言うだろうなあ！
　まもなく、ヨルドベリヤは見えなくなってしまいました。こんどはスヴェーダーラとスカーベル湖のほうへ飛んでゆき、それからまたベリンゲクローステルとヘッケベリヤの上に舞いもどってきました。ニールスは、たった一日でも、いままでの長い年月のあいだに見たよりも、スコーネ地方のずっといろんなところを見ることができました。
　ガンのむれが地上にガチョウたちを見つけたときは、ほんとにゆかいです。そんなときには、みんなはゆっくりと飛んで、地上にむかってさけぶのでした。
「これから丘へゆくんだぜ！　いっしょにこないかい！　いっしょにこないかい！」
　けれど、ガチョウたちは答えました。
「まだこの国は冬なんですよ！　ちょっと早すぎますね！　まあ、お帰り、まあ、お帰り！」
　ガンたちは、もっとよく聞こえるように、ぐっと舞いおりて、大声で言いかえしました。
「いっしょにこないか。飛びかたも泳ぎかたも教えてやるぜ！」
　そう言われると、ガチョウたちはプンプン腹をたてて、もうひとことも返事をしませんでした。
　ガンたちはいまにも、地面にさわりそうになるまで下へ下へと舞いおりて、つぎの瞬間、さもびっくりしたように、さっと舞いあがり、「オヤ、オヤ、オヤ！」と、さけびました。「なあんだ、ガチョウじゃないや！　羊じゃないか！　羊じゃないか！」
　それを聞いた地上のガチョウたちは、カンカンにおこって、どなりたてました。
「おまえたちなんか殺されちまえ！　一羽のこらず、一羽のこらず！」
　ニールスはこの口げんかを聞いているうちに、思わず笑いだしてしまいました。けれど、いまのじぶんの身のふしあわせを思いだしますと、涙がこみあげてきました。でも、しばらくたつと、またもや笑いだしてしまうのでした。
　ニールスはふだんから馬をらんぼうに走らせるのがすきでした。でも、これほど早く駆けさせたことはありませんでした。そして、空の上はこんなにも気もちよく、しかも、下からは、土や木の芽のヤニのにおいが、こんなにも、かんばしくにおってこようなどとは、夢にも思ったことがありませんでした。そしてまた、こんなにも空高く飛ぼうなどとは、思ってみたこともありませんでした。こうしていると、まるで、ありとあらゆる苦しみや悲しみやわずらわしさをのがれて、飛んでいるような気がするのでした。

２　ケブネカイセのアッカ

夕方

　ガンのむれといっしょに飛んでいる大きなガチョウは、ガンの仲間にはいってスウェーデンの南の地方を飛びまわり、地上の飼い鳥たちとふざけられるので、大得意になっていました。でも、おもしろくはありましたが、お昼すぎになると、だんだん、くたびれてきました。そこで、深く息を吸って、もっと早くはねを動かそうとしてみるのですが、どうしても、みんなからおくれてしまいます。
　ずっとしまいのほうを飛んでいるガンたちは、ガチョウがもうこれ以上ついていけそうもないのを見てとりますと、クサビ型の先頭になって、みんなを導いているガンにむかって呼びかけました。
「ケブネカイセのアッカさん！　ケブネカイセのアッカさん！」
「なんの用だね？」と、ガンの隊長はたずねました。
「白がおくれてます！　白がおくれてます！」
「教えてやんなさい、早く飛ぶほうが、ゆっくり飛ぶより楽だって！」と、隊長はさけびかえして、まえとおなじようにグングン早く飛んでいきます。
　ガチョウはその忠告どおりに、早く飛ぼうと一生けんめいにやってみました。でも、そのうちに疲れきって、とうとう、畑と牧場をとりかこんでいる、枝を刈られたヤナギの木立のほうへおりていきました。
「アッカさん！　アッカさん！　ケブネカイセのアッカさん！」しまいのほうのガンたちは、ガチョウが弱ってきたのを見ますと、またもやこうさけびました。
「なんだね、こんどは？」と、隊長のガンはたずねましたが、ひどく腹をたてたようすです。
「白がおりていきます！　白がおりていきます！」
「教えてやんなさい、高く飛ぶほうが、低く飛ぶより楽だって！」と、隊長は大声で答えました。
　ガチョウはこんどもこの忠告に従おうとしました。けれども高くのぼろうとしますと、息ぎれがして、まるで胸がはりさけそうです。
「アッカさん！　アッカさん！」と、またまたうしろのガンたちが呼びかけました。
「すこしはおちつかせてもらえないのかねえ。」と、隊長はどなって、まえよりもいっそうきげんが悪くなったようです。
「白がまいりそうです！　白がまいりそうです！」
「みんなといっしょに飛べないものは、家へ帰るがいい、と、言ってやんなさい！」と、隊長はさけびました。ガチョウのために、すこしゆっくり飛んでやろうなんて気は、まるっきりありません。あいもかわらず、ぐんぐん早く飛んでいきます。
「ああ、ガンなんてものは、みんなこんなんだろうか？」と、ガチョウは思いました。そして、ガンたちはじぶんをラプランド（ラプ人の住む北の地方）までつれていってくれるつもりはなかったことが、急にはっきりとわかってきました。ガンたちは、ただからかって、ガチョウを家からさそいだしただけなのでしょう。
　ガチョウは、いま、じぶんの力がつきてしまったために、ガチョウだって、ものの役にたつことを、この宿なしどもに見せてやれないのが、くやしくてくやしくてたまりません。そして、なによりも残念に思われるのは、ケブネカイセのアッカになんか出会ったことでした。このガチョウは飼い鳥ではありましたが、アッカという、百歳にもなるガンの隊長のことは、いままでにもうわさに聞いていました。アッカはみんなからたいへん尊敬されている鳥で、どんなに、りっぱなガンでも、アッカの言いつけには従うほどだったのです。けれども、アッカとその仲間ぐらい、ガチョウをバカにしているものもありません。それで、ガチョウは、じぶんだっておまえたちに負けやしないということを、このガンたちに見せてやりたかったのです。
　ガチョウは、いっそのこと引きかえそうかと思ったり、それとも、ついていったものかと思ったりしながら、みんなのあとからのろのろと飛んでいきました。と、だしぬけに、せなかに乗っかっているチビさんが言いだしました。
「ねえ、ガチョウのモルテンや！　いままで飛んだこともないおまえが、ラプランドなんて遠くまで飛んでいけっこないじゃないか。おまえにだってわかってるだろう。命のあるうちに、引きかえしたほうがよくはないかい？」
　ところが、せなかの上のこのチビさんぐらい、このガチョウにとっていやなやつはありませんでした。しかもそいつまでが、じぶんにはもう旅をつづける力がないと思っているのです。そう思うと、しゃくにさわって、なんとかしてついていこうと決心しました。
「もう一ど言ってみろ。みぞの上を通ったら、振り落してやるぜ。」と、ガチョウは言いました。怒ったために力がわいてきたのでしょうか、こんどは、ほかのガンたちにも負けないくらい、よく飛ぶことができるようになりました。
　もちろん、こんなぐあいにして、いつまでも飛びつづけることはできないでしょう。でも、その心配はありませんでした。というのは、そのとき、ガンのむれが、グングンおりはじめたからです。そして、ちょうどお日さまが沈んだとき、ガンたちは地上に舞いおりたのでした。こうして、ニールスもガチョウも、何がなんだかわからないうちに、ヴォンブ湖の岸べに着いていました。
「ここで一晩すごす気らしいな。」と、ニールスは思いながら、ガチョウのせなかからとびおりました。
　ニールスは、せまい砂浜に立ちました。目の前にはかなり大きい湖がひろがっています。でも、あまり気もちのいい景色ではありません。なにしろ、湖の上には氷がほとんどいちめんに張りつめていて、それがどす黒く、しかも、でこぼこしていて、いたるところに裂け目や穴があるのですからね。もっとも、こういったありさまは、春さきにはよく見られるのですけど。しかし、氷はもうそう長くはもちそうもありません。岸のあたりは、もう、とけはじめていて、そこは幅のひろい、黒くかがやく水の帯のように見えているのです。でも、なんといってもまだ氷がのこっているために、あたりいちめんには寒さと冬らしい荒れはてたようすが見えています。
　湖の向こうがわには、ひろびろとした気もちのいい土地があるように見えますが、ガンたちのおりたところには、大きなマツの木立があって、そのマツ林は、まるで、冬を自分のとこにひきとめておく力をもってでもいるようです。どこを見まわしても、地面の上にはもう雪はないのに、大きなマツの枝の下だけには、まだ雪がずいぶんつもっています。そして、それがとけては凍り、とけては凍って、いまでは氷のようにかたくなっているのです。
　これでは、まるで冬にとざされた荒れはてた国に来ているようです。ニールスはたまらなくなって、大声で泣きだしたくなりました。
　おなかも、ペコペコです。むりもありません。一日じゅう、なんにもたべていないのですからね。だけど、たべる物はどこにあるでしょう？　いまはまだ三月です。木にも地面にも、たべられるようなものは、一つも生えてはいませんでした。
　まったく、どこへいったら、たべるものが見つかるでしょう？　だれが宿をかしてくれるでしょう？　だれがお床をのべてくれるでしょう？　そして、だれが火にあたらせてくれるでしょう？　だれがケモノをふせいでくれるでしょう？
　もうお日さまは沈んでしまったではありませんか。しかも湖の上からは、つめたい風が吹きつけてきます。いよいよ、暗やみが空からおりてきました。恐ろしいものが、うすあかりのうしろから、そっとしのびよってきました。森の中では、ガサガサという物音がしはじめました。
　こうなりますと、空を飛んでいたときのような楽しい気もちはすっかり消えてしまいました。ニールスはとても心ぼそくなってきて、旅の道づれのほうを、ふりむいてみました。いまでは、この鳥のほかには、たよりになる者はありません。
　ところが、そのガチョウは、じぶんよりも、もっとまいっているではありませんか。おりたところに、じっとたおれたままです。そして、いまにも死にそうなようすです。首はぐったり地べたにつけたまま、目はつぶって、息はかすかにハアハアといっているだけです。
「ガチョウのモルテンや。」と、ニールスはやさしく言いました。「水を一くち飲んでごらん。湖まで二あしとはないんだよ。」
　けれど、ガチョウは身うごきひとつしませんでした。
　ニールスは、いままで生き物という生き物をいじめてばかりいたのでした。このガチョウのモルテンのことだってそうでした。ところがいまでは、このガチョウだけがただ一つのたのみなのです。ああ、このガチョウが死んでしまったら！　ニールスは心配で心配でたまりません。
　そこで、すぐさま、ガチョウを水のところまでつれていってやろうと、押すやらひっぱるやらしはじめました。けれど、ちっぽけなニールスにとっては、ガチョウでさえも大きく重くてずいぶん骨がおれたのです。それでも、どうにか、うまくいきました。
　ガチョウは、まず頭を水の中につっこみました。そうしてしばらく、やわらかい土の上にじっと横になっていましたが、やがて頭をあげると、目から水をはらい落して、鼻の穴から大きく息を吸いました。それから、勢いよくアシとガマのあいだを泳いでいきました。
　いっぽう、ガンたちは湖の中にいました。みんなは地べたにおりるが早いか、ガチョウやニールスのほうは見むきもせずに、水の中にとびこんで、水をあびては、からだをきれいにしていました。それからこんどは、くさりかけたヒルムシロや水クローヴァをムシャムシャやりはじめました。
　白ガチョウは、運よく、小さいスズキを見つけました。すばやくそれをつかまえますと、岸へもどってきて、ニールスの前におきました。そして、「さっき水を飲むとき助けてくれたお礼にあげよう。」と、言いました。
　こんな親切なことばを聞くのは、けさからはじめてです。ニールスはすっかりうれしくなって、ガチョウの首にとびつきたいくらいでした。でも、やっと思いとどまって、贈り物を喜んでもらいました。さいしょは、魚をなまのままたべるなんて、とてもできやしないと思いましたが、そのうちに、まあともかく、たべてみようという気になりました。
　ナイフがまだあるかしらんと思いながら、さがしてみますと、うれしいことに、ズボンのうしろのボタンにさがっていました。もちろん、これも小さくなって、マッチ棒ぐらいの大きさになってはいましたが、これでも魚のウロコを落して、きれいにすることぐらいはできます。こうして、まもなくスズキがたべられるようになりました。
　ニールスはおなかがいっぱいになりますと、ちょっと恥ずかしくなりました。とうとう、なまの魚をたべてしまったのです。
「ぼくはもう人間じゃない。ほんものの小人になってしまった。」と、心の中で思いました。
　ニールスが魚をたべている間じゅう、ガチョウはすぐそのそばにじっとしていましたが、ニールスがすっかりたべおわりますと、そっと小さい声で言いました。
「ぼくたちはね、飼い鳥をバカにする、こうまんちきなガンの一族に出会ったんだよ。」
「うん、ぼくもそう思っていたよ。」と、ニールスは答えました。
「もしぼくが、あいつらといっしょにラプランドまで飛んでいけて、ガチョウだって、りっぱにやれるんだってことを、あいつらに見せてやれたら、すごいんだけどねえ。」
「うん、そ、そ、そうとも。」と、ニールスはためらいながら答えました。だって、そうでしょう。このガチョウにそんなことができようとは思えませんもの。でも、べつに反対する気にもなれませんでした。
「だけど、こんな長い旅をひとりでやりとおせるとは思えないんだよ。」と、ガチョウはつづけて言いました。「どうだろう、いっしょにいって、ぼくを助けてくれないかい？」
　ニールスとしては、もちろん、一時も早く家へ帰りたいと、ただそればかりを願っていたのです。だから、こう言われますと、びっくりして、なんて言ったらいいのか、こまってしまいました。
「でも、ぼくときみとは仲よしじゃないもの。」と、とにかく言ってみました。ところが、ガチョウのほうでは、そんなことはまるっきり忘れているようです。さっきニールスに命を助けてもらったことだけが、頭にこびりついているのです。
「やっぱし、おとうさんとおかあさんのところへ帰らなくちゃ。」と、ニールスはもう一ど、とめてみました。
「うん、秋になったら、かならずおとうさんとおかあさんのところへつれて帰ってあげるよ！」と、ガチョウははっきり答えました。「それにぼくは、きみの家の入口のところにきみをおろすまでは、どんなことがあっても、きみを捨てはしないよ。」
　ニールスは、そのとき、ふと、こんなじぶんの姿をもうしばらくおとうさんやおかあさんに見せないほうがいいだろう、と、思いつきました。それで、ガチョウの申し出に賛成して、じゃ、そうしよう、と、言おうとしました。と、そのとき、うしろのほうでバタバタという大きな音がしました。ふりかえって見ますと、ガンがみんないっせいに湖からあがってきて、からだから水をふるい落しているのです。それから、ガンのむれは、隊長を先頭にして、長く一列になって、ふたりのほうへやってきました。
　白ガチョウは、そのガンの姿を見ますと、いやな気もちがしました。ガンはもっとじぶんたちガチョウによく似ていて、もっと近い親類だとばかり思っていたのです。ところが、どうでしょう。目の前のガンたちは、じぶんよりもずっと小さくて、おまけに、はねの白いものは一羽もいないのです。みんながみんな灰色で、あちこちに褐色がまじっています。それに、目を見れば、恐ろしくなるばかりです。それは黄色くて、そのうしろに火がもえてでもいるように、キラキラと輝いています。ガチョウは、いままでいつも、ゆっくり、ヨタヨタ歩くのがいいと言われてきました。それなのに、この連中ときたら、歩くどころではありません。まるで走っているようです。けれど、いちばん驚いたのは、その足です。じつに大きくて、おまけに足のうらは裂けて、ゴソゴソしています。これを見れば、ガンという鳥は、何があっても、まわり道をしないで、平気でその上を歩いていくということが、よくわかります。といっても、ほかのことにかけては、たいへんきれいずきで、きちんとしているのです。でもその足は、この連中が野原をほっつき歩くあわれな鳥であることを、はっきりと物語っています。
　ガチョウがニールスに、「きみもえんりょなく話しなさい。だけど、きみが人間だってことは言わないほうがいいね。」とささやいたときには、もうガンたちはすぐそばまで来ていました。
　ガンたちはふたりの前に立ちどまって、いくどもおじぎをしました。そこで、ガチョウも同じように、もっとたくさんおじぎをしました。こうして、あいさつがすみますと、ガンの隊長がきりだしました。
「あんたがたは、どういう方か、聞かせてください。」
「わたしのことは、とりたてて言うほどのこともありませんが、」と、ガチョウは言いはじめました。「去年の春スカーネルで生まれました。そして秋には西ヴェンメンヘーイのホルゲル・ニールスッソンという人に買われて、それからずっとそこに住んでいます。」
「それなら、あまり自慢のできるような家がらじゃありませんね。」と、隊長は言いました。
「ところで、あんたが、われわれガンの仲間に思いきってはいって来たのは、どういうわけです？」
「わたしたち飼い鳥だって、なにかとりえはあるってことを、あなたがたに知らせたいからですよ。」
「へーえ、そいつはけっこう。ひとつ拝見したいものです。」と、隊長は言いました。「飛ぶお手なみはさっき拝見しましたが、ほかのことなら、きっと、もっとおじょうずでしょう。泳ぎなんかは、さぞおとくいなんでしょうね？」
「いえ、いえ、ぜんぜんだめです。」と、ガチョウは答えました。ガチョウは、ガンの隊長が自分を家へ帰すつもりでいるんだろうと思っていましたので、どう返事したってかまやしない、と考えていたのでした。そこで、「堀を泳いでわたったことしかありません。」と、つづけて言いました。
「じゃあ、かけっこは早いんでしょう？」
「ガチョウがかけるのなんて、わたしはまだ見たこともありませんし、わたしもやったことがありません。」ガチョウはこう答えて、じっさいよりも悪く見えるようにしました。
　大きな白ガチョウは、こうなったからには、どうしたって、隊長がじぶんをつれていってくれるようなことはあるまい、と思いました。それだけに、隊長から、「あんたはまったくどきょうよく答えるんですねえ。どきょうのいいものは、さいしょは、からっきしだめでも、そのうちにはいい道づれになれますよ。どうです、あんたがものになるかどうかわかるまで、二、三日いっしょにいてみたら？」と言われたときには、すっかりびっくりしてしまいました。
「そいつは、まったくありがたいですね。」と、ガチョウは心から満足そうに答えました。
　と、こんどは、隊長はくちばしでニールスをさしながら、言いました。
「あんたがそこにつれているのは、だれなんです？　そんなのは、これまで一ども見かけたことはないが。」
「わたしの友だちなんです。」と、ガチョウは言いました。「ずうっとガチョウ番をしていたんですが、いっしょに旅につれていけば、きっと役にたちますよ。」
「そうさね、飼い鳥には役にたつかもしれない。」と、ガンは答えました。「ところで、なんて名ですね？」
「いろんな名まえがあるんで、」と、ガチョウは、とっさになんて言ったらいいのかわからないものですから、まごまごして、言いました。なぜって、人間の名まえを持っていることは、かくしておきたかったからです。「ああ、そう、オヤユビ太郎っていうんです。」ガチョウはふっと思いついて、こう言いました。
「そうすると、小人の親類ですかね？」と、隊長はききました。
「ところで、あなたがたガンは、いつごろおやすみになるんですか？」と、ガチョウはすばやくたずねました。こうして、話をかえようというわけです。
「いまごろになれば、ひとりでに目がとじてしまうんですよ。」隊長のガンは言いました。
　いまガチョウと話をしているこのガンが、たいへん年とっていることは、一目でわかります。はねはすっかり白っぽい灰色で、黒いすじ一つ見えません。頭はいくぶん大きく、足はあらっぽく、足のうらは、ほかのどのガンのよりもガサガサしています。はね毛はこわく、肩は骨ばっていて、首はやせています。これは、みんな、年のせいです。ただ目だけは若いものとすこしも変わらず、かえって、ほかのガンのよりも若々しいくらいに、キラキラしています。
　そのとき、隊長はいかにももったいぶって、ガチョウのほうに向いて、言いました。
「ところで、ガチョウさん、わたしはケブネカイセのアッカというものです。どうかお見知りおきください。そして、わたしのすぐ右がわを飛ぶガンは、ユクシ、すぐ左がわを飛ぶのは、カクシといいます。右がわの二ばんめのはコルメ、左がわの二ばんめのはネリエーといい、そのうしろはヴィシと、クウシです。それから、そのあとを六羽の若いガンが、右に三羽、左に三羽飛ぶのです。どれもこれも、りっぱな血すじの高山ガンです。だから、そこらでちょいちょい出会う宿なしどもとまちがってもらっちゃこまりますよ。それに、われわれは、じぶんがどんな血すじのものか名のらないようなものとは、いっしょに暮らしはしないんですからね。」
　隊長のアッカがこうしゃべっていますと、ニールスはすっとまえに進みでました。いまガチョウが、じぶんのことはスラスラ答えたのに、ニールスのこととなると、逃げるような返事しかしなかったのが、不満でならなかったのです。
「ぼくの素姓をあかしましょう。」と、ニールスは言いました。「ぼくはニールス・ホルゲルッソンといって百姓の子どもです。つい、けさまでは人間だったんだけど、けさ————」
　けれど、このさきを言いつづけることはできませんでした。ニールスが人間と言ったかと思うと、たちまちガンの隊長は三歩あとへさがりました。ほかのガンたちはもっとあとへとびのきました。そして、みんな首をのばしながら、腹をたててシー、シー、と言いました。
「わたしはこの岸でおまえを見たときから、あやしいやつだと思っていた。さあ、さっさといっておしまい。人間なんかを仲間に入れておくことはできないよ。」と、アッカはどなりつけました。
「あなたがたガンが、こんなちっぽけなやつをこわがるなんて、おかしいじゃありませんか。」と、ガチョウはなだめるように言いました。「あしたになれば、きっと家へ帰るでしょうよ。だけど今夜だけは、いっしょにいさせてやってください。こんなあわれなチビスケを、夜ひとりっきりで、イタチやキツネのいっぱいいる中へ追っぱらうこともないじゃありませんか。」
　ガンの隊長は前に進みでました。しかし、こわいのをおさえるのは、なかなかむずかしいようです。
「わたしは、人間だったら、大きかろうと小さかろうと、気をつけるように教えこまれてきたんでね。」と、隊長は言いました。「だけど、ガチョウさん、このチビさんがわれわれになんにも害を加えないと、おまえさんが受けあってくれるんなら、今夜はいっしょにいてもいいということにしましょう。もっとも、今夜の宿は、おまえさんにもこのチビさんにも向いてはいないでしょうよ。なにしろ、われわれは、岸から離れた氷の上にいって、ねるつもりなんだからね。」
　こう言われれば、いくらなんでもガチョウも決心がつかなくなるだろうと、ガンの隊長は思っていたのでした。ところが、ガチョウは平気なものです。
「そういう安全な寝場所をえらぶとは、さすがにえらいものですね。」
「だがおまえさんは、そのチビさんがあした家に帰ると、受けあってくれるでしょうね。」と、隊長は念をおして言いました。
「そのときは、わたしもあなたがたとお別れしますよ。」と、ガチョウは言いました。「わたしはこのチビさんを、けっして捨てないと、約束してあるんですからね。」
「どこへ飛んでいこうと、おすきなように。」と、隊長のガンが答えました。それからはねをあげて、氷の上に飛んでいきました。そのあとから、ほかのガンたちも一羽ずつ、つづいていきました。
　ニールスは、ラプランドへの旅はとてもできそうもないと思うと、悲しくなってきました。それに、今夜の寒い野宿のことも、心配でたまりません。
「こいつは、ますますひどくなるね、ガチョウくん。」と、ニールスは言いました。「だいいち、もうここの氷の上でこごえ死にするかもしれないぜ。」
　ところが、ガチョウときたら、じつにほがらかです。
「あぶなくなんかありゃしないよ。さあ、おおいそぎでわらや草を、持てるだけ集めてきてくれたまえ。」
　ニールスが両腕にいっぱい枯れ草をかかえてきますと、ガチョウは、くちばしでニールスのシャツのえりをくわえて持ちあげ、氷の上に飛んでいきました。そこでは、ガンたちがくちばしをはねの中につっこんで、グウグウ眠っていました。
「さあ、氷の上に草をひろげなさい。そうすれば、その上に寝られるし、こごえることもないからね。きみはぼくを助けてくれた、そしてぼくも、きみを助けるってわけさ。」と、ガチョウは言いました。
　ニールスは言われたとおりにしました。それがすみますと、ガチョウはまたもシャツのえりをつかんで、はねの下に入れました。
「ここにいれば、あたたかくて気もちがいいよ。」ガチョウはこう言いながら、ニールスをすっぽりとはねの中にくるみこみました。
　ニールスははね毛の中に埋まっているので、返事をすることができません。でも、これは、あたたかくて、すてきな寝床です。そして、くたびれていたので、ニールスはすぐに眠りこんでしまいました。

夜

　ほんとうに、氷というものは、あぶなっかしくて、あてにならないものです。ヴォンブ湖のゆるんだ氷も、夜中に動きはじめて、とうとう、その一つのすみが岸にとどいてしまいました。ちょうどそのころ、湖の東がわのエーヴェードスクローステル公園に住んでいるキツネのズルスケというのが、夜のえものをさがして歩きまわっていました。そしてまもなく、この氷の上にガンたちが寝ているのを見つけました。ズルスケはこの日の夕方に、ガンたちの姿を見かけていたのですが、そのときには、まだ、どれか一羽をつかまえてやろうなんて気はすこしもありませんでした。けれどいまは、いっさんに氷の上を走っていきました。
　しかし、ズルスケがガンたちのすぐそばまで来たとき、ふいに足がすべって、爪で氷をガリッとやってしまいました。その音に、ガンたちはハッと目をさまし、はねをばたばたやって、飛びたとうとしました。けれども、ズルスケはそれより早く、矢のように突進して、一羽のガンのはねをくわえるが早いか、ふたたび岸のほうへかけもどりました。
　けれど、この晩、氷の上にいたのはガンたちだけではありません。からだはちっぽけでも、人間にちがいないニールスもいたのです。ニールスは、ガンが羽ばたいたとき、目をさましました。そして、氷の上にころげ落ちたものですから、寝ぼけまなこでぼんやりすわりこんでいました。さいしょのうちは、いったい、なんのさわぎが起こったのやら、わけがわかりませんでした。と、とつぜん、氷の上を足の短い小犬が、ガンをくわえて走っていくのが、目にはいりました。
　それを見るなりニールスは、犬からガンを取りもどそうと、すぐさま、かけだしました。うしろからガチョウが、「オヤユビくん、気をつけたまえ！　気をつけたまえ！」とさけんでいるのが聞こえました。しかし、なあに、あんな小犬ぐらい、こわがることなんかないと思って、かまわず、あとを追いかけました。
　キツネのズルスケにひきずられていくガンは、ニールスの木靴が氷にコツコツとぶっつかる音を聞きつけました。でも、どうしてもじぶんの耳を信じることができません。そして、「あのチビさんは、ぼくをキツネから取りかえせると思っているんだろうか？」と、心の中で思いました。すると、こんなふしあわせな目にあっていながらも、うれしそうにのどの奥のほうでクックッと鳴きはじめました。まるで笑っているようでした。「だけど、あの子はすぐに氷の割れ目にでも落っこちるぐらいのとこだろうな。」と、ガンは心ぼそくなってきました。
　まっくらな夜でした。でも、ニールスには氷の上の割れ目も穴もはっきりと見えるものですから、うまくその上をとびこえていきました。つまり、ニールスはいまでは、夜の暗やみでもよく見える小人の目を持っていたのでした。なにもかもが灰色で黒ぐろとしていましたが、ニールスの目には湖も岸も、まひると同じようにはっきりと見えました。
　ズルスケは、氷が岸にくっついているところから、陸にとびうつりました。そして、土手をかけあがろうとしたとたんに、ニールスが大声で呼びかけました。
「そのガンを放せ！　やい、こそどろめ！」
　キツネにはだれがどなっているのかわかりませんが、グズグズ見まわしているようなひまはありません。もっともっと早く走りだしました。
　キツネは美しい大きなブナの森をめがけて、いっさんに、かけていきました。ニールスもそのあとを追いかけました。いまは、あぶないことも忘れているのです。それどころか、ニールスの頭には、この日の夕方にガンたちからバカにされたことだけが、こびりついていて離れないのです。そこで、たとえ、からだはちっぽけでも、人間というものがどんな生き物よりもすぐれているということを、ガンたちに見せてやりたいと思っていたのです。
　ニールスは、そのえものを放せと、なんどもなんどもさけびました。
「きさまは、なんて犬だ！　ガンをぬすんだりして恥ずかしくないのか？　すぐ放せ。放さなきゃ、痛い目にあわすぞ！　放せったら。放さなきゃ、きさまのやったことを主人に言いつけるぞ！」
　ズルスケは、じぶんがおくびょうな犬とまちがえられたかと思うと、おかしくてたまりません。つい、そのひょうしに、ガンを落しそうになりました。もともと、このズルスケは、野原や山でネズミや川ネズミをつかまえているだけでは満足できず、人の家まで出かけていっては、ニワトリやガチョウをぬすんでくる、大どろぼうだったのです。そして、このあたりの人間たちからこわがられていることは、じぶんでもよく知っていました。そのじぶんにむかって、なんというおどし文句でしょう。こんなばかげたことは、生まれてこのかた聞いたことがありません。
　ニールスは力のかぎり走りました。まるで大きなブナの木々が、うしろへ飛んでいくようです。ニールスとズルスケの距離はだんだんちぢまってきました。と、ついに追いつきました。ニールスはズルスケのしっぽにとびつきました。
「さあ、どんなことがあっても、ガンは取りかえしてみせるぞ！」と、ニールスはさけびながら、力いっぱいしっぽをひっぱりました。けれども、ニールスにはズルスケを引きとめるだけの力がありません。そのまま、このキツネにズルズルとひきずられていきました。そうしているうちに、からだのまわりには、枯れ葉がいっぱいまつわりつきました。
　ところでズルスケのほうでは、追いかけてきたやつが、たいしたものではないと見てとると、走るのをやめました。そして、ガンを地べたにおいて、逃げられないように、前足でおさえつけ、いまにもその首をかみきろうとしました。ところがそのとき、ちょいとこのちっぽけなやつをからかってやれという気まぐれを起こしました。
「さっさと主人に言いつけるがいい。いまこのガンをかみ殺すところだからな。」と、ズルスケは、ニールスに言いました。
　ニールスは、自分の追いかけている犬が、鼻がとがっていて、しゃがれた、いじわるい声をしているのに気がつくと、びっくりしました。でも、こんなどろぼうにからかわれたのが、しゃくにさわってたまりません。それで、こわいなんて気もちは、ちっとも起こりませんでした。ニールスは、ブナの幹にからだをささえながら、ズルスケのしっぽをしっかりとにぎっていました。キツネはパクッと口をあけて、ガンののどもとにあてました。そのとたん、ニールスはあらんかぎりの力で、そのしっぽをひっぱったのです。さすがのキツネもこれにはたまらず、思わず二、三歩あとへさがりました。そのすきに、ガンはすばやく逃げました。けれども、弱々しく、ヨタヨタと舞いあがりました。かたほうのはねが傷ついていたので、ほとんどそのはねを使うことができなかったのです。それに、まっくらな森の中では何一つ見えません。めくらと同じことで、どうすることもできないのです。ですから、ニールスを助けるなんてことは、思いもよりません。茂った木立のあいだを、あっちにぶっつかり、こっちにぶっつかりしながら、そのガンは、やっとのことで湖まで帰ってきました。
　いっぽう、ズルスケは、こんどはニールスめがけてとびかかりました。そして、「あいつは捕りそこなったが、ほかのやつをきっと捕えてみせるぞ。」と、うなって言いました。その声のようすでは、腹の底から怒っています。
「ふん、そんなことができるもんか！」と、ニールスは言いました。もののみごとに、ガンを助けてやることができたので、大得意だったのです。そして、まだキツネのしっぽをしっかりとにぎり、キツネがつかみかかろうとすると、そのたびに、反対がわへグルグルとまわってしまいます。
　さあ、森の中でぐるぐる踊りがはじまりました。まわりのブナの葉はさかんに飛びちります。ズルスケは、グルグル、グルグルまわりますが、それにつれて、しっぽもグルグル、グルグルまわります。ニールスはしっぽにしっかりとつかまっているものですから、キツネには、どうしても捕えることができません。
　ニールスは、うまくガンを助けてやったので、うれしくてうれしくてたまりません。はじめのうちは笑いながら、キツネをからかっていました。でも、キツネ先生は、いつまでも根気よくやっています。まったく、これはどこからみても、りっぱな狩人です。そこで、ニールスは、この調子では、いつかはつかまえられるかもしれないぞ、と、だんだん心ぼそくなってきました。
　そのとき、ふと、そばを見ますと、竿のようにすらりとした、小さな若いブナの木が一本生えています。この木の上には、年老いたブナの木々の枝がおおいかぶさっているので、その上に出れば、すぐに逃げだすこともできるでしょう。
　ニールスはキツネのしっぽをさっと放して、ブナの木によじのぼりました。しかし、キツネのほうはむがむちゅうなので、なおもじぶんのしっぽをめがけて、ぐるぐるまわりをつづけています。と、だしぬけに、「もう踊りなんかやめたらどうだい。」と、ニールスが声をかけました。
　キツネはプンプン怒っていました。こんなチビスケが捕らない面目なさに、むしゃくしゃしていました。そこで、ブナの木の下にじっと腰をおろして、ニールスを見はることにしました。
　ところで、ニールスはいまにも折れそうな枝にのっかっているので、のんきにかまえているわけにはいきません。ところが、このブナの木は、ほかの木の枝に乗りうつることができるほど高くはなかったのです。といって、もちろん、下へおりる気にはなれません。寒さはひどくなり、手足はしびれきって、枝につかまっているのもやっとになりました。おまけに、ひどく眠たくなってきました。でも眠ったがさいご、地べたに落っこちてしまいます。それで、一生けんめいがまんしていました。
　ああ、森のまんなかで、一晩じゅうこんなふうにしていなければならないなんて、なんという恐ろしいことでしょう！　ニールスは、いまのいままで、夜ってものがどんなものであるか知りませんでした。見れば、すべてのものが石になってしまい、もう二どと生きかえってはこないように思われます。
　そのうちに、夜があけはじめました。ニールスは、なにもかもがまたもとの姿にかえったのを見て、うれしくなりました。けれど、寒さは夜中よりも、かえっていまのほうが、きびしく感じられます。
　とうとう、お日さまがのぼってきました。でも、いまは金色ではなくて、まっかです。気のせいか、お日さまは怒っているように見えます。だけど、なにを怒っているのだろう、とニールスはふしぎに思いました。きっと、お日さまのいないあいだに、夜が地上をこんなにつめたく、陰気にしてしまったからなんだろうか。
　お日さまの光は、夜が地上で何をしていたかを見るために、ふりそそいできました。すると、空を流れる雲、絹のようにつややかなブナの幹、細かく入りくんだ枝、ブナの落ち葉をおおっているシモ、こうしたすべてのものがさっと赤くなりました。
　お日さまの光が、ますますあかるく射してきました。やがて、夜の恐ろしさも消えました。手足のかじかみも、いまでは感じなくなったようです。すると、びっくりするほどたくさんの生き物の姿が見えてきました。赤い首をした黒いキツツキは、くちばしで木の幹をつつきはじめました。リスは、クルミをかかえて巣からチョコチョコ出てくると、木の枝にすわって、クルミをかじりはじめました。ムクドリは細い根をくわえて飛んできました。アトリは木のこずえでさえずりはじめました。
　そのときニールスは、お日さまがこういう小さい生き物たちにむかって、
「さあ、目をさまして、巣から出ておいで！　わたしはここにいるんだよ！　もうなんにもこわがることはないよ。」と言っているのを聞きました。
　ガンたちが旅立とうとして鳴きたてている声が、湖のほうから聞こえてきました。それからまもなく、みんなで十四羽のガンが、森の上を飛んできました。ニールスは大声で呼んでみましたが、ガンのむれはずっと上のほうを飛んでいて、そこまでは声がとどきません。みんなは、きっと、ニールスはもうキツネにたべられてしまったと思っているのでしょう。そこで、もうじぶんをさがしてみようとはしないのだな、とニールスは思いました。
　ニールスはすっかり心ぼそくなってきて、いまにも泣きだしそうになりました。けれども、空を見あげれば、そこにはお日さまがニコニコと金色に輝いていて、世界じゅうに元気をあたえています。
「ニールス・ホルゲルッソンや、わたしがここにいるかぎり、ちっともこわがることはないよ。」と、お日さまはそう言っていました。

ガンのいたずら

三月二十一日、火曜日
　ガンが、朝ごはんをたべていると思われるあいだは、森の中ではべつに変わったこともありませんでした。ところが、それからまもなくです。一羽のガンが茂った枝の下に飛んできました。そのガンは幹や枝のあいだを縫って、ゆっくりとあちこちを飛びまわりました。キツネはガンの姿を見つけますと、すぐさま小さいブナの木の下を離れて、そっとガンのほうへ忍んでいきました。ところが、驚いたことには、ガンはキツネをよけようともしないで、かえって、すぐ近くまで飛んでくるではありませんか。そのとたんに、ズルスケはさっと高く跳ねあがりました。けれども、失敗です。ガンは湖のほうへ飛んでいってしまいました。
　やがて、もう一羽のガンが飛んできました。このガンもさっきのガンと同じようにやってきます。けれども、まえのよりももっと低く、もっとゆっくりと飛んでいます。そのうちに、ズルスケの頭の上まできました。こんどこそは、とズルスケがとびあがります。耳がガンの足にさわりました。けれど、またまたこのガンも、傷ひとつ受けずに逃げてしまいました。そして、ひとことも言わないで、湖のほうへ飛んでいきました。
　しばらくすると、また一羽のガンがやってきました。さっきのよりも、もっと低く、もっともっとゆっくり飛んでいます。ブナの枝のあいだをすりぬけていくのが、だいぶむずかしそうに見えます。ズルスケは勢いよくおどりあがりました。と、このガンは、もうすこしのところで捕りそうになりましたが、それでもとうとう逃げてしまいました。
　このガンが見えなくなりますと、すぐに四ばんめのガンが姿を見せました。これはまた、いやにゆっくりと飛んでいます。ズルスケは、こんどこそわけなく捕えられるだろうと思いました。けれど、ゆだんをして、またしくじってはたいへんです。それで、こんどはなんにもしないで、しばらく飛ばせておいてやろうと思いました。けれども、このガンも、さっきまでの仲間と同じように、ズルスケのま上までくると、ぐっと低く舞いおりました。ズルスケは思わずつりこまれて、またまた力いっぱいおどりあがりました。すると、爪のさきが、ちょっとさわりはしましたが、ガンはすばやく身をかわして、逃げていってしまいました。
　ズルスケが息をつくひまもないうちに、三羽のガンが、一列にならんでやってきました。こんども、さっきの仲間たちと同じように飛んできます。ズルスケは、またしても高くとびあがりましたが、一羽も捕えることができませんでした。
　そのあとから、また五羽のガンがあらわれました。このガンたちは、いままでの仲間たちよりも、もっとじょうずに飛んできました。そして、いかにもズルスケがとびつきたくなるようにしむけましたが、ズルスケはやっとのことで思いとどまりました。
　かなりたって、また一羽のガンが姿を見せました。これで十三ばんめです。このガンはたいそう年とっていて、からだじゅうが灰色で、黒いすじ一つ見えません。かたほうのはねがうまく使えないらしく、ひどくへたくそに、かたむいて飛んでいます。そのため、いまにも地面にさわりそうです。ズルスケはこのガンめがけて、思いきり高く跳ねあがりました。が、またまた失敗です。それで、走ったりとびあがったりしながら、湖まで追いかけていきました。けれど、こんども骨おっただけで、なんのたしにもなりませんでした。
　十四ばんめのガンが飛んできました。この鳥は、からだじゅうがまっ白で、じつに美しく見えました。大きなはねが動くたびに、暗い森の中がキラキラとあかるくなるようでした。ズルスケはこの鳥の姿を見ますと、からだじゅうの力をこめて、木の半分ほどの高さまでおどりあがりました。しかし、この白い鳥も、まえのと同じように、傷ひとつ受けないで逃げていってしまいました。
　こうして、ブナの木の下はしばらく静かになりました。もうガンのむれは、すっかり飛んでいってしまったようです。
　そのときズルスケは、ふと、さっきのほりょのことを思いだしました。さいしょのガンを見たときから、あのチビさんのことは忘れてしまっていたのです。そして、もちろんニールスの姿は、もうそこには見えませんでした。
　しかし、ズルスケがチビさんのことを考えているひまは、あまりありませんでした。というのは、さいしょ飛んできたガンが、またも湖のほうからもどってきて、木の下をゆっくりと飛びはじめたからです。ズルスケはあんなにしくじったあとで、ガンがもどってきたのを見ますと、大よろこびでした。そこでさっそく、そのガンめがけて、力のかぎりとびあがりました。けれども、あせりすぎて、よく狙いをつけるひまがありませんでしたから、的がはずれてしまいました。そのあとから、また一羽飛んできました。それから、また一羽、そうして、第三、第四、第五のガンがあらわれたと思うと、とうとうしまいには、白っぽい灰色の年とったガンと、まっ白い大きなガチョウまで飛んできました。みんなはゆっくりと低く飛んでいます。そして、キツネのま上までくると、キツネがつかまえたくなるように、わざわざ、もっと低く舞いおりるのです。それを見ると、ズルスケはそのあとを追いかけて、なんどもなんども高くとびあがりました。けれど、一羽だって捕えることはできませんでした。
　キツネのズルスケは、この日ぐらいひどい目にあったことはありません。ガンたちは、あいもかわらずズルスケの頭の上を、あちこちと飛びつづけているのです。ドイツの畑や野原でたくさんたべて肥ってきた、この大きなすばらしいガンたちは、一日じゅう森の中でズルスケのそばをすれすれに飛びまわるのでした。ズルスケは、いくどもいくども、ガンにさわるくらい高くとびあがりましたが、すいたおなかのたしになってくれるようなガンは、一羽だってありませんでした。
　冬はもう終わろうとしていました。いまズルスケは、いく日もいく晩も、えもの一ぴきつかまらずに、ブラブラほっつき歩かなければならなかった時のことを思い出しました。むりもありません。そのころは、渡り鳥たちはよその国へいってしまい、ネズミたちは凍った地面の下にかくれ、ニワトリたちは小屋の中にとじこめられていたのですから。けれど、冬じゅうおなかのへっていたことも、きょう一日の失敗にくらべれば、なんでもありません。
　ズルスケはもう若僧ではありませんでした。犬に追いかけられたこともたびたびありますし、鉄砲のたまが耳のそばをヒュウヒュウかすめていったこともあります。また、穴の奥にかくれているとき、はいこんできた犬に、もうすこしで見つかりそうになったこともあります。けれども、そういうはげしい狩りの間じゅうビクビクしていた不安な気もちも、きょう、このガンたちを捕りそこなうたびに味わった、あのにがい気もちとは、くらべものになりません。
　けさ、狩りがはじまったときは、ズルスケはガンたちが目を見はるほど、すばらしいなりをしていました。なにしろ、このズルスケときたら、はでなことが大すきなのです。上着はキラキラ輝くほど赤く、胸は白く、前足は黒、そして、しっぽがまた、鳥のはね毛のようにふさふさしていました。けれども、それよりももっとすばらしいのは、ズルスケが動くときに見せる力づよさ、目のらんらんとした光りかたでした。ところが、夕方になると、上着はしわがよってクシャクシャになるし、からだは汗びっしょり、目の光はどんよりとして、舌はハアハアあえいでいる口からだらりとたれ、おまけに口からはあわを吹いているというありさまでした。
　午後になると、ズルスケはすっかりくたびれて、もう何がなんだかわからなくなりました。とにかく、目の前をガンたちが飛んでいるということのほかは、なんにもわかりません。とうとうしまいにズルスケは、枝の間から地面の上に射しているお日さまの光や、サナギからかえったばかりのあわれなチョウにまで、とびかかるのでした。
　ガンのむれはひっきりなしに飛びつづけて、一日じゅう、ズルスケを苦しめました。ズルスケが疲れはてて、目がまわり、気もくるうばかりになったのを見ても、ちっともかわいそうだと思うようすはありません。しかも、そのズルスケはもう、ガンの姿を見ることができず、ただその影にむかってとびかかっているだけなのです。ガンのむれは、そのことをちゃんと知っていながらも、あいかわらず、キツネのまわりを飛びつづけるのでした。
　こうして、キツネのズルスケが、からだじゅうの力もぬけ、いまにも気が遠くなりそうになって、つもった枯れ葉の上にぶったおれたとき、ガンのむれはやっと、キツネをからかうのをやめにしました。
「さあ、どうだい、キツネくん。ケブネカイセのアッカさまを相手にしようとする者は、どんな目にあうか、おわかりだろう！」と、ガンのむれはズルスケの耳もとでこうさけぶと、ようやく、キツネを許してやりました。

３　野の鳥の生活

農家にて

三月二十四日　金曜日
　ちょうどそのころ、スコーネ地方にある事件が起こりました。それは大評判になって、新聞にまでのりました。けれども、なんとも説明のつかないふしぎなできごとでしたので、たいていの人たちは、そんなものは作り話だろうと思いました。
　つまり、その事件というのは、こうなのです。
　ヴォンブ湖の岸べに生えているハシバミのやぶの中で、メスのリスが一ぴき捕えられて、近所の農家につれていかれました。農家の人たちは、年よりも子どもも、みんな、このリスの愛くるしい大きなしっぽと、もの珍らしそうに眺めまわすりこうそうな目と、かわいらしい小さな足とを見て、大よろこびでした。みんなは、リスのすばしこい動きかたや、器用にクルミのからをかじるところや、たのしそうに遊ぶのを見ていれば、夏じゅうおもしろくすごせるだろうと思いました。さっそく、みんなは古いリスのかごを持ってきてやりました。このかごには、かわいい緑の家と、針金でこしらえた車がはいっていました。家には戸と窓もちゃんとついていて、これがリスの食堂と寝室というわけです。そこで、みんなは木の葉っぱの寝床と、ミルク入れと、それからクルミを二つ三つ入れてやりました。車のほうはリスの遊び場です。リスがこれにのっかって、かけのぼれば、グルグルまわるしかけになっているのです。
　人々は、リスのためにずいぶん気もちよくしてやったつもりでいました。ところが、リスはと見れば、ちっとも満足していないようすです。みんなはびっくりしてしまいました。リスは部屋のすみっこにすわりこんで、悲しそうに、しょげきって、ときどき訴えるような、鋭い悲しみの声をはりあげているではありませんか。もちろん、たべものにはさわりもしませんし、車だって一どもまわそうとはしません。「おっかながっているんだ。」と、農家の人たちは言いました。「あしたになれば、なれて、遊んだり、たべたりするさ。」
　ところで、農家の女たちは、お祭りのしたくで、てんてこまいをしていました。ちょうどリスが捕えられた日は、パンを焼くことになっていたのです。ところが、ぐあいの悪いことに、ねり粉がうまくふくれあがらなかったせいでしょうか、それとも、ぐずぐずしていたせいでしょうか、ともかく、暗くなっても仕事がかたづきませんでした。
　こうして、台所ではみんなが、いそがしく立ち働いていました。ですから、だれも、リスはどうしているだろうなどと考えてみるひまはなかったのでした。この家には、おばあさんがいましたが、あんまり年をとっているので、パン焼きの手つだいをすることができません。おばあさんは、じぶんでもそのことはよく知っていたのですが、それでもやっぱり、みんなからのけ者にされているのが、おもしろくありませんでした。こういうわけで、おばあさんはまだ寝にもいかず、居間の窓ぎわにすわって、外をながめていました。
　台所の中は熱くてむっとするものですから、戸は開けはなしになっていました。そこからあかるい光が中庭に流れでて、中庭のまわりの建物をあかるく照らしだしていました。それで、おばあさんには、向こうがわの壁の割れ目や穴がはっきりと見えました。それから、その光がちょうどいちばん強くあたっているところにかかっている、リスのかごも見えました。見れば、リスはひっきりなしに部屋から車へ走っていったり、車から部屋へかけもどったりして、ちょっとの間もおちついてはいません。おばあさんは、きっとあのリスは妙に気が立っているにちがいない、光が強いために眠れないんだろう、と、思いました。
　牛小屋と馬小屋のあいだに、大きな広い門があって、これも台所からのあかりに照らしだされていました。おばあさんがしばらく見ていますと、やがて、ちっぽけな小僧が足音をそっとしのばせて、この門からはいってきました。せの高さはほんの十センチぐらいのものでしょう。革ズボンに木靴といった、労働者のようなかっこうです。おばあさんは、すぐに小人だなと気がつきましたので、すこしもこわくはありませんでした。なぜかといえば、その姿はまだ見たことがありませんが、小人というものはどこか家のそばに住んでいるということを、まえから聞いていましたし、それに、小人が姿を見せるときには、きっと幸運がやってくるということも、よく話に聞いていたからです。
　その小人は、石のしいてある中庭にはいってきますと、まっすぐにリスのかごのほうへ走っていきました。けれども、そのかごは高いところにかかっているので、手がとどきません。そこで、小人はすぐさま物置のほうへかけていって、棒を持ってくると、かごにかけ、ちょうど水夫が帆綱をよじのぼるようなぐあいに、スルスルとよじのぼっていきました。そして、かごのところまでのぼりますと、小さな緑の家の戸をさかんにゆすぶって、戸をあけようとしています。それを見ても、おばあさんはおちつきはらっていました。なぜなら、近所の男の子たちにリスを盗まれないように、家の子どもたちが戸に錠をかけておいたのを、ちゃんと知っていたからです。リスは、戸が開かないことがわかりますと、車から出てきました。それから、ふたりは長いあいだヒソヒソと相談をしていました。小人は、リスの言いたいことをすっかり聞いてしまいますと、また棒をすべりおりて、いそいで門からかけだしていきました。
　おばあさんは、この晩もう一ど小人の姿が見られるとは思いませんでしたが、それでも窓ぎわにすわっていました。しばらくすると、またさっきの小人がもどってきました。ひどくいそいでいるので、まるで足が地についていないようです。こんども、リスのかごを目がけて、いちもくさんにかけていきます。遠目のきくおばあさんには、それがはっきりと見えました。なおもよく見ますと、小人は手になにか持っています。もっとも、それがなんであるかはわかりません。小人は左手に持っていたものを敷石の上におきましたが、右手のものはそのまま持って、かごのほうへよじのぼりました。そして、木靴で小さい窓をはげしくけとばしたので、ガラスがこわれて、あたりに飛びちりました。小人は、そこから、手に持っているものをリスのほうにさしだしました。それから、また棒をすべりおりて、さっき下に置いておいたものを取りあげると、もう一ど、かごをめがけてよじのぼりました。そして、あっというまに、またもやすべりおりて、まっしぐらにかけていってしまいました。あんまり早いので、おばあさんには小人の姿がよく見えなかったほどでした。
　けれども、おばあさんはもう部屋の中にじっとしていることができなくなりました。そこでイスからゆっくりと立ちあがって、庭へ出ていきました。そして、井戸のかげにかくれて、小人がもどってくるのを待っていました。ところが、そこにはもうひとり、さっきから小人のすることをじっと見つめて、ふしぎに思っているものがいました。それはこの家のネコでした。ネコはそっと忍んでいって、あかりのさしているところから二あしばかり離れた壁のそばに立ちどまりました。
　ふたりは、この寒い三月の夜空に、しんぼう強く、長いあいだ待っていました。そのうちに、おばあさんは、ぼつぼつ家の中へもどろうかと考えはじめました。と、ちょうどそのときです。敷石の上にコツコツという足音が聞こえました。見れば、チビの小人が、またまたもどってきたのです。こんども両方の手に何かを持っています。その持っているものは、キイキイ鳴きながら、モソモソ動いています。これで、おばあさんにも、いまはじめてよくわかりました。つまり、小人はハシバミのやぶへかけていっては、そこからリスの赤ちゃんをつれてきて、うえ死にしないようにしてやっているのです。
　おばあさんは、小人のじゃまをしないように、じっとしていました。小人はおばあさんに気がつかないようです。かたほうの赤んぼうをつれてかごによじのぼろうとして、もうかたほうの赤んぼうを下におこうとしました。そのとたんに、小人はネコの青い目がそばで光っているのを見つけますと、両手に赤んぼうを持ったまま、こまりきって、つっ立ってしまいました。
　小人はあたりを見まわしました。と、おばあさんがいるのに気がつきました。そこですぐさま、おばあさんのところへ歩いていって、この子を受けとってくれというように、両腕を高くさしあげました。
　おばあさんは、小人にこうたのまれたからには、いやというわけにはいきません。そこで、からだをかがめて、リスの赤んぼうを受けとりました。そして、小人が、もうひとりの赤んぼうをつれてかごのところによじのぼり、それからまたもどってきて、あずけておいた赤んぼうをつれていくまで、しっかりと抱いて立っていました。
　つぎの朝、農家の人たちが朝ごはんに集まってきたとき、おばあさんはゆうべ見たことを話さずにはいられませんでした。それを聞くと、みんなは笑いだして、夢でもみたんでしょう、と言いました。こんな早い季節には、まだリスの赤んぼうなんているはずがありませんもの。
　けれども、おばあさんは信じきっていました。それで、みんなにかごの中を見てくるように言いました。みんなは言われたとおりにしました。見れば、たしかに、小さな部屋の中の葉っぱの寝床の上に、生まれてからやっと二日めぐらいで、毛もろくに生えていず、目もまだよく見えないリスの赤んぼうが、四ひきいました。
　この農家の主人は赤んぼうリスを見て、こう言いました。
「まあ、いずれにしても、たしかにわしらは、この家で、ケモノにきかれても、人にきかれても恥ずかしいことをしていたんだ。」それから、親リスと四ひきの赤んぼうリスを、かごの中から取りだして、おばあさんの前かけに入れました。そうして、「このリスたちをハシバミのやぶへつれていって、放してやってください。」と、言いました。
　これが大評判になったという事件です。しかも、これは新聞にまでのりました。けれども、なんとも説明しようのないできごとなので、たいていの人たちは、信じようとはしませんでした。

ヴィットシェーヴレのお城

　それから二日たって、またふしぎな事が起こりました。その朝、一むれのガンが飛んできて、ヴィットシェーヴレ荘園からあまり遠くない東スコーネの畑に舞いおりました。そのむれの中には、あたりまえの灰色のガンが十三羽と、まっ白なガチョウが一羽いました。ガチョウのせなかには、黄色い革ズボンをはき、緑のチョッキを着て、白い毛織りの帽子をかぶったチビさんがのっていました。
　ここはバルト海のすぐ近くなので、ガンたちがおりた畑にも、ふつうの海岸と同じように、砂がいっぱいありました。でも、このあたりの砂は、ほうっておくと、風に吹きとばされてしまうのでしょう。で、それをふせぐために、あちこちにマツの木がたくさん植えてありました。
　ガンたちが、しばらくの間ごはんをたべていますと、畑の向こうのほうを、子どもがふたり歩いてきました。それを見ると、見はりをしていたガンが、たちまちバタバタと羽ばたきをして、空に舞いあがりました。ほかのガンたちも、危険とさとって、いっせいに飛びあがりました。ところが、白いガチョウだけは、そんなことは気にもかけずに、ノソノソと地べたを歩いています。みんなが舞いあがったのを見ますと、頭をあげて、大声で言いました。
「逃げることはないよ！　子どもがふたりっきりじゃないか！」
　ところで、チビさんは、森のはずれの小山の上にすわりこんで、マツボックリを拾っては、割っていました。けれども、子どもたちがすぐそばにいるものですから、畑を横ぎって、白いガチョウのところまでかけてゆく勇気がありません。それで、大きな枯れたアザミの葉の下にかくれて、大声で、あぶないっ、と言いました。ところがガチョウのほうは、びくともしないで、あいもかわらず、ノソノソと歩きまわっています。そして、子どもたちがどっちへいこうとしているか、そんなことには見むきもしませんでした。
　そのうちに、子どもたちは小道からそれて、畑を横ぎり、だんだんガチョウに近づいてきました。ガチョウが見あげたときには、もうすぐ目の前まで来ていました。ガチョウはびっくりしてしまい、すっかりあわててしまったので、飛べるのを忘れて、ただ、つかまらないように、かけようかけようとしていました。けれども、子どもたちに追いかけられているうちに、みぞの中に追いつめられて、とうとうつかまってしまいました。そうして、大きい子にかかえられて、つれていかれました。
　アザミの葉の下にしゃがんでいたチビさんは、これを見ますと、ハッと、とびあがりました。ガチョウをとり返そうというのです。しかし、そのとたんに、いまのじぶんは、ちっぽけで、力のないことを思いだしました。ああ、くやしい！　チビさんは小山の上に身を投げだして、こぶしをかためて地べたをなぐりつけました。
　ガチョウは助けをもとめて、ひっしになってさけびました。
「オヤユビくん、助けてくれ！　オーイ、オヤユビくん、助けてくれ！」すると、ニールスはこんなに悲しんでいながらも、思わずにっこりして、さけびました。「よしきた！　ぼくはもう、だれでも助けてやるいい人間なんだぞ！」
　ニールスは起きあがって、ガチョウのあとをつけていきました。「待てよ、ぼくにはとても助けられやしないだろう。でもまあ、どこへつれていかれるか、それだけでも見とどけてやろう。」と、言いながら。
　子どもたちは、だいぶさきのほうを歩いていましたが、ニールスはその姿を見失わずについていきました。やがて、小川の流れているくぼんだところへやってきました。ここでニールスは、とびこせるぐらいの幅のせまいところを見つけるために、しばらくまわり道をしなければならなくなりました。
　小川をとびこえて道に出たときには、子どもたちの姿はもう見えなくなっていました。でも、森のほうへいくせまい道に足跡がついています。それで、ニールスはそのあとをたどっていきました。
　まもなく四つ辻に来ました。ここで子どもたちは別れたにちがいありません。だって、両方の道に足跡がついていますもの。これでいよいよ、望みはなくなってしまったようです。
　けれど、ふと、わきを見ますと、ヒースの生えている小高いところに、小さな白いはねが一枚落ちているではありませんか。これは、ガチョウがどっちへつれていかれるかを知らせるために、道ばたに落しておいたものです。そこで、ニールスはなおもさがしつづけて、森の中を通っていきました。しかし、ガチョウの姿はまだ見えません。それでも、道に迷いそうなところへ来ますと、きまって白い小さなはねが一枚落ちていて、道を知らせてくれるのです。
　ニールスがそのはねをたよりにあとをつけていきますと、やがて森をぬけ、畑を二つばかり横ぎって、道路にでました。それからは、広い並木道です。見れば、並木道のはずれには、赤れんがの破風と塔がそびえていて、それについている飾りがキラキラと輝いています。それは大きなお城です。ニールスは、いまこそガチョウがどうなったか、わかったような気がしました。
「きっと、子どもたちがあのお城へ持っていって、売ってしまったんだろう。いまごろは、もう殺されているかな。」と、ニールスはひとりごとを言いました。でも、はっきりたしかめないうちは、満足できません。またも勇気をふるいおこして、走っていきました。さいわいにも、並木道ではだれにも出会いませんでした。こんな姿を人に見られたらたいへんだと、ニールスはビクビクしていたのです。
　お城のそばまでいってみますと、それは古風なつくりの、すばらしい建物でした。その建物のわきにも大きな建物が四つあって、中庭に通じる高いアーチがありました。ここまでは、ニールスはズンズンかけてきましたが、思わずここで立ちどまりました。思いきってはいっていくだけの勇気がないのです。じっとそこに立ちつくして、どうしたものだろうかと考えこみました。
　そのとき、うしろのほうから、足音が聞こえてきました。ふりむいてみますと、どうでしょう。大ぜいの人たちが並木道をこっちへやってくるではありませんか。ニールスは、あわてて、アーチのそばにあった水桶のうしろにかくれました。
　そこへ来たのは、二十人ばかりの中学校の生徒たちでした。みんなは、ひとりの先生につれられて、遠足にきたのでした。アーチのところまで来ますと、先生はしばらく待っているようにみんなに言っておいて、じぶんだけ中へはいっていきました。このヴィットシェーヴレの古いお城を見物させてもらえるかどうか、ききにいったのです。
　生徒たちは長いあいだ歩いてきたと見えて、つかれていました。ひとりの生徒はひどくのどがかわいていたので、水桶のところへいって、身をかがめて飲もうとしました。この生徒は、植物採集のドウランを肩にかけていましたが、じゃまになるので、地べたに投げだしました。そのはずみに、ふたが開いて、中にはいっている春の花が見えました。
　ドウランはニールスのすぐ前に落ちました。これこそ、お城の中へはいって、ガチョウがどうなったかを見さだめる絶好の機会です。そう思ったニールスは、すぐさまドウランの中にとびこみました。そして、アネモネやフキの下にそっと身をかくしました。
　ニールスがかくれるといっしょに、生徒はドウランをひろいあげて、肩にかけ、ふたをしてしまいました。
　そこへ先生がもどってきて、お城の見物がゆるされたと言いました。先生は生徒たちを、まず中庭へつれていきました。そこでみんなをとめて、この古い建物についての話をはじめました。
　先生は、この国にいちばんはじめに住んでいた人びとは、洞窟や洞穴の中に暮らしていたこと、その人たちが木の幹で小屋をつくることをおぼえるまでには、長い長い時代がたったこと、そして、一部屋しかない丸太小屋から進歩して、ヴィットシェーヴレのような部屋の百もあるお城をきずくようになるまでには、長い間ずいぶん苦心もし、努力もしたものだということなどを話してきかせました。
　先生は、なおもいろいろと細かに説明しました。それで、ドウランの中にはいっているニールスはいらいらしてきました。けれど、もちろんじっとしていなければなりません。でないと、ドウランの持ち主に気づかれてしまいます。
　それから、やっと、みんなはお城の中にはいりました。けれども、ニールスが、すきをみてドウランから這いだすなんてことは、とうていできそうもありません。なにしろ、ドウランをかけている生徒が、しょっちゅう持って歩いているのですからね。ですからニールスは、お城の中の部屋という部屋を、持ち主の生徒についてまわらなければなりませんでした。じつにじれったい旅ではありませんか。それに先生ときたら、ひっきりなしに立ちどまって、説明するのです。
　先生は、ちっともいそいでいませんでした。ちっぽけな生き物が、かわいそうにドウランの中にかくれていて、自分の話が早く終わるようにと願っていようなどとは、夢にも知らないのです。
　その間じゅう、ニールスはじっとしていました。いままではよくいたずらをして、穀物倉の戸をしめては、中にはいっているおとうさんやおかあさんをこまらせたものですが、そんなとき、おとうさんやおかあさんがどんな気もちだったかが、いまはじめてよくわかりました。そうでしょう、先生が話しおわるまでは、なん時間もなん時間もこの中にじっとしていなければならないのですからね。
　ようやくのことで、先生はもう一ど中庭にきました。そして、またここで、人間が器具や武器や衣服や家や家具などを考えだしてつくるのには、長いあいだ、たゆまず努力したものだということを説明しはじめました。
　けれども、ニールスは、この話を聞きのがしてしまいました。というのは、ドウランをかけている生徒はまたのどがかわいたので、台所へ水を飲みにいったからです。ニールスは、台所へいけば、ガチョウがどうなったかわかるぞ、と思いました。それで、からだを動かしてみますと、ぐうぜんにも、ふたにガタンとぶっつかりました——そのひょうしに、ふたがパタンと開きました。でも、ドウランのふたが開くことはよくありますから、生徒は気にもかけずに、またふたを閉めてしまいました。すると、それを見ていた男が、その中にはヘビでもはいっているのかい、とたずねました。
「いいえ、植物がすこしはいっているきりです。」と、生徒は答えました。けれども男は、「いや、たしかに、なんだか動いたものがあったよ。」と、言いはりました。そこで生徒は、男の言ったことがまちがいであることを見せようとして、ふたをあけて言いました。「さあ、ごらんなさい——どうです——」
　と、そのことばの終わらないうちに、もうここにはいられないぞ、とさとったニールスは、ポンと床の上にとびおりるが早いか、いちもくさんにかけだしました。見ていた男は、走っていくものがなんだか、よくはわかりませんでしたが、すぐさまあとを追いかけました。
　先生はまだ話をつづけていましたが、大きなさけび声に話をじゃまされてしまいました。
「そいつを捕えろ！　そいつを捕えろ！」とさけびながら、台所のほうから人びとが走ってきます。それを見ると、生徒たちもいっしょになって追いかけました。ニールスはネズミよりもすばしこくチョコチョコと逃げまわります。みんなは門のところで捕えようとしましたが、こんなちっぽけな生き物を捕えるのは、どうしてどうして、たいへんなことです。こうして、ニールスは、うまく逃げだしました。
　ニールスは、思いきって、ひろびろとした並木道を走っていく勇気はありませんでした。それで、別の道をいくことにきめました。庭を通って、裏庭に出ました。けれど、みんなは、大声をたてたり笑ったりしながら、なおもあとから追いかけてきます。かわいそうに、ニールスは一生けんめい逃げました。
　ある農家の前までかけてきたとき、ガチョウの鳴く声が聞こえました。見ると、入口の段々のところに、白いはねが二、三枚落ちているではありませんか。ああ、ガチョウはここにいるのです！　あまりのうれしさに、あとを追いかけてくる人たちのことはもうすっかり忘れて、ニールスは、段々をかけあがると、玄関へいきました。でも、戸がしまっていて、それからさきへはいけません。中からは、ガチョウの鳴きたてている声が聞こえてきます。でも、どうしても戸は開きません。うしろからは、自分を追っかけてくる人たちが、ますます近づいてきます。しかも、部屋の中では、ガチョウがいよいよ悲しそうに鳴きさけんでいるではありませんか。せっぱつまったニールスは、勇気をふるい起こして、力まかせに戸をたたきました。
　と、どうでしょう。ふしぎにも、戸が開きました。中を見れば、土間のまんなかで女の人がガチョウをおさえつけ、いましも大きなはねをはさみ切ろうとしています。ガチョウを見つけて、つかまえたのは、この女の人の子どもたちだったのです。しかし、この人はガチョウを殺そうというのではありません。自分のところで飼っているガチョウたちのなかまに入れるつもりで、ただ飛べないように、はねを切ろうとしていたのでした。けれども、ガチョウにとってはこんな恐ろしいことはありません。それで、声をかぎりに鳴き悲しんでいたのです。
　でも、はねを二枚切りおとされたときです。ありがたいことに、戸が開いて、チビさんがしきいの上に姿を見せました。と、女の人はいままでにこんなちっぽけな生き物を見たことがないものですから、びっくりして思わず、はさみを落し、手を打ちあわせました。そのひょうしに、ガチョウをおさえつけるのを忘れてしまったのです。
　ガチョウは、はなされたと気がつくと、すぐ戸口のほうへ走りました。そしてニールスのシャツのえりをつかんで、かかえていきました。入口の段々のところまで来ますと、はねをひろげて、さっと空に舞いあがりました。そのときには、もう、ニールスは、スベスベしたガチョウのせなかにのっかっていました。
　こうして、ふたりは飛んでいきました。ヴィットシェーヴレの人びとは、あっけにとられて、そのあとを見送っていました。

エーヴェードスクローステル公園にて

　ガンたちがキツネをからかっていた日、ニールスはずっとリスの空巣にねころんで、ねむっていました。夕方になって目をさましますと、ひどく悲しくなってきました。「きっと、もうじき家へ帰されるんだろう。そうなりゃ、どうしたって、おとうさんとおかあさんにこのみじめな姿を見られるんだ。」と、思ったのです。
　ところが、ヴォンブ湖で水浴びをしたり泳ぎまわったりしているガンたちのそばへいっても、だれからも帰れとは言われませんでした。それで、「ガチョウの白があんまりくたびれているもんだから、ぼくをのっけて帰れとは言わないんだな。」と、ニールスは思いました。
　あくる朝、ガンたちは、お日さまののぼるずっとまえに目をさましました。いよいよきょうは、家に帰されるにちがいありません。ところが驚ろいたことに、ガンたちは、ふたりとも朝の旅にいっしょについていってもいいというのです。ニールスは帰されるのがどうしてのびたのか、そのわけはよくわかりませんでしたが、長い旅なんだから、ガチョウがおなかいっぱいたべてから、きっと帰すつもりなんだろう、と思いました。まあ、そんなことはどっちでもかまいません。これから、おとうさんとおかあさんに会うまでのあいだは、ゆかいにすごしてやろう、と心にきめました。
　ガンのむれは、エーヴェードスクローステル荘園（貴族などの地方の領地）の上に飛んできました。それは湖の東がわにある美しい公園の中にあって、見るからにすばらしいところでした。大きなお城がそびえ立ち、低い壁と離れ屋にかこまれた中庭には、美しく石がしきつめてあって、古風な庭園はいかにも優雅です。庭園には、きれいに刈りこまれた生垣や、あずまやや、池や、噴水や、珍らしい大木や、短く刈りこんだ芝生が見えます。その芝生には花壇があって、色とりどりの春の花が、咲きみだれています。
　ガンたちが荘園の上に飛んできたのは朝早くでしたので、まだ人の姿は見えませんでした。みんなは、だれもいないことをはっきりたしかめてから、犬小屋の近くへおりていって、さけびました。
「これはなんてちっぽけな小屋なんだろう！　これはなんてちっぽけな小屋なんだろう！」
　その声を聞きつけるが早いか、犬は怒って小屋からとびだしてきて、吠えたてました。
「これを小屋だっていうのか？　この宿なしどもめ！　大きな石づくりのお城のあるのが目にはいらないのか？　あのりっぱな壁や、たくさんの窓や、大きなとびらや、美しいテラスが見えないのか？　ワン、ワン、ワン。これでも小屋だってのか？　中庭や、庭園や、温室や、大理石の像が見えないのか？　これでも小屋だってのか？　犬小屋ってもののまわりには、ブナの木立や、ハシバミのやぶや、こんもりとした茂みや、カシワの木や、モミの木や、おまけに、えもののいっぱいいる猟場まで持った公園があるのか？　ワン、ワン、ワン。これでも小屋だってのか、きさまらは？　村ぐらいもあるたくさんの離れ屋を持った小屋ってものを見たことがあるのか？　自分の教会と自分の牧師館を持っていて、おまけに、お屋敷や農家や小作地や、お役所までも支配している小屋ってものを知ってるとでもいうのか？　ワン、ワン、ワン。きさまらは、これでも小屋だってのか？　いいか、この小屋にはな、スコーネじゅうでいちばんすばらしいものがあるんだぞ、このこじきどもめ！　そんな高いところにぶらさがっているきさまらには、地面なんかはこれっぱかしも見えやしないんだ！　ワン、ワン、ワン。」
　犬はこれだけのことを、いっきにまくしたてました。そのあいだ、ガンたちは荘園の上をいったりきたりして、犬の言うことを聞いていましたが、犬が一息つきますと、こうさけびました。「きみは、どうしてそんなに怒ってんだい？　ぼくたちはお城のことなんかききゃしないよ。きみのお宅のことをおたずねしたまでさ。」
　ニールスは、ガンたちがこんなふうにからかっているのを聞いて、思わずふきだしてしまいました。と、そのとき、ふと、ある考えが浮かんできて、すぐにまじめになりました。そして、
「ああ、もしガンたちといっしょに、スウェーデンじゅうを通ってラプランドまでいけたら、ずいぶんおもしろいことが聞けるだろうなあ！」と、ため息をつきながらひとりごとを言いました。「こんなあわれな姿になってしまったいまでは、そういう旅でもするのが、いちばんの楽しみなんだ。」
　ガンたちは荘園の東がわにある広い畑の一つに飛んでいって、そこで二時間ばかり草の根をたべていました。そのあいだ、ニールスは畑につづいている大きな公園の中にはいっていって、ぶらぶらしていました。そうして、ハシバミの木立の枝を見あげては、去年の秋の実がまだ残っていはしないかと、一生けんめいさがしていました。
　こうして、公園の中をぶらついているあいだも、もうすぐ家に帰されるだろうということが、気になってしかたがありません。そして、ガンたちといっしょにいけたら、すてきだろうなあ。もちろん、おなかがすいたり、こごえそうになったりすることも、たびたびあるだろう。でも、そのかわり、働いたり勉強したりしなくてもいいんだから、などと、なんどもなんども想像してみるのでした。
　こんなことを考えながらさがしているところへ、とつぜん、年とった灰色の隊長のガンがやってきました。そして、なにかたべるものが見つかったかね、とききました。ニールスが、いいえ、なんにも見つかりません、と答えますと、隊長はいっしょになってさがしてくれました。でも、やっぱりハシバミの実は見つかりません。けれど、野バラの茂みにのこっている実を二つばかり見つけてくれました。ニールスはおいしそうにそれをたべました。でも、心の中では、自分がなまの魚やこおっていた野バラの実をたべて生きていたと、おかあさんが知ったら、なんて言うだろう、と思っていました。
　やがて、ガンたちは、おなかいっぱいたべてしまいますと、また湖へ飛んでいって、お昼ごろまで、いろんなことをして遊びました。ガンたちは白のガチョウにも試合を申しこんで、泳ぎっこや、かけっこや、飛びっこなどをしました。大きなガチョウは一生けんめいがんばりました。でも、すばしっこいガンたちにはいつも負けてしまいました。その間じゅう、ニールスはガチョウのせなかにのっかって、はげましていました。そして、みんなと同じように、うれしがっていました。ガアガアないたり、笑ったり、いや、そのすさまじいこと、荘園の人たちが気がつかなかったのはふしぎなくらいです。
　ガンたちは遊びつかれますと、氷の上に飛んでいって、二時間ばかり休みました。その日の午後も、午前とほとんど同じようにしてすごしました。さいしょに二時間ばかりごはんをたべて、それからお日さまが沈むまで、水浴びをしたり、氷のふちで遊んだりしました。お日さまが沈むと、みんなはすぐに氷の上に並んで、眠りました。
「こんな生活なら、ぼくはすきなんだがなあ。」夕方、ガチョウのはねの下にはいりこみながら、ニールスはこう思いました。「だけど、あしたは家へ帰されるんだろう。」
　眠るまえに、ニールスは、ガンたちといっしょにいくとすれば、どんな得があるだろうかと、もう一ど考えてみました。そうなれば、なまけものだといって叱られることもないでしょうし、だいいち、すきなように、ぶらぶら暮らすこともできるでしょう。たったひとつ心配なのは、たべるものをどうやって手に入れるかということです。でも、いまではそれもほんのわずかでたりるのですから、なんとか手に入れることもできるでしょう。
　そしてまた、これからどんなものを見るだろうか、どんなにたくさんの冒険をするだろうかなどと、さまざまに想像をめぐらしてみました。たしかに、家にいて骨をおって働くのとは、ずいぶんちがうことでしょう。「ああ、もしガンたちといっしょに旅にいけさえしたら、こんな姿になったのもうらめしくは思わないんだけどなあ！」と、ニールスは思うのでした。
　こうなれば、気にかかるのは家に帰されるということだけです。ところが水曜日になっても、ガンたちは帰れというようなことは、ひとことも言いません。この日も、まえの日と同じようにすぎました。そしてニールスは、のびのびとした野の生活が、ますます、すきになってきました。
　ニールスは、森のように大きな、このさびしい公園を、すっかり自分ひとりのものにしたような気になりました。そして、じぶんの家のせまい部屋や、ちっぽけな畑に帰りたいなんて気もちは、ちっとも起こってきませんでした。
　水曜日には、ガンたちは、じぶんをいっしょにいかしてくれるつもりなんだろうと、ニールスはそう思っていました。ところが木曜日になると、この希望は消えてしまいました。木曜日も、まえの日と同じようにはじまったのです。ガンたちは広い畑でごはんをたべ、ニールスはたべものをさがしに公園へいきました。しばらくすると、アッカがそばへやってきて、なにかたべるものが見つかったかい、とたずねました。けれども、いいえ、見つかりません、というニールスの答えに、アッカは枯れたイブキゼリ草を見つけてくれました。それには、まだ、小さなたねがいっぱいついていました。
　ニールスがたべおわりますと、アッカは、おまえさんは、ずいぶん向こうみずに公園の中をかけまわるようだけれど、おまえさんみたいなちっぽけなものが気をつけなければならない敵が、たくさんいることは知っているのかい、と、ききました。いいえ、すこしも知りません、と、ニールスは答えました。そこで、アッカはその敵についていちいち説明しはじめました。
　森へいくときには、とアッカは言います。キツネとテンに気をつけなくちゃいけないよ。湖の岸べにいるときには、カワウソがいることを忘れるんじゃないよ。石垣の上にすわるときには、どんな小さな穴にもはいこめるようなイタチがいることを、しょっちゅう気をつけていなけりゃいけない。それから落ち葉の上にねころんで眠ろうとするときには、まずそのまえに、落ち葉の下にマムシが冬眠していないかどうか、しらべるようにするんだね。広い野原に出たら、空を舞っているタカやハヤブサやワシなどに気をつけるんだよ。イバラのやぶでは、ハイタカにつかまらないように注意しなさい。カササギやカラスはどこにでもいるから、けっしてゆだんするんじゃないよ。暗くなってきたら、耳をすまして、大きなフクロウに気をつけなくちゃだめだよ。なにしろ、フクロウときたら、音もたてずに飛んでくるからね。すぐそばまでこなければ、気がつかないくらいなんだから。
　ニールスは、自分の命をねらっている敵がそんなにもたくさんいることを聞かされますと、これでは、とても生きてはいられまいと思いました。死ぬことはそんなに恐ろしいとは思いませんが、くわれてはたまりません。それでアッカに、そういう動物をふせぐのには、どうしたらいいのですか、とたずねました。
　すると、アッカはすぐに答えました。リスやウサギやウソやヤマガラやキツツキやヒバリのような、森や野にいる小さな動物たちと仲よしになるようにしなさい。こういう動物たちと友だちになっていれば、危険のときには知らせてくれるだろうし、隠れ場所も教えてくれるだろう。それに、こまりきったときには、力を合わせてかばってもくれるだろう。
　そのあとで、ニールスは教えられたとおりにやってみようと思って、まずリスのハヤキチに助けてくれるように頼んでみました。けれども、ハヤキチは、どうみても助けてくれそうもありません。
「ぼくや小さい動物たちから助けてもらおうと思ったって、とてもだめだよ。」と、リスのハヤキチは言うのでした。「きみがガチョウ番のニールスって小僧で、去年、ツバメの巣をぶちこわしたり、ムクドリの卵を押しつぶしたり、カラスの赤んぼうをみぞの中にほうりこんだり、ツグミをわなにかけてつかまえたり、リスをかごの中にとじこめたりしたってことを、ぼくたちが知らないとでも思っているのかい？　まあ、せいぜい、じぶんのことはじぶんでするさ。それよりも、ぼくたちがみんなで、きみを人間どものところへ追い返さないことだけでも、ありがたく思うんだね。」
　こんな返事をされれば、もとのニールスなら、ただではおかないところです。けれどもこのとき、ニールスは、じぶんの悪いことが、ガンたちに知れたらたいへんだぞと思っていました。そんなことにでもなれば、いっしょにいては、いけないと言われるかもしれません。それだけが、ただ、心配でした。このガンの仲間にはいってからというもの、ニールスは、ちょっとしたいたずらさえもしたことがありません。もちろん、しようとしたところで、こんな小さなからだではたいしたこともできないでしょうが。それにしても、小鳥の巣をこわしたり、卵を押しつぶしたりすることぐらいはできるでしょう。しかし、いまではニールスは、すっかりよい子どもになっていたのです。ガチョウのはねをひきぬくようなこともしませんし、乱暴な返事ひとつしたことがありません。朝、アッカにおはようのあいさつをするときには、ちゃんと帽子をとって、ていねいにおじぎをするのでした。
　ニールスは、ガンたちがじぶんをラプランドへいっしょにつれていってくれそうもないのは、きっといままでじぶんが悪いことばかりしたからなんだろう、と、木曜日には一日じゅう考えこんでいました。それで、その夕方に、リスのハヤキチのおくさんが人間にさらわれて、生まれたばかりの赤んぼうがおなかをへらして、いまにも死にそうになっていることを聞きますと、よし、ひとつ助けてやろう、と決心しました。そして、それをうまくやってのけたことは、さっきお話ししたとおりでした。
　ニールスは金曜日にもまた公園へはいっていきました。すると、どのやぶからも、ウソたちが、歌っているのが聞こえてきました。リスのハヤキチのおくさんが、赤んぼうだけをのこして人間にさらわれていったけれど、ガチョウ番のニールスが勇敢にも、赤んぼうをおかあさんのところへつれていってやったと、ウソたちは、口々に歌っているのでした。
「いまこのエーヴェードスクローステル公園じゅうで、オヤユビさんほど、みんなから敬われているひとはない！」と、ウソは歌いました。「ガチョウ番のニールスだったころは、あんなにこわがられていたんだけど！　いまじゃ、リスのハヤキチは、オヤユビさんにクルミをあげるし、貧乏なウサギも、きっとピョンピョン跳ねていっしょに遊ぶよ。キツネのズルスケが近づけば、シカはオヤユビさんを、せなかにのせて逃げてくれるだろうし、ヤマガラは、タカがくるのをきっと知らせてくれるよ。それから、アトリやヒバリは、オヤユビさんの勇ましいおこないを歌にうたうだろうよ。」
　アッカやほかのガンたちも、この歌を聞いたことはたしかです。それなのに、金曜日がすぎてしまっても、あいかわらず、ニールスがいつまでもいっしょにいていいとは言ってくれません。
　土曜日までずっと、ガンたちはエーヴェードのまわりの畑でごはんをたべましたが、一どもズルスケにおそわれたことはありませんでした。ところが、土曜日の朝早く、ガンたちが畑へ出ていきますと、ズルスケが待ち伏せしていました。そして、畑から畑へと追いかけてきます。これでは、おちついてたべてもいられません。そこでアッカは、すぐに決心をして、空高く舞いあがりました。そして、ほかのガンたちといっしょに、フェールスの平原やリンデレードの山の背をこえて、なんマイルも飛んでいきました。こうして、ヴィットシェーヴレ地方に着きました。
　ところが、そのヴィットシェーヴレでは、ガチョウがさらわれてしまったのでした。そして、それからどうなったかは、まえにお話ししましたね。もしもあのとき、ニールスが力のかぎり、ひっしになって助けようとしなかったら、ガチョウの姿はもう二どと見られなかったことでしょう。
　土曜日の夕方、ニールスがガチョウといっしょに、ヴォンブ湖へもどってきたときには、きょうはすばらしいことをやってのけたと思いました。そして、アッカやほかのガンたちがなんて言うだろうかと、楽しみにしていました。ガンたちは、ずいぶんほめてはくれましたが、でもニールスが聞きたいと思っていることは、ひとことも言ってはくれませんでした。
　日曜日になりました。ニールスが魔法で小人にされてから、ちょうど一週間になります。しかし、あいもかわらず、ニールスはちっぽけな姿のままなのです。
　ところが、そのニールスは、こんな姿になったことをそれほど悲しんではいないようすでした。湖のほとりの大きなヤナギの茂みにすわりこんで、ニールスはアシ笛を吹いていました。まわりにいるヤマガラやウソやムクドリたちの歌を、一生けんめい吹こうとしていたのです。でも、ニールスは笛を吹くのにあまりなれていないので、ちっともうまく吹けません。そうすると、小さな音楽の先生たちは、はね毛をさかだて、この生徒の不器用さかげんにがっかりして、大声を立てたり羽ばたいたりしています。ニールスはみんながあんまり夢中になっているので、おかしくてたまらず、笑ったひょうしに笛を落してしまいました。
　ニールスはまた吹きはじめました。やっぱり、うまくいきません。すると、小鳥たちは、口をそろえて悲しそうに言いました。
「きょうは、いつもよりへたじゃないか、オヤユビくん！　調子がちっとも合ってないよ。きみの心はどこへいっちゃったの？」
「どこかほかにね。」と、ニールスは答えました。まったくそのとおりです。笛を吹いているあいだも、あとどのくらいガンたちといっしょにいられるだろうか、もう、きょうにも帰されるのではないだろうか、という心配が、しょっちゅう心に浮かんでくるのです。
　けれども、ニールスは急に笛をすてて、茂みからとびおりました。見れば、アッカやほかのガンたちが、向こうから長く一列にならんでやってきます。しかも、みんなはいつもとちがって、しずしずと、おごそかな顔つきをして歩いてくるではありませんか。ニールスは、いよいよじぶんの運命がどうきまるのか聞かされるにちがいない、と思いました。
　とうとう、ガンたちはニールスの前に立ちどまりました。そこで、アッカが口をひらいて言いました。
「オヤユビさん、わたしはあなたのおかげで、キツネのズルスケから救っていただいたのに、いままでお礼も言わないでいて、さぞへんなやつだとお思いでしょう。むりもありません。しかしわたしは、ことばでお礼を言うよりも、おこないでお礼をしたいほうなのです。それで、オヤユビさん、いまそのご恩がえしができると思います。というのは、わたしは、あなたに魔法をかけた小人に使いをやったのです。さいしょ小人は、あなたをもとの人間の姿にかえすことを、なかなか承知しませんでした。けれども、わたしはなんどもなんども使いをやって、あなたがわたしたちのあいだで、たいへんりっぱなおこないをしていると知らせてやりました。すると、小人もとうとう承知して、あなたが家に帰れば、すぐにもとの人間にしてあげるとつたえてくれということです。」
　ところが、どうしたというのでしょう！　アッカが話しはじめたときには、ニールスはあんなに楽しそうでしたのに、話しおわったいまは、いかにも悲しそうに見えました。そしてひとことも言わずに、横をむいて、わっと泣きだしてしまいました。
「いったいぜんたい、どうしたというのです？」と、アッカはあっけにとられて、たずねました。「わたしがいまお話したことだけでは、ご不満のようですね。」
　けれどもニールスは、まいにち心配のいらないことや、おもしろおかしくすごせることや、冒険や、自由や、空高く旅をすることなどが、これからはできなくなることを思って、その悲しみのために、泣いたのです。
「ぼくはもう人間なんかになりたくない！」と、ニールスは泣きじゃくりながら言いました。「きみたちといっしょに、ラプランドへいきたいんだ！」
「いいですか、あの小人はとっても怒りっぽいんですよ。」と、アッカは答えました。「だから、いまあの小人の言うとおりにしないと、こんどまたうまく言いくるめることは、なかなかできないでしょうよ。」
　もともと、ニールスは変わっていました。いままで、ひとりとして人間をすきになったことはありません。おとうさんもおかあさんも、学校の先生も、学校の友だちも、近所の子どもも、だれもすきにはなれませんでした。みんながニールスにさせようと思うことは、仕事でも遊びでも、なにもかもうんざりするばかりでした。ですから、ニールスが心からしたったり、なつかしく思ったりするような人は、ひとりもなかったのです。
　いくらか仲よくしていたものといえば、ガチョウ番のオーサという女の子と、その弟のマッツという子だけでした。このふたりは、ニールスと同じように、ガチョウの番をする役目でした。けれど、このふたりも心からすきだったわけではありません。
「ぼくはもう、人間になんかなりたくない！」と、ニールスは泣き泣き言いました。「きみたちについてラプランドへいきたいんだよ！　だから、ぼく、一週間もおとなしくしていたのさ。」
「あなたが、わたしたちといっしょにいきたいんなら、いっちゃいけないとは言いませんよ。」と、アッカは言いました。「だけど、それよりさきに、ほんとうに家へ帰りたくないのかどうか、よく考えてごらんなさい。あとで、後悔するかもしれませんよ。」
「いや、後悔するなんてことは、ぜったいにないよ。」と、ニールスはきっぱりと言いました。「きみたちのところにいるくらい楽しいことはなかったもの。」
「じゃ、おすきなようになさい。」と、アッカは言いました。
「ありがとう、ありがとう！」と、ニールスは大声で言いました。そして、しみじみ、しあわせを感じて、うれしさのあまり泣いてしまいました。——ついさっき、悲しみのあまり泣いたように。

４　グリンミンゲ城

黒ネズミと灰色ネズミ

　スコーネ地方の東南部で、海からあまり遠くないところに、グリンミンゲという古いお城があります。しっかりとした石づくりの大きなお城で、ぐるりの平野の、四、五マイルさきからでもよく見えます。高さといえば四階までしかありませんが、たいへん大きなものなので、同じ荘園の中にあるふつうの農家は、このお城にくらべれば、まるで子どものおもちゃの家のようです。
　この大きな石の建物は、壁と天井がたいへん厚いので、内がわには、ただ厚い壁だけがあるようなありさまです。階段も廊下もせまくて、部屋はほんのわずかしかありません。しかも、壁は、できるだけ頑丈にというので、窓も上のほうにごくすこししかついていないのです。下のほうには、小さなあかりとりのほか、窓は一つもありません。むかし、戦争のあった時代には、人びとはこういう大きな頑丈なお城に、喜んで閉じこもっていたものでした。ちょうど、いまのわたしたちが寒さのきびしい冬に、喜んで毛皮にくるまっているのと同じようなものですね。けれども、やがて楽しい平和な時代がやってきますと、こんな古いお城の、うすぐらい、ひえびえとした石の部屋なんかに、とても住んでいられるものではありません。それで人びとは、もうずっとまえに、この大きなグリンミンゲ城を見すてて、空気と光のさしこむ、気もちのいい住居に越していってしまったのです。
　ですから、ニールス・ホルゲルッソンがガンのむれといっしょにやってきたときにも、グリンミンゲ城には人間はひとりもいませんでした。といっても、住んでいるものがまるっきりなかったわけではありません。夏になれば、コウノトリの夫婦がきまってやってきては、屋根の上に大きな巣をつくって住みました。また、屋根裏部屋には二羽のフクロウが住んでいましたし、廊下にはコウモリがぶらさがっていました。台所のかまどには、年とったネコが一ぴき住んでいました。それから地下室には、いく百となく黒ネズミのむれが住みついていました。
　ネズミというものは、いったいに、ほかの動物たちのあいだでも、あまり評判のいいものではありません。しかし、このグリンミンゲ城の黒ネズミだけはべつで、いつもみんなから敬われておりました。なぜかといえば、敵と戦うときにはとても勇敢でしたし、またこの種族の上にふりかかってきたわざわいにもかかわらず、よくがんばりとおしたからです。つまり、この黒ネズミたちは、むかしはたいへん数も多くて力もあったネズミ族だったのですが、いまではほろびかかっているのでした。じっさい、長い年月のあいだ、黒ネズミたちはスコーネばかりか、国じゅうをじぶんたちのものにしていたのでした。まったく、どこの地下室にも、天井裏にも、教会にも、お城にも、酒造り場にも、製粉所にも、そのほか人間の住んでいるところなら、ありとあらゆるところに住んでいたものです。それがいまではすっかり追いはらわれて、もう全滅するばかりです。人里離れた二、三の場所に、その姿を見かけることがあるだけです。その中でも、このグリンミンゲ城ぐらいたくさんいるところは、ほかにはどこにもなかったのです。
　ある動物の一族が死にたえるのは、たいてい人間にやっつけられるためです。しかし、黒ネズミの場合はそうではありません。もちろん、人間も黒ネズミと戦いましたが、それほどひどくやっつけることはできませんでした。つまり、黒ネズミを征服したのは、同じネズミ族の灰色ネズミだったのです。
　灰色ネズミというのは、黒ネズミのように、ずっとむかしからこの国に住みついていたものではありません。百年ばかりまえに、リビア人の帆船からマルメーに上陸した、あわれな移住ネズミの夫婦がその先祖になっているのです。この港にたどりついた二ひきの宿なしネズミは、橋の下のくいのあいだを泳ぎまわっては、水の中にすてられたくずをたべて、すき腹をふさいでいました。そのときには、もちろん、黒ネズミの領分である町の中へはいっていく勇気はありませんでした。
　でも、灰色ネズミたちの数がふえてきますと、だんだん大胆になって、町なかまではいってくるようになりました。さいしょは、黒ネズミたちのすてた古い空家に、ひっこしました。そして、どぶやごみためからたべものを見つけてきては、黒ネズミたちの見むきもしなかった、きたないこぼれ物でがまんしていたものでした。いったい、灰色ネズミというのは、どんな苦しみでもがまんするし、どんなつまらないものにも満足する、こわいものしらずのネズミだったのです。ですから、二、三年してひじょうに力が強くなりますと、早くも黒ネズミたちをマルメーから追いだしはじめました。まず、屋根裏部屋や地下室や貯蔵部屋をうばい取って、黒ネズミたちをうえ死にさせたり、かみ殺したりしました。なにしろ、灰色ネズミたちは戦いをちっとも恐れなかったのですから。
　マルメーをうばってからは、大小さまざまの隊にわかれて進軍し、いよいよこの地方じゅうを征服していったのです。それにしても、灰色ネズミたちがまだあんまりふえないうちに、黒ネズミたちがどうして大きな連合軍をととのえて、灰色ネズミをほろぼしてしまわなかったのか、そのわけはよくわかりません。ともかく、黒ネズミたちは自分の力を信じきっていましたので、自分の領土を失うなんてことは、夢にも考えなかったのです。そして、黒ネズミたちは、のんびりと日をおくっていたのでした。そのあいだに、灰色ネズミたちは農場から農場へ、村から村へ、町から町へと、ぐんぐん押しすすんでいったのです。そのため、黒ネズミたちはうえ死にするか、追いだされるかして、すっかりほろびてしまいました。こうして、いまでは、スコーネ地方でもグリンミンゲ城のほかには、どこにも住むところがなくなってしまったようなわけです。
　この古い石のお城は城壁が堅固なうえに、ネズミの通れるような道がほんのわずかしかありません。そのため、黒ネズミたちはここにがんばって、灰色ネズミたちが攻めこんでくるのをふせぐことができました。毎晩毎晩、毎年毎年、攻めるものと守るものとのあいだには、くりかえしくりかえし、戦いがつづけられました。けれども、黒ネズミたちはよく見はって、しかも、死ぬことをすこしも恐れずに戦いました。ですから、この古いりっぱなお城のおかげで、これまでのところは、いつも勝利をおさめることができました。
　さて、ちょっと言っておきますが、黒ネズミたちも、勢いのさかんだったころは、いまの灰色ネズミと同じように、どの動物からもきらわれていたものでした。それもそのはずです。黒ネズミたちは、つながれているかわいそうな囚人たちにむかっていって、苦しめたり、死人の肉をたべたり、貧乏人の地下室からカブラをぬすんできたり、眠っているガチョウの足をかみきったり、メンドリから、卵や生まれたばかりのヒヨコをさらってきたり、そのほかさまざまの悪いことをやってのけたのですからね。ところが、不幸にみまわれてからは、そうしたことは、忘れたように、ふっつりとしなくなってしまったのです。あれほど長いこと敵を苦しめぬいてきたこの黒ネズミ族の最後のかわりかたに、驚かないものはありませんでした。
　グリンミンゲ城の近くに住んでいる灰色ネズミたちは、しょっちゅう戦いをしむけては、このお城をのっとる機会を、いまかいまかと待っていました。ところで、灰色ネズミたちはこの国のほとんど全部をじぶんたちのものにしているのですから、せめてグリンミンゲ城ぐらいは、わずかな黒ネズミたちのものにしておいてやってもいいように思われます。でも、灰色ネズミたちはそんなことはこれっぱかしも考えてはいませんでした。それどころか、黒ネズミをいつかはほろぼしてしまわなければ、じぶんたちの名誉にかかわるんだ、と口ぐせのように言っていました。けれども、灰色ネズミのことをよく知っている者は、そんなことはうそで、ほんとうは、グリンミンゲ城を人間が穀物倉に使っているものだから、灰色ネズミたちは、ここを手に入れないうちは承知できないんだ、ということをちゃんと知っていたのでした。

コウノトリ

　ヴォンブ湖の氷の上で眠っていたガンたちは、ある朝早く、空から呼ぶ声に目をさましました。
「コロッ、コロッ、ツルのトリアヌートが、ガンのアッカさまほか、みなみなさまにごあいさつを申しあげます！　明日、クッラベルイで、ツルの大舞踏会がございます！」
　アッカはすぐに頭をあげて、答えました。
「それはどうもありがとう！　それはどうもありがとう！」
　それから、ツルのむれは、むこうへ飛んでいきましたが、ツルが野原や木立の多い丘の上を飛びながら、「トリアヌートがごあいさつ申しあげます！　明日、クッラベルイでツルの大舞踏会がございます！」とさけんでいるのが、ガンたちには、まだしばらくのあいだ聞こえていました。
　ガンたちは、この招待を心から喜びました。そして、白いガチョウにむかって、「きみはしあわせだぜ、ツルの大舞踏会にいけるなんて！」と、言いました。
「ツルの踊りって、そんなにすばらしいのかい？」と、ガチョウはききました。
「きみなんか、とても夢にだってみたことのないようなものさ！」と、ガンたちは答えました。
「さてと、あした、わしたちがクッラベルイにいっているあいだ、オヤユビくんの身になにもまちがいが起こらないようにするには、どうしたらいいだろう。」と、アッカが言いました。
「オヤユビくんひとり残していくわけにはいかない！」と、ガチョウが大声で言いました。「ツルがオヤユビくんに踊りを見せないというんなら、ぼくはオヤユビくんといっしょにここに残る。」
「いままで人間がクッラベルイの動物大会にいくのをゆるされたことがないんだよ。」とアッカは言いました。「そんなわけで、オヤユビくんをいっしょにつれていくことができないのさ。だけど、このことはまたあとでよく相談しよう。それよりも、まず第一に、なにかたべるものを手に入れるようにしなけりゃならない。」
　こう言って、アッカは出発の合図をしました。この日も、キツネのズルスケのおかげで、ずいぶん遠くまで、たべもののあるところをさがして歩かなければなりませんでした。こうして、みんなは、グリンミンゲ城のいくらか南にあたる、じめじめした草地まで飛んでいきました。
　この日一日じゅう、ニールスは小さな池のほとりにすわりこんで、アシ笛を吹いていました。ツルの踊りを見にいけないと言われたので、すっかりふさぎこんでいたのです。それで、ガチョウやガンたちと口をきく気にはとてもなれなかったのです。
　アッカがまだニールスを信頼しきっていないなんて、まったくひどい話ではありませんか。ニールスが人間にもどるのをやめたのも、ガンのむれといっしょに旅をして歩きたいからではありませんか。だから、ガンたちを裏切るようなことはないだろうということぐらい、とうぜんわかってくれなければこまります。それに、ガンたちといっしょにいたいからこそ、いろんな犠牲までもはらったのではありませんか。それなら、せめて珍らしいものでも見せてやるのが、じぶんたちのつとめだということぐらい、わかってくれてもいいはずです。
「ぼくの気もちをすっかり話さなければいけないぞ。」と、ニールスは思いました。そのうちに、だんだん時がたっていきましたが、とうとう思いきって言いだすことができませんでした。ちょっとへんに思われるかもしれませんが、じつをいうと、ニールスはこの年とったアッカにたいしては、尊敬に似た気もちを持っていました。ですから、アッカの考えに反対することは、なまやさしいことではなかったのです。それは、じぶんでもよく知っていました。
　ガンたちがごはんをたべている、このじめじめした草地の一ぽうには、広い石垣がありました。夕方になって、ニールスがアッカと話そうと思って、頭をあげたとき、ふと、この石垣に目がとまりました。と、そのとたん、びっくりして、思わず小さなさけび声をあげました。すると、その声に、ほかのガンたちもみんないっせいに頭をあげて、驚いて石垣のほうを見つめました。さいしょ、みんなは、石垣のまるい灰色の石に足がはえて、それが走りだしたのかと思いました。でも、よくよく見ますと、石垣の上をたくさんのネズミが走っているのです。ネズミのむれはかたまって、ものすごい早さで前進しています。しかも、その数があんまりたくさんなので、しばらくのあいだは石垣をすっかりおおいかくしていたほどでした。
　ニールスは、もとの、大きな力の強い人間だったときでさえ、ネズミがこわくてしかたがありませんでした。それがいまはこんなちっぽけな姿で、二ひきか三びきのネズミにも打ち負かされそうなのです。このときのニールスの気もちは、どんなだったでしょう！　ネズミの進軍をながめている間じゅう、ニールスはブルブルふるえていました。
　ところが、ふしぎなことに、ガンたちもニールスと同じように、ネズミがだいきらいなようです。だれひとり、ひとことも話しかけませんでした。そして、ネズミたちがいってしまうと、はねから泥水をはらい落そうとでもするように、からだをゆすぶりました。
「灰色ネズミがあんなにたくさん進軍しているのは、」と、ガンのユクシが言いました。「なにかよくないことの前兆だぞ。」
　こんどこそ、ニールスはまたとない機会だと思って、クッラベルイにいっしょにつれていってくれなければこまる、と、アッカに言おうとしたのでした。ところが、またもやじゃまがはいりました。こんどは、大きな一羽の鳥がみんなのあいだにさっと舞いおりてきたのです。
　見たところ、この鳥は胴とくびと頭とを、小さな白いガチョウからでも借りてきたようです。けれども、ほかに、大きな黒いはねと、長い赤い足と、太くて長いくちばしを持っています。そのくちばしは頭のわりには大きすぎて、その重みのために頭がさがっているので、いかにも悲しそうな、心配そうなようすに見えます。
　アッカはいそいではねをなおして、コウノトリのほうに近づきながら、なんどもおじぎをしました。まだ春になったばかりなのに、このスコーネでコウノトリに会ったことを、アッカはそれほど驚いてもいませんでした。それはこういうわけです。つまり、コウノトリのオスは、メスがはるばるバルト海をこえてくるまえに、ひとりでさきに飛んできて、冬のあいだに自分たちの巣がいたまなかったかどうかをしらべる習慣になっているということを、アッカはちゃんと知っていたからです。それにしても、コウノトリがじぶんたちをたずねてきたのは、いったいどうしたわけなんだろうと、ふしぎに思わずにはいられませんでした。だって、コウノトリというものは、同じ種族のものとだけつきあうのがすきなのですから。
「エルメンさん、お宅がどうかしたわけじゃないんでしょう？」と、アッカが言いました。
　コウノトリはくちばしを開ければ、たいてい不平をこぼす、とよく言われていますね。たしかに、これはほんとうのことです。このコウノトリも、ものを言うのがおっくうそうで、おまけに、ひどく悲しそうにしゃべります。はじめのうちしばらくは、くちばしをカチカチやっていましたが、それから、しゃがれた弱々しい声で話しだしました。すると、たちまち不平ばかりならべたてます。グリンミンゲ城の屋根の頂きにあった巣が、冬の嵐のためにすっかりメチャメチャになってしまった、もうこのあたりではたべものが見つからない、スコーネの人間どもが、だんだんじぶんのものを取ってしまう、沼地を掘りかえしたり、たがやしたりしてしまう、だから、自分はスコーネから出ていって、もう二どと帰ってこようとは思わない、などと、文句ばかり言っています。
　コウノトリがこうしてブツブツ言っているあいだ、家もなければ保護してくれる者もないガンのアッカは、思わずこう考えるのでした。〈エルメンさん、もしもわたしがあんたのように、めぐまれた身の上だったとしたら、不平なんかこぼしませんよ。あんたは自由な野の鳥でありながら、人間どもに評判がよくて、鉄砲で打たれたり、巣から卵をぬすまれたりするような心配はちっともないんですからね。〉けれど、こうは思いましたが、口にだしては言いませんでした。そしてコウノトリには、ただ、「あの家が建ってから長いあいだ、ずっとコウノトリの住んでいた家を捨ててしまうつもりだなんて、とても信じられませんね。」と、言いました。
　コウノトリは、こんどは急にガンたちにむかって、灰色ネズミのむれがグリンミンゲ城へ進軍しているのを見ませんでしたか、とききました。アッカが、たしかに、あのぞっとするようなネズミの進軍を見ましたよ、と答えますと、コウノトリは、長年のあいだグリンミンゲ城を守っている、勇敢な黒ネズミのことをのこらず話してきかせました。
「でも今夜、グリンミンゲ城は灰色ネズミの手におちてしまうでしょう。」と、コウノトリはため息をつきながら言いました。
「どうしてまた今夜なんです？　コウノトリさん。」と、アッカがききました。
「だって、黒ネズミたちはほとんどみんな、ゆうべのうちにクッラベルイへ出かけてしまったんですからね。ほかの動物たちも、みんないそいでいくだろうと思ったわけなんですよ。」と、コウノトリが答えました。「だけど、ごらんのとおり、灰色ネズミは家にいたんです。そして、いま全員集合して、今夜グリンミンゲ城に攻めこもうというつもりなんです。つまり、今夜だと、お城を守っているのは、クッラベルイにいかれないような老いぼれの弱いネズミだけですからね。だから、きっと灰色ネズミたちは、目的をはたすでしょうよ。だけどわたしは、長いあいだ黒ネズミたちと仲よく暮らしていたものですから、黒ネズミの敵が占領しているようなところには住みたくありません。」
　これでアッカには、コウノトリがなんのためにやってきたのかが、やっとわかりました。つまり、腹をたてて、そのことを言いにきたのです。たしかに、コウノトリのやりかたでは、この災難をふせぐことはとてもできないでしょう。
「エルメンさん、あなたはこのことを黒ネズミたちに知らせてやりましたか？」と、アッカがたずねました。
「いいえ、」と、コウノトリは答えました。「知らせたって、どうせむだですよ。みんなが帰ってくるまでに、お城はとられてしまいますからね。」
「そうとはかぎりませんよ、エルメンさん。」と、アッカは言いました。「わたしはある年よりのガンを知っていますがね、そのひとなら、きっと、こういうひどい悪事を喜んでふせいでくれるでしょうよ。」
　アッカがこう言いますと、コウノトリは頭をあげて、じいっとアッカを見つめました。むりもありません。この年とったアッカには、武器になるような爪もなければ、くちばしもないではありませんか。それに、ひるまの鳥ですから、夜になれば、いやでも眠ってしまいます。ところが、ネズミたちときたら、夜の暗やみで戦う動物なのです。
　しかしアッカは、もう、黒ネズミを助けようと決心してしまったようです。ユクシを呼んで、ガンたちをヴォンブ湖につれていくように言いました。けれども、ガンたちが承知をしませんので、きびしく言いわたしました。
「おまえたちがわたしの言うことをきけば、それが、いちばんみんなのためにいいんだ。わたしはこれからあの大きな石のお城に飛んでいかなければならない。おまえたちがいっしょについていけば、きっとあのへんの人間に見つかって、打たれてしまうだろう。だから、わたしがいっしょにつれていきたいのは、オヤユビくんだけなんだ。オヤユビくんは目がいいし、夜も起きていられるから、このうえもなく役にたってくれるだろう。」
　ニールスは、この日はむしゃくしゃしているので、おとなしく言うことを聞く気にはなれません。アッカが言ったことを耳にしますと、すぐに身を起こして、両手をせなかにまわし、鼻をつんと上にむけて、前に出ました。さてそこで、ネズミとの戦いに力をかすのはごめんだ、だれかほかのものにでも助けてもらうがいい、とアッカに言ってやろうというわけです。
　ところが、ニールスがあらわれでた瞬間に、コウノトリは動きだしました。そして、コウノトリがよくやるように、頭をさげ、くちばしを首に押しつけて立ちました。そして、まるで笑うように、のどの奥をゴロゴロやりはじめました。そして、あっというまに、くちばしをさげて、ニールスをつかんだかと思うと、やにわに、二メートルも空高くほうりあげました。しかも、この芸当を七回もくりかえすのです。ニールスは悲鳴をあげ、ガンたちはさけびました。
「何をしようっていうんです？　エルメンさん。カエルじゃありませんよ！　人間ですよ！　エルメンさん。」
　コウノトリは、やっとニールスをおろしてくれました。べつに、けがはさせませんでした。それから、コウノトリはアッカにむかって言いました。
「さて、わたしはグリンミンゲ城へ帰るとします、アッカおばさん。わたしが出てくるときは、お城に住んでるものはみんな心配しきっていました。だけど、ガンのアッカさんとチビ人間のオヤユビくんが助けにきてくれると聞かせてやったら、みんなはさぞかし喜ぶでしょう。」
　こう言うと、コウノトリはくびをのばして、はねをひろげました。そうして、弦をはなれた矢のように、飛んでいきました。アッカは、コウノトリがじぶんをバカにしているとはよく知っていましたが、そんなことはちっとも気にかけませんでした。アッカは、ニールスがコウノトリに振りおとされた木靴をさがしているあいだ、待っていました。それから、ニールスをじぶんのせなかにのせて、コウノトリのあとを追っていきました。ニールスはこんどはさからいませんでした。いっしょにいきたくないなどとは、ひとことも言いませんでした。いまはコウノトリにすっかり腹をたてているので、おとなしくせなかにのっかって、ほっとため息をついただけでした。それにしても、あの長い赤い足のコウノトリのやつは、こんなちっぽけな小僧はまるっきり役にはたたないだろうと、思いこんでいるのです。ニールスは、西ヴェンメンヘーイのニールス・ホルゲルッソンというのがどんな人間であるかを、はっきりと見せてやろうと思いました。
　コウノトリに二、三秒おくれて、アッカもグリンミンゲ城のコウノトリの巣につきました。見れば、その巣は大きくて、りっぱなものです。車の輪が土台になっていて、その上に枝や芝草がたくさんおいてあります。けれども、この巣はとても古いので、そこにある草や木には根が生えています。コウノトリのおかあさんが、巣のまんなかの低いところにすわって卵をだいているときには、スコーネの美しい眺めをはるかに楽しめるばかりでなく、巣のまわりの野バラやイワレンゲの花もながめることができます。
　アッカとニールスは、ひとめで、ここではなにかたいへんなことが起ころうとしているんだということが、すぐわかりました。だって、そうでしょう。コウノトリの巣のふちには、灰色のフクロウが二羽と、灰色のしまのある年とったネコが一ぴきと、出っ歯で、目のショボショボした老いぼれネズミが十二ひきもいっしょにいるのですもの。これは、ふだんなら、とても仲よくしていられる動物たちではありませんからね。
　だれひとり、アッカのほうをふりむいて見ようともしなければ、あいさつしようとする者もありません。みんなはただじっとすわって、何もない冬の原の、あちこちに見える灰色の長い線を、ぼんやりと見つめているのです。
　黒ネズミたちはみんなだまりこくっていました。なんの望みもなくしているようすが、ありありと見えます。そして、たぶん、じぶんたちの命もこの城もあぶないことを知っているのでしょう。二羽のフクロウは大きな目をグルグルやりながら、しょっちゅうまゆをピクピク動かしていました。そして、ぞっとするような声で、灰色ネズミのざんこくなことを話しあっていました。なにしろ、あいつたちは卵やヒナドリまでも許してはおかないということだから、どこかへ、ひっこさなくちゃなるまい、というのです。ネコはネコで、灰色ネズミがそんなにたくさんお城に押し入ってくれば、きっとじぶんもかみ殺されるだろう、と思いこんでいます。それで、黒ネズミにむかって、ひっきりなしに文句を言っています。
「どうしてきみらはそんなにバカなんだい？　きみらの勇士をよそへやっちゃうなんて！　なんだってまた、灰色ネズミに気をゆるしたんだい？　まったくかんべんならん！」
　けれども、十二ひきの黒ネズミは、なんとも言いません。コウノトリもこまりきってはいましたが、ちょいとネコをからかってみたくなりました。
「あんまり心配しなさんなよ、ネコくん！」と、コウノトリは言いました。「きみは、アッカおばさんとオヤユビくんがお城を救いに来てくれたのを知らないのかい？　きっとうまくやってくれること、まちがいっこなしさ。さて、ぼくは眠るとしよう、ぐっすりとね。あした、目がさめたときには、もうお城には灰色ネズミは一ぴきもいやしないさ。」
　コウノトリが巣のはしに立って、片足をあげて眠ろうとしたとき、ニールスはコウノトリを突き落してやってくれと、アッカに目くばせしました。けれども、アッカはすこしも怒っていないようすで、ニールスをなだめて、言いました。
「わたしぐらい年とってるものが、これっぱかしの災難でまいってたまるもんですか。あんたがたフクロウさんは、夜どおし起きていられるんですから、ちょっと二つほど用事を頼まれてくれませんか。そうすれば、なにもかもうまくゆくと思いますがね。」
　二羽のフクロウは、すぐに喜んで承知しました。そこで、アッカは、フクロウのだんなさんには、旅に出かけた黒ネズミたちをさがしだして、一刻も早く帰ってくるようにつたえてくれと、たのみました。いっぽう、フクロウのおくさんには、ルンド寺院に住んでいるフランメアというフクロウのところへいってもらうことにしました。しかし、この用事はひじょうに秘密を守らなければならないものでしたから、アッカはフクロウのおくさんの耳もとに、このことをそっとささやきました。

ネズミつかい

　真夜中ごろのことでした。灰色ネズミたちは、あちこちさがしまわったすえに、とうとう地下室に通じている穴を見つけたのです。それは壁のかなり上のほうについていました。けれども、ネズミたちは一ぴきずつ上へ上へと重なって、そこまでよじのぼりました。やがて、中でもいちばん勇敢なネズミが一ぴき、その穴の中にとびこんで、いまにもグリンミンゲ城の中へ突入しようとしました。ここでは、むかしから灰色ネズミの先祖たちが、ずいぶん討死にしたものです。
　灰色ネズミ軍の勇士はしばらく穴の中にじっとして、中から攻撃されるのを待ちかまえました。防衛軍の主力がいないことはたしかですが、といって、るす部隊が戦いもしないで降参するとは考えられません。おどる心をおさえながら、勇士はほんのかすかな音も聞きのがすまいと、耳をすましました。しかし、あたりはシーンとしています。そこで、まっさきかける灰色ネズミは、勇気をふるいおこして、ひえびえとした、まっくらな地下室におどりこみました。
　この勇士につづいて、灰色ネズミ軍はあとからあとから突進しました。みんなはじっと息をころして、黒ネズミ軍の伏兵があらわれてくるのを、待ちうけていました。でも、そのうちに、身動きすることもできないほど、いっぱいになってしまいました。そこで、思いきって、またまた前進することにしました。
　灰色ネズミたちは、いままでこのお城の中にはいったことはありませんでしたが、わけなく進路を見つけだしました。黒ネズミたちが一階にいくのに使っていた壁の中の通路を、すぐに発見したのです。しかし、このせまい急な階段をよじのぼるまえに、またもやあたりに気をくばりました。灰色ネズミたちにとっては、外で戦うときよりも、こうして黒ネズミたちがどこにかくれているかわからない今のほうが、ずっと気味わるく思われました。ですから、ぶじに一階までいけたときには、じぶんたちの幸運がまるで信じられないほどでした。
　一階に足をふみ入れると同時に、床の上に高く積んであった穀物のにおいが、プーンとにおってきました。けれども、いまはまだこの戦利品を楽しんでいるときではありません。それよりもまず、用心をしながら、うすぐらい、からっぽの部屋を、つぎからつぎへとしらべてまわりました。古い台所の床のまんなかにあったかまどの上にもとびあがってみました。つぎの部屋では、もうすこしで井戸の中にころげ落ちそうになりました。小さな割れ目も、一つ一つしらべてみました。しかし、どこへいっても黒ネズミたちの姿は見えません。
　こうして、一階を全部占領してしまいますと、こんどは二階のばんです。灰色ネズミ軍はまたもや壁の中に、骨をおって危険な進軍をつづけました。そのあいだも、敵がいつあらわれるかと、ビクビクしながら、たえず息をころして待っていました。そして、穀物のすばらしいにおいにさそわれそうになっても、がまんにがまんをして、規則ただしく進軍しました。むかしの兵士たちの部屋や、石づくりのテーブルや、炉や、窓の深くくぼんだところや、床の穴などをしらべてまわりました。この床の穴は、むかし攻め入ってきた敵兵の頭に、煮立ったチャンをかけるのに使ったものでした。
　けれども、黒ネズミの姿はどこにも見えません。そこで、灰色ネズミ軍は、ご城主の大きな宴会場のあった三階へと押し進みました。そこは、さむざむとして、がらんとしていました。古い家にはこうした部屋がよくあるものです。灰色ネズミ軍は、こんどはいちばん上の四階に突き進みました。四階は大きな、だだっぴろい広間になっていました。こうして、のこるところなくさがしまわりましたが、灰色ネズミたちが思いもつかず、つい、さがし忘れたところが一つだけありました。それは、屋根の上の大きなコウノトリの巣です。そこでは、ちょうどこのころ、フクロウのおくさんがもどってきて、アッカをゆり起こしていました。そして、フクロウのフランメアがアッカの頼みをきいてくれて、アッカのほしい物をわたしてくれた、と言いました。
　さて、灰色ネズミたちは、お城の中を気がすむまでさがしましたので、すっかり安心しました。黒ネズミたちは手むかいするつもりはなく、みんなどこかへ逃げてしまったものと思ったのです。そこで、気もはればれとして、いよいよ穀物の山にとびつきました。
　ところが、灰色ネズミたちが小麦を一つぶのみこんだかのみこまないうちに、中庭のほうから、鋭い笛の音が、かすかにひびいてきました。と、ネズミたちは頭をあげて、気になるようすで、耳をすましました。そして、まるで穀物のところを離れようとでもするように、二あし三あしチョロチョロと走りだしました。けれど、すぐまたかけもどってきて、小麦のつぶをたべはじめました。
　と、またもや笛の音が、鋭くしみ入るような調子でひびいてきました。と、どうでしょう。ふしぎ、ふしぎ、一ぴき、二ひき、いいえ、すべてのネズミが、穀物の山からとびおりると、いちばんの近道をとって、お城の外へ出ようと、いっさんに地下室めがけてかけおりていくではありませんか。それでも、なかには思いとどまるネズミもずいぶんありました。このネズミたちは、あれほど苦労してグリンミンゲ城を占領したことを思いますと、そうやすやすとお城をすててしまうことができなかったのです。けれど、もう一ど笛の音を耳にしますと、たまらなくなって、みんなのあとを追いかけました。おおいそぎで穀物の山からとびおりて、壁の中のせまい穴を、夢中になって、ころがるようにかけぬけていきました。
　見れば、中庭のまんなかに、ちっぽけな小人が立っていて、笛を吹いています。そのまわりをたくさんのネズミがとりまいて、笛の音にうっとりと聞きほれています。チビさんがほんのちょっと笛を吹くのをやめますと、たちまちネズミたちは、ちびさんにおどりかかって、いまにもかみ殺しそうになります。でも、すぐまた吹きはじめますと、ネズミたちは、またもや、うっとりとなってしまいます。
　こうしてチビさんは、笛の音で灰色ネズミたちをグリンミンゲ城の中からすっかりさそいだして、こんどはゆっくりと中庭から道路のほうへ歩いていきました。すると、灰色ネズミたちは一ぴきのこらず、そのあとをゾロゾロついていきます。笛の音がネズミたちの耳にあんまり気もちよく美しくひびきますので、思わずしらずついていくのでした。
　チビさんはネズミたちの先頭に立って、ヴァルビューへいく道のほうへさそいだしました。まがりくねった道を進み、生垣をぬけ、みぞを通って歩いていきます。すると、そのあとから、ネズミたちがゾロゾロついていくのです。チビさんは、一時も休まず笛を吹きつづけています。その笛は、それはそれは小さな動物の角でつくってあるようでした。でも、いまでは、こんな小さい角を生やしている動物はどこにも見あたりません。それから、この笛はだれがつくったものなのか、知っている者もありません。この笛は、フクロウのフランメアが、ルンド寺院の壁のくぼんだところで見つけたものでした。フランメアは、それを大ガラスのバタキーに見せました。そして、ふたりは、むかし人間が、ネズミを手なずけるためにつくったものにちがいない、ということにきめてしまいました。ところで、この大ガラスはアッカとは仲よしでした。それでアッカは、フランメアがこういう宝物を持っていることを、まえから大ガラスに聞いていたのでした。
　フランメアとバタキーの想像していたことは、ほんとうでした。たしかに、ネズミたちは、笛の音にすっかり心をうばわれてしまいました。ニールスは先頭に立って、お星さまが空に輝いている間じゅう、その笛を吹きつづけました。そして、ネズミたちも、休まずそのあとを追っていきました。夜があけはじめてもニールスは笛を吹いていました。お日さまがのぼるころにも吹いていました。その間じゅう、ネズミたちのむれは、ニールスのあとからついていき、ネズミたちは、グリンミンゲ城の大きな穀物部屋から、だんだん遠くへ遠くへと、つれだされていきました。

５　ツルの大舞踏会

三月二十九日　水曜日
　スコーネには、りっぱなお城がたくさんそびえたっています。けれども、むかしから名高いクッラベルイの山壁にくらべられるような、すばらしい城壁を持っているものは一つもありません。
　クッラベルイは高い大きな山ではありません。低くて、むしろ長くのびています。広いいただきには、森も畑もあります。またあちこちには、ヒースの生えているところもあります。ここはとにかく美しくもなければ、人目をひくわけでもありません。見たところは、スコーネのほかの高地とまったく同じです。
　山の峰づたいの道をやってきた人は、思わずしらずこう言います。
「この山は、うわさほどじゃないな。これといって見るところもないじゃないか。」
　けれども、その道からそれて、山のふちのほうへ歩いていき、そこからがけを見おろしますと、景色のいいところがたくさんあって、すっかり見つくしてしまうのに、どのくらい時間がかかるか、わからないほどです。
　なぜかといえば、クッラベルイは、ほかの山のように、まわりを平地や谷にかこまれているのではなく、海の中へぐっと突きでているのです。山のすそには、荒らい海の波をふせいでくれるような陸地は、これっぱかしもありません。海の波は、山壁にまで押しよせて、それを洗いながし、すきなように形をかえてしまうのです。
　こういうわけで、山壁は、海とその友だちの風のために、まったくすばらしい飾りをつけてもらっているのです。山腹には深くほりこまれたけわしい谷があります。たえず風に吹きさらされて、つやのでた黒い岩も見えます。水の面からまっすぐに突きでてる岩の柱もあちこちにありますし、入口のせまい、暗い洞窟も見えます。
　このようながけや岩には、いちめんに雑草が生えていて、つるや木の枝がまつわりついています。つまり、そこには木も生えてはいるのですが、風の力がとても強いため、まるでつる草のようになって、やっとこのけわしい絶壁にしがみついているのです。カシワの木は横にのびて地面を這っています。その葉は、低い天井のように木の上におおいかぶさっています。せの低いブナの木は、大きな葉のテントのように、谷間に立っています。
　目の前にひろびろとした青い海がひろがり、頭の上には澄みきったあかるい空をいただいている、このすばらしい山壁には、夏の間じゅう、まいにち、見物の人びとがひっきりなしにたずねてきます。また、ここには、まい年、たくさんの動物たちが集まって、大運動会をひらきます。しかし、この土地がどうしてそんなに動物たちの心をひきつけるのか、ちょっとそれは説明できません。けれども、とにかくこれは大むかしからの習慣なのです。
　運動会がおこなわれるときには、シカやウサギやキツネをはじめ、ありとあらゆる四足のケモノが、人間に見つからないように、まえの晩のうちに、そっとクッラベルイへやってきます。そして、お日さまののぼるまえに、みんなは運動会場へはいります。もっとも、運動会場というのは、道の左手にある、ヒースの生えた荒地のことです。そこは山のいちばんはずれからそんなに遠くはありません。
　運動会場は四方をまるい丘にかこまれています。ですから、人間がぐうぜんここまで迷いこんでこないかぎり、動物たちはだれにも見つからないのです。それに、三月といえば、まず、ここまではいってくるような人はありません。秋の嵐が吹いていらい、ここ数カ月、岩のあたりを歩きまわったり、山腹をよじのぼったりする見物人の姿は、ぱったりと見えなくなっているのです。それにまた、この岬の燈台守や、山の畑のおばあさんや、お百姓さんや、その家族の人たちは、いつも歩きなれている道ばかりをいきますから、こんなさびしい荒野にまで入りこんでくるようなことはありません。
　さて、ケモノたちは会場につきますと、さっそく、まるい丘の上にそれぞれ場所を占めました。同じ種類のものどうしがいっしょにかたまっています。でも、もちろんこういう日には、よく平和が守られていて、どんな動物もほかの動物におそわれる心配はありません。ですから、この日には、小さなウサギがキツネたちのいる丘をぶらついても、長い耳をなくすというようなこともないわけです。それでも、動物たちは同じ仲間のものだけで、ひとかたまりになっています。これまた、むかしからの習慣なのです。
　みんなは席につきますと、鳥たちはどこにいるかと見まわしました。ところで、この日はいつもお天気がいいのです。というのは、ツルは天気予報がたいへんじょうずでしたから。もしも雨がふりそうだと思えば、動物たちを呼び集めはしないでしょう。ところが、きょうは空も澄みきって、遠くまで見わたせるというのに、鳥の姿はどこにも見えません。まったくおかしなことです。お日さまはもう空高くのぼっています。きっと、鳥たちはもうここへ向かっているのでしょう。
　見れば、平野の向こうから、小さな黒い雲がいくつか、ゆっくりと動いてきます。と、その雲の一つが、急にエーレ海峡の岸にそって、クッラベルイのほうへ向かってきます。雲は運動場のま上まできたとき、とまりました。と、同時に、その雲ぜんたいが、さえずりはじめました。まるで、その雲は、鳴き声でできているようです。高くあがったり低くなったり、そのあいだもひっきりなしに鳴きつづけています。とうとう、その雲ぜんたいが、とつぜん一つの丘におりました。と、みるみるうちに、その丘は、灰色のヒバリや、美しい赤みをおびた灰色のウソや、まだらのあるムクドリや、緑をおびた黄色いヤマガラですっかりいっぱいになってしまいました。
　すぐまた、もう一つの雲が平野のむこうからやってきました。それはいろんなところに——百姓家や、お城や、町や、農場や、停車場や、漁村や、精糖工場などの上空にとまりました。そして、とまるたびに、地上からまいあがるほこりの柱のようなものを吸い入れました。こうして、その雲はだんだん大きくなりました。そしてさいごに、すっかりぜんぶをひき入れて、クッラベルイに向かったときには、もうこれは雲ではなくて、霧のようになっていました。しかも、その霧がこの上もなく大きいので、ヘーガネースからメルレまでのあいだの地面を、その影ですっかりおおいかくしてしまったほどでした。それが運動場の上に来たときには、お日さまも見えなくなってしまいました。そして、お日さまがもう一どぼんやりと見えるようになったのは、一つの丘の上にしばらくのあいだ、スズメの雨がふってからのことでした。
　けれども、こういう鳥雲の中でいちばん大きなのが、いまあらわれてきました。それは、あっちこっちから飛んできて、いっしょになった鳥のむれでできているのです。その雲は、暗い青みをおびた灰色で、お日さまの光も通しません。まるで嵐の雲のように、うすきみわるく近づいてきます。そして、ものすごい音や、恐ろしいさけび声や、ぞっとするような笑い声や、不吉な鳴き声にみちみちています。とうとうこの雲が、たくさんのカラス族となって、羽ばたき、鳴きさけびながら、雨のようにふりそそいできました。それを見て、運動場にいた動物たちは大よろこびでした。
　それから、空には雲の形をしたものばかりでなく、いろんな形をしたものもあらわれてきました。東と北東のほうには、まっすぐな点々の線が見えてきました。それはイエーインゲ地方の林に住む鳥でした。エゾヤマドリやエゾマツドリが、二メートルずつあいだをおいて、長い列をつくって飛んできたのです。いままた、ファルステルブーの沖のモークレッペン島のあたりに住んでいる水鳥たちが、三角やら、長い曲線やら、クサビ型やら、半円やら、さまざまの妙な形をして飛んできました。
　そして、ニールス・ホルゲルッソンが、ガンたちといっしょに旅をしてまわった年にも、動物大会がおこなわれました。このときには、アッカとそのむれとは、みんなよりもおくれて着きました。むりもありません。アッカがクッラベルイまでくるのには、スコーネじゅうを飛びこえてこなければならなかったからです。それに、アッカは目をさますと同時に、まずオヤユビくんをさがしに出かけたのです。そのオヤユビくんは、もう何時間も前に出かけていって、笛を吹きながら、灰色ネズミたちをグリンミンゲ城からずっと遠くまでさそいだしていたのです。いっぽう、フクロウのだんなさんは、お日さまがのぼればすぐに、黒ネズミたちが帰ってくるという知らせを持って帰ってきました。ですから、もう笛を吹くのをやめて、灰色ネズミたちがどこへいこうとかってにさせておいても、すこしも危険はないわけです。
　ところが、ニールスが灰色ネズミたちの長い列を従えて歩いているところを見つけたのは、アッカではなく、それはコウノトリのエルメンリークくんでした。エルメンリークもニールスをさがしに出かけていたのです。そして、ニールスの姿を見つけると、すばやく舞いおりて、くちばしでニールスをくわえるが早いか、すぐまた舞いあがりました。そして、コウノトリの巣につれもどって、ゆうべはほんとに失礼しました、とあやまりました。
　こう言われて、ニールスは、とてもうれしくなりました。それから、ニールスとコウノトリは、すっかり仲よしになりました。アッカもニールスに、たいへんやさしくしました。そして、年とった頭をニールスの腕になんどもなんどもこすりつけて、こまっている者をよく助けてくれたと言って、ほめました。
　でも、ニールスはそんなにほめられたくはありません。それで、「ううん、アッカおばさん。ぼくが黒ネズミたちを助けようとして、灰色ネズミをさそいだしたなんて思っちゃいけませんよ。ぼくはただ、ぼくだって、なにかの役にたつってことを、エルメンリークくんに見せたかっただけなんですよ。」
　ニールスがこう言いおわると、アッカはすぐにコウノトリのほうをむいて、オヤユビくんをクッラベルイにいっしょにつれていったらどうだろう、とききました。そして、「オヤユビくんは、わたしたちの仲間と同じように信頼できると思いますがね。」と、言いました。
　するとコウノトリは、たちどころに、ニールスをいっしょにつれていくように、熱心にすすめました。
「アッカおばさん、オヤユビくんも、ぜひクッラベルイにつれていってやってください。」と、コウノトリは言いました。「オヤユビくんが、ゆうべぼくたちのために骨をおってくれたお礼をする、またとない機会ですよ。それに、ぼくは、ゆうべオヤユビくんに失礼なことをしたのが残念でたまりませんから、こんどはひとつ、会場まで、オヤユビくんをせなかにのせていってやりましょう。」
　こんなりこうで役にたつものたちからほめられることぐらい、うれしいことは、そうたくさんはないものです。ニールスは、ガンとコウノトリが、こんなふうにじぶんのことを話しているいまほど、うれしいと思ったことは、一どもありませんでした。
　こうして、ニールスはコウノトリのせなかにのって、クッラベルイへ向かいました。これはたいへんな名誉であるとは思いましたが、ひどく心配にもなりました。というのは、エルメンリークくんはすばらしい飛行家で、ガンなどとはくらべものにならないほど、ものすごい早さで飛ぶからです。アッカはたえず羽ばたきながら、まっすぐに飛んでいくのに、コウノトリはいろんな芸当をやっては喜んでいるのです。ときには、ぐうんと高くあがったかとおもうと、じいっととまって、はねも動かさずに空中をただよいます。また、ときには、石みたいに、地上に落っこちるかとおもわれるほどの早さで、さっと舞いおります。そうかとおもうと、つむじ風のように、大きな輪や小さな輪をえがいて、ゆかいそうにアッカのまわりをグルグルと飛びまわります。ニールスはいままでにこんな飛びかたをしたことがありませんでした。それで、その間じゅうビクビクしていました。けれども、すばらしい飛びかたというものが、いまはじめてわかったような気がしました。
　クッラベルイに着くまで、一どしか休みませんでした。休んだのは、ヴォンブ湖に来たとき、アッカが仲間のものたちに、灰色ネズミに勝ったと知らせたときでした。それから、みんなはいっしょになって、クッラベルイをさしてまっすぐに飛んでいきました。
　やがて、みんなはガンたちの場所にきめられている丘の上におりました。さてそこで、ニールスがあたりの丘を見まわしますと、ある丘にはシカの角が見え、またある丘には灰色のアオサギのトサカが見えました。ある丘はキツネで赤くなっており、またある丘は海の鳥で黒く白く、またべつの丘はネズミで灰色になっていました。それから、ある丘には、ひっきりなしに鳴きさけんでいる黒いカラスがむらがっていました。またある丘には、じっとしていられないで、空に飛びあがっては、喜びの歌をうたっているヒバリがいっぱいいました。
　クッラベルイ大運動会のいつもの習慣として、この日のプログラムは、まずカラスの飛行ダンスからはじまりました。カラスたちは二組にわかれて、たがいに両方から飛んでいって、ぶっつかっては、またもどる、そして、それをくりかえす、これがカラスのダンスです。カラスたちはこれをなんどもなんどもくりかえしました。このダンスになれていないものには、すこし変化がなさすぎるように思われます。ところが、カラスはじぶんたちのダンスが大得意です。見ているほかの動物たちは、このダンスが終わったときには、ほっとしました。つまり、このダンスは、冬の強い風が一ひら一ひらの雪をもてあそぶのに似ていますが、なんとなく陰気くさくて、おもしろみがありません。見ているほうがまいってしまいました。それでみんなは、もうすこしゆかいなものを見たいと思いました。
　けれど、待つまでもありませんでした。というのは、カラスのダンスが終わると、まもなくウサギたちがピョンピョンととびだしてきたからです。ウサギたちはながながと列をつくって出てきました。しかし、とくにきまりがあるわけではありません。一ぴきだけのもあれば、三びき四ひきならんでいるのもあります。みんなあと足で立っていました。そして、とても早く走るので、長い耳がユラユラしました。ウサギたちは走りながら、ぐるぐるまわりをしたり、高く跳ねあがったり、前足で、ポンポンとわき腹をたたいたりしました。つづけざまにとんぼがえりを打つものもあれば、からだをまるめて、車の輪のようにころがるものもあります。そうかとおもうと、一本足で立って、グルグルまわるものもあれば、前足で歩くものもあります。こういうふうに、ちっともきまりはありませんが、たいへんおもしろいので、見ているたいていの動物たちは、ハッハッと息をしはじめました。いまはもう春です。やがて、喜びと楽しみとにみちあふれるのです。冬はすぎさりました。夏はもう近いのです。まもなく、生きていくのに、ただ遊んでいるだけでよくなるのです！
　ウサギの遊戯が終わりますと、こんどは大きな林の鳥のばんです。赤いまゆをした、輝くばかりに黒い美しい姿のエゾマツドリたちが、運動場のまんなかに立っている大きなカシワの木をめがけて、何百羽も飛びあがりました。いちばん上の枝にとまった一羽がはね毛をふくらませて、つばさをさげ、尾を持ちあげて、白い中のはねを見せました。それから、首をのばして、太いのどの奥から低い声で、「チェック、チェック、チェック、」と、二、三ど歌いました。それから、目をとじて、「シス、シス、シス、——なんて美しい声なんでしょう！——シス、シス、シス、」と、ささやきました。そして、こう言うと同時に、すっかり夢中になって、何がなんだかわからなくなってしまいました。
　いちばん上のエゾマツドリが、シス、シス、シスとやっているあいだに、すぐその下にいる三羽がいっしょになって歌いだしました。そして、みんなが歌いおわらないうちに、こんどは、そのまた下にいる十羽が、声をそろえて歌いはじめました。こうして、枝から枝へとつたわって、とうとう、いく百というエゾマツドリが、チェック、チェック、チェック、シス、シス、シス、と歌いだしました。そして、みんなは歌っているうちに、われを忘れてしまいました。すると、それがほかの動物たちにも、うつっていきました。いままでは、からだの中を血が気もちよく軽くまわっていましたが、いまははげしく熱く流れはじめました。「うん、たしかに春だ。」と、動物たちはみんな思いました。「冬の寒さはもうなくなってしまった。春のほのおが地上にもえているんだ。」
　エゾヤマドリたちは、こうしてエゾマツドリがみごとに成功したのを見ますと、じっとしてはいられなくなりました。ところが、もうとまる木は一本もありません。そこで、エゾヤマドリたちは運動場にバラバラととびだしました。けれども、そこはヒースがたいそう高く茂っているため、エゾヤマドリの美しくまがった尾ばねと太いくちばしとがつきでて見えるばかりでした。そこでみんなは、「オル、オル、オル、」と歌いはじめました。
　こうして、エゾヤマドリがエゾマツドリと歌合戦をしているとき、思いがけないことが起こりました。動物たちはみんなエゾマツドリのほうに気をとられていました。そのあいだに、一ぴきのキツネがガンのいる丘にそっと忍びよったのです。キツネは足音をしのばせて、だれにも気づかれないうちに、丘まで来てしまいました。と、だしぬけに、一羽のガンがキツネの姿を見つけました。そして、キツネがよくない目的でやって来たのを見てとって、たちまち大声でさけびたてました。「ガンの諸君、気をつけたまえ、気をつけたまえ！」とたんに、キツネはそのガンののどもとに食いつきました。きっと、だまらせようというのでしょう。しかし、そのときにはもう、ガンたちはさけび声を聞きつけて、いっせいに空に飛びあがってしまいました。ガンたちが飛びたったあとを見ますと、キツネのズルスケが死んだガンをくわえて、ガンの丘に立っていました。
　しかし、キツネのズルスケは、こうして運動会の日の平和をみだしたのですから、重い罰を受けることになりました。つまり、ズルスケは復讐心をおさえることができないで、アッカとそのむれに、こんなふうにして近づこうとしたことを、これから一生のあいだ、後悔しなければならないのです。
　たちまち、ズルスケはキツネのむれに取りかこまれてしまいました。そして、むかしからの習慣に従って裁判をうけました。大運動会の日に平和をみだしたものは、追放されるのです。どのキツネも、刑を軽くしてやってくれとは言いません。そこで、だれからの反対もなく、追放の刑が言いわたされました。こうして、ズルスケはスコーネに住むことを禁じられました。妻や子どもとも別れて、いままで持っていた猟場や、住居や、隠れ場から立ちのくように言われました。いよいよ、よその国で幸福をさがさなければなりません。おまけに、ズルスケがこの地方から追いだされたことが、スコーネじゅうのキツネたちに一目でわかるように、いちばん年上のキツネが、ズルスケの右の耳のはしをかみ切ってしまいました。これがすみますと、たちまち若いキツネたちは、血にくるったようにほえたてて、ズルスケめがけて突進しました。こうなっては、逃げるよりほかありません。わかいキツネたちみんなに追いかけられて、ズルスケは、クッラベルイからいちもくさんに逃げていきました。
　こんなできごとがもちあがっているあいだも、エゾヤマドリとエゾマツドリは歌合戦をつづけていました。みんなはあんまり夢中になって歌っていたものですから、何も耳にもはいらなければ、目にもうつりませんでした。ですから、もちろん、このさわぎのためにじゃまされるようなこともありませんでした。
　林の鳥たちの歌合戦が終わりますと、ヘッケベリヤのシカたちが出てきて、すもうを見せるばんになりました。あっちでもこっちでも、一どにいく組ものすもうがはじまりました。シカたちは、もうれつにぶっつかっては、角と角とがからまるほどに、はげしく角を打ちあって、相手を押しもどそうとします。ヒースの茂みは、ひずめにふみにじられました。シカの口からは、ハアハアと煙のように息がはきだされます。のどの奥では、ものすごいうなり声をあげています。汗があわのようになって、肩から流れ落ちています。
　このすもうのうまいシカたちがつかみあっているあいだ、まわりの丘の動物たちは、息をころして見まもっていました。こうして、見ているうちに、みんなの胸の中には新しい気もちがわいてきました。だれもが、勇気にみちて、強くなったように感じ、春のおとずれといっしょに、もう一ど力がわいてきたように感じました。そして、いまはどんな冒険でもやってみようという気になりました。たがいに敵意をいだいたわけではありませんが、おもわずしらず、はねがあがり、くびの毛が立ち、爪が鋭くなりました。ですから、もしもヘッケベリヤのシカたちが、もうすこしすもうをつづけていたとしたら、丘の上でもはげしい争いがはじまったかもしれません。というのは、みんながみんな、冬のあいだの弱々しさは消えてしまって、からだじゅうに力があふれ、元気いっぱいになったことを、見せたくてたまらなくなったからです。
　しかし、ちょうどそのとき、シカたちはすもうをやめました。とたんに、「ツルが来た、ツルが来た！」というささやきが、丘から丘へとつたわっていきました。
　見れば、頭に赤毛の飾りをつけ、つばさに美しいはね毛のある、灰色の黒っぽい姿をした鳥が、飛んできます。足の長い、首のほっそりとした、頭の小さいその鳥は、いかにも優しく丘にすべりおりてきました。そして、なかば飛び、なかば踊りながら、ぐるぐるまわって、進みでてきました。はねを上品にあげて、目にもとまらない早さで動いています。その踊りには、まことにふしぎな、ひとの心をうっとりとさせるようなものがあります。まるで、ひとの目では、はっきりと見ることのできない灰色の影が、踊っているのではないかと思われます。その踊りは、人里はなれた沼の上にただよう霧から教わってきたのではないかと思われます。そこには、この世のものではないふしぎな力が宿っています。これまでクッラベルイに来たことのないものは、この運動会ぜんたいがどうして「ツルの舞踏会」と呼ばれているかが、いまはじめてわかりました。ツルの踊りには、なにか、あらあらしいところがありましたが、それでいて、それがひとの心に呼びおこす気もちは、やさしいあこがれなのです。だれももう争うことは考えなくなりました。いまは、はねのあるものもはねのないものも、みんながみんな、空高く雲の上までのぼって、そこには何があるかを見たいと思いました。自分たちを地上にひきとめておく、この重くるしいからだをすてて、遠いむこうの世界へとただよっていきたいと思うのでした。
　遠いむこうの世界、いくことのできない、ふしぎな世界へのあこがれを、動物たちがいだくのは、年にただ一どだけでした。しかもそれは、このすばらしいツルの踊りをながめる、ただこの日一日だけでした。

６　雨の日に

　旅にでてから、はじめての雨の日でした。ガンたちがヴォンブ湖のあたりにいたあいだは、お天気がよかったのですが、北に向かって旅だった日に、雨がふりだしました。そのため、ニールスはびしょぬれになって、寒さにふるえながら、ガチョウのせなかにのっていました。
　朝、みんなが出かけたころには、まだ晴れていて、おだやかなお天気でした。ガンたちは空高く舞いあがると、アッカを先頭に、規則ただしく、ゆうゆうと、くさび型になって飛んでいきました。地上に動物たちを見かけても、からかっているひまはありません。それでも、だまってばかりはいられないので、羽ばたきに調子をあわせて、いつものように、「きみはどこだい？　ぼくはここだよ！　きみはどこだい？　ぼくはここだよ！」と、さそいかけるように、ひっきりなしにさけんでいました。
　みんなはこうさけびつづけていましたが、ときどき鳴くのをやめては、下に見える土地の名まえをガチョウに教えてやりました。こんどの旅では、リンデレード山脈の荒れはてた山肌や、オーヴェスホルム荘園や、クリスチャンスタッドの教会の塔や、ベッカ森の王家の領地や、オップマンナ湖とヴェー湖のあいだのせまい岬や、リユース山のけわしいがけの上を飛びました。
　ほんとうに、あきあきするような旅でした。ですから、雨雲があらわれてきたときには、ニールスは、かえって変わったことがあっていいだろうと思いました。いままで、下からだけ見たときには、雨雲は灰色でうっとうしいものに思われました。それが、いまこうして雲のあいだに来てみますと、まるでちがったふうに見えました。雲は、ちょうど荷物を山のようにつんで空を走っている、大きな馬車のようです。そして、ある車は、大きな灰色の袋をつんでいます。ある車はたるをいっぱいつんでいます。また、ほかの車は、とても大きくて、一つの湖ぜんたいをのっけることができるくらいです。そうしてまた、ある車は桶やびんをものすごく高くつみあげています。こうして、空をうずめつくすほどのたくさんの馬車が走っていったあとから、だれかがその馬車に向かって合図でもしたのでしょうか。みるみる桶やたるやびんや袋から、水が地上にザアザアと落ちはじめました。
　春の雨がはじめて地上にふってきますと、森や草原にいる小鳥たちは、大よろこびでさえずりはじめました。そしてその声が、空じゅうにひびきわたりましたので、ニールスは、ガチョウのせなかでびっくりして跳ねあがりました。
「ああ、雨がふってきた。雨は、ぼくたちに春をつれてきてくれる。春は、花と青い葉っぱをくれる。花と青い葉っぱは虫をくれる。虫はたべものをくれる。いいたべものがたくさんあるのは、一ばんすてきだ！」と、小鳥たちは歌いました。
　ガンたちも、長い冬のあいだ眠っていた、木や草たちの目をさましてやり、湖の上の氷に穴をあける春の雨がうれしかったのです。そこでもう、まじめくさってはいられなくなって、あたりいちめんに楽しいさけび声をあげはじめました。
　クリスチャンスタッドのあたりの大きなジャガイモ畑——まだ黒ぐろと、地肌を見せていました——の上を飛んだとき、ガンたちはさけびました。
「さあ、目をさまして、働くんだよ！　おまえたちの目をさます春はもう来ているんだよ。おまえたちは、もう、じゅうぶん長いことなまけていたんだから。」
　ガンたちは、人間がいそいで軒下にかけこむのを見ますと、こう教えてやりました。
「あんたたちはどうしてそんなにあわてているの？　雨は、パンやお菓子じゃないの。それがわからないの？」
　大きなモクモクした雲が、ガンのむれのあとを追っかけて、北のほうへズンズン動いていきます。ガンは、じぶんたちがその雲をひっぱっているのだと思いこんでいるのでしょう。なぜなら、下のほうに大きな果樹園が見えたとき、いかにも自慢そうにこうさけびました。
「ぼくらはアネモネといっしょに来たよ。バラといっしょに来たよ。リンゴの花といっしょに来たよ。サクラのつぼみといっしょに来たよ。エンドウや、ソラマメや、カブや、タマナの花といっしょに来たよ。ほしい者には、あげよう。ほしい者には、あげよう。」
　はじめてのにわか雨がふりしきっているあいだ、ガンたちはこうさけんでいました。あらゆるものがこの雨を喜んでいました。けれども、この雨は、午後のあいだもずっとふりつづいていましたので、ガンたちはいらいらしてきました。そして、ヴェー湖のまわりの、からからにかわいている森に向かってさけびました。
「きみたちはもっと、ふれっていうのかい？　きみたちはもっと、ふれっていうのかい？」
　空はますます灰色になってきました。お日さまはすっかり姿をかくしてしまって、どこにあるのかもわかりません。雨はだんだんひどくなって、ガンたちのはねをはげしく打ちます。だんだん、油をぬった外のはね毛のあいだから、皮膚にまでしみこんできました。地上は霧につつまれて、湖も山も森もぼんやりかすんでいます。どこを飛んでいるのか、けんとうもつきません。飛ぶ速さも、だんだんおそくなってきました。もう、だれも楽しそうなさけび声をたてようとはしません。ニールスはだんだん寒くなってきました。
　でも、空を飛んでいるあいだは、元気がありました。そして、午後おそく、大きな沼地のまんなかに生えている小さなマツの木の下におりたときにも、まだ元気をなくしてはいませんでした。おりたところは、いちめんに、ぐしゃぐしゃしていて、つめたく、ある丘は雪をかぶり、またある丘は氷がとけかかった水たまりの中に、はだかで立っていました。ニールスはそのあたりをかけまわって、ツルコケモモや凍ったコケモモをさがしました。そのうちに、夕方になりました。くらやみがあたりをつつんで、何も見えなくなりました。すると、何もかもが妙にきみわるく、恐ろしく見えてきました。ニールスはガチョウのはねの下にもぐりこみましたが、寒いのと、からだじゅうがびしょぬれなのとで、眠ることができませんでした。おまけに、あたりにはサラサラ、ガサガサと、だれかがそっと歩くような足音や、おびやかすような声が聞こえますので、恐ろしくてたまりません。もし、このままで、こごえ死にたくなかったら、どこかあたたかい火とあかるい光のあるところへいかなければなりません。
「こんや一晩だけ、人間のところへいったらどうだろう？」と、ニールスは思いました。「そうして、ちょっとのあいだ火のそばにすわらせてもらって、たべものをほんのすこしもらうんだ。そうしたって、お日さまののぼるまえに、ガンたちのところへ帰ってこられるだろう。」
　ニールスは、はねの下から這いだして、地面にすべりおりました。ガチョウもガンたちも、目をさましませんでした。それから、ニールスは、足音をしのばせて、だれにも気づかれずに、沼地をとおっていきました。
　それにしても、ここはいったいどこなのでしょう？　スコーネでしょうか、スモーランドでしょうか、それともブレーキンゲでしょうか。
　さっき、沼地におりるまえに、大きな町がチラッと見えました。そこで、ニールスはそっちのほうへ歩いていきました。すると、すぐに道が見つかりました。そして、まもなく、並木のある長い村道にでました。その両がわには、農家がいくつもいくつもならんでいます。
　ニールスはある大きな村にでました。高い土地にはよくありますが、平地ではめったに見られない村です。
　家々は木造でしたが、たいへんきれいに建ててありました。たいていの家には飾りのついた破風があり、色ガラスのはまっているヴェランダも見えました。壁はあかるいペンキでぬってありました。戸や窓わくは青や緑にかがやいていました。また赤くかがやいているのも見えました。ニールスがそのあたりを歩きまわって、家々をながめていますと、あたたかい部屋の中から人々の話し声が聞こえてきました。話していることはわかりませんでしたが、人間の声を聞くのは、たまらなくなつかしく思われました。「ぼくが戸をたたいて、中へ入れてくださいと言ったら、みんなはなんて言うだろう？」と、ニールスは考えました。
　もちろん、ニールスはそうしようと思ってやってきたのです。こうして、いまあかるい窓を見ていますと、くらやみをこわがる気もちはなくなってしまいました。でも、そのかわり、人間のそばに近づくとき、いつも感じるあのこわいような気もちが、またまた、起こってくるのでした。「中へ入れてもらって、たべものをくださいって言うまえに、もうすこしこの村を見ておこう。」と、ニールスは思いました。
　とある家の前をとおりかかったとき、露台の戸が開いて、黄色い光が、すきとおった軽いカーテンをとおして流れでてきました。そして、ひとりの美しい若い女のひとが出てきて、手すりによりかかりました。「雨だわ。もうすぐ春ね。」と、そのひとは言いました。ニールスはそのひとの姿を見たとき、なんともいえないふしぎな気もちになりました。なんだか泣きたいような気がしてきました。じぶんは、人間の世界からすっかり遠くはなれてしまっているのです。ニールスは、いまはじめて心ぼそくなりました。
　それからまもなく、ある店の前に来ました。店の前には、赤い種まき機械がおいてありました。ニールスは立ちどまって、それをながめていましたが、とうとうその上にはいあがりました。運転台にすわって、舌打ちをしながら、それを動かすようなかっこうをしました。そして心の中では、こんなすばらしい機械で畑がのりまわせたら、すてきなんだがなあ、と思いました。
　ニールスは、ちょっとのあいだ、いまのじぶんを忘れていました。けれど、すぐまた思いだして、いそいで機械からとびおりました。そうすると、不安な気もちはますますつのってきました。じっさい、動物のあいだにくらしてみたあとでは、人間というものは、まったくふしぎで、りこうなものでした。
　そのうちに、郵便局のそばをとおりかかりました。すると、世界じゅうの新しいできごとをまいにち知らせてくれる新聞のことを思いだしました。薬屋さんとお医者さんの家を見たときには、人間は病気や死と戦うことができるほど、大きな力を持っていることを思ってみました。それから、教会の前に来ました。すると、人間が、いま住んでいる世界とはちがった世界のことについて、神さまとか復活とか永遠のいのちとかいうことについて、教えを聞くために、こんな教会をたてたのだということを思ってみました。
　こうして、先へいけばいくほど、人間がすきになってきました。
　子どもというものは、すぐ目の前のことしか考えません。そして、一ばん近くにあるものをほしがって、そのためにどんなことになるか考えもしないのです。このニールス・ホルゲルッソンが小人のままでいたいと願ったときにも、じぶんが、どんなにたいせつなものを、なくすことになるか、わからなかったのです。でも、いまでは、もとのちゃんとした人間の姿にもどれないのではないかということが、心配で心配でたまらなくなりました。
　だけど、人間にもどるのには、いったいどうしたらいいのでしょう？　ニールスはそれを知りたくてたまりませんでした。
　ニールスは、ある家の段々に這いあがって、ふりしきる雨の中に腰をおろして、物思いにふけりました。一時間も、二時間もすわりこんで、考えていました。ひたいにしわをよせて。でも、ちっともいい考えは浮かんできません。ただいろんな考えが、頭の中でグルグルまわっているような気がします。そして、そこにすわりこんでいればいるほど、ますます、どうしていいかわからなくなりました。
「ぼくみたいに、すこししか勉強しなかったものには、むずかしすぎるんだ。」ニールスはとうとう、こうきめました。「とにかく、人間にならなけりゃならない。そのためには、牧師さんとか、お医者さんとか、先生とか、そのほか、学問があって、こういうことの治しかたを知っている人にきかなくちゃだめだ。」
　ニールスはすぐにそうしようと決心しました。そして、立ちあがって、ブルッとからだを振りました。だって、からだじゅう水たまりにはいった犬のように、びしょぬれになっていたのですから。
　ちょうどそのとき、大きなフクロウが一羽飛んできて、道ばたの木にとまりました。それを見ると、すぐに、この家の蛇腹にとまっていた森のフクロウが話しかけました。
「チーヴィット、チーヴィット、沼フクロウさん、お帰りですか？　外国はいかがでした？」
「ありがとう、森フクロウさん、たいへん楽しかったですよ。」と、沼フクロウは言いました。「ところで、わたしのるすちゅうに、何か変わったことがありましたか？」
「このブレーキンゲでは、なんにもありませんでした、沼フクロウさん。でも、スコーネでは、とってもめずらしいことがあったんですって。ひとりの男の子が、小リスぐらいしかない小人にされてしまいましてね、それからは、ガチョウにのって、ラプランドへ旅をしにいったという話ですよ。」
「そりゃ、めずらしいニュースですね、ほんとにめずらしいニュースですね。その子はもう人間にはなれないでしょう？　森フクロウさん。ねえ、もう人間にはなれないでしょう？」
「これはほんとうは秘密なんですがね、沼フクロウさん、でも、あなたのことですから、お話しするんですよ。小人が言うのには、もしその子がガチョウのせわをよくしてやって、ガチョウが、ぶじに帰れれば————」
「で、それから？　森フクロウさん、そして、それからどうなんです？」
「あたしといっしょに教会の塔までいらっしゃいな。そしたら、すっかりお話ししてあげますよ。ここだと、下の道でだれか聞いているかもしれませんもの。」
　それから、二羽のフクロウは飛んでいきました。でも、ニールスはうれしくなって、帽子を空にほうりあげました。
「ガチョウがぶじに家に帰れるように、ぼくがよくせわをしてやりさえすれば、また人間になれるんだ。ばんざい！　ばんざい！　また人間になれるんだ！」
　ニールスは、ばんざい！　ばんざい！　とさけびましたが、ふしぎにも家の中の人たちには聞こえませんでした。ニールスはできるだけいそいで、ぬれた沼地にいるガンのむれのところへもどってゆきました。

７　三つの段々

　つぎの日に、ガンのむれは、スモーランドのアルブー地方をとおって、北へ旅行しようと思いました。そこで、そのまえに、仲間のユクシとカクシをやって、その地方のようすを見させました。ふたりは帰ってくると、水はすっかり凍っていて、地面も見わたすかぎり雪でおおわれていると知らせました。
「それじゃ、ここにいるほうがいい。」と、ガンたちは言いました。「水もたべものもないところなんか飛んでゆけやしない。」
「もしここにいるとすれば、一月も待たなくちゃならないだろうよ。」と、アッカは言いました。「だから、ブレーキンゲをとおって、東へ進むほうがいいと思うね。そうして、メーレ地方をとおってスモーランドへいけるかどうか、見きわめるほうがいいだろう。メーレ地方は海岸近くにあって、早く春になるからね。」
　こういうわけで、ニールスはあくる日、ブレーキンゲの上を飛びました。いまはすっかりあかるくなっていましたので、ニールスの気もちもはればれとしていました。そして、ゆうべのことなんか、まるで忘れてしまいました。もちろんいまは、ラプランドへの旅と、のびのびした野外の生活をやめようとは思いませんでした。
　ブレーキンゲのあたりには、こい霧がたちこめていました。そのため、下のようすはすこしもわかりませんでした。「ここはよい土地なんだろうか？　それとも、よくない土地なんだろうか？」と、ニールスは思いました。そして、学校で習ったことを、一生けんめい思いだそうとしました。でも、勉強をちゃんとしたことがないのですから、思いだせるはずがありません。
　そのとき、急に、学校が、目の前にありありと見えてきました。ほかの生徒たちは小さなイスに腰かけて、みんな手をあげています。先生は教壇にすわって、不満そうな顔をしています。ニールスは地図の前に立って、ブレーキンゲについて先生からきかれたことに答えなければならないのです。でも、ひとことも言うことができません。先生の顔はだんだんくもってきました。先生はほかの学科よりも、地理のことをやかましく言うようです。そのとき、先生は教壇からおりてきて、ニールスの手から棒を取りあげると、ニールスを席にかえしました。「こいつはまずいぞ。」と、ニールスは心の中で思いました。
　しかし、先生は窓のそばへ歩みよって、しばらく外をながめていました。そうして、きげんのいいときのいつものくせで、そっと口笛を吹きはじめました。それからまた、教壇にもどって、ブレーキンゲについてみんなにすこし話してやりたいことがあると言いました。
　そして、先生は話しだしました。それはたいへんおもしろい話でしたので、このときばかりはニールスもよく聞いていました。それで、先生の言ったひとこと、ひとことまでが思いだせるのでした。
「スモーランドは、屋根にエゾマツの生えている高い家のようなものです。この家の前には広い階段があって、それには三つの段々がついています。この階段にあたるところをブレーキンゲと言っているのです。
　この階段はたいそうよくできています。それはスモーランド家の前面にそって、八マイルほどのびています。そして、この階段をとおってバルト海までいこうとする人は、四マイルばかり歩かなければなりません。
　この階段がつくられたのは、ずいぶん、むかしのことです。そして、スモーランドとバルト海とのあいだに、便利な道をひらくため、この階段がたいらに、なめらかにされてからも、長い年月がたっているのです。
　階段はこんなに古いのですから、いまではそれが新しかったときのように見えなくても、すこしもふしぎではありません。わたしは、そのころの人たちが、この階段のことにどのくらい気をつかっていたかは知りませんが、とにかくこんなに大きくては、それをきれいにしておくことはできなかったのです。ですから、二年ばかりたちますと、そこにはコケ類が生えてきました。秋には枯れ葉や枯れ草が落ちかかり、春にはくずれ落ちた石やじゃりがたまりました。そうして、こういうものがみんなそこにそのままになっていましたから、しまいには階段の上に土がたくさんたまってしまいました。そして、草ばかりでなく、やがては大きなやぶや木々までも根を生やすようになりました。
　けれども、それといっしょに、三つの段々のあいだには大きなちがいができてしまいました。スモーランド家のすぐ近くにある、いちばん上の段は、だいぶぶんが、やせた土地で、小石がいちめんにちらばっています。そこに育つ木といえば、わずかに、シラカバやカンバやエゾマツぐらいのものです。こういう木は、高い土地の寒さにもたえ、わずかの土地でもがまんできるのです。そこがどんなに貧弱で、やせた土地であるかは、森のあいだに切りひらかれている畑がごくすくなく、そこに立っている家もひどくちっぽけで、教会と教会とのあいだもずいぶんはなれているのを見れば、よくわかります。
　けれど、まんなかの段になりますと、さっきよりは土地もよくなって、寒さもそれほどではなくなります。それは、一ばん上の段よりも、高くて質のいい木々が生えているところからも、すぐにわかります。そこには、カエデや、カシワや、ボダイジュや、シダレカバや、ハシバミなどが生えています。しかし、針葉樹はありません。さらに畑地がたくさんあるのと、大きな美しい家々がたっているのが目につきます。それから、ここには教会もたくさんありますし、そのまわりには大きな村もあります。どこから見ても、いちばん上の段よりは、美しくていいようです。
　でも、なんといっても、いちばんいいのは、いちばん下の段です。そこは、ゆたかなよい土地にめぐまれていて、海につづいているところなどでは、スモーランドほど寒くはありません。ここにはブナの木や、クリの木や、クルミの木が生えています。しかも、教会の屋根よりも高くおい茂っているのです。それから、たいへん大きな穀物畑も見られます。けれども、人々はただ畑をたがやしたり、材木を売ったりして暮らしているばかりでなく、漁業や商業や、海運業もやっています。ですから、ここには、すばらしい邸や、りっぱな教会もあります。そして、大きな村や町も見うけられます。
　しかし、三つの段々についての話は、これでおしまいになったのではありません。というのは、この大きなスモーランド家の屋根に雨がふったり、そこにつもっている雪がとけたりするようなときには、水はどこかへ流れてゆかねばならないということも、考えてみなければならないからです。そういうときには、もちろん、たくさんの水がこの階段の上に流れおちたわけです。さいしょは、たぶん、階段じゅうを流れていたものでしょう。そのうちに、そこに割れ目ができました。そうして、だんだんにうまくみぞをつくって、その中を流れるようになりました。そして、水はなんといってもやっぱり水です。いっときも休んではおりません。あるところでは穴を掘って、消えてゆきますし、また、あるところではもっとたくさんにふえます。やがてみぞは谷になって、谷の壁には土がいっぱいかぶさります。それから、そこには、小さい木や、つる草や木々が生えてきて、やがてそれがこんもりと茂って、ついには下を流れる水の流れをかくすばかりになってしまいます。けれども、流れが段と段との間のところにきますと、とうとうと流れ落ちます。そのため、あわ立つ激流になるので、水車やいろんな機械を動かす力をもつようになるのです。こうして、水車小屋や工場はどの滝のまわりにもつくられたのです。
　けれども、三つの段々のある土地の話は、これですっかり終わったわけではありません。もう一つ言っておきたいことがあります。むかし、この大きなスモーランド家には、年とったひとりの巨人が住んでいました。巨人はたいそう年をとっていたので、わざわざ高い階段をおりて、海までサケをとりにいかなければならないのが、ひどくめんどうでした。それで、じぶんの住んでいるところまで、サケがのぼってきてくれれば、たいへんありがたいと思いました。
　そこで、その大きな家の屋根にのぼって、大きな石をバルト海めがけていくつも投げました。力いっぱい投げましたので、石はぐんぐん飛んで、ブレーキンゲをこえて、海の中へ落っこちました。サケのほうでは、石が落ちてきたのにびっくりして、海からとびだし、ブレーキンゲのほうへ逃げていきました。そして、急流をさかのぼり、滝をとびこえて、ひと休みもせずに、年とった巨人のいるスモーランドまでのぼっていきました。
　この話がみんなほんとうだということは、ブレーキンゲの海岸にそって見えるたくさんの島や大きな岩を見れば、よくわかります。その島や岩は、巨人が投げたたくさんの大きな石にまちがいないのですからね。
　それにまた、じっさい、サケは、たえずブレーキンゲの流れをさかのぼり、滝をとびこえ、静かな流れを泳いで、スモーランドまでやってくるのです。
　ですから、この巨人は、ブレーキンゲの人たちから大いに感謝され、尊敬されてもいいわけです。なぜなら、この流れでサケをとり、島々から石を切りだすことが、むかしからいままで、ずっと、この地方の人々が生きるためのしごとになっているのですから。

８　ロンネビュー川

四月一日　土曜日
　キツネのズルスケにしてもガンたちにしても、おたがいにスコーネをはなれてから、また出会うことがあろうとは、夢にも思っていませんでした。ところが、ガンたちがブレーキンゲに向かって飛んでいきますと、ぐうぜん、ズルスケもそこへいっていました。
　いままで、ズルスケはこの地方の北部にいましたが、りっぱな荘園も、うまいえもののいっぱいいる猟場も見つからないので、すっかり、きげんをわるくしていました。
　ある日の午後、ズルスケがロンネビュー川からあまり遠くない、さびしい森の中をうろついていますと、ガンのむれが空を飛んでいるのが見えました。見ると、中に一羽白いのがまじっています。ズルスケは、ハハア、あいつたちだな、と思いました。
　そこで、ズルスケはすぐさまガン狩りをはじめました。うまいごちそうにありつけるという楽しみもありますが、もう一つには、いままでさんざんやっつけられたその怨みをはらそうというのです。見ていると、ガンたちは東に向かって、ロンネビュー川のほうへ飛んできました。そして、そこでむきをかえて、川にそって南のほうへ飛んでいきました。ガンたちは川岸に寝場所をさがしているのです。このようすだと、わけなく二、三羽ぐらいつかまえられるでしょう。
　ズルスケは、やっとガンたちのいるところをさがしあてましたが、そこは安全この上もない場所で、とうてい近よることができません。
　ロンネビュー川は大きな流れではありませんが、川岸が美しいことで有名です。ときには、水の中からまっすぐに突き立っている、けわしい絶壁のあいだをはげしく流れていきます。そのあたりには、スイカズラや、サンザシや、ハンノキや、ナナカマドや、ヤナギがいちめんに生えています。美しい夏の日に、この小さなうすぐらい川に船を浮べて、ごつごつした山壁にすがりついている緑をながめるのは、まことに気もちのよいものです。
　けれども、ガンやズルスケがこの川のところにやってきたときは、まだうすら寒い風の吹く、春の早いころでした。木という木はみんな、はだかでした。ですから、おそらくいまでは、この川岸が美しいだろうかどうだろう、などと思って見る人はないでしょう。
　ガンたちは、運よく、けわしい絶壁の下に、みんながいられるくらいの砂地を見つけました。前には川がゴウゴウと流れています。雪がとけるいまごろは、水がふえて、すさまじい勢いで流れているのです。うしろには、とてもとおることのできない岸壁があって、その上には木の枝がおおいかぶさっています。これ以上のかくれ場所はありません。
　ガンたちはすぐに寝つきましたが、ニールスはちっとも眠ることができません。お日さまが沈みますと、くらやみと荒地のおそろしさにたまらなくなって、人間がこいしくなってきました。ニールスはガチョウのはねの下にもぐりこんでいるのですから、何ひとつ見えません。ただ、物音がすこし聞こえるばかりです。これでは、ガチョウの身になにかわざわいがふりかかっても、とうてい助けてやれそうもありません。ガサガサいう音が、あっちからもこっちからも聞こえてきます。ニールスはすっかりきみわるくなって、とうとうはねの下から這いだしました。そして、ガチョウのそばにすわりました。
　ズルスケは山の頂きに立って、ガンたちを見おろしました。
「いまのうちに、追いかけるのはあきらめたほうがいいかな。」と、ズルスケはひとりごとを言いました。「おれには、あんなけわしい山をおりることもできないし、あんなはげしい流れを泳ぐこともできない。それに、山の下には、ガンのねているところへいけそうな道はありゃしない。まったく、りこうなやつらだ。骨おって、追っかけるのは、もうやめだ。」
　けれども、ズルスケも、ほかのキツネと同じことで、一どやろうと考えた事を、とちゅうであきらめることはなかなかできませんでした。そこで、山のはずれにすわりこんで、ガンからいっときも目をはなしませんでした。こうして、ガンを見はっていますと、いままでガンたちから、さんざんひどい目にあわされたことが思いだされてくるのでした。そうだ、おれがスコーネを追われて、こんなブレーキンゲに逃げてこなければならなくなったのも、あいつらのおかげだ。なにしろ、いままで、荘園もガチョウもえもののいっぱいいる猟場も、何一つ見つからないんだからなあ。このおれがあいつらの肉を食うことができないんなら、せめてあいつらがくたばってしまえばいい。キツネはこう思うほど、むちゅうになってきました。
　ズルスケの怒りがここまで高まったとき、すぐそばの大きなマツの木でキイキイいう声がしました。見れば、一ぴきのリスが、テンに追いまくられて、木からとびおりてきたのです。リスもテンも、キツネのいるのには気がつきませんでした。キツネはじっとして、木のあいだでおこなわれているこの狩りを見物していました。リスは、まるで飛ぶように、かるがると枝から枝へにげまわっています。テンのほうは、リスほど木のぼりがじょうずではありませんが、それでも、森の道を歩くときのように、枝をのぼったりおりたりしています。
「あいつらの半分ぐらいでも木のぼりができさえしたら、」と、キツネは思いました。「あそこのやつらを寝かしちゃおかないんだがなあ！」
　まもなく狩りがおわって、リスがつかまえられますと、ズルスケはさっそくテンのところへ歩いていきました。けれども、テンのえものをとるつもりはないというしるしに、二足ばかりあいだをおいて立ちどまりました。そして、いかにもしたしそうにテンにおじぎをして、みごとな腕まえをほめました。それから、キツネりゅうに、うまいことばをならべたてました。ところがテンは、ほとんど返事もしません。ほっそりとしたからだ、美しい頭、やわらかな毛並、うす茶色のくびすじのしま、見たところでは、まるでかわいらしい美人のようですが、これでいて、じつは、ものすごい森の生き物なのです。
「あなたほどの狩人が、リスなんかをつかまえて満足していらっしゃるなんて、まことにおどろきいりましたな。」と、ズルスケはつづけて言いました。「すぐ近くに、ずっといいえものがいるというのに。」ここでちょっとことばをきって、返事を待ちました。しかし、テンはひとことも言わずに、ずうずうしくニヤッと笑っただけでした。そこで、ズルスケはつづけて言いました。「あなたがあそこの岸壁の下にいるガンどもをごらんにならないなんてはずがあるでしょうかねえ？　それとも、あなたはあそこまでおりていらっしゃれないんですかい？」
　こんどは、答えを待つまでもありませんでした。テンはせなかをまるくし、毛をさかだてて、ズルスケにおどりかかりました。
「ナニッ、ガンを見たって？」と、テンはうなって言いました。「そいつらは、どこにいるんだ？　さっさと言え。さもないと、きさまののどくびを食いきるぞ。」
「オイ、オイ、おれがおまえの二倍もあるってことをわすれるなよ。ちっとていねいにたのむぜ。おれはおまえに何もたのんじゃいないんだからな。ただガンを見せてやっただけのことよ。」と、たちまち、テンはがけをおりはじめました。
　ズルスケはそこにすわりこんで、テンがヘビのようにからだをくねらせて、枝から枝へと渡っていくのを見ていました。そして、こんなことを思っていました。「あの美しい木のぼりじょうずの狩人くらい、ひどい、やつはない。きっと、もうすぐガンのやつらをやっつけるだろう。」
　そして、ガンたちの死にぎわのさけび声がいまにも聞こえるかと待っていました。ところがどうでしょう。テンが川の中へころげ落ちて、しぶきがさっと高くあがったではありませんか。そしてすぐに、強い羽ばたきの音が聞こえて、ガンがみんな大いそぎで飛びあがりました。
　ズルスケは、すぐにガンのあとを追いかけようとしましたが、どうしてガンが助かったのか知りたくなりました。それで、テンがあがってくるまで、そのまま待っていました。見れば、あわれにもテンはびしょぬれです。そして、ときどき立ちどまっては、前足で頭をこすっています。
「オイ、ばかやろう、どうせ川にでも落っこちるだろうと思ってたぜ。」キツネは鼻で笑いながら言いました。
「おれは、ばかじゃないぞ。へんなことを言うな。」と、テンは言いかえしました。「おれは、あのいちばん下の枝にすわって、どうやってガンのやつらを殺してくれようかと考えていたんだ。すると、リスぐらいの大きさしかないちっぽけな小僧が、急に飛びだしてきて、力いっぱいおれの頭に石をぶっつけたんだ。それで、おれは水の中にころげ落ちて、這いだすひまもないうちに————」
　テンはこれ以上言う必要はありませんでした。もう聞きてが、いないのです。ズルスケはガンのあとを追って、もうそのときには、ずっとむこうへいっていたのでした。
　いっぽう、アッカは、新しい寝場所をさがしに南へ飛んでいきました。まだうすあかるいし、それに、半月が空高くかかっていましたので、すこしはものを見ることができました。さいわい、アッカはこのあたりのことをよく知っていました。というのは、春にバルト海を飛びこえてくるとき、風のためにこのブレーキンゲまで吹き流されてきたこともたびたびあったからです。
　アッカは、お月さまの光に照らされている山々のあいだを、黒くきらめくヘビのようにうねっている川にそって、飛んでいきました。こうして、ユパフォルスまできました。そこでは川が地下の穴にもぐって、それから、ガラスでできているのかと思われるほど、清らかな澄みきった流れとなります。そして、せまい谷間に落ちこみ、底の岩にあたって、しぶきをあげて飛びちっています。滝の下の、水がものすごく渦を巻いてあわをたてているところに、岩が二つ三つ突きでています。アッカはここに舞いおりました。ここもすてきな休み場所です。ことに、こんなにおそくなっては、だれもくる人はありません。でも、夕方だったら、ガンたちはここにとまることはできなかったでしょう。なぜって、ユパフォルスは荒地にあるのではありませんから。かたほうの岸には大きな製紙工場があり、木々のおい茂った、けわしいもうかたほうの岸には、ユパダール公園があります。ひるまだと、この公園のつるつるしたけわしい小路を、大ぜいの人たちが、しょっちゅう散歩しては、谷間を流れるはげしい流れをながめるのです。
　ここも、さっきの場所と同じことでした。ガンたちは、美しい有名な場所に来たなどとはすこしも考えませんでした。それどころか、はげしく渦をまいている流れのまんなかの、すべりやすい、ぬれた岩の上に立って眠るのは、きみわるくておそろしいことだと思っていたのでした。水のためにいつ押し流されるかわかりません。でも、ケモノたちにおそわれたくなければ、ここでがまんしなければなりません。
　ガンたちはすぐに寝つきましたが、ニールスはどうしても眠ることができません。そこで、みんなのそばにすわって、ガチョウの番をすることにしました。
　しばらくすると、ズルスケが川岸をかけてきました。そしてすぐに、あわ立つ急流のまんなかの岩の上に、ガンたちが立っているのを見つけました。これでは、こんどもまた近づくことができないのです。でも、どうしてもあきらめることができません。それで、そのまま岸にすわりこんで、じっとガンたちをながめていました。ズルスケはひどくなさけなくなりました。狩人としての名声が、すっかりだめになってしまったような気がしました。
　とつぜん、一ぴきのカワウソが魚をくわえて川から這いだしてきました。ズルスケはカワウソのほうへ近づいていきましたが、そのえものをとるつもりはないということを見せるために、二足ばかりはなれて立ちどまりました。
「あの岩にガンがいっぱいいるっていうのに、魚をつかまえてうれしがっているなんて、きみは、まったくりこう者だよ。」と、ズルスケは言いました。けれども、このときは気がいらいらしていましたから、いつものように、うまいことばを考えるひまがありませんでした。
　カワウソは、川のほうをふりむきもしません。「ぼくたちは、はじめて出会ったんじゃないぜ、ズルくん。」と、カワウソは言いました。このカワウソも、ほかのカワウソと同じように宿なしもので、ヴォンブ湖でもたびたび魚をとっていたのでした。そこで、ズルスケとも出会ったことがあるのです。「きみがぼくからマスをだましてとろうとしたとのきことを、ぼくは忘れちゃいないぜ。」
「ああ、きみかい、欲ばりくん。」
　このカワウソが泳ぎの名人であるとわかりますと、ズルスケはよろこんで言いました。
「じゃあ、きみがガンに目もくれないのも、ふしぎはないな。きみにはあそこまでいけやしないんだからねえ。」
　けれども、カワウソとしては、足の指のあいだに水かきをもっているばかりか、カイのようにすばらしい、かたいしっぽと、水のとおらない皮膚をもっているのですから、あの渦まいている流れをわたることができないと言われては、だまっているわけにはいきません。流れのほうをふりむいて、ガンの姿を一目見るなり、魚をほうり投げ、けわしい岸からとびおりて、流れの中へおどりこみました。
　いまは春もだいぶ深まっていましたから、ナイチンゲールたちも、きっと、ユパダール公園にもどっていたことでしょう。そうとすれば、この欲ばりくんと急流との戦いを、いく晩もいく晩も、うたいつづけることでしょう。
　むりもありません。カワウソはいくども水に押しもどされたり、深みへ引きずりこまれたりしましたが、一生けんめい浮かびあがっては、大きな岩をめがけて泳いでいきました。とうとう、岩のうしろの静かな水のところに泳ぎつきました。そして、そっと岩に這いあがって、だんだんガンたちに近づいていきました。まったく、あぶないしごとです。たしかに、これでは、ナイチンゲールにうたわれるだけのねうちがありましょう。
　ズルスケは、一生けんめいカワウソの姿を見まもっていました。カワウソはだんだんガンたちに近づいていって、いまにもガンの上におどりかかろうとしています。と、そのとたんに、とつぜんカワウソがものすごいさけび声をあげました。と、思うまもなく、カワウソは水の中にころげ落ちて、めくらの小ネコのように押し流されました。すると、すぐそのあとから、ガンたちがはげしく羽ばたいて、いっせいに空に舞いあがり、ふたたび寝場所をさがして飛んでいきました。
　まもなく、カワウソは岸にあがってきました。けれど、ひとことも口をきかないで、かたほうの前足をなめはじめました。しかし、ズルスケが、このしくじりをバカにして笑いますと、怒ってどなりつけました。
「おれの泳ぎかたがへただったせいじゃないぞ、ズルスケ。おれはガンのところまでいって、もうすこしでガンにとびかかろうとしたんだ。ところがそのとき、ちっぽけな小僧がとびだしてきて、とがった鉄みたいなもので、おれの足をつきさしやがった。あんまり痛かったんで、おもわず足をすべらして、川の中へ落っこっちまったんだ。」
　カワウソはそれ以上言う必要はありませんでした。ズルスケはガンのあとを追っかけて、もうずっと遠くへいってしまっていたのでした。
　こうして、またもや、アッカとガンたちは夜の旅をしなければならなくなりました。さいわい、お月さまが出ていましたから、その光のおかげで、このあたりにまえから知っている寝場所をさがすことができました。キラキラ光っている川にそって、ふたたび南のほうへ飛んでいきました。ユパダールの荘園の上や、ロンネビュー町のくらい屋根の上や、白い滝の上をこえて、すこしも休まずに、ぐんぐん飛んでいきました。ところで、この町からすこし南のほうにあたって、海からあまり遠くないところに、ロンネビューの温泉場があります。そこには温泉や温泉宿や春のお客のためのホテルや別荘などもあります。こうしたすべてのものが、冬の間じゅう、だれもいないために、ほったらかされています。このことを、どの鳥もよく知っていて、嵐の吹きすさぶ季節には、たくさんの鳥がこの大きな家々の縁がわや露台をかくれ場にするのでした。
　ガンたちは、ここの、ある露台におりました。そして、いつものように、すぐに眠りました。けれども、ニールスは、こんやはもうガチョウのはねの下にもぐりこむ気にはなれませんでした。はねの下にはいってしまったら、何も見えなくなって、ただ物音がかすかに聞こえるだけになってしまいます。それでは、とうていガチョウを守ってやることができません。いまのニールスにとっては、じぶんのことよりも、ガチョウのことを考えてやるのがいちばん、だいじなのです。
　ニールスのいる露台は、南にむいていましたから、海がよく見えました。ニールスは眠れませんでしたので、このブレーキンゲで、海と陸とがいっしょになってつくりだしている美しい景色をながめていました。
　いったい、海と陸とは、いろいろな出会いかたをするものです。
　まず海のほうから考えてみましょう。海は何ひとつなく、はてしなくひろがっています。そして、くりかえしくりかえし灰色の波をうねらせています。陸のほうへ近づくときには、小さな島に出会います。すると、すぐにその上に水を打ちつけて、あらゆる緑をひきむしり、じぶんと同じように、裸に灰色にしてしまいます。どの島も、まるで強盗の手にかかったように、裸にされ、はぎとられてしまいます。ところが、だんだんすすむうちに、小さな島がたくさんになってきます。陸がじぶんのかわいい子どもたちをよこして、海の心をなだめようとしているのがよくわかります。それで、海も、進むにつれて、だんだんやさしくなってきます。波もさっきまでのように高くはなくなり、嵐もしずまります。割れ目や裂け目に生えている緑の草木もそのままにしておいて、じぶんは小さな瀬戸や入江になってしまいます。
　こんどは、陸のほうを考えてみましょう。陸はどこも変わりがなく、ほとんど同じようです。陸は、たいらな穀物畑か、長くのびている森つづきの山々からできています。その穀物畑のあいだには、カバの木々にかこまれた牧場があちこちに見えます。陸は、まるで穀物と、カブと、ジャガイモと、エゾマツと、マツのことしか考えていないようです。それから、入江が陸の中まで深くくいこんでいます。しかし、陸はそんなことはべつに気にもとめないで、ふつうの湖と同じように、カバとハンノキでそのふちをかざってやります。
　こういうことは、夏でないと、よく見えないのですが、それでもニールスは、自然はなんておだやかでやさしいんだろうと思いました。そして、まえよりも、ずっと心がおちついてきました。と、とつぜん、鋭くきみのわるいうなり声が聞こえてきました。立ちあがって見ますと、露台の下の芝地に、一ぴきのキツネが、銀色のお月さまの光をあびて、立っていました。もちろん、ズルスケです。またも、ガンたちのあとを追ってきたのでした。けれども、ガンたちが寝ているところを見ますと、とうてい近づくことができないとさとりました。それで、あまりのくやしさに、おもわずうなってしまったのでした。
　ズルスケがうなったので、アッカは目をさましました。ほとんど何も見えませんが、その声でズルスケとわかりました。
「ズルさんかい？　こんやもおでかけかね？」と、アッカはたずねました。
「うん、おれだよ。」と、ズルスケは答えました。「ところで、どうだね、こんやのおれのやりくちは？」
「テンやカワウソをけしかけたのは、あんただって言うのかい？」と、アッカがききました。
「こんどは、おれのばんだからな。」と、ズルスケは言いました。「このあいだ、おまえたちはおれにいたずらをしやがったから、こんどはおれがおまえたちにいたずらをはじめたのさ。おまえたちが一羽でも生きているうちは、やめやしないぜ。たとえ、国じゅう追っかけたってよ。」
「ズルさん、歯と爪という武器をもっているあんたが、何もふせぐもののないわれわれを、こんなふうに追いまわすっていうのは、いったい正しいことだろうかねえ？　ちっとは考えてみるんだね。」と、アッカは言いました。
　ズルスケは、アッカがこわがっているものと思いこみました。そこで、さっそく言いました。
「アッカさん、おまえさんが、たびたびおれのじゃまをしやがる、あのオヤユビ小僧を、投げてよこせば、おまえさんたちと仲なおりするぜ。そしてもう、おまえさんたちのあとを追っかけたりしないよ。」
「オヤユビくんはやれないねえ。」と、アッカは言いました。「わたしたちのなかには、若いものでも、年よりでも、オヤユビくんのために喜んでいのちを投げださないようなものはないんだよ。」
「きさまたちが、そんなにあいつをすきだというなら、」と、ズルスケはどなりました。「まず、あいつからやっつけて、怨みをはらしてくれるぞ、おぼえてろ。」
　アッカはもう何も言いませんでした。ズルスケはまた二、三どうなりました。それから、あたりはひっそりとしました。ニールスはずっと目がさめていました。いまアッカがキツネに言ったことばが頭にこびりついていて、眠れません。いままで、じぶんのためにいのちを捨ててくれるものがあろうとは、夢にも思ったことがありませんでした。ニールスは露台の手すりからたくさんの島々をながめながら、楽しい思いにふけっていました。

９　カールスクローナ市

四月二日　日曜日
　ここはカールスクローナです。お月さまのかがやいている、静かな美しい夕方でした。でも、ついさっきまでは、はげしい吹きぶりでした。人びとは、まだお天気がよくなっていないと思っているにちがいありません。だって、通りには、人っ子ひとり見えませんから。
　この市がこんなにひっそりしているとき、ガンのアッカとその仲間とは、ヴェンメンヘーイやパンタルホルムをこえて、カールスクローナへやってきました。ガンたちは、島の上に安全な寝場所を見つけようとして、夕方おそくまで飛んでいたのでした。陸には、どこにも休むことができませんでした。というのは、どこへおりても、キツネのズルスケにじゃまされてばかりいたからです。
　ニールスが高い空から海と島とを見おろしたときには、なにもかもがひどくきみわるく、まるで幽霊のように見えました。空はもう青くはなくて、緑のガラスの丸ぶたのように、頭の上におおいかぶさっていました。海はミルク色で、目のとどくかぎり、小さな白い波をうねらせ、銀色にきらめくさざなみをたてていました。なにもかも白い中に、いろんな形をした島があっちこっちに黒ぐろと突きでていました。大きいものも、小さいものも、草原のようにたいらなものも、岩だらけのものも、みんな同じように黒く見えました。それどころか、人の住居も教会も風車も、ふだんなら白か赤かに見えるのに、いまは緑の空に向かって、くっきりと黒い姿を見せています。ニールスは世の中が変わってしまって、じぶんはまるで、ちがった世界へ来てしまったような気がしました。
　ニールスは、こんやは勇気をだして、こわがらないようにしようと決心しました。ところが、そういううちにも、ぞっとするようなものが見えてきました。それは、大きなとがった岩がごつごつしている山がいちめんにある島でした。そして、その黒い岩のあいだには、金のようなものがキラキラと光っていました。ニールスは、なんだか魔法の石を見ているような気がしました。
　それにしても、島のまわりに大きな恐ろしいものが、あんなにうようよしていなかったら、それほどたいしたことはなかったでしょう。その恐ろしいものは、なんだかクジラやサメやそのほか大きな海の怪物のように見えました。けれども、ニールスはそれを海の神さまだと思いました。そして、海の神さまたちが島に住んでいる陸の神さまたちと戦おうとして、いま島のまわりに集まって、よじのぼろうとしているのだと考えてみました。ところで、その陸の神さまたちは、きっとこわがっているのでしょう。というのは、島のいちばん高いところにひとりの巨人が立って、じぶんと島とにふりかかってくるおそろしいわざわいに絶望してでもいるように、両腕を高くあげているのが、はっきりと見えたからです。
　アッカはこの島におりようとしました。それを見て、ニールスはびっくりしました。「だめだよ、だめだよ！」と、ニールスは、さけびました。「あそこへおりちゃいけない。」
　けれども、ガンたちはどんどん舞いおりました。まもなく、ニールスは、なにもかもが、ただあんなにへんなふうに見えていただけなのを知って、驚いてしまいました。大きな岩と見えたのは、人間の家ではありませんか。そして、島ぜんたいは一つの市で、金色にキラキラ光っていたところは、街燈やあかるい窓ガラスなのです。島の一ばん上に立って、両腕を高くあげていた巨人は、二つの塔のある教会でした。海の神さまや海の怪物に見えたのは、島のまわりにとまっているボートや大きな船でした。陸の近くにあるのは、たいていボートや帆船や小さな蒸汽船でしたが、海に向いているほうには軍艦が浮かんでいました。
　ところで、ここはなんという市だろう？　ニールスは、たくさんの軍艦が見えたので、だいたい、けんとうがついたような気がしました。ニールスは、いままで、船がだいすきでした。といっても、池で小さな船にのったことしかありませんでしたけれど。そしてニールスは、こんなにたくさんの軍艦がいる市は、カールスクローナにちがいないと思いました。
　ニールスのおじいさんは水夫でした。そして、生きていたときは、カールスクローナのことをまいにちのように話してくれました。造船所のこととか、カールスクローナで見たいろんなことなどを聞かしてくれたのでした。
　ニールスはすっかり安心して、家にいるような気もちになりました。そして、あんなにたびたび話に聞いていたものを、いま一つ残らず見られるのかと思いますと、とってもうれしくなりました。
　けれども、ニールスが塔や、港の入口をとざしている要塞や、たくさんの建物や、造船所などをちらっとながめたとき、アッカはひらたい教会の塔の一つに舞いおりました。
　ここは、キツネからゆくえをくらまそうと思うものにとっては安全な場所でした。ニールスは、こんやはガチョウのはねの下にもぐりこむ気になれるものかどうか、考えてみました。うん、こんやはきっとできるだろう。それに、すこし眠ったほうが、からだのためにいいだろう。造船所や船をけんぶつするのは、あしたの朝にすればいい。
　ところが、ニールスは、じぶんでもふしぎなくらい、どうしてもあしたの朝までじっと待っていることができなくなりました。五分とは眠らないうちに、はねの下からはいだして、避雷針とといをつたって、地面にすべりおりたのです。
　まもなく、ニールスは教会の前の広場にでました。そこには、まるい石がしいてありました。その上を歩くのは、なかなか骨がおれました。ちょうど、おとなの人たちが草ぼうぼうの原っぱを歩きにくいのと同じことです。
　さいわい、広場にはだれもいませんでした。ただ、高い台の上に立っている立像が見えるばかりでした。ニールスは長いあいだ、その立像をながめていました。それは、三つの角のある帽子をかぶり、長い上着をきて、半ズボンをはき、あらい靴をはいた大きな人の姿です。ニールスは、この人はだれだろうと思いました。その人は長いステッキを手に持っていて、その使いかたも知っているようです。なにしろ、大きなかぎ鼻で、みにくい口をしたその人は、おそろしいほどいかめしい顔つきをしているのですから。
「この口ながさんは、いったいここで何をしているんだろう？」と、そのうちに、ニールスは言いました。こんやぐらい、じぶんがちっぽけでつまらないものに思われたことはありません。そこで、元気をだそうとして、立像に向かってらんぼうなことばをならべたてました。それから、立像のことは考えないで、海へ出る広い通りを歩いていきました。
　けれども、まだそんなにいかないうちに、うしろのほうから足音が聞こえてきました。しき石をドシン、ドシンとふみならして、ステッキで地面を強くつきながら、広場のほうからだれかがやってくるのです。まるで、あの広場に立っていた青銅の大きな像が、歩きだしでもしたようなひびきです。
　ニールスは通りをかけだしながら、足音に耳をすましました。すると、足音のぬしは、あの青銅の人にちがいないという気もちが、だんだん強くなってきました。大地がふるえ、家々がゆれます。こんなものすごい歩きかたをするのは、あの青銅の人のほかにはありません。さっきあの人に向かって言ったことを思いだしますと、ニールスはあわてました。うしろを振りかえって、ほんとうにあの人かどうかたしかめてみる元気は、とてもありません。
「きっと、ちょっと散歩にでかけただけなんだろう。」と、ニールスは思いました。「ぼくがさっき言ったことぐらいで、腹をたてるわけはないもの。わるい気で言ったんじゃないんだから。」
　ニールスは、まっすぐ造船所へいかないで、東のほうへいく通りにいそいでまがりました。ともかくこうして、追っ手から逃げてしまいたかったのです。
　ところが、青銅の人も、すぐにこっちへまがってきたようです。ニールスはすっかりこまってしまいました。どうしたらいいのでしょう？
　市の中の戸という戸はしまっています。そこにかくれ場所を見つけるなんてことが、どうしてできましょう。ふと見ると、右手のほうの、通りからすこしはなれた木立の中に、木造の古い教会が立っていました。ためらうひまもなく、すぐさまニールスは、教会めがけてかけていきました。「あそこへいけば、だいじょうぶだろう。」と、思ったのです。
　ニールスが走っていきますと、ひとりの男がじゃり道に立って、手まねきしているのが見えました。「きっと、だれかが助けてくれようっていうんだな。」と、ニールスは思いました。そう思うと、すっかりうれしくなって、その人のほうへ夢中でかけていきました。心配のあまり、胸がドキドキしています。
　けれども、じゃり道のはずれの、低い台の上に立っている人のところまで来たとき、ニールスはびっくりしてしまいました。「この人がぼくを呼んだんじゃないはずだ。」と、ニールスは思いました。なぜって、見れば、その人は木でできているではありませんか。
　ニールスはその人の前に立って、ながめました。ずんぐりした人で、足は短く、顔は大きく赤く、髪の毛は黒くピカピカしていて、まっ黒なひげをはやしていました。頭には黒い木の帽子をかぶっていました。からだには褐色の木の上着をき、腰には黒い木の帯をしめ、大きな灰色の木の半ズボンをはいて、それに、木の靴下をはいていました。それから黒い木の靴をはいていました。この人はさいきんニスをぬってもらっていましたので、お月さまの光をうけて、キラキラと光っていました。見たところ、いかにも正直そうに見えました。で、ニールスはすぐにこの人をいい人だなと思いこんでしまいました。
　その人は、左手に木の板を持っていました。そこにはこう書いてありました。

口のきけない者ですが
　どうかお願いもうします。
わたしの帽子をおあげになって
　一銭入れてくださいませ。

　おや、おや、この人は慈善箱なのです！
　ニールスはがっかりしてしまいました。じつは心の中で、えらい人だろうと思っていたのです。でもこのとき、いつだったか、おじいさんがこの木の人の話をしてくれたのを思いだしました。おじいさんの話では、カールスクローナの子どもたちは、みんな、この木の人が大すきだということでした。どうやら、それはほんとうのようです。というのは、ニールスもこの木とわかれるのがつらく思われてきたからです。ところで、この人にはたいへん古めかしいところがありました。もう何百歳にもなっているようすです。と、同時に、いかにも頑丈で、どうどうとしていて、しかも、いきいきとしています。むかしの人たちは、みんな、こんなふうだったかもしれません。
　ニールスはこの木の人をながめているのが、たいへんおもしろかったので、追いかけてくる青銅の人のことはすっかり忘れていました。ところがそのとき、また足音が聞こえてきました。さあ、たいへん！　青銅の人も、通りから教会の境内のほうへはいってきたではありませんか。こんなところまで追いかけてきたのです！　さて、どこへ逃げたらいいでしょう？
　ちょうどこのとき、木の人はからだをかがめて、大きな、はばの広い手をさしだしました。この人はいい人としか思えませんから、すぐさまニールスは一足とびにその手の上にとびあがりました。すると木の人はニールスを帽子のところまでもちあげて、その中にいれました。
　ニールスが帽子の中にかくれて、木の人がもとのように腕をおろすといっしょに、青銅の人があらわれました。そして、木の人の前に立ちどまって、ステッキで地面をドシンとつきましたから、木の人は、台の上でグラグラッとゆれました。それから、青銅の人は、よくひびく大きな声で言いました。
「そちはだれじゃな？」
　木の人はギイギイと音をたてて、腕をあげ、帽子のふちに手をあてて、答えました。「陛下、おそれながら、ローセンブームと申すものでございます。むかしは、戦艦『勇壮』の兵曹長をいたしておりましたが、退役になりましてからは、提督教会の堂守をしておりました。そののち、木にきざまれまして、こうして、慈善箱となり、この境内に立っているのでございます。」
　ニールスは、木の人が「陛下」と言うのを聞きますと、びっくりしました。むりもありません。そうしてみると、広場に立っていたあの像は、この市をたてた人の姿をきざんだものにちがいないのです。つまり、ニールスがさっき出会ったのは、カルル十一世にちがいありません。
「じぶんのことをよくしゃべりたてるやつじゃ。」と、青銅の人は言いました。「ところで、こんや、町なかをかけまわっていた小僧を見かけなかったか？　なまいきなチビじゃ。つかまえたら、ひとつ礼儀作法を教えてくれよう。」そう言って、またもステッキで地面をドシンとつきました。ものすごく怒っているようすです。
「おそれながら、陛下、たしかにそいつを見かけました。」と、木の人は言いました。ニールスは帽子の下にかくれて、木のすきまから青銅の人を見ていたのですが、それを聞いて、心配のあまりブルブルとふるえだしました。ところが木の人はつづけて、「陛下、ここをおいでになっては、おまちがいでございます。小僧はきっと造船所へいって、あそこにかくれるつもりでございましょう。」と言いましたので、ニールスはやっと安心しました。
「そう思うのか？　ローセンブーム、では、そんな台の上に立っておらんで、わしといっしょにきて、あの小僧をさがす手つだいをしてくれ。四つの目は二つの目よりもよいものじゃ。」
　ところが、木の人は悲しそうな声で答えました。「どうかお願いでございますから、わたくしめは、ここにおらせてくださいませ。さいきん、ぬってもらったばかりでございますので、つやつやして元気そうには見えますが、じつはわたくしめは年をとっておりまして、動くこともできないのでございます。」
　青銅の人は、じぶんの言うとおりにしなければ承知しない人です。
「なんという言いぐさじゃ！　さあ、まいれ、ローセンブーム。」こう言って、ステッキをあげて、木の人の肩をポカッと打ちました。「そちは、まだ立っている気か？」
　こうして、ふたりはカールスクローナの通りを力づよくドシンドシンと歩いていきました。やがて、造船所へ通じる大きな門の前に出ました。そこには、ひとりの水兵が立って、番をしていました。けれど、青銅の人はさっさとそのそばをとおりすぎて、門をつきあけました。水兵は気がつかないような顔をしていました。
　門の中へはいりますと、木の橋でくぎられている広い大きな港が見えました。それぞれの汐留には、軍艦がはいっていました。それらは、こうして近くへきてみれば、さっき空から見たときよりも、ずっと大きくこわそうに見えました。そこで、ニールスは、「さっき海の怪物のように見えたのも、そんなにまちがっちゃいなかったんだな。」と、思いました。
「ローセンブーム、そちはどこからさがしはじめたらよいと思うか？」と、青銅の人はたずねました。
「あいつのようなものは、模型室にかくれるのが一ばんたやすうございましょう。」と、木の人は言いました。
　門から右のほうへ、港にそってのびている狭い陸地には、古い建物がならんでいます。青銅の人は、壁のひくい、四角い窓と大きな屋根のある建物のところへ歩いていきました。そして、ステッキで戸をドシンとついて、あけました。それから踏みへらされた階段をズシン、ズシンとのぼっていきました。ふたりは大きな部屋にはいりました。そこには、マストをたて、網具をそなえた小さな船がたくさんならんでいました。説明を聞かなくても、ニールスはすぐに、この船は、スウェーデン海軍のために造られた軍艦の模型であるとわかりました。
　見れば、ずいぶんいろんな種類の船があります。
　ニールスは、こういう船のあいだをつれて歩かれているうちに、びっくりしてしまいました。「すごいなあ、こんなに大きいりっぱな船が、このスウェーデンで造られたんだなあ！」
　そこにあるものをぜんぶ見てまわったので、ずいぶん時間がかかりました。青銅の人は模型を見はじめますと、ほかのことはすっかり忘れてしまいました。すみからすみまで模型を念いりにながめて、おまけに、ひとつひとつ説明をきくのでした。すると、『勇壮』号の兵曹長だったローセンブームは、知っているかぎりのことを話しました。船を造った人たちのことや、船に乗組んだ人たちのこと、それから、その人たちがどうなったかということなどを説明しました。
　ローセンブームと青銅の人は、むかしの美しい木造船が一ばん気にいりました。新しい鋼鉄の軍艦のことは、このふたりにはあまりよくわからなかったようです。
「そちは新しい軍艦のことは、何も知らんな。」と、青銅の人は言いました。「どこかべつのところへいって、ほかのものを見ようではないか。そのほうがおもしろかろう、ローセンブーム。」
　青銅の人は、ニールスをさがすことを、もう忘れていました。いっぽう、ニールスも木の帽子の中にかくれているので、安心しきっていたのでした。
　それから、ふたりは、帆をこしらえるところ、いかりを造るところ、機械場、木工場などの大きな仕事場を通っていきました。そしてまた、高い起重機や、ドックや、大きな倉庫や、兵器庫や、弾薬庫や、綱より場や、岩にあたってくだけたために使われなくなっている大きなドックなどを見ました。それから、海軍の艦船がつないである棧橋にいって、船に乗りこみ、まるで二ひきのオットセイみたいなかっこうで船をながめまわしていました。
　一ばんおしまいに、広い構内にでました。ここには、むかしの軍艦の船首像がならんでいました。ニールスはこのくらいふしぎなものを見たことがありません。なぜなら、ここにある像は、信じられないほどものすごい、ぞっとするような顔をしています。それらの像は、おそれを知らぬ、どうもうな顔つきをしていて、いかにも、ごうまんに見えます。それらはちがった時代に、ちがった人々の手によって造られたものです。ニールスはその前に立ったとき、身がちぢまるような思いがしました。
　けれども、ふたりがここへ来たとき、青銅の人が木の人に向かって言いました。
「帽子をとれ、ローセンブーム、ここにならんでいる像のために！　これはみんな祖国のために戦ったのじゃ。」
　しかし、ローセンブームも青銅の人も、なんのために出かけてきたのか、いまではすっかり忘れていました。ローセンブームは考えもせず、すぐに帽子をあげて、さけびました。
「わたくしは、この港をえらび、造船所をつくって、海軍を再建した方に向かって、こういうすべてのものをつくりだした王さまにむかって、脱帽いたします。」
「感謝するぞ、ローセンブーム、よく言ってくれた。そちはりっぱな人間じゃ、ローセンブーム。だが、そこにいるのは何者じゃ？」
　見れば、ローセンブームのはげ頭の上に、ニールス・ホルゲルッソンが立っているではありませんか。しかし、ニールスはもうこわくはありません。白いそり帽を振って、さけびました。「口ながくん、ばんざい！」
　青銅の人は、地面をステッキでドシンと打ちました。けれども、その人が何をするつもりであったかはわかりません。というのは、そのとき、お日さまがのぼってきて、それといっしょに、青銅の人も木の人も、まるで霧でできてでもいるように、消えうせてしまったからです。
　ニールスがじっと立ちつくして、そのあとをぼんやりながめていますと、ガンたちが教会の塔から舞いあがって、市の上をいったりきたりしはじめました。まもなくニールス・ホルゲルッソンの姿を見つけますと、大きな白ガチョウが矢のように舞いおりてきて、ニールスをつれていきました。
上　おわり

10　エーランド島へ

四月三日　日曜日
　あくる朝、ガンたちは、とある小さな島へ飛んでいって、たべものをひろいました。そこでみんなは、二、三羽の灰色ガンに、出あいました。灰色ガンたちは、ガンの姿を見ますと、びっくりしました。なぜなら、じぶんたちの親類にあたるガンという鳥は、陸地の上ばかりを飛ぶものだと思っていたのですからね。
　灰色ガンたちは、いろいろとたずねました。そこで、ガンたちは、キツネのズルスケに追いまわされていることを、のこらず話しました。話がおわると、アッカのように年とっていて、りこうそうに見える一羽の灰色ガンが言いました。
「ズルスケが、スコーネから追いはらわれたのは、あなたがたにとっては、とんだ災難でしたね。やっこさんは、かならず、ことばどおりにラプランドまででも、あなたがたを追いかけていくでしょう。もしも、わたしだったら、スモーランドを越えて北へむかわないで、エーランド島に廻り道をして、やっこさんを、まいちまうようにしますね。あいつの目をごまかそうと思ったら、あの島の南のはしに、二、三日とどまることですよ。あそこなら、たべものもたくさんありますし、それに、仲間もおおぜい、いますからね。あそこへいって、後悔するようなことは、まずないでしょうよ。」
　これは、たしかにもっともな忠告です。それでガンたちは、言われたとおりにすることにきめました。腹ごしらえを十分にして、さっそくエーランド島にむかって出発しました。ガンたちの中には、いままで、そこにいったことのある者はありませんでしたが、灰色ガンたちが、ていねいに道を教えてくれました。なんでも、ずんずん南に進んでいけば、やがて大きな「鳥の道」に出るということです。それはブレーキンゲの海岸にそって、ずっとのびているそうです。冬のあいだ大西洋の島々にいた、たくさんの鳥が、これからフィンランドやロシアへいこうとして、いまその道を飛んでいるのです。そして、みんなは、途中で一休みするために、きまってエーランド島へ立ちよるのだそうです。だから、エーランド島へいく道は、すぐにわかるという話でした。
　その日は、たいへんおだやかで、まるで夏の日のようにあたたかでした。ほんとうに、海の旅をするのには、申しぶんのないお天気でした。ただ、ひとつ、残念なのは、空がすっかり晴れわたっていないので、灰色のうす絹をひいたようになっていることでした。あちらこちらには、大きな霧の雲が海のおもてまでたれこめていて、眺めをさえぎっていました。
　ガンたちが小さな島々から遠く離れますと、海は鏡のようになめらかになりました。ですから、ニールスが下を見おろしたときには、まるで海がどこかへ消えてしまったのではないかと思われました。じぶんの下には、もはや世界がなくなって、まわりにあるものは、ただ霧と空ばかりです。ニールスはひどく目まいがするので、ガチョウのせなかに、しがみつきました。いまは、はじめて乗ったときよりも、ずっとこわくてしかたがありません。なんだか、ぶじに乗っていけそうもないような気がします。このあんばいでは、いまに落ちてしまうにちがいありません。
　灰色ガンたちの言っていた大きな「鳥の道」に出たときには、ますますいけなくなりました。見れば、ほんとうに、鳥のむれが、いくつもいくつも同じ方向に飛んでいます。そのむれのなかには、カモ、灰色ガン、クロトリ、ウミガラス、ウミガモ、オナガガモ、アイサガモ、カイツブリ、ミヤコドリ、ウミマツドリなどがいました。
　ニールスは、からだを乗りだして、海のあるはずの下のほうをながめました。すると、たくさんの鳥のむれが、水にうつって見えました。ところが、頭がくらくらしているので、どうしてそんなふうに見えるのか、よくわかりません。きっと、鳥たちはみんなおなかを上に向けて飛んでいるのだろうと、ニールスは思いこんでしまいました。なにしろ、いまは頭がへんになって、何が何やらさっぱりわからないものですから、それを見ても、そんなにびっくりはしませんでした。
　鳥たちはつかれきっていましたから、一刻も早く島につこうとあせっていました。さけび声をあげるものもなければ、じょうだん一つ言うものもありません。そのありさまのため、なにもかもが、この世のものとは思われませんでした。
「地球から飛びはなれているとしたら、どうだろう！」と、ニールスはひとりごとを言いました。「天へのぼっていくとしたら、どうだろう！」
　まわりには、霧と鳥のほかは何も見えません。そのうちに、天へのぼっていくということも、そんなにふしぎなことではないような気がしてきました。そして、天へいったら、どんなものが見られるだろうかと思いますと、ニールスはとっても楽しくなりました。そう思ったとたんに、めまいは、しなくなりました。そして、いま、じぶんはこの世を離れて、天へのぼっていこうとしているのだと考えて、たまらなく愉快になりました。
　そのとき、だしぬけに、ダン、ダンと鉄砲の音がしました。見ると、白い煙が二すじ立ちのぼっています。
　そのとたんに、鳥たちは、きゅうにざわめきたって、「かりゅうどだ！　かりゅうどだ！　高く飛びあがれ！　高く飛びあがれ！」と、さけびました。
　これで、ようやくニールスにも、じぶんたちは、あいかわらず海の上を飛んでいて、天上にいるのではないということが、はっきりとわかりました。海の上には、かりゅうどのおおぜい乗っている小舟がずっと並んでいて、そこからダン、ダンと鉄砲をうっているのが見えます。いちばんさきを飛んでいく鳥のむれが、それに気づいたときには、もうおそく、みるみるうちに、黒いからだがいくつか海の上に落ちていきました。生きのこった鳥たちは、落ちていく鳥のために、悲しい鳴き声をあげました。
　ニールスの心は、おそろしさと悲しさに、はりさけそうでした。むりもありません。ついさっきまで、じぶんは、天国にいるものとばかり思っていたのですからね。ガンの隊長アッカは、全速力で空高く舞いあがりました。ガンのむれも、そのあとから力いっぱいの早さでつづきました。こうして、ガンたちは傷一つ受けないで、ぶじに逃げることができました。ニールスは心から感心して、
「アッカやユクシやモルテンみたいな鳥を射とうなんて、とんでもない話だ！　人間どものすることは、まったくばかばかしい！」と、言いました。
　こうして、ふたたび、ニールスとガンの一行は、静かな空を飛んでいきました。あたりは、まえのように、またひっそりとしてきました。ただ疲れた鳥たちは、ときおり、「すぐいけないんじゃないの？　たしかにこの道かい？」とさけびました。すると、いちばんさきを飛んでいく鳥たちは、「この道をまっすぐいけば、エーランド島だよ！　この道をまっすぐいけば、エーランド島だよ！」と、答えました。
　野ガモたちは、疲れきってしまいました。そのとき、そばをウミガモが通りすぎました。「そんなにいそがないでくれよ！」と、野ガモたちは、ウミガモにむかってさけびました。「きみたちは、われわれが着くまでに、たべものをみんなたべちまう気かい。」
「なあに、あそこには、たべものがたくさんあるから、だいじょうぶさ。」と、ウミガモたちは答えました。
　ところが、ぼつぼつエーランド島が見えようというころ、まむかいから軽い風が吹いてきました。そしてそれといっしょに、白い大きな煙の雲のようなものが、もくもくとやってきました。まるで、どこかに火事でもおこっているようです。
　鳥たちはこのうずをまいている煙に気がつきますと、心配になって、とんでいく力をはやめました。けれども、その煙のようなものは、だんだん濃くなってきます。そして、とうとうしまいには、みんなをすっかりつつんでしまいました。でも、煙のようなにおいはしません。そして黒くも、乾いてもいず、白くて、しめっています。それで、ニールスは、ははあ、これはただの霧なんだな、と、すぐに気がつきました。
　霧は一寸さきも見えないくらい濃くなってきました。と、どうでしょう、鳥たちはまるで気でもちがったようになりました。いままではあんなに、きちんと行儀よく飛んでいたのに、こんどは、みんながみんな、霧の中でふざけはじめたのです。勝手気ままに、あっちへ飛んだり、こっちへ飛んだりして、たがいにほかの仲間を迷わそうというのです。
「おーい、気をつけろよ！」と、鳥たちはさけびます。「きみたちは、おんなじ所をぐるぐるまわってばかりいるじゃないか。それじゃ、とてもエーランド島へは、いかれっこないぜ。さあ、さあ、むきをかえたり、かえたり！」
　エーランド島がどこにあるかは、みんな、ちゃんと知っているのですが、たがいに仲間を迷わそうとしてやっきになっているのです。「あのオナガガモを見ろよ！」と、霧の中からさけぶ声が聞こえます。「北海のほうへ逆もどりしているじゃないか！」
「おーい、ガンの諸君、気をつけたまえよ！」と、また違ったほうからだれかがさけびます。「そんなほうへいくと、リューゲンへいっちまうぜ！」
　もちろん、このあたりを旅なれている鳥たちは、まちがった方向にさそいこまれるようなことはありませんが、こまりきっているのはニールスの仲間のガンたちです。おどけものの鳥は、ガンたちが道に不案内なのを見てとりますと、さかんにガンたちを迷わせようとします。
「もし、ガンさん、どこへいらっしゃるんです？」と、一羽の白鳥が呼びかけながら、アッカのところへ近よってきました。いかにも、同情ぶかい、まじめな顔つきをしています。
「エーランド島へいこうと思っているんですが、はじめてなものですから。」と、アッカは答えました。この白鳥なら、信頼してもいいだろうと思ったのです。
「そいつはいけませんよ。」と、白鳥は言いました。「あなたがたは、まちがった方向へさそいこまれたんですね。この道をいけば、ブレーキンゲへでてしまいますよ。さあ、わたしといっしょにいらっしゃい。道案内をしてあげましょう。」
　それから、白鳥はガンの一隊といっしょに飛んでいきました。そして、ほかの鳥たちのさけび声も聞こえないほど遠くまで、まちがった方向にひっぱっていってから、とつぜん霧の中に姿を消してしまいました。
　ガンたちは、しばらくのあいだ、むちゃくちゃに飛びまわったあげく、やっとのことで、ほかの鳥たちを見つけました。するとこんどは、一羽のカモが近づいてきました。「あんたがたは、霧がはれるまで、水の上におりて休まれるほうがいいんじゃありませんか。どうも、あまり旅なれてはいらっしゃらないようだから。」
　こんないたずらものたちが、もののみごとに、アッカをまごつかせてしまいました。ニールスが見ていると、ガンたちは同じところを長いこと、ぐるぐる、ぐるぐるまわっています。
「おーい、気をつけたまえよ！　きみらは、上へいったり、下へいったりしているだけじゃないか。」と、一羽のウミガモがそばを飛びすぎながらさけびました。ニールスは思わずしらずガチョウの首ったまにしっかりとしがみつきました。もうさっきから、こんなことではなかろうかと、心配していたのです。
　もしもそのとき、遠くのほうで、ズドンというにぶい大砲の音がきこえなかったなら、いったい、いつになって、エーランド島へいけたことやら、わかったものではありません。
　そのとき、アッカは首をのばし、つばさを力づよく打って、全速力で飛んでいきました。いまこそ、いくべきところがわかったのです。アッカは灰色ガンから、エーランド島の南のはしにおりてはいけない、そこには大砲がすえつけてあって、人間がそれを射って霧を散らすのだ、と、おそわっていたのでした。だからアッカには、これですっかり方角がわかったのです。もうこうなれば、だれにも迷わされるようなことはありません。

11　エーランド島の南のはし

四月三日　日曜日より　六日　水曜日まで
　エーランド島のいちばん南のはしに、オッテンビューという、古い王家の領地があります。これは島をよこぎって、岸から岸へとひろがっている、かなり大きなものです。
　ここには、ふしぎと、いつもたくさんの動物たちが住んでいます。十七世紀には王さまたちがエーランド島へよく狩りにおいでになりましたが、そのころは、領地ぜんたいがシカの猟苑になっていました。それが十八世紀になりますと、競馬用の駿馬を飼っている飼養場や、いく百という羊のむらがっている飼羊場となりました。いまでは、いちばん東の岸にそって古い牧羊場がありますが、それは長さが四分の一マイルもあって、エーランド島一の大きな牧場です。そこでは、家畜たちがちょうど野原にいるのとおなじように、すきなように草をたべたり、遊んだり、駈けまわったりしています。それから、そこには、百年もたったかと思われるカシワの木の森があります。これが、有名なオッテンビュー森で、この森の大きな木々は、動物たちに日かげをつくってくれますし、はげしい風をもふせいでくれます。もう一つ忘れてはいけないのは、オッテンビューの長い垣です。これは島をよこぎって、オッテンビューとほかの土地との境になっています。そして、この垣のおかげで、動物たちは、古い王家の領地の境めを知るのです。この古い領地には、野生の動物たちも、たくさんむれをなしてやってきます。
　そのほか、むかしいたシカの子孫も、まだ生きのこっています。その上、春や夏のおわりごろには、ここは、いく千という渡り鳥の休み場所になります。ことに、牧羊場の下の沼の多い東の岸には、たくさんの渡り鳥が舞いおりて、草をたべたり、休んだりします。
　ガンたちとニールス・ホルゲルッソンが、やっとの思いでエーランド島にたどりついたときも、ほかの鳥とおなじように、みんなは牧羊場の下の海べにおりました。島の上も、海の上とおなじで、一めんに濃い霧がたちこめていました。ところが、ニールスは、岸を見たとき、アッと驚いてしまいました。なぜって、そこには、目のとどくかぎり、かぞえきれないほどの鳥が、うじゃうじゃしているではありませんか。
　見れば、長い砂浜があって、そこには石や水たまりがあり、たくさんの海草が波にうちあげられています。もしもニールスが、すきなようにおしと言われたら、とてもこんなところへおりる気にはなれなかったでしょう。ところが、鳥たちのほうでは、ここをほんとうの楽園とでも思いこんでいるようすです。カモや灰色ガンは、草地でさかんに草をたべています。水ぎわでは、シギやそのほかの海鳥たちが、はねまわっています。ウミガモは水の中にもぐっては、魚をつかまえています。なにしろ、ここにはたべものがどっさりあるので、たべものに不足したというような話は、まだきいたことがありません。
　たいがいの鳥は、これからもまだ旅をつづけるのです。ですから、ちょっと休むために、ここへおりているのです。それぞれのむれの隊長は、仲間のものが十分に元気をとりもどしたとみてとると、
「みんな、もういいかい？　よければ、出かけるとしよう。」と、言うのでした。
「いいえ、待ってください、待ってください！　まだそんなにたべていないんですよ！」と、仲間のものは言いました。
「おまえたち、まさか動けなくなるまで、たべさせてもらえると思っているんじゃないだろうな？」
　隊長はこう言うと、羽ばたきして飛びたちました。けれど、すぐまた戻ってこなければなりませんでした。だって、ほかのものたちが、あとにつづかないのです。
　波うちぎわの海草の山の下には、一むれの白鳥がいました。白鳥たちは陸の上にいかないで、波にゆられながら休んでいました。そして、ときどき長い首を水の中につっこんでは、海の底からたべものをひろいあげました。なにかすばらしいえものをつかまえたときには、まるでラッパのような大きなさけび声をあげて喜びました。
　ニールスは、浅瀬に白鳥たちがいると聞きましたので、さっそく海草の山のほうへおりていきました。まだ一ども野生の白鳥をそばで見たことがないのです。そして、さいわいにも、きょうは、すぐそのそばまで近よることができました。
　白鳥がいるという話を聞いたのは、ニールスひとりではありませんでした。ガンをはじめ、灰色ガンもウミガモも、いそいで海草のほうへ泳いでいきました。そして、みんなは白鳥たちのまわりにぐるっと輪になって、じっと白鳥たちを見つめました。白鳥たちははね毛をさかだて、つばさを帆のようにひろげて、首を高くのばしました。そして、ときどきそのなかの一、二羽が、ガンのところへいったり、大きなウミガモのところへいったり、また、モグリドリのところへいったりして、なにやら話しかけました。すると、話しかけられたほうは、気おくれがしてしまって、返事をするために、くちばしをひらくことさえできないようでした。
　岸近くの海の上を、カモメとウミツバメが飛びまわって、魚をとっていました。
「どんな魚をとっているんです？」と、一羽のガンがたずねました。
「トゲウオだよ。エーランド島のトゲウオだよ。世界一のトゲウオさ。まだ、たべたことがないのかい？」と、一羽のカモメが答えました。そして、その小さな魚を口いっぱいくわえて飛んできて、ガンにやろうとしました。
「ウワァイ！　そんなきたない魚がくえるかい？」と、ガンは答えました。
　つぎの朝は、くもっていました。ガンたちは、牧場へいって、たべものをひろいましたが、ニールスは浜べへいって貝を集めました。そこには、貝がたくさんありました。あしたは、きっと、たべもののないところにいくだろうと思いましたので、貝を持っていけるように、小さな袋をこしらえようと思いました。牧場でじょうぶな枯れたスゲを見つけて、それで旅行用の袋をあみはじめました。なん時間もかかって、やっとつくりあげましたが、ニールスは、それに、たいへんまんぞくしました。
　お昼ごはんのころ、ガンたちが、みんなでそろって走ってきました。そして、白いガチョウを見なかったかとたずねました。
「いいや、ぼくといっしょじゃなかったよ。」と、ニールスは答えました。
「ついさっきまでは、わたしたちといっしょだったんですが、どこへいったか見えなくなってしまったんですよ。」と、アッカが言いました。
　ニールスはびっくりして、思わずとびあがりました。キツネかワシでも出てきたのではないだろうか、それとも、人間でも近くにきたのではないだろうかと、ガンたちにたずねてみましたけれども、ひとりとして、そんな危険なものを見たものはありません。おそらく、ガチョウは霧の中で道に迷ったのでしょう。
　それはそうとしても、ともかくガチョウがいなくなってしまったということは、ニールスにとっては、たいへんな災難です。そこで、さっそく、さがしに出かけました。霧がかかっているので、だれからも姿を見られずに、どこへでも走っていくことができましたが、ニールス自身も、霧のためにさきをよく見とおすことができません。ニールスは、海岸にそって南のほうへ走っていきました。そして、いちばん南のはしの燈台や霧を散らすために打つ大砲のところまでいってみました。あっちにもこっちにも、鳥がたくさんいますが、ガチョウの姿はどこにも見えません。で、思いきって、オッテンビューの領地の中にはいっていきました。そして、オッテンビュー森の中を、のこらずさがしてみましたが、やっぱりガチョウの足あと一つ見あたりませんでした。
　ニールスが、むちゅうになってさがしているうちに、いつのまにか暗くなってきました。もう東の岸にもどらなければなりません。足をひきずるようにして、みじめな気もちで歩いていきました。ああ、ガチョウが見つからなかったら、いったいどうなるだろう。なんとかして、見つけださなければならない。じぶんのためばかりでなく、大すきなガチョウのためにも！
　ところが、牧羊場を歩いていきますと、霧の中を、なにか大きな白いものが、こっちへむかってくるではありませんか。それこそ、ガチョウでなくてなんでしょう？　ガチョウは、ぶじだったのです。そしていま、ようやくのことで、みんなのところへ帰る道が見つかったものですから、たいそう喜びました。霧のためにすっかり迷ってしまって、一日じゅう、広い牧場をうろつきまわっていたということでした。ニールスは、うれしさのあまり、ガチョウの首のまわりに腕をまきつけて、これからは気をつけて、もうみんなから離れないようにしてくれ、とたのみました。するとガチョウは、もう二どとこんなことはしない、けっして、けっしてしない、と、かたく約束しました。
　ところが、そのつぎの朝、ニールスが浜べにいって、貝をひろっていますと、またもやガンたちが走ってきて、ガチョウの姿を見なかったかとたずねました。もちろん、ニールスはガチョウの姿を見てはいませんでした。そうしてみると、ガチョウは、またいなくなってしまったのです。きっと、きのうとおなじように、また、霧の中で道に迷っているのでしょう。
　ニールスは驚いて、すぐさまさがしに出かけました。オッテンビューの垣に、一カ所こわれているところがありましたので、そこからよじのぼることができました。垣をこしますと、まず浜べをさがしていきました。そこは、だんだん広くなっていて、畑や牧場や農場をつくろうと思えばつくれるだけの余地は十分にありました。それからこんどは、島のまんなかにある平らな高台にのぼっていきました。そこには風車のほかは、建物はなんにもありませんでした。そして、芝草がたいそううすいために、下の白い石灰質の地肌が輝いてみえました。
　けれど、どうさがしてみても、ガチョウの姿は見えません。だんだん、夕やみがせまってきましたので、もう海岸にひきかえさなければなりません。いよいよ、旅の道づれをなくしてしまったと、思うよりほかはありませんでした。ニールスは、すっかりがっかりして、どうしていいのか、わからなくなりました。
　もう一ど、垣の上によじのぼったとき、すぐその近くで、石がガサガサ落ちる音がきこえました。なんだろうと思ってふりかえってみますと、垣の近くにつみかさねられている石の上で、なにかが動いているようです。そっとしのびよってみますと、驚いたことに、あの白ガチョウのモルテンが、長いヒゲ根をいくつかくわえて、つみ石の上をよたよたと歩いているではありませんか。ガチョウのほうでは、少年の姿に気がついておりません。ニールスのほうでも、ガチョウに声をかけません。なぜって、ニールスとしては、どうしてガチョウがこんなふうにして、二どまでも姿をかくしてしまうのか、そのわけを、まず知りたいと思ったのです。
　そのわけは、すぐにわかりました。見れば、つみ石の上に、一羽の若いメスの灰色ガンがすわっています。そして、その灰色ガンは、ガチョウのきたのを見ますと、うれしがって、大きな声をあげました。ニールスが、なおもそっと近よってみますと、ふたりの話がよくきこえました。それで、この灰色ガンは片ほうのはねをけがしたために、飛ぶことができないのだということがわかりました。そのため、仲間のものは、この灰色ガンをたったひとり置きざりにして、飛んでいってしまったのです。灰色ガンは、おなかがへって、いまにも死にそうになっていたのですが、運よく、きのう、白ガチョウがその声を耳にして、見つけてくれたのです。そしてそれからは、白ガチョウが骨をおってたべものをはこんでくれているのです。ふたりは、白ガチョウが島からいってしまうまえに、灰色ガンのはねがすっかりよくなるようにと願っていました。けれども、きょうになっても、まだ飛ぶことも歩くこともできません。それで灰色ガンは、たいへん悲しんでいましたが、白ガチョウは、じぶんはまだしばらく旅には出ないから、安心するように、と言って、なぐさめました。それからさいごに、ガチョウはさようならを言って、あしたまたくる約束をしました。
　ニールスは、ガチョウのあとを見おくって、その姿が見えなくなってしまったとき、こんどは、じぶんがそのつみ石の上にあがっていきました。ニールスは、白ガチョウにだまされたので、プンプンおこっていました。そして灰色ガンに、あのガチョウはじぶんのもので、これから、じぶんをラプランドまでつれていってくれようとしているところだから、おまえなんかのために、こんなところで、ぐずぐずしてはいられない、と言ってやろうと思っていたのです。ところが、ニールスは若い灰色ガンのそばまでいったとき、驚いてしまいました。なるほど、これでは、ガチョウが二日のあいだ、たべものをはこんでやったり、そのことを話そうとしなかったのも、むりはありません。灰色ガンは、見るからにかわいらしい、ちっちゃな頭をしています。はね毛は、しゅすのようにやわらかで、目には、おだやかな、うったえるような表情をたたえています。
　灰色ガンは、ニールスの姿を見ますと、逃げようとしました。けれども、片ほうのはねが傷ついているために、地べたをばたばたやるだけで、動くことができません。
「こわがらなくてもいいよ。」と、ニールスは言いました。そして、さっき、おなかの中で考えていたような、怒ったようすは、ほとんど見せませんでした。「ぼくはね、ガチョウのモルテンの友だちで、オヤユビ太郎っていうんだよ。」と、つづけて言いましたが、そこでつまってしまって、それからあとは、なんて言ったらいいのか、こまってしまいました。
　動物たちのなかにも、ときには、魔法にかけられた人間ではないだろうかと思われるようなものがあります。この灰色ガンにも、そんなようすがありました。ニールスが、じぶんの名まえを名のりますと、灰色ガンは、いかにもしとやかに頭をさげて、とうていガンとは思えないほどの美しい声で言いました。
「あなたが助けにいらしってくださいまして、あたくし、ほんとうに、うれしゅうございます。白いガチョウさんが、あなたほど賢くて、よいお方はないと申しておりましたわ。」
　その言いかたが、またとても品位がありましたので、ニールスは、すっかりまごついてしまいました。「これはたしかに、ただの鳥じゃないぞ。」と、ニールスは心の中で思いました。「きっと、どこかのお姫さまが、魔法にかけられて姿をかえているんだな。」
　ニールスは、灰色ガンを助けたい気もちで、いっぱいになりました。そこで、小さな手を、ガンのつばさの下につっこんで、つばさの骨にさわってみました。すると、骨はおれてはいませんが、関節がはずれています。そこで、「さあ、いいかい」と、言いながら、管のようになった骨をしっかりとつかんで、もとどおりに合わせました。こんなことをするのは、生まれてはじめてですが、そのわりには、なかなかうまく、すばやくやってのけました。でも、かわいそうに、若い灰色ガンにとっては、どんなにひどく痛かったことでしょう。一声するどい悲鳴をあげますと、そのまま、石のあいだにぱったりたおれて、じっと動かなくなってしまいました。
　ニールスは、すっかりあわててしまいました。ただ、助けてやりたいとばかり思ってしたことなのに、灰色ガンを殺してしまったのです。ニールスは、つみ石の上からとびおりるが早いか、いっさんに駈けだしました。まるで、人間を殺したような気もちでした。
　あくる朝は、空は晴れわたって、霧もすっかりはれていました。アッカは、これから旅をつづけることにする、と言いました。ガンたちはみんな喜びましたが、白いガチョウだけは、いやがりました。ニールスには、ははあ、あの若い灰色ガンのそばを離れたくないんだな、と、そのわけがよくわかりました。けれども、アッカはガチョウのことばには耳をもかさずに、出発しました。
　ニールスは、ガチョウのせなかにとびのりました。白いガチョウは、いやいやながら、ノソノソとみんなのうしろを飛んでいきました。ニールスは、いっこくも早くこの島を離れたいと思っていました。というのは、あの灰色ガンのことで、気がとがめてしかたがなかったからです。そしてまた、なおしてやろうと思っていたのに、あんなとんでもないことになってしまったいきさつを、ガチョウに話したくなかったのです。
「モルテンが、この話を知らないでいてくれれば、それよりいいことはない。」と、ニールスは思いました。でも、それといっしょに、どうして白いガチョウは、灰色ガンのところを離れる気になったんだろう、と、ふしぎでたまりませんでした。
　ところが、そのうちに、ガチョウは、きゅうに、とんでいたむきをかえました。とうとう、若い灰色ガンのことを思う気もちのほうが、勝ってしまったのです。あの若い灰色ガンが、病気のまま、たったひとりのこされて、いまにもうえ死にするのではないかと思いますと、モルテンはみんなといっしょにいくことが、できなくなったのです。
　まもなく、ガチョウとニールスは、つみ石のそばにもどってきました。ところが、きょうは、石のあいだに若い灰色ガンの姿が見えないではありませんか。「ダンフィン！　ダンフィン！　どこにいるの？」と、ガチョウは大声で呼んでみました。
「きっと、キツネにさらわれたんだな。」と、ニールスは心の中で思いました。
　ところが、そのとき、「ここですよ、ガチョウさん、ここですよ！　朝の水あびをしておりましたの。」と、ガチョウに答える美しい声が聞こえてきました。そして、水の中から、小さな灰色ガンが、見ちがえるほど元気そうな姿をあらわしました。そして、灰色ガンは、
「オヤユビさんにつばさをなおしていただいたおかげで、すっかり元気になりました、みなさんとごいっしょに旅にいけますわ」と言いました。
　灰色ガンの、しゅすのようにつややかなはねの上には、しんじゅのような水のしずくがたまっていました。それを見たオヤユビくんは、この鳥はきっと小さなお姫さまにちがいない、とまた思いました。

12　大きなチョウ

四月六日　水曜日
　ガンたちは、下のほうにはっきりと見える、長くのびた島にそって飛んでいました。ニールスは、気もはればれとしていました。きのう、ガチョウをさがしに島を歩きまわったときは、気がめいってしかたがありませんでしたが、きょうは、心からまんぞくしていました。
　島の内部にあるはだかの高地と、海岸ぞいの肥えた、よい土地が見えました。そのとき、ニールスは、ゆうべ聞いた話のいみが、ようやくわかりかけてきました。
　それは、ニールスがしばらく休もうと思って、高地にあるたくさんの風車の一つのそばに腰をおろしていたときでした。そこへふたりの羊飼いが、イヌをつれ、たくさんの羊のむれをしたがえてやってきたのです。ニールスは、風車の階段の下にかくれていましたので、ちっともこわくはありませんでした。ところが、その羊飼いたちは、ニールスのかくれている階段の上に腰をおろしてしまったのです。ですから、ニールスは、そこにじっとかくれているよりほかはありませんでした。
　ひとりは若くて、見るからに羊飼いらしいようすをしていました。しかし、もうひとりのほうは、年とっていて、すこしかわっていました。からだつきは、がっしりとふしくれだっているのに、頭は小さくて、しかも、とってもおだやかな、やさしそうな顔つきをしているのです。なんだか、頭とからだとが、しっくり合っていないような感じです。
　年よりのほうは、しばらくのあいだじっとすわって、なんともいえないほど疲れきったようすで、霧の中を見つめていました。それから、つれの者にむかって話しはじめました。若者のほうは、袋の中からパンとチーズをとりだして、たべはじめました。そして、ほとんどひとことも言わずに、じっと、しんぼうして、年よりの話を聞いていました。そのようすは、しばらく、おまえさんがしゃべりたいようにしゃべらしておいてあげるよ、とでも腹の中で思っているようでした。
「エリークさんや、おまえさんになにか話をしてあげるとしよう。」と、年とった羊飼いが言いました。「わしはな、人間も動物も、いまよりずっと大きかった時代には、チョウもうんと大きかったと思うんだ。つまり、そのころは、からだの大きさがなんマイルもあって、はねといったら、海のように広いチョウがいたわけさ。そのはねは、たとえようもないほど青くて、銀のようにピカピカ輝いていた。だから、そのチョウが空を飛んでいるときには、どんな動物でも立ちどまって、思わず見とれてしまったものさ。
　ところが、ぐあいの悪いことには、からだが大きすぎるものだから、なかなかはねでうまくつりあいをとることができない。身のほどをわきまえて、陸地の上を飛んでいるあいだはよかったんだが、このチョウチョウさんは、それではがまんができなくなって、バルト海まで出ていったのさ。ところが、まだいくらもいかないうちに、嵐におそわれて、はねが破れはじめたんだ。なあ、エリークさんや、チョウのはねはもろいのに、相手はすさまじいバルト海の嵐なんだから、どうなったかは、おわかりだろう。みるみるうちに、はねはひきさかれ、めちゃめちゃになってしまう。そして、チョウは、海の中に落っこちてしまったのさ。さいしょのうちは、波の上をゆらゆらと、ゆられていたんだが、やがて、スモーランドの海岸ちかくの岩の上に、うちあげられた。そして、そのままそこに、大きなからだを、ながながとねそべらせてしまったのさ。
　ところで、エリークさん、もしこのチョウが、陸の上に落っこちたら、あっというまに、こなみじんになってしまったろうよ。ところが、海の中に落っこちたもんだから、だんだんに石灰水がしみこんで、しまいには、石のように固くなってしまったんだ。ほら、おまえさんも知ってのとおり、岸べには、よく、みょうな石があるだろう。あれは、みんな虫が化石したものなのさ。このチョウの場合も、やっぱりおんなじで、バルト海にねころんでいるうちに、そのまま、細長い岩になってしまったと、わしは思うんだ。おまえさんは、そうは思わんかね？」
　年よりは、ことばをきって、返事を待ちました。すると、若者はうなずいて、「つづけておくれ。さきを聞きたいよ。」と、言いました。
「で、エリークさん、おまえさんやわしの住んでいる、このエーランド島は、じつをいえば、いま話したチョウのからだなのさ。ちょいと考えてみさえすりゃ、この島が、チョウだったってことはすぐわかるよ。北のほうへいけば、細長い胴とまるい頭が見えるし、南のほうへいくと、下腹が見えるんだが、こっちのほうは、はじめは広くて、それから、だんだんせまくなり、しまいには、とがってしまうんだ。」
　ここで年よりは、またことばをきって、相手の顔をのぞきこみました。相手が、じぶんの話をどう思っているだろうかと、気にしているようでした。けれども、若い羊飼いは、あいかわらずたべつづけながら、さきを話してくれと、うなずいてみせました。
「それで、そのチョウが石灰岩になってしまうと、すぐにいろんな草や木の種が、風にはこばれてきて、その上に根を生やそうとしたものさ。ところが、そこがスベスベしたはだかの岩なもんだから、長いあいだ、スゲしか生えなかった。しかし、だんだんに、ウシノケグサやモクセイソウやイバラなんかも生えてきたんだよ。けれども、この山の上のアルヴァレットでは、今日になっても、あまり物が育たない。ここはよい土の層がうすいので、耕したり種をまいたりしようとする者がない。だがね、もしおまえさんが、わしの考えにさんせいして、このアルヴァレット山と、まわりの山壁とが、チョウのからだでできているとすれば、山壁の下の土地は、いったい、何でできていると思うね？」
「うん、まったくだ。」と、若者は、なおもたべながら言いました。「そいつをききたいね。」
「じゃ、話すがね。エーランド島は、なん年ものあいだ海の中によこたわっていたんだが、そのあいだには、海草だとか、砂だとか、貝だとか、いろんなものが波にはこばれてきて、島のまわりに集まったんだ。それから、東と西の山壁からは、石や砂利が落ちてきた。こうして、この島にもだんだん広い海べができて、そこに穀物や、花や、木が育つようになったというわけさ。
　チョウのかたいせなかにあたる、この上では、羊や牛や子馬が、ぶらぶらしているだけで、鳥にしても、ナベゲリとチドリが住んでいるっきりさ。建物といったら、風車と、おれたち羊飼いが雨つゆをしのぐ、石造りのおそまつな小屋が二つ三つあるだけさ。ところが、海岸のほうへおりていけば、大きな村もあるし、教会もある。漁村もあれば、りっぱな町もあるんだ。」
　年よりは、さぐるように相手の顔を見ました。若者は、ちょうど食事をおえたところで、いましも袋の口をしめていました。そして、「あんたは、どこでその話をおしまいにする気かね？」と、言いました。
「いや、わしの知りたいのは、たった一つ。」と、羊飼いは言いましたが、声をおとしましたので、まるで、ささやくようにしか聞こえませんでした。そして、その小さな目で、じっと霧の中を見つめていましたが、その目は、この世にないものをさがし求めて、疲れきっているようでした。「わしの知りたいのは、たった一つのことだけさ。つまり、山壁の下の農場に住む百姓や、海からニシンをとってくる漁師や、ボルイホルムに住んでいる商人や、夏になると、まいとしやってくる海水浴の客や、ボルイホルムの古いお城のあとを見物して歩く観光客や、秋になると、ここへシャコを射ちにくる狩猟家や、このアルヴァレットの上にすわって、羊や風車を描く画家や、そういう人たちのなかで、ひとりでも、この島が、もとは、大きなピカピカするはねで大空を飛びまわっていたチョウだったということを、知っている者があるかどうかということなのさ。」
「ああ、いや、」と、若い羊飼いが、きゅうに言いました。「夕がた、この山壁のはしにすわって、ふもとの森でナイチンゲールの歌うのを聞きながら、カルマール海峡をながめれば、この島が、ほかの島とおなじようにしてできたものではないと思う者も、あるにちがいないよ。」
「それから、」と、年よりは話をつづけました。「この風車に、天までとどくくらいの大きなはねをつけてやろうという人は、ないもんかなあ。この島ぜんたいを海から持ちあげて、チョウのように飛ばすことのできる、大きなはねをさ。」
「あんたの言うことには、もっともらしいところがあるよ。」と、若者は言いました。「だって、この島の上に大空があかるく、ひろびろとひろがっている夏の夜なんかには、なんだか、この島が海から立ちあがって、空に飛んででもいきたいようなようすに見えることがあるもの。」
　年よりは、とうとう、若者を話の中にひきずりこんでしまいました。しかし、若者の言うことには、あまり耳をかしませんでした。そして、さらに声を低くして言いました。
「このアルヴァレットにいると、どうして、そういうあこがれが起こってくるのか、そのわけを、説明できる人があるかなあ。わしは、まいにちまいにち、そういうあこがれを感じるんだ。いや、ここへくるものは、みんなそういうあこがれを感じるようだ。そういうあこがれが、わしたちに起こってくるのは、この島ぜんたいが一羽のチョウで、そのチョウが、はねをほしがっているからだということを、わかる人があるだろうかなあ。」

13　小カール島

嵐

四月八日　金曜日
　ガンたちは、その夜、エーランド島の北のはしですごしました。そして、これから陸地へむかっていこうというのです。強い南風が、カルマール海峡の上を吹いていて、ガンたちは、北へ北へと押しもどされました。それでもみんなは、速力をはやめて、ぐんぐん陸地のほうへ飛んでいきました。けれども、いちばんさいしょの島々に近づきかけていたとき、ごうごうという、ものすごい物音が聞こえてきました。まるで、つばさの強い鳥が、むれをなして飛んでくるようです。みるみるうちに、海の水はまっ黒になってしまいました。アッカは、きゅうにつばさをおさめて、空にじっとしていました。それから、すぐに舞いおりました。しかし、ガンたちが、まだ水の上におりきらないうちに、暴風がおそってきました。暴風は砂煙をまきあげ、海のあわを吹きとばし、小鳥をふきまくりました。ガンたちも、暴風に追いまくられて、とうとう広い海に追い出されてしまいました。
　すさまじい嵐です。ガンたちは、なんどもなんども、ひきかえそうとがんばってみましたが、どうしようもありません。だんだん、バルト海のほうへ吹き流されていきました。いまはもう、エーランド島もすぎて、目に見えるものは、ただ、ひろびろとした灰色の海ばかりです。こうなっては、風にさからわないようにするほかありません。
　アッカは、とうてい陸地のほうへひきかえすことはできないと見てとりましたが、といって、暴風に吹き流されていくのもまずいと思いました。そこで、水の上におりました。海の波は、刻一刻と高くなり、はげしくあわをとばしています。まるで、たがいに高くなりっこをしたり、あわのとばしっこをしているようです。けれども、ガンたちは波のうねりをすこしもこわがりません。それどころか、かえって、とても喜んでいるようです。みんなは、泳ごうとはしないで、波のうねりに身をまかせて、ちょうど、赤ん坊が、ハンモックで喜ぶように、楽しんでいました。しばらくは、こうしてうまくいきました。でも、たった一つ心配なのは、みんなが、はなればなれになってしまうことです。そのとき、暴風に吹きまくられて、そばを飛んでいった陸鳥が言いました。「泳げるものは、いいなあ。危険がないんだもの。」
　しかし、ガンたちにしても、まるっきり危険がないわけではありません。だいいち、波にゆられているうちに、たまらないほど眠くなってきました。それで、しょっちゅう首をまげて、くちばしをはねの下につっこんでは、うとうとしようとするのです。ですからアッカは、ひっきりなしにさけびつづけました。
「眠っちゃだめだ。眠ったものは、はぐれるぞ。はぐれた者は、死んでしまうぞ。」
　いくら眠らないでいようとがまんしてみても、つぎつぎに眠るものが出てきました。アッカ自身でさえも、つい、うとうとしかけました。と、そのとたんに、なにかまるい黒いものが、波がしらに浮かびでました。
「アザラシだ！　アザラシだ！　アザラシだ！」と、アッカは、耳をもつんざく鋭いさけび声をあげながら、はげしく羽ばたきして、空に舞いあがりました。まさに、間一髪です。さいごのガンが、水からあがったときには、あやうくアザラシに足をくわえられるところでした。
　こうして、ガンたちは、またも暴風の中にはいりましたので、ますます沖へ吹き流されました。暴風は、一時も休まず、ガンたちも、片時もじっとしていることができません。もはや陸地は、影も形も見えず、見わたすかぎり、はてしのない海が、つづいています。
　ガンたちは、思いきって、もう一ど海の上におりました。けれども、しばらく波にゆられているうちに、また眠くなってきました。そして、ほんとうに、うとうとしはじめたとき、またもやアザラシがやってきました。もしもそのとき、アッカが、すばやく目をさまさなかったら、一羽も助からなかったことでしょう。
　暴風は、一日じゅう休みもなく荒れくるいました。そして、この季節に渡ってくる、たくさんの小鳥のむれを、さんざんな目にあわせました。小鳥たちの中には、道に迷って遠い国に吹き流され、そこで、うえ死にしたものもありますし、疲れはてて海に落ちて、おぼれ死んだものもあります。また、絶壁にたたきつけられて、むざんな死にかたをしたものもあれば、アザラシのえじきになったものもあります。
　とうとう、さすがのアッカも、いよいよ、じぶんたちのむれも、おしまいかと思うようになりました。いまはもう、すっかり疲れきってしまいました。しかも、どこを見まわしても、休むようなところはありません。夕がたになりますと、海の上におりるわけにもいかなくなりました。というのは、とつぜん、大きな氷のかたまりが、あっちにもこっちにもあらわれてきて、たがいにぶっつかりあっているのです。ですから、海の上におりたがさいご、そのあいだにはさまれて、こなごなにされてしまうでしょう。そこで、ガンたちは、二どばかり氷のかたまりの上におり立とうとしました。ところが、一どは暴風に吹きまくられて、水の中に落ちてしまいましたし、もう一どは、むじひなアザラシが、その氷のかたまりの上にまで、はいあがってきたのです。
　お日さまの沈むころ、ガンたちはもう一ど、空に舞いあがりました。みんなは、夜のくるのをおそれながら、飛びつづけました。危険な今夜にかぎって、なんだか、早く暗くなるような気がしてなりません。
　しかも、おそろしいことに、陸地は、まだ見えないではありませんか。一晩じゅう、海の上にいなければならないとしたら、いったい、どうなることでしょう？　おそらく、氷のかたまりのあいだにはさまれて、押しつぶされてしまうでしょう。でなければ、アザラシにくわれるか、暴風のために、はなればなれになってしまうよりほかありません。
　空は、一めんに雲でおおわれて、月は、姿をかくしています。たちまちのうちに、まっくらやみになりました。と、どうじに、あらゆるものが、おそろしさにみちみちて、どんな勇気のある人でも、思わずひるんでしまうほどでした。弱りはてた渡り鳥たちの、助けを求めるさけび声が、一日じゅう、むなしく、海の上にひびいていました。しかし、その声の主の姿も、見えなくなったいまでは、ひっしのさけび声が、悲しく、おそろしくひびきました。海の上では、氷のかたまりが、すさまじい音を立てながら、ぶっつかりあっています。アザラシたちは、あらあらしい狩りの歌をうたっています。まるで、天と地とが、いまにも、くずれようとしているかのようです。

羊

　ニールスは、しばらく海を見おろしていました。と、とつぜん、海がまえよりも、はげしいうなり声をあげているような気がしました。はっとして、目をあげてみますと、じぶんのまっ正面に、しかもたった二メートルの鼻さきに、ものすごい絶壁が、きり立っているではありませんか。その足もとには、波がまっ白なあわをとばして、くだけ散っています。ガンたちは、その崖めがけて、ま一文字に飛んでいくのです。ニールスは、いまにもその崖にぶっつかって、こなごなになってしまうのではないかと、ハラハラしました。けれども、ガンたちは、あっというまに、その崖を飛びこえてしまいました。すると、前のほうに、ほら穴に通じる半円形の入口が見えました。ガンたちは、その中に飛びこんで、ようやく安全になりました。
　みんなは、じぶんの身の安全を喜ぶまえに、まず考えたことは、仲間のものが、ぶじに着いたかどうかということでした。見ると、たしかにアッカをはじめ、ユクシ、コルメ、ネリエー、ヴィシ、クウシ、それから六羽の若いガン、それにガチョウとダンフィンとオヤユビくんがいます。でも、左の列の先頭を飛ぶカクシの姿が見えません。しかも、だれひとり、カクシがどうなったかを知っているものはないのです。
　ガンたちは、仲間からはぐれたのが、カクシひとりだと知りますと、たいして気にしませんでした。だって、カクシは年もとっていて、りこうなガンです。それに、道もよく知りつくしていますし、仲間の習慣なども、よく知っているのです。ですから、カクシなら、きっといつかは、もどってくるでしょう。
　それから、ガンたちは、ほら穴の中を見まわしました。入口からさしこんでくる光のおかげで、そのほら穴が、深くてひろいことがわかりました。みんなは、こんなりっぱな夜の宿が見つかったことを、心から喜びました。と、そのとき、仲間のひとりが、暗いすみっこのほうに、キラキラした緑の点が、いくつも光っているのを見つけました。
「あれは目だ！」と、アッカがさけびました。「このほら穴の中には、大きな動物がいるぞ！」
　みんなは、あわてて入口のほうへ飛びだしました。けれども、やみの中でもよく見えるオヤユビくんがさけびました。「逃げなくてもだいじょうぶだよ！　羊が二、三びき、壁のそばにねているだけだから！」
　ガンたちは、ほら穴の中のほのかな光に目がなれてくるにつれて、羊たちが、はっきり見えてきました。おとなの羊たちは、ガンたちと同じくらいいるようです。なおそのほかに、子羊が二、三びきいます。長い、まがった角のある年とった牡羊が、そのむれのかしらのように見えます。ガンたちは、なんども、おじぎをしながら、その前に進みでました。そして、「いいところで、お目にかかりました！」と、あいさつしましたが、大きな牡羊は、ねころんだまま、ひとことも、かんげいのあいさつをしてはくれませんでした。
　ガンたちは、羊のほら穴の中に、じぶんたちがはいりこんだので、きっと羊たちがきげんを悪くしているのだろうと思いました。「わたしどもが、ここへはいってまいりまして、さぞご不快でしょうが、」と、アッカが言いました。「なにしろ、暴風に吹き流されて、どうしようもなかったのです。一日じゅう、吹きまくられてしまいました。こんや一晩だけ泊めていただければ、まことにしあわせなんですが。」
　しばらくしてから、羊の中の一ぴきが、なにか答えましたが、そのとき、そばにいる二、三びきのものが、深いため息をつきました。アッカは、いぜんから、羊というものは、内気で、かわった動物だということは知っていましたが、この羊たちは、そうではなくて、どうしたらいいのか、こまっているようすです。
　とうとう、悲しげな、長い顔をした年よりの牝羊が、あわれっぽい声で言いました。「だれひとり、あなたがたをお泊めするのをいやがったりするものはございません。けれども、ごらんのとおりのあばら家ですから、いぜんのように、お客さんをおむかえするわけにいかないのです。」
「どうぞ、そんなことは気になさらないでください。」と、アッカはいそいで言いました。「きょうは、一日じゅうひどい目にあっているものですから、ただ安心して眠れる場所さえあれば、うれしいのです。」
　アッカがこう言いますと、その牝羊は、からだを起こして言いました。「いえ、ここへお泊まりになるよりは、嵐の中を飛びまわっているほうが、まだましでしょうよ。でも、そのまえに、できるだけのおもてなしはいたしますが。」
　それから、牝羊は、水のいっぱいたまっている、くぼんだところへ案内していきました。そのそばには、モミガラやキリワラが、高くつまれています。牝羊はそれを見せて、たくさん召しあがってください、と、ガンたちに言いました。「ことしの冬は、ひどい雪でしてね。わたしどもを飼っているお百姓さんが、ホシグサやカラスムギのワラを持ってきてくれなかったら、わたしどもは、うえ死にするところだったんですよ。ここにあるのは、その残りなのです。」
　そう言われて、ガンたちはすぐさまそのたべものにとびつきました。みんなは、運がよかったと思って、大よろこびでいました。もちろん、羊たちがたいそう心配そうにしているようすを見てはいましたが、羊というものは、ひどくおくびょうな動物だということを知っていましたから、まさか、ほんとうの危険がせまっていようなどとは、夢にも思いませんでした。ですから、みんなは、腹いっぱいたべてしまいますと、いつものように、すぐ眠るつもりでいました。すると、大きな牡羊が立ちあがって、ガンたちのほうへやってきました。ガンたちは、こんな大きな、がっしりとした角のある羊を、まだ見たことがありませんでした。しかも、そればかりではなく、ひたいは高くこぶのようになっていて、目は、りこうそうで、態度はじつにりっぱです。いかにも、どうどうたる勇敢な動物のように見えます。
「わたしどもとして、あなたがたをここにお泊めするからには、ここが安全な場所ではないということを、申しあげておかなければなりません。」と、その牡羊は言いました。「いまのところ、わたしどもは、夜のお客はみんなおことわりしているのです。」
　アッカにも、ようやく、これはまじめで言っているのだということが、わかってきました。そこで、「あなたがたがおのぞみなら、出てもいきますが、そのまえに、いったい何でおこまりになっているのか、お話しねがえませんか？　わたしどもには、何のことやらさっぱりわかりません。だいいち、どこへ来てしまったのかさえもわからないのです。」と、アッカは言いました。
「ここは、小カール島です。」と、牡羊は答えました。「ゴットランド島の西にあたります。そして、ここには羊と海鳥しか住んでおりません。」
「そうすると、あなたがたは、野育ちなんですね？」と、アッカはたずねました。
「ええ、そう言ってもいいでしょうね。」と、牡羊は答えました。「人間とは、なんの関係もないのですから。われわれと、ゴットランド島の、ある農園のお百姓さんたちのあいだには、昔から、取りきめがあるのですよ。つまり、冬の雪がふるころになると、お百姓さんたちは、われわれにかいばを持ってきてくれる。そのかわりに、われわれのあいだから、多すぎるものをつれていってもいいということになっているのです。この島は、ひじょうに小さいものですから、あんまりたくさんいては、とても養っていけないのです。しかし、そのほかのことについては、一年じゅう、じぶんたちでしまつしなければなりません。そんなわけで、われわれは、戸や錠のついた小屋には住まずに、こんなほら穴の中にいるのですよ。」
「なんですって？　冬でもこんなところにいるんですか？」と、アッカはびっくりして、ききかえしました。
「もちろんです。」と、牡羊は答えました。「この山の上には、一年じゅう、いいかいばがありますからね。」
「そうしてみると、あなたがたは、ほかの羊よりもいいお暮らしをなさっているように思われますが、」と、アッカは言いました。「いったい、その不幸というのは、どんなことですか？」
「じつは、こういうわけです。」と、牡羊は話しだしました。「きょねんの冬は、ひどい寒さで、海がすっかりこおってしまいました。すると、三びきのキツネが、その氷の上をわたってきましてね、それいらい、ここに住みついているのです。あいつらさえいなければ、この島には危険な動物は一ぴきもいないのですがね。」
「だけど、あなたがたのような動物をも、キツネはおそってくるんですか？」
「いや、昼間はそんなことはありません。昼間なら、じぶんをも家族をもまもれます。」と、牡羊は角をふりながら言いました。「ところが、あいつらは、夜、われわれがほら穴で眠っているときに、こっそり、しのんできて、おそいかかるのです。もちろん、できるだけ目をさましているようにしてはいますが、だれだって、すこしは眠らなければならないでしょう。やつらは、そこをねらっているのです。ほかのほら穴の羊は、もうみんな殺されてしまいましたよ。わたしの家族と同じくらいのむれがいたのですが。」
「あたしたちが、こんなにいくじのないことをお話ししなければならないなんて、ほんとにおはずかしいことです。」と、こんどは、年よりの牝羊が言いました。「あたしたちが、もし飼われている羊でしたら、もうすこしどうにかなるかもしれませんけれど。」
「キツネは、こんやもくるとお思いですか？」と、アッカがききました。
「まず、くると思うよりほかありませんね。」と、年よりの牝羊が答えました。「あいつらは、ゆうべもやってきて、子羊をさらっていったんですよ。わたしたちが、一ぴきでも生きのこっているあいだは、かならずやってきますね。ほかのほら穴でも、そうだったんですから。」
「しかし、このままほうっておけば、あなたがたも、ぜんめつしてしまいますね。」と、アッカは言いました。
「ええ、このあんばいでは、小カール島に、羊が一ぴきもいなくなる日は、ちかいでしょうよ。」と、牝羊はため息をつきながら言いました。
　アッカは、どうしたものかと迷っていました。また、嵐の中へ出ていくのもいやですし、そうかといって、そんなおそろしいお客のくる家にいるのも、ありがたいことではありません。アッカはしばらく考えてから、オヤユビくんにむかって、「いままでも、たびたび助けてもらいましたが、こんども、なんとか助けてはもらえませんか？」と、言いました。
　すると、ニールスは、よろしい、しょうちした、と、答えました。
「あなたが眠ることができないのは、ほんとにお気のどくですが、」と、アッカは言いました。「どうか、こんやも目をさましていて、キツネがきたら、われわれを起こしてくれませんか。そうすれば、われわれはぶじに逃げられますからね。」
　これはありがたい役めではありませんが、嵐の中にまた出ていくよりは、ずっとましです。そこで、ニールスは、目をさましていようと約束しました。
　ニールスは、ほら穴の入口にいって、嵐をよけるために、石のかげにはいりこんで、見はりをはじめました。
　しばらくそこにすわっているうちに、嵐はしだいに静まってきました。やがて、空は晴れあがって、お月さまの光が、波の上にたわむれはじめました。ニールスは入口に歩いていって、外をながめました。このほら穴は、山のかなり高いところにあって、ここへはけわしい小道がたった一つ通じているだけです。たぶんキツネは、この小道をやってくるのでしょう。
　まだ、キツネの姿は見えませんが、そのかわり、とんでもないものが見えました。ひと目見ただけで、ニールスは、ふるえあがってしまいました。山の下の、わずかな浜べに、大男やら、石で造ったなにかきみの悪いものが、いくつもいくつも、立っているのです。ひょっとすると、これは、ほんとうの人間かもしれません。さいしょは、夢をみているのだろうと思いました。でも、すぐに夢ではないことが、はっきりしてきました。大きな男の姿が、たしかに見えるのです。どうしたって、目のせいではありません。浜べに立っているものもあれば、まるでよじのぼろうとするように、山にぴったりとくっついているものもあります。大きな頭をしているものがあるかと思えば、ぜんぜん、頭のないものもあります。また、腕が一本しかないものもありますし、せなかと胸に、こぶをしょいこんでいるものもあります。ニールスは、いままで、こんなへんてこなものを見たことがありません。
　ニールスは、そこに立ったまま、あまりのきみ悪さに、ふるえあがっていました。それで、キツネの見はりをしていることは、まるで忘れていました。と、そのとき、ガリガリと、石に爪のぶっつかる音が聞こえました。見ると、三びきのキツネが、崖をのぼってきます。ニールスは、いよいよ敵がやってきたなと思ったとたんに、心がすっかりおちついて、いままでのこわい気もちは、どこかへきえてしまいました。それにしても、ガンたちだけを起こして、羊たちを見殺しにしてしまうのはかわいそうです。そこで、なんとか工夫をして、助けてやりたい、と、思いました。
　そう思ったとたんに、ニールスは、ほら穴の中に大いそぎで駈けもどって、大きな牡羊の角をゆすって起こしました。そして、すぐさま、そのせなかにとびのりました。「さあ、起きるんだよ、おじさん、キツネのやつらを、ちょっとおどかしてやろうじゃないか！」と、ニールスはささやきました。
　ニールスは、できるだけ静かにしようとしましたが、それでも、キツネたちは物音を聞きつけたのにちがいありません。ほら穴の入口まできますと、はたと立ちどまって、考えこんでしまいました。
「たしかに、なにか動いたぞ。」と、一ぴきのキツネが言いました。「目がさめてるんだろうかな。」
「おい、ちょっといってみろ。」と、もう一ぴきのキツネが言いました。「なんにしたって、やっこさんたち、おれたちに、はむかえっこねえんだから。」
　キツネたちは、ほら穴の中にかなりはいったところで、また立ちどまって、かぎまわしました。「こんやは、どいつをとってやろうか？」と、いちばんさきのキツネが小声で言いました。
「こんやは、あのでかい牡羊をとろうぜ。」と、いちばんあとのキツネが言いました。「そうすりゃ、あとのやつらはわけなしさ。」
　ニールスは、牡羊のせなかにまたがって、キツネがしのびよってくるのを見ていました。そして、
「それっ、まっすぐに突け！」と、牡羊に、ささやきました。
　牡羊は、もうれつに突っかけました。みるまに、先頭のキツネは、ほうほうのていで、入口に突きもどされました。
「それっ、こんどは左へ突け！」と、ニールスは言って、牡羊の頭を左に向けました。牡羊は、またもはげしく突っかけて、二ばんめのキツネのわき腹を突きさしました。すると、キツネはなんどもころげまわってから、ようやく立ちあがって逃げだしました。ニールスは、三ばんめのやつも、突いてやろうと思いましたが、そいつは早くも逃げていってしまいました。
「あのくらい、やっつけておけば、今夜のところはたくさんさ。」と、ニールスは言いました。
「わしもそう思います。」と、大きな牡羊が言いました。「さあ、わしの毛の中にもぐりこんで、ねころんでください！　あんなにひどい嵐の中を、おもてにいて、番をしていてくださったんだから、こんどはあたたかく、気もちよくやすんでください。」

地獄穴

四月九日　土曜日
　そのつぎの日、大きな牡羊は、ニールスをせなかにのせて、島を案内してまわりました。この島は一つの大きな岩でできていました。そして、まっすぐ切り立った壁と、ひらたい屋根とを持った、大きな家のようでした。牡羊は、まずさいしょに、その岩の屋根にのぼって、ニールスに、そこの牧草地を見せました。ニールスは、この島がとくに羊のためにつくられているような気がしました。というのは、この山には、スカンポや、羊のすきな香りのいい小さい草のほかは、ほとんど何も生えていないのです。
　けれども、崖の上に出れば、羊のすきな草のほかに、まだ見るものがありました。それは、広い広い海です。いまは、お日さまの光をうけて、青々と輝き、ピカピカした白い波をうねらせています。あちこちの岬には、波がくだけて、まっ白にとびちっています。東のほうには、なだらかに長くのびた、ゴットランド島の海岸線が見えます。南西には、大カール島が横たわっていますが、この島も小カール島と同じようにつくられたもののようです。牡羊が、岩屋根のずっとはしにまで歩みよりますと、山壁が見おろせました。見ると、そこには鳥の巣がいっぱいありました。その下の青い海では、いろんな種類のカモメやカモやウミガラスやウミスズメなどが、さかんに小さなニシンをとっていました。そのありさまは、いかにものどかで、楽しそうでした。
「ここは、ほんとうにめぐまれた土地だね。」と、ニールスは言いました。「きみたちは、まったくいいところに住んでいるんだね、羊のおじさん。」
「もちろん、ここはすばらしいところです。」と、牡羊は言いました。まだなにかつけ加えて言いたいようすでしたが、なにも言わないで、ただため息をつきました。「このへんを、ひとりでぶらぶらなさるときには、この山のほうぼうにある裂けめに気をつけなければいけませんよ。」と、牡羊は、しばらくたって言いました。これは、ありがたい忠告です。言われてみれば、なるほど、あちこちに深くて広い裂けめがあります。その中でいちばん大きいのを、じぶんたちは「地獄穴」と呼んでいる、と、牡羊は説明しました。その裂けめは、深さがいく尋もあって、広さも一尋ぐらいはあるということです。「その穴に落っこちたら、それこそおしまいですよ。」と、牡羊は言いました。ニールスは、牡羊の言ったことばには、なにか、特別ないみが、あるような気がしました。
　それから、牡羊は、ニールスをせまい浜べに案内していきました。そこには、ゆうべあんなにこわかった巨人が目の前にずらりと並んでいます。いま見れば、それは大きな岩柱ではありませんか。ニールスは、もしも、石になった鬼というものがあるならば、きっと、こんなふうに見えるにちがいない、と思いました。
　下の浜べも美しいところでしたが、ニールスは、山の上のほうがずっとすきでした。だって下のほうは、きみが悪くてたまりません。なにしろ、あっちにもこっちにも、羊の死がいが、ごろごろしているんですから。つまり、キツネたちは、いつもここでえものを食っては、大さわぎをするのでした。肉だけ食ってしまって、骨ばかり残っているのや、半分ぐらい食いちらかしたのや、ほとんど手もつけてないのや、ともかく、見るもむざんなありさまです。これを見れば、キツネのやつらが、ただおもしろ半分に、羊をおそっては、裂き殺しているのだということがわかります。
　大きな牡羊は、死がいの前に立ちどまらないで、だまってそばを通りすぎました。けれども、ニールスは、そのおそろしい光景をすっかりながめました。見ないではいられなかったのです。
　それから、牡羊はまた山の上にのぼりました。そして、立ちどまって、言いました。「もし力があって、賢いかたが、この悲惨なありさまをごらんになれば、キツネどもが罰をうけないうちは、じっとしてはいらっしゃれないでしょう。」
「しかし、キツネだって、生きていかなければならないからね。」と、ニールスは言いました。
「そりゃあ、そうですとも。」と、大きな牡羊は言いました。「じぶんが生きていくのに、必要いじょうの動物を殺さないものは、生きていたっていいですがね。ところが、あいつらときたらまったくひどいんですよ。」
「この島の持ちぬしのお百姓さんたちがきて、きみたちを助けそうなものだがね。」と、ニールスは言ってみました。
「お百姓さんたちは、なんどもきたんですが、」と、牡羊は答えました。「キツネのやつらは、いつも穴や裂けめにはいりこんでかくれてしまいますから、射とうにも射つことができないんですよ。」
「おじさん、きみたちやお百姓さんたちでも、どうすることもできなかったんだから、ぼくみたいなちっぽけなものには、あいつらをやっつけることなんか、とうていできないね。」
「小さな、すばしこい者のほうが、いろんなことをうまくやってのけるものですよ。」と、大きな牡羊が言いました。
　ふたりは、このことについては、それいじょう何も話しませんでした。そして、ニールスは、山の上で草をたべているガンたちのところへいって、そのあいだにすわりました。牡羊のまえでは、じぶんの気もちをあらわしはしませんでしたが、ニールスは、心の中では羊たちの悲しい運命を、たいへん気のどくに思っていたのです。そして、なんとかして、助けてやりたいと思っていたのでした。「とにかく、アッカやガチョウのモルテンに、話してみよう。」と、ニールスは思いました。「なにか、いいちえを、かしてくれるかもしれない。」
　それからしばらくたって、白いガチョウは、ニールスをせなかにのせて、山の平地をよこぎり、地獄穴のほうに、むかっていきました。
　ガチョウは、なに一つさえぎるもののない山の頂きを、へいきで歩いていきました。じぶんのからだが、まっ白で大きいなどということは、まるで考えてもいないようです。草むらや土の盛りあがったところをさがして、かくれようとするわけでもなく、かまわずまっすぐに、歩いていきます。ちっとも用心をしないのは、まことにふしぎです。なぜって、きのうの嵐のために、けがをしているらしいのですから。右足はびっこをひいていますし、左のつばさは、まるで折れてでもいるように、地べたにひきずっているのです。
　ガチョウは、危険などは、まるでないというような顔つきで、ぶらぶら歩きまわっては、あちこちで、草の葉をつついています。ちっとも、あたりに気をくばってはおりません。ニールスも、ガチョウのせなかにながながとねそべって、青い空を見あげています。いまでは、乗っていることにもなれてきましたので、ガチョウのせなかの上で、立ったり、ねころんだりすることもできたのでした。
　ガチョウも、ニールスも、こんなにのんびりしていましたので、いましも、三びきのキツネが、山の上に姿をあらわしたのには、もちろん、気がつかないようでした。
　キツネのほうは、何もない平地で、ガチョウをつかまえることは、とてもむりだと知っていましたから、さいしょのうちは、ガチョウのあとを追うのは、よそうと思いました。けれども、そのうちに、がまんができなくなって、とうとう、長い裂けめの一つの中にとびこんで、こっそりと、ガチョウのほうに近よろうとしました。キツネたちは、注意ぶかく、そっと、近づいていきましたので、ガチョウの目には、キツネの影さえはいらないようでした。
　キツネたちが、あまり遠くないところまできたとき、ガチョウは、飛びあがろうとしました。つばさをひろげて、羽ばたいてみましたが、からだがうまく持ちあがりません。キツネたちは、ガチョウが、飛ぶことができないと見てとりますと、いきおいづいて前進しました。そして、もう裂けめの中にじっとかくれていることができなくなって、穴からとびだしました。キツネたちはなるべく草むらや岩かげに、身をひそませながら、だんだん、ガチョウに近づいていきました。それでも、ガチョウのほうは、まだ、ねらわれているとは、夢にも知らないようすです。とうとう、キツネたちは、もうすこしでガチョウにおどりかかれるほど、ちかくまでせまりました。そして、ここぞとばかり、三びきいっせいに、ガチョウめがけておどりかかりました。
　ところが、間一髪のところで、ガチョウは感づいたのにちがいありません。さっと、わきへとびのきました。キツネどもは、もののみごとに失敗です。けれども、まだまだ危険はせまっています。なにしろ、ガチョウは、ほんの二メートルぐらいさきへいっただけなのですから。おまけに、びっこをひいているではありませんか。そしてガチョウのモルテンは、あわれにも、一もくさんに逃げていきます。
　ニールスは、ガチョウのせなかに、うしろむきにすわって、キツネたちにむかってさけびました。
「きさまたちは、羊の肉を食って肥りすぎたな。やい、キツネめ。ガチョウさえつかまえられないじゃないか。」と、さかんにからかいました。怒りくるったキツネたちは、われを忘れて追いかけました。
　白いガチョウは、あの大きな裂けめのほうへ、まっすぐに走りました。そこまでいくと、つばさをひとうちして、ひらりと、飛びこえました。すぐそのあとには、キツネたちが迫っています。
　ガチョウは、地獄穴を飛びこえてからも、まえと同じように、早く走りつづけました。けれども、二メートル走ったか走らないうちに、ニールスが、ガチョウの首をたたいて言いました。
「もう、とまってもいいよ、モルテンや！」
　そのしゅんかんに、うしろのほうで、ものすごいさけび声とどうじに、爪でガリガリひっかく音、つづいてズシーンと、からだが落ちる音が聞こえました。そしてもう、キツネの姿は見えませんでした。
　あくる朝、大カール島の燈台守は、戸口の下に、一枚の木の皮がさしこんであるのを見つけました。それには、角ばった字で、「小カール島のキツネどもが、地獄穴に落っこちたよ。早くいってごらん！」と、ほりつけてありました。
　そこで、燈台守は、言われたとおりにいってみました。

14　二つの都

海の底の都

四月九日　土曜日
　おだやかな、よく晴れた夜でした。もう、ガンたちは、ほら穴の中にかくれて眠る必要はありません。みんなは山の頂きに立って眠りました。ニールスはそのそばのみじかい枯れた草の中にねころんでいました。
　お月さまが、あかるく輝いていましたので、ニールスは、ながいこと眠れませんでした。そして、ねころんだまま、家を出てから、もうどのくらいたつだろう、と、ふと思いました。かぞえてみますと、あれからもう三週間になります。すると、こんやは復活祭の前夜ということになります。
「ブローキュッラから、魔女たちが家へやってくるのは、こんやだな。」ニールスはそう思いながら、ちょっと笑いました。というのは、妖精とか、小人のようなものは、ふだんからこわがっていましたが、魔女なんてものが、この世の中にいるとは信じていませんでしたから。
　こんや、もし魔女がくるとすれば、きっとニールスにも見えるにちがいありません。なにしろ、空はこんなにあかるく晴れわたっているのですから、これでは、どんなにちっぽけな点でも、動いてさえいれば、かならず見えるはずです。
　そんなことを、あれやこれやと考えながら、あおむけにねころんで、空を見あげていますと、なんだか、とても美しいものが見えてきました。お月さまは、かなり高いところで、まんまるくあかるく輝いていました。すると、お月さまのおもてをかすめて、一羽の大きな鳥が飛んできました。まるで、お月さまの中から飛びだしてきたようです。その鳥の姿は、あかるいお月さまを背景にして、黒く見えました。ひろげたつばさは、ちょうどお月さまのはしから、はしまでとどいています。からだは小さくて、細長い首と、細長い足をしています。ニールスはすぐに、コウノトリにちがいない、と気がつきました。
　まもなく、コウノトリのエルメンリークくんが、ニールスのそばにおりてきました。コウノトリは、からだをまげ、くちばしでニールスをつついて、起こしました。
　すぐに、ニールスは起きあがりました。「ねむっちゃいないよ、エルメンくん、」と、ニールスは言いました。「どうしてこんなよなかに出かけてきたの？　グリンミンゲ城はどんなぐあい？　アッカおばさんに会いたいのかい？」
「こんやは、ねるのにはもったいないくらい、あかるいでしょう、」と、エルメンリークくんは答えました。「だから、仲よしのオヤユビさんをたずねに、カール島まで飛んできたんです。あなたが、こんや、ここにいらっしゃることは、カモメくんから聞きましたからね。わたしはまだ、グリンミンゲ城へは移らずに、あいかわらずポンメルンに住んでいるんですよ。」
　ニールスは、エルメンリークくんがたずねてきてくれたのを、心から喜びました。ふたりは、古い友だちどうしのように、つぎからつぎへといろんな話をしました。さいごに、コウノトリは、こんなに美しい晩なんだから、しばらくいっしょに遊びにいってみないか、と言いだしました。
　ニールスは、お日さまののぼるまえに、ガンたちのところへつれて帰ってくれるなら、もちろん喜んでいきたい、と言いました。コウノトリは、そうすると約束しました。そこで、ふたりは出かけました。
　エルメンリークくんは、またもやお月さまをめがけて、まっすぐに飛んでいきました。高くのぼればのぼるほど、海は下へ下へと、沈んでいきました。けれども、コウノトリの飛びかたが、とってもじょうずで、いかにもふんわりとしていましたので、乗っているニールスは、まるで空にじっととまっているような気がしました。
　エルメンリークくんがおりはじめて、下へ着いたとき、ニールスは、こんどはいやに早かったな、と思いました。けれども、ほんとうは、とても遠くまで飛んできたのです。なぜなら、コウノトリは、ニールスをおろしたとたんに、口をひらいて、「ここは、ポンメルンです。あなたは、ドイツにいるんですよ、オヤユビさん。」と、言いました。それを聞いて、ニールスはあきれかえってしまいました。じぶんが外国にきていようなんて、夢にも知らなかったのですから。ニールスは、すばやくあたりを見まわしました。ふたりは、やわらかい、美しい砂でおおわれている、さびしい浜べに立っていました。海べにそって、テンキ草の生えている砂丘が、長くつづいています。その砂丘は、あまり高くはありませんでしたが、ニールスには、陸地のほうが見えませんでした。
　エルメンリークくんは、砂丘の上に立って、片足をあげ、頭をうしろにそらせて、くちばしをつばさの下につっこみました。
「わたしが休んでいるあいだ、しばらく浜べをぶらついてきてもいいですよ。」と、コウノトリはオヤユビくんに言いました。「けれども、またここへもどってこられないとこまりますから、あんまり遠くへいっちゃだめですよ。」
　ニールスは、まず、むこうの陸地がどんなふうか見ようと思って、砂丘の一つにのぼろうとしました。ところが、二、三歩あるいたかと思うと、なにか固いものが、木靴の先にぶっつかりました。からだをかがめてみますと、砂の上にすっかりさびついた、小さな銅貨が、一枚落ちています。でも、あんまりきたないので、ついひろう気にもなれず、足でけとばしてしまいました。
　ところが、もう一どからだを起こしたとき、ニールスは、どんなに驚いたことでしょう！　それもそのはず、二足とは離れない目のまえに、高い黒ぐろとした壁と、大きな塔のある門が立っているではありませんか。
　たったいま、かがんだときには、そこには、たしかに海がキラキラと、なめらかに輝いていました。それが、いまは、狭間や塔のある壁で、かくされてしまっているではありませんか。さっき目のまえには、海草がうちよせられて、山のようになっていましたが、いまは、そこには大きな門が、ひらかれているのです。
　ニールスは、これはきっと、まぼろしみたいなものだろうと思いました。けれども、べつにこわがる必要はないと思いました。たしかに、これは、危険な魔物や悪魔のようなものではありません。壁も門も、じつに美しくできています。それで、ニールスも、つい、そのうしろにはどんなものがあるか、見たくてたまらなくなってきました。「よし、こいつはいったいなんだか、見とどけてやろう。」と、思いながら、ニールスは門を通って、はいっていきました。
　アーチの下には、ニシキもようの服装をした番兵たちが、えの長いやりをかたわらにおいて、すわりこんで、サイコロ遊びをしていました。みんなは、遊びにむちゅうになっていましたので、ニールスがそばを駈けていったのには、すこしも気がつきませんでした。
　門にすぐつづいて、大きな平らな石をしきつめた、広場がありました。まわりには、高いりっぱな建物が立ちならんでいて、そのあいだに、せまくて長い通りがありました。
　門に面した広場には、人びとがいっぱいいました。見れば、男の人は、しゅすの着物の上に、毛皮をふちにつけた長いマントを着て、はね毛の飾りのついたぼうしをななめにかぶり、胸には、世にも美しいくさりをさげています。どの人もどの人も、すばらしい身なりをしているので、みんな、王さまのように見えます。
　女の人たちは、ずきんをかぶり、せまいそでの長い着物をきています。やっぱり美しく着かざってはいますが、とても男の人たちの華やかさには及びません。
　このありさまは、おかあさんがときどき、箱の中からとりだして見せてくれた、昔のお話の本の中の絵に似ています。ニールスは、なかなか、じぶんの目を信じることができませんでした。
　けれども、男よりも女よりも、もっともっとふしぎに見えるのは、この都です。どの家も、破風が通りに面するようにつくられています。しかも、その破風が、きらびやかに飾りたててあって、まるで、どれがいちばん美しいかを、きょうそうしあっているようです。
　新しいものを、きゅうにたくさん見ても、それをすっかりおぼえてしまうことは、なかなかできないものです。しかし、ニールスはあとになってからも、段々のある破風だけは思いだすことができました。そこには、キリストと使徒の像が、安置されていました。それから、壁のくぼんだところにいろいろの像が置かれている破風や、色ガラスをはめこんだ破風や、白と黒の大理石でしまをなしている破風なども、思いだすことができました。ニールスは、すっかり感心して、こういうものをながめていましたが、とつぜん、「こんなものは、まだ、見たことがない。これからも、二どと見ることはないだろう。」と、思いました。そこで、あわてて、町の中へ駈けだしていって、通りをのぼったりおりたりしました。
　通りはせまくて、まっすぐでしたが、ニールスの知っている都会とはちがって、ここにはいたるところに人がいました。年とった女の人たちは戸口にすわって、紡車をつかわずに、ただ一本の糸まき竿で、糸をつむいでいました。商店は、ちょうど露店のようなぐあいに、通りにむかって開いていました。職人たちは、みんなおもてで仕事をしていました。あるところでは、魚油をにたてていましたし、またあるところでは、皮をなめしていました。またべつのところでは、なわをなっていました。
　もし、時間さえあったなら、ニールスは、いろんな物の造りかたを、残らずおぼえてしまうことができたでしょう。ニールスは、このほかにも、いろんなものを見ました。たとえば、宝石師がゆびわやうでわに宝石をちりばめるところや、挽物師が鉄をあつかうところ、それからまた、靴屋が赤いやわらかい靴をつくるところや、金糸工が金糸をぐるぐるまわすところや、織物師が金や銀を反物の中に織りこむところなどを見ました。
　でも、立ちどまっているひまはありません。なにもかもが消えてしまわないうちに、できるだけたくさんの物を見ておこうと思って、ニールスは、どんどんさきへかけていきました。
　高い壁が市のまわりをとりまいていました。ちょうど、小さな垣が畑のまわりをとりまいているように。どの通りのはしにも、塔と狭間のある壁が見えました。そして、その壁の頂きには、輝くばかりの武装をした兵士が歩いていました。
　ニールスが、その都のはしからはしへ走っていきますと、こんどは、ちがった門に出ました。そのむこうには、ひろびろとした海と港が見えます。港には、まんなかにこぎての席があって前とうしろにへやのある、古風な船が浮かんでいました。ちょうどいま、あるものは積荷をし、あるものはいかりをおろそうとしていました。仲仕や商人が、いそがしそうに走りまわっていました。そこらじゅうが、がやがやしていました。
　けれども、ニールスは、気がせくので、ここにも長くいるわけにはいきません。また、町の中に駈けもどって、大きな広場にきました。そこには、三つの高い塔のある。大きな教会が立っていました。その深いまる天井のあるアーチには、たくさんの像が置かれていました。そこの壁は、美しい彫刻がほどこされていて、一つ一つの名も、みんなとくべつに飾りをつけられています。そして、その開いた門から見えるすばらしさには、ただ、ただ驚くばかりでした。金の十字架、金で飾りたてた祭壇、金の衣を着た僧侶たち！　教会のまむかいには、ギザギザのある屋根を持った建物がありました。その屋根の上には、塔が一つ、空にむかってスラリと高くつきでていました。それはたぶん、市役所でしょう。教会と市役所のあいだには、広場をとりかこんで、さまざまの飾りのついた、見るも美しい破風のある家々が立ち並んでいました。
　ニールスは、あんまり駈けまわりましたので、あつくなって、くたびれてきました。もう町の中のいちばんすてきなものは見てしまったんだから、これからは、もうすこし、ゆっくり歩こうと思いました。やがて、ある通りにまがっていきました。そこは、町の人たちが美しい布を買うところのようでした。見れば、おおぜいの人たちが、小さな店の前に集まっています。商人は、金らんや、かたいしゅすや、おもたいにしきや、ピカピカしたビロードや、うすいヴェールや、クモの巣のようにすきとおったレースなどをひろげていました。
　さっき、早く走っていたときには、だれひとり、ニールスには注意をはらいませんでした。みんなは、ちっぽけなネズミが、ちょこちょこ駈けまわっているのだろうぐらいに思っていたのです。ところがいま、ゆっくりと通りを歩いていきますと、商人のひとりが、ニールスの姿を見つけて、手まねきしました。
　ニールスは、さいしょはこわくて、思わず逃げだそうとしました。けれども、商人はニコニコしながら手まねきしては、ニールスの気をひこうとするように、美しい絹ビロードを、台の上にひろげてみせました。
　ニールスは、頭をふりました。そして、「ぼくなんか、いつまでたっても、そんな布は一ヤードだって買えやしないんだ。」と、心に思いました。
　ところが、こんどは、通りにならんでいる店の人たちも、みんなニールスの姿を見つけました。目のとどくかぎり、どこにもかしこにも商人が立って、手まねきしています。みんなは、りっぱなお客のことは忘れてしまって、ニールスにばかり気をとられているのです。見ていますと、商人たちは店のすみっこに走っていっては、いちばんいい品物を持ってきて、それを台の上にならべながら、むちゅうになって手をふっているのです。
　ニールスは、かまわずどんどん歩いていきました。すると、商人のひとりが、台をとびこえてきて、ニールスをひきとめました。そして、銀いろの布や、まぶしいほどピカピカ光る美しいもうせんを、ニールスの目の前にひろげてみせました。
　ニールスは、ただ、ニコニコするよりほかはありませんでした。ニールスのような、ちっぽけな、まずしいものには、そんな品物を買うことができないぐらい、わかりそうなものです。ニールスは、立ちどまって、じぶんはなんにも持っていないから、このままいかせてくれということを、みんなに知らせようと思って、からっぽの両手を、ひらいてみせました。
　すると、商人はうなずいて、指を一本あげてみせながら、その美しい品物の山を、ニールスのほうにつきだしました。
「この人は、金貨一枚で、これをみんな売るっていうんだろうか？」と、ニールスは思いました。
　と、商人はおっそろしく小さな、すりへった銅貨を一枚とりだして、ニールスに見せました。そして、なんとかして売ろうと、むちゅうになって、さらに、大きなおもたい銀のさかずきを二つ、その山につけ加えました。
　ニールスは、ポケットの中をさぐりはじめました。もちろん、銅貨一枚持っていないことは、しょうちしきっているのですが、思わずしらずそうしてみたのです。
　ほかの商人たちは、このあきないがどうなることかと、じっと見守っていました。そして、ニールスが、ポケットの中をさがしはじめたのを見ますと、みんなは、じぶんの店にとんで帰って、金や銀の装飾品を手に持てるだけ持ってきて、ニールスのまえにならべてみせました。そして、銅貨一枚くれれば、これをみんなあげるということを、手まねで知らせました。
　ニールスは、チョッキのポケットからズボンのポケットまでひっくりかえして、なんにも持っていないことを、商人たちに見せました。と、どうでしょう。ニールスよりも、ずっといい身なりをしているこの商人たちの目には、みるみるうちに涙があふれてきました。みんなが、あんまり悲しんでいるようすなので、ニールスも、すっかり心を動かされました。そして、どうにかして助けてやれないものだろうかと考えこみました。すると、ついさっき、浜べで見た、さびだらけの銅貨のことを、ふっと思いだしました。
　ニールスは、すぐさま通りを駈けおりていきました。すると、運よく、さいしょにはいった門のところに出ました。大いそぎでそこを通りぬけて、さっきあった小さな銅貨をさがしはじめました。
　すぐに見つかりました。ところが、それを拾いあげて、町の中へ駈けもどろうとしたとたんに、これはまた、どうしたというのでしょう。目のまえに見えるものは、ただ海ばかりで、もはや壁もなければ、門もありません。番兵の姿も見えなければ、通りも、家も見えません。ただ、海がひろがっているばかりです。
　ニールスの目には、思わず涙がうかんできました。さいしょのうちは、じぶんがいま見たものは、まぼろしであったろうと思っていましたが、それもまもなく忘れてしまいました。ただ、なにもかもが美しかったということだけが、思いだされるのでした。そして、都がとつぜん消えてしまったいまは、口で言いあらわせないほどの深い悲しみをおぼえるのでした。
　そのとき、コウノトリのエルメンリークくんは目をさまして、ニールスのところへいきました。けれども、ニールスは、コウノトリの来たことに気がつきませんでした。そこでコウノトリは、気づかせるために、くちばしでニールスをつつきました。
「あなたはここに立って、わたしのように眠っていたんですね。」と、エルメンリークくんは言いました。
「ああ、エルメンリークくん、」と、ニールスは言いました。「いまさっき、ここにあった都はなんだったの？」
「都を見たんですって？」と、コウノトリは言いました。「あなたは眠って、夢を見ていたんですよ。」
「いいや、眠ってなんかいなかったよ。」と、オヤユビくんは言って、いま見たことを、のこらず、コウノトリに話して聞かせました。
　すると、エルメンリークくんはこう言いました。「わたしの考えではね、オヤユビさん、やっぱりあなたはこの浜べで眠って、いまのことをみんな、夢にみたんだと思いますね。そのわけを、いまお話ししましょう。じつは、鳥の中でいちばん物知りのバタキーというカラスが、わたしにこんなことを話してくれたことがあるんですよ。むかし、この浜べには、ヴィネータという名まえの都があったそうです。その都は世界じゅうのどんな都よりもお金があって、りっぱでした。ところが、ふしあわせなことには、その住民たちがだんだん、こうまんちきになって、はでなことがすきになったんです。バタキーの話では、そのばちがあたって、ヴィネータの都は、洪水のために海の底に沈められてしまったそうです。けれども、その住民たちはそのままで、死んではいませんし、その都にしても、やっぱりほろびてはいないんです。そして、百年めに一どずつ、むかしのままの華やかなありさまで、海の底から浮かびあがってきて、かっきり一時間だけ、この浜べにじっとしているんです。」
「うん、その話はほんとうにちがいない。」と、オヤユビくんは言いました。「だって、ぼく、それを見たんだもの。」
「ところが、その一時間のあいだに、ヴィネータの商人が、だれかに品物を売ることができなかったばあいには、その時間がすぎると、また都は、海の底に沈んでしまうんですよ。だから、もしもあなたがね、オヤユビさん、ほんのちっぽけな銅貨でも持っていて、商人に払ってやることができたら、ヴィネータはいつまでもこの浜べにとどまっていて、そこの住民たちも、ほかの人間たちと同じように、一生を暮らして、死ぬことができたでしょうよ。」
「ああ、エルメンリークくん、」と、ニールスは言いました。「どうしてきみが真夜中にやってきて、ぼくをつれだしたのか、いまになって、やっとわかったよ。ぼくがあの古い都を救ってやれると、きみは思っていたんだね。だけど、きみの思うように、うまくいかなくって、ほんとうにざんねんだよ。」
　ニールスは両手で顔をおおって、泣きだしました。ニールスとエルメンリークくんのどちらが、よけい悲しそうだったか、それはちょっと言うことができません。

生きている都

四月十一日　月曜日
　復活祭の月曜日に、ガンたちとオヤユビくんは、また旅に出ました。そしてこんどは、ゴットランド島の上にきました。
　この大きな島は、みんなの下に平らによこたわっています。地上は、スコーネと同じように市松もようで、教会や農園がたくさんあります。ただスコーネとちがうのは、ここには畑のあいだに草の茂った牧場が多いのと、農家が庭をとりかこんでつくられてはいないことです。それから、このゴットランド島には、たくさんの公園や、高い塔をもった、古いお城のある大きな荘園もありません。
　ガンたちは、オヤユビくんのために、ゴットランド島の上を通ることにしたのです。なにしろ、オヤユビくんはもう二日のあいだしおれきっていて、ろくに口もきかなかったのですからね。あんなにもふしぎに、目の前にあらわれてきた古い都のことが、頭にこびりついていて、どうしても忘れることができなかったのです。ニールスは、いままであんなにりっぱな美しいものを見たことがありませんでした。そして、それを救ってやれなかったのが、ざんねんでたまりませんでした。いつもはそんなにクヨクヨする子どもではありませんでしたが、いまはあの美しい建物や、りっぱな人たちのために、心から悲しんでいるのでした。
　アッカとガチョウは、口ぐちに、そういうものはみんな夢かまぼろしなんだと言ってきかせましたが、ニールスは、そんなことばには、耳をもかそうとはしませんでした。ニールスは、だれがなんと言っても、じぶんの目で、あの都をたしかに見たんだと信じきっているのです。けれども、ニールスがあんまりひどく悲しんでいるので、仲間のガンたちも、オヤユビくんのことが心配になってきました。
　ニールスが悲しみにしずんでいたとき、とつぜん、年とったカクシが戻ってきました。カクシは、嵐のためにゴットランド島のほうへ吹き流されて、みんなのいどころをさがすために、その島じゅうを飛びまわらなければなりませんでした。そして、やっと、カラスから、みんなが小カール島にいるということを聞いて、飛んできたのです。そして、オヤユビくんが、ゆううつになっていることを聞きますと、すぐさま、こう言いました。
「オヤユビさんが、古い都のことで悲しんでいるのなら、すぐに、なぐさめてあげられますよ。わたしについていらっしゃい。きのう、わたしの見たところへつれていってあげれば、すぐに気がはれますよ。」
　それから、ガンたちは、羊たちにわかれをつげて、カクシがオヤユビくんに見せたいという場所へ、いま、むかっているところでした。オヤユビくんは、しょげかえってはいましたが、それでも、いつものように、下を見おろさずにはいられませんでした。
　ニールスは、さいしょのうちは、この島も小カール島とおなじように、——もちろん、小カール島よりは、ずっとずっと大きいけれども——けわしい絶壁をなしているように思いました。しかし、あとになって、この島は、ひらたくなっていることを知りました。ちょうど、のし棒でねりこのかたまりをのすように、きっと、だれかが大きなのし棒で、この島の上をのしたものでしょう。でも、それがおせんべいのようにすっかりひらたくなるまで、のしつづけたわけではありません。というのは、ガンたちが海岸にそって飛んでいるあいだに、ほら穴や岩柱のある、白い石灰質の高い壁も、あちこちに見えました。けれども、この島は、たいていのところがたいらで、浜べもなだらかに、だんだん海のほうへさがっていっています。
　みんなは、ゴットランド島で、月曜日の午後を楽しくのどかにすごしました。いまは陽気もすっかり春らしく、あたたかくなっていました。木々には、大きな芽がもえだし、牧草地には、いちめんに春の花が咲きだしていました。ポプラの木の、ほっそりと長く垂れた枝は、ゆらゆらとゆらめいていました。どの家のまわりにも、小さな庭が見えましたが、そこには、スグリの茂みが青々としていました。
　あたたかな陽気と、もえだした芽や花が、人びとを庭や道にさそいだしました。いく人かが集まりますと、きまって、そこでは遊戯がはじまりました。子どもたちばかりでなく、おとなまでもいっしょに遊びました。的をきめて石をぶっつける競争をしたり、ガンたちにとどくくらい空高く、ボールをほおり投げたりしました。おとなたちが、そうやって遊んでいるのをながめるのは、ほんとうに気もちのいい、楽しいものです。ニールスも、あの古い都を救うことができなかった悲しみを忘れることができたなら、きっと、喜んだことでしょう。
　それにしても、ニールスは、この旅がすてきな旅だと思わずにはいられませんでした。いくさきざきで、楽しそうな歌声がひびいてきます。子どもたちは、まるく輪になっておどりながら歌っていました。とある木の茂った丘では、黒や赤の着物を着た人たちが、おおぜいすわって、ギターをかなでたり、ラッパを吹いたりしていました。また、ある通りでは、おおぜいの人たちが歩いてきました。それは、楽しい遠足をしている、禁酒会員たちでした。ニールスは、金文字で書いた大きな旗がヒラヒラしているのを見て、すぐにそれとわかりました。その人たちは、いつまでもいつまでも、歌っていました。
　それからのち、ニールスは、ゴットランド島というと、いつも遊戯と歌とをいっしょに思いだすのでした。
　ニールスは、長いあいだ下を見おろしていましたが、ふと、目をあげてみました。いや、そのおどろいたこと！　いつのまにかガンたちは島の内部をはなれて、西にむかい、海岸に来てしまっているのです。いまは、ひろびろとした青い海が、目の前にひろがっているではありませんか！　けれども、ニールスがおどろいたのは、海ではなくて、その海岸にあらわれてきた町です。
　ガンたちのむれは、東から飛んできました。お日さまは、いま、西に沈もうとしています。みんなが、その町に近づいたとき、町の壁や、塔や、破風のある高い家々や、教会などが、あかるい夕空を背景にして、くっきりと、黒く、浮かびあがって見えました。そのためニールスには、この町が、ありのままの姿には見えないで、ほんのちょっとでしたが、まるで、復活祭の前夜に見た、あの都と同じように美しいような気がしました。
　ところが、その町のすぐ近くまで来てみますと、それは、あの海の底から浮かびあがった都に似てもいますし、また、似てはいないようにも思われます。この二つの町をくらべてみますと、それはちょうど、人が、ある日には、むらさきの着物と宝石とで身をかざり、また、ある日には、ぼろにくるまっているのを見るのと、おなじようなものです。
　そうです、この町も、いつかは、あの海べで見た海の底の都のようだったこともあるでしょう。じっさい、この町も、塔や門のある壁で、とりかこまれています。しかし、この町は、こうして地上にとどまることをゆるされてはいますが、この町の塔には屋根がなくて、うつろで、がらんとしています。門にはとびらもないし、番兵や、兵士の姿も見えません。きらびやかな華やかさは、すっかり影をひそめて、ただ、はだかの灰色の骨組が、残っているばかりです。
　ニールスは、この町の上まで飛んできたとき、大部分の家が、小さな低い木造の家であることに気がつきました。むかしのままの、高い破風のある家や、教会は、二つ三つ、あちこちに立っているだけでした。破風のある家々は、白くぬられていて、なんの飾りもついてはいませんでした。けれども、ニールスは、ついきのうの晩、あの海の底に沈んだ都を見たばかりでしたから、それらの家々が、あるものは彫像で、またあるものは黒や白の大理石で、かざられていたにちがいないと思いました。
　古い教会にしても、おなじことでした。たいていのものが屋根はなく、中はがらんとしていました。窓口は荒れはて、床石はこわれて、草がぼうぼうと生え、壁にはツタが一めんにからみついていました。しかし、ニールスには、これらの教会が、むかしはどんなふうだったか、想像してみることができました。壁には彫刻がほどこされ、絵がかざりつけられていたことでしょう。内陣には、祭壇や、金ピカの十字架が、立っていたことでしょう。そしてそこには、金の衣をまとった僧侶たちが、歩いていたことでしょう。
　ニールスは、せまい町の門も見ました。そこには、祭日の午後だというのに、人の姿はほとんど見えません。でもニールスは、むかしは、りっぱに着かざった人たちが、おおぜいいたことを知っていました。それから、こういう門が、むかしは、あらゆる種類の職人のいっぱいいる、仕事場のようなものであったことも、ちゃんと知っていました。
　けれども、この町が、いまもなお美しく、しかも、めずらしいものだということには、ニールスは、すこしも気がつきませんでした。ピカピカした窓ガラスのうしろに、テンジクアオイのある、裏通りのこじんまりとした家は、ニールスの目には、はいりませんでした。それらの家は、黒い壁にかこまれて、白くふちどられていました。それから、たくさんの美しい庭園や並木道も、また、草におおわれた廃墟のすばらしさも、ニールスの目にはうつりませんでした。なにしろ、ニールスの心は、ゆうべ見た、あの華やかな都のありさまで、いっぱいでしたので、目の前にあるものの美しさは、なにも認めることができなかったのです。
　ガンたちは、町の上を二ど三ど、いったりきたりしました。オヤユビくんに、なにもかも、すっかり見せようというのです。とうとうしまいに、ガンたちは、教会のあとの、草の生えた床の上におりて、そこで、一晩をすごすことにしました。
　ガンたちが、ねむってしまってからも、オヤユビくんは、長いあいだ、目をさましていました。そして、こわれた天井から、うすもも色の夕空を、ながめていました。こうして、しばらくもの思いにしずんでいましたが、やがて、あの海の底の都を、救うことができなかったからといって、もう、なげくのはよそう、と、心にきめました。
　そうだ、もう、なげくのはよそう。ゆうべ見た、あの都も、もし、海の底に沈まなかったとしたら、しばらく時がたつうちには、たぶん、この町とおなじように、荒れはててしまったろう。そして、あの都も、きっと時の流れにはさからえないで、しまいには、この町とおなじように、屋根のない教会、飾り一つない家、人の姿も見えない通りとなってしまったろう。それならば、華やかな姿のままに、海の底深くしずんでいるほうが、かえっていい。
「なるようになったのが、いちばんよかったんだ。」と、ニールスは、心に思いました。「もし、ぼくに、あの都を救える力があったとしても、いまとなっては、もうとても、救う気にはなれない。」
　ニールスは、それからはもう、このことについては、悲しみませんでした。

15　スモーランドの言いつたえ

四月十二日　火曜日
　ガンたちは、海の上をかなり飛んで、北部スモーランドのユスト地方におりました。この地方は、陸になりたいのか、それとも、海になりたいのか、どっちとも、心をきめかねているようでした。つまり、いたるところに湾がいりこんでいて、それが陸地を、島やら、半島やら、岬やらにきりわけているのです。海の力が、ひじょうに強いために、低いところは、すっかり水の下にかくされてしまって、わずかに、丘や山だけが、海の上につきでています。
　ガンたちが、海のほうからやってきたときは、夕がたでした。小高い丘になった陸地は、キラキラ光る湾のあいだに、美しくよこたわっていました。あちこちの島々には、小屋や小さな家が見えました。そして、奥へ進んでいくにつれて、家々も大きく美しくなりました。しまいには、大きな白いお屋敷も見えてきました。海岸にそって、木々が立ちならんでいました。そのむこうには、畑がありました。小さな丘の上にも、木々が立っていました。それを見ているうちに、ニールスは、おもわず、ブレーキンゲを思いだしました。そこでも、ブレーキンゲとおなじように、陸と海とが、おたがいの持っている、いちばんいい、いちばんすばらしいものを、見せあおうとでもするように、こんなにも美しく、こんなにもなごやかに、むかいあっているのです。
　ガンの仲間たちは、「ガン湾」にある、草も木も生えていない島におりました。みんなは、岸べをひとめ見て、あちこちの島にいっているあいだに、春がだいぶ深まったことがわかりました。大きなりっぱな木々は、まだ葉をつけてはいませんが、その下の地面には、白、黄、青の、色とりどりの春の草花が咲いています。
　ガンの仲間たちは、この花の敷物を見たとき、びっくりしました。南部地方で、すこしぐずぐずしすぎたと思ったのです。
　そこで、アッカは、「スモーランドでやすんでいるひまはないから、あしたの朝すぐに、エステルイエートランドをこえて、北にむかって旅をつづけなければならない」と、みんなに言いました。
　これでは、スモーランドはなにも見られないことになってしまいます。ニールスは、それがざんねんでたまりませんでした。というのは、まえからスモーランドのことは、ほかの地方よりも、ずっといろいろ話に聞いていたからです。で、ニールスは、ぜひとも、じぶん自身の目で見たかったのでした。
　きょねんの夏、ニールスは、うまれ故郷に近いヨルドベリヤの近くの、ある農家で、ガチョウ番にやとわれていました。そのとき、ほとんどまいにちのように、やっぱりガチョウの番をしている、スモーランドうまれのふたりの子どもに出あいました。その子どもたちは、スモーランドのことで、たびたび、ニールスをおこらしたものでした。
　もっとも、ねえさんのオーサが、ニールスをおこらせたわけではありません。この子は、りこうな子で、そんなことはしませんでした。ところが、弟のマッツのほうは、どうにもしようのない、いたずらっ子でした。
「おい、ニールスくん、きみは、スモーランドとスコーネが、どんなふうにしてできたか、知ってるかい？」と、マッツはたずねたものでした。そして、ニールスが知らないと答えますと、すぐに、スモーランドのむかしからの言いつたえを話しはじめました。
「じゃあ、話してやろう。いいかい、神さまが世界をおつくりになっていた時のことだぜ。神さまが、その仕事をなさっているところへ、聖ペテロが通りかかったんだ。ペテロは立ちどまって、ながめていたけれど、まもなく、それは骨のおれるお仕事ですか、と、きいたんだ。すると、神さまは、『うん、そんなにやさしくはないね。』と、お答えになったのさ。ペテロは、しばらくそこに立って見ていたんだ。神さまが、いかにもやすやすと、陸地をつぎからつぎへとおつくりになるのを見ているうちに、じぶんでもやってみたくなった。そこで神さまにむかって、『ちょっとお休みになってはいかがでしょう。そのあいだ、わたくしがかわりに、お仕事をいたしておりますから。』と、言ったんだ。でも、神さまは、そうさせたくはなかったので、『おまえにまかせておけるほど、おまえのうではたしかかな。』と、お答えになったのさ。すると、聖ペテロは腹をたてて、わたしだって、神さまとおなじように、りっぱな土地をつくることができます、と、言ったんだ。
　そのときは、ちょうど神さまが、スモーランドをこしらえていらっしゃるところだった。まだ、半分もできてはいなかったけれど、ひじょうに美しい、よく肥えた土地になるように見えた。ところで、神さまは、ペテロにいけないと言うのもかわいそうだと思われたんだ。それに、こんなにうまくできかけているんだから、だれがやっても、できそこなうようなこともあるまいと思われたんだね。そこで、『それなら、おまえとわしのどちらがうまくやるか、ひとつ、ためしてみようではないか。おまえは、はじめてだから、わしのやりかけたあとを、つづけてやるがいい。わしは、新しい土地をつくることにするから。』と、言われた。ペテロは、すぐにしょうちして、ふたりは、めいめいの場所で、それぞれ仕事にかかったんだ。
　神さまは、すこし南へいかれて、スコーネをつくりはじめたけれど、すぐに、つくりあげてしまった。そこで、こんどは、ペテロにむかって、おまえの仕事はおわったか、と、たずねられ、新しい土地を見にきてはどうか、と、言われた。すると、ペテロは、『はい、とっくにできあがっております。』と言ったけど、その声の調子からみると、ペテロは、じぶんのやった仕事に、いかにもまんぞくしているようだった。
　ペテロは、神さまのこしらえたスコーネをながめたとき、じつによくできていると感心した。耕すのにもってこいの、よく肥えた土地で、山というようなものは、ほとんどない。見わたすかぎりが、平地なんだ。人間がそこに住んで、気もちよくくらすことができるようにとのお考えから、神さまがこしらえられたことは、はっきりしていた。ペテロは、『ほんとうに、これはよい土地ですね。けれども、わたしのつくったほうが、もっといいと思います。』と、言った。『それでは、それを見ようではないか。』と、神さまがおっしゃった。
　その土地は、ペテロが仕事をはじめたときには、もう北と東は、できあがっていたんだ。だから、南と西とまんなかが、ペテロのこしらえたものだったのさ。ところが、神さまは、その土地をごらんになったとたんに、びっくりなさって、『いったい、おまえは、なにをこしらえようというのだ？』と、おっしゃった。
　そう言われて、ペテロもあたりを見まわして、じぶんでも、驚いてしまった。さいしょ、ペテロのつもりでは、あたたかい土地をつくるのが、いちばんいいだろうと思ったんだ。そこで、たくさんの石をつみあげて、高地をきずきあげた。つまり、こうすれば、太陽に近くなるから、それだけ、太陽の熱をたくさん受けられるだろうと思ったわけさ。そして、そのつんだ石の上に、ペテロは、すこしばかり土をかけて、これで、すべてがうまくいくものと思いこんでいたんだ。
　ところが、ペテロが、スコーネにいっているあいだに、ものすごい夕立が、二どばかりあったんだ。そのために、せっかくペテロのやった仕事が、台なしになってしまったのさ。神さまが、おいでになって、ごらんになったときには、土はすっかり洗い流されてしまい、いたるところに、はだかの石肌があらわれているというしまつなんだ。いちばんいいところでも、岩の上にねんどやおもたい砂利があるくらいのもので、とにかく、見るからにひんじゃくだった。だから、ここには、植物にしても、せいぜい、ネズとか、エゾマツとか、コケとか、ヒースぐらいのものしか生えないだろうということは、一目でわかったほどさ。ところが、水だけは、じつにたくさんあった。山の裂けめという裂けめに、みちあふれていたんだ。どこにもかしこにも、湖や川や小川がある。もちろん、沼や沢もひろびろとひろがっている。しかし、なによりもまずいのは、ある地方では水が多すぎるっていうのに、ある地方では少なすぎるっていうことさ。なぜって、水の少ない地方では、田畑が、かわききった荒れ地のようなありさまで、ほんのちょっとでも、風が吹こうものなら、たちまち土や砂が、もうもうとまきあがってしまうんだもの。
『いったい、どういうつもりで、こんな土地をこしらえたんだね？』と、神さまがおききになった。すると、ペテロは、じつは、土地を高くきずいて、太陽の熱をたくさん受けるようにしたいと思ったのです、と、いいわけをした。
『だが、それなら、夜の冷気も、たくさん受けることになるね。』と　神さまはおっしゃった。『夜の冷気も、やはり、空からおりてくるんだからね。ここに生える、わずかなものも、凍ってしまやしないだろうか。』
　こういうことは、たしかに、ペテロは考えてもいなかった。
　そして、神さまは、『ここは、霜のよくおりる、やせた土地になるだろう。しかし、いまさら、どうすることもできない。』と、おっしゃったんだ。」
　マッツが、ここまで話したとき、ねえさんのオーサが、ことばをはさみました。「あたし、たまらない！　だって、あんたの話を聞いてると、スモーランドは、とてもみじめな土地みたいだもの。あんたは、あそこにも、いい土地がたくさんあるのを忘れているのね。まあ、カルマール海峡のところの、メーレ地方を思いだしてごらん！　あそこぐらいよく肥えた土地って、どっかにある？　あそこにも、このスコーネとおなじように、畑がいっぱいあるじゃないの。それに、とってもいい土地なんだから、どんなものだって、きっとそだつと思うわ。」
「だって、しようがないよ。」と、マッツが言いました。「ぼくは、ひとから聞いた話をしているだけなんだもの。」
「それにね、あたしは、ユストのように美しい海岸は、どこにもないって、おおぜいの人たちが言ってるのを聞いたわよ。ほら、あの湾や、島や、荘園や、森を考えてごらんよ。」と、オーサは言いました。
「うん、ほんとにそうだね。」と、マッツは言いました。
「それから、あんたは、先生のおっしゃったことをおぼえてないの？　ほら、ヴェッテルン湖の南の地方のように、いきいきとした、絵のように美しいところは、スウェーデンじゅうどこをさがしてもないって、おっしゃったじゃないの。あの美しい湖や、岸ぞいの黄色の山々や、マッチ工場のあるエンチェーピングや、ムンク湖を思いだしてごらん。それから、フースクヴァルナや、あそこにある大きな工場もさ！」と、オーサはつづけて言いました。
「うん、ほんとにそうだ。」と、マッツはもう一ど言いました。
「それから、まだまだあるわよ。ほら、あのヴィシングエー。あそこには廃址や、カシワの森や、むかしの言いつたえがあったわね。それから、エム川の流れている、あの谷も思いだしてごらん。村や、製粉所や、製材所や、指物工場があったでしょう！」
「うん、ほんとにそうだ。」マッツは、こまったような顔をしながら、またまた、こう言いました。
　そのとき、とつぜん、マッツは顔をあげて、さけびました。「そうだ、ぼくたち、うっかりしてたんだ。それはみんな、もちろんスモーランドにあるよ。それも、ペテロが仕事をはじめるまえに、神さまが、おつくりになった土地のほうにね。だから、そこが美しくてりっぱなのも、あたりまえなんだ。けれども、ペテロのこしらえたスモーランドのほうは、やっぱり、言いつたえにあるとおりさ。だから、神さまが、それをごらんになったとき、悲しまれたのも、むりないんだ。」マッツは、さっきの物語の糸口を見つけて、また、話をつづけました。「ペテロは失敗したけれども、気をおとさずに、かえって、神さまをなぐさめようとして、『そんなに悲しまないでください！　しばらく待ってくだされば、わたしが、沼地をたがやし、石だらけの山をきりひらいて、畑にする人間をつくりますから。』と、言った。
　けれども、神さまは、もうがまんができないので、こうおっしゃった。『いや、おまえは、わしが肥えた、よい土地にこしらえたスコーネにおりていって、スコーネ人をつくるがいい。スモーランド人は、わしがつくるから。』そこで、神さまはまずしい土地でも、暮らしをたてていくことができるように、賢くて、まじめで、しかもほがらかで、勤勉で、役にたつスモーランド人を、おつくりになったのさ。」
　ここまで話すと、マッツは、いつもだまりこんでしまうのでした。そして、ニールス・ホルゲルッソンも、だまっていれば、何ごともなかったでしょう。ところがニールスは、ペテロのほうは、うまくスコーネ人がつくれたかどうかと、きかずにはいられないのでした。
「ふん、きみは、じぶん自身をどう思うね？」と、マッツは、いかにもばかにしきった顔つきでたずねました。ニールス・ホルゲルッソンは、もう、がまんができません。たちまちマッツにおどりかかって、なぐりつけようとしました。けれども、マッツはまだ小さい子です。と見るより早く、一つ年上のオーサが、すばやく駈けよってきました。オーサは、ふだんはおとなしい子ですが、だれかが弟に手をかけようとすると、たちまち、ライオンのように怒るのでした。
　ニールス・ホルゲルッソンは、女の子とけんかをする気にもなれません。それで、そっぽをむいて、その日は一日じゅう、このスモーランドうまれの子どもたちのほうは、見むきもしないのでした。

16　カラス

土のかめ

　スモーランドの西南のはしに、スンネルブーという地方があります。そこは、ずっと平地になっています。ですから、冬、雪におおわれているときには、だれでも、その雪の下には、ほかの平地とおなじように、休閑地や、ライムギ畑や、クローヴァの生えた牧場があるものと思います。ところが、四月のはじめになって、この地方の雪がとけてしまいますと、雪の下にかくされていたものは、かわいた、砂だらけの荒れ地と、はだかの岩と、大きな沼地ばかりであることがわかります。畑もあっちこっちにありはしますが、とても小さなものなので、とくにとりたてて言うほどのものではありません。それから、赤や灰色の小さな農家も、ところどころに見られますが、まるで人に見られるのをこわがってでもいるように、たいていのものがブナの森の中にかくれています。
　スンネルブー地方が、ハルランドと接するところには、砂だらけの荒れ地がひろがっています。そこは、はしからはしまで見とおすことができないくらい広いものです。この荒れ地には、ヒースのほかは何も生えていません。ですから、ここにほかの植物を茂らせるのは、たいへんなことでしょう。そのためには、まず第一に、ヒースを根だやしにしなければなりません。ヒースというのは、根も枝も葉もちっぽけで、ちぢこまっているくせに、まるでじぶんでは一人まえの木のようなつもりでいるのです。だから、ほんとうの木のように、まるで森みたいに、そこらじゅうにひろがって、しかも、しっかりとかたまっているので、その荒れ地の中にはいってくる木は、どんなものでもみんな枯らされてしまうのです。
　この荒れ地の中で、ヒースのはびこっていないところが一つだけありました。そこは、荒れ地をよこぎっている、低い、石だらけの山地でした。そこには、マツ林があり、また、ナナカマドや、大きな美しいブナの木も数本生えていました。ニールス・ホルゲルッソンがガンたちといっしょに旅をしていたときは、そこには一軒の小屋があって、そのまわりの土地は、すこし耕されていました。けれども、その小屋に住んでいた人たちは、なにかわけがあって、よそへひっこしてしまっていました。だから、いまはその小屋は住む人もなく、また土地も使われてはいませんでした。
　この小屋に住んでいた人たちは、立ちさるときに、用心ぶかく、かまどのふたをし、窓をしめ、戸に錠をおろしました。けれども、窓ガラスのわれめが、ぼろでふさいだだけになっているのには、気がつきませんでした。そののち、夕立が二どあって、そのぼろが、ちぢんでしまったところへ、カラスがやってきて、とうとうそれをつつき落してしまいました。
　荒れ地の中にあるこの山地は、人が想像するほど、さびしくはありません。なぜかといいますと、そこにはたくさんのカラスたちが住んでいるからです。といっても、もちろん一年じゅう、そこに住んでいるわけではありません。つまり、カラスたちは、冬には外国へいきます。そして秋には、イエートランドじゅうの穀物畑を、つぎからつぎへと飛びまわっては、穀物をひろいます。それから夏のあいだは、スンネルブー地方の農場にちらばって、卵や、草木の実や、小鳥などをたべて生きています。けれども、巣ごもりをする春になると、このヒースの生えている荒れ地の中に帰ってくるのです。
　窓ガラスのぼろをつつき落したのは、白いはねのガルムという名まえのカラスでした。けれども、このカラスのことをちゃんと名まえどおりに、ガルムというものはひとりもなく、みんなノロ公ノロ公と呼んでいました。なぜなら、このカラスは、いつも、まのぬけた、へまなことばかりやっていたからです。ノロ公は、ほかのカラスよりも、からだも大きく、力もありましたが、そんなことはなんの役にもたちませんでした。みんなからはバカにされて、いつも笑いものになっていました。それから、ノロ公がたいへんにいい家がらの出だということも、やっぱりなんの役にもたたないのでした。ほんとうなら、ノロ公がこのカラスの一むれのおかしらになるはずでした。というのは、大昔から、白はね族の一ばん年上のものが、この名誉をになうはずになっていたのです。ところが、ノロ公の生まれるだいぶまえから、この権力が白はね族の手をはなれて、アラシという、ざんにんな野ガラスにうばわれてしまっていたのです。
　このように、権力が白はね族からアラシの手にうつったということは、じつは、カラス山のカラスたちが、生活のしかたをかえることにきめたということを物語っているのです。おそらく、たいていの人が、カラスというものは、みんなおなじような生活をしているものと思うでしょう。ところが、ほんとうは、そうではありません。つまり、中にはりっぱな生活をしているものもあって、そういうカラスたちは、穀物とか、虫とか、死んだ動物とかいうようなものだけをたべているのです。ところが、いっぽうには、まったく盗みばかりをはたらいて暮らしているような、ひどいやつらもあるのです。そういうのは、ウサギの赤んぼうや小鳥をさらったり、鳥の巣を見つけしだいにおそったりするのです。
　むかしの白はね族は、ぎょうぎがよくて、げんかくでした。だから、白はね族のものがおかしらだったころは、カラスたちは、ほかの鳥から悪く言われないように、ふるまわなければなりませんでした。ところが、カラスの数はふえてきますし、それに、だんだん、貧乏になってきました。そこで、いままでのように、ぎょうぎのいい生活をしていることができなくなって、やがては白はね族にもそむき、ついに、極悪このうえもない、大どろぼうのアラシに権力をあたえてしまったのです。ところが、その妻君のハヤテというのが、アラシよりもさらにひどいやつときているのです。こうして、カラスたちは、この夫婦の手下になって、いまでは、タカよりもフクロウよりも、ほかの鳥からおそれられているような生活をはじめたのです。
　もちろん、白いはねのノロ公などはもんだいにもされませんでした。カラスたちは、口ぐちに、ノロ公は先祖にはちっとも似ていない、とうていおかしらになるがらではない、と言いました。だから、ノロ公がいつも、まのぬけたことばかりやらなかったら、たぶんだれも目もくれなかったでしょう。りこうもののカラスたちは、ときどき、「ノロ公があんなにあほうなのは、ノロ公のためにはかえってしあわせなんだ。」と言いました。さもなければ、おかしらの家がらに生まれついているんだから、きっとアラシとハヤテのために、追いだされてしまったろうというのです。
　ところが、いまでは、そのはんたいに、アラシ夫婦はノロ公にたいして、いくらか親しみをもつようになっていました。そして、よそへどろぼうをしにいくときには、いつもいっしょにつれていきました。もっとも、そうすれば、じぶんたちが、とんまなノロ公よりもずっとりこうで、勇敢なことを、みんなに見せてやることができたわけです。
　窓ガラスのぼろをつつき落したのが、ノロ公だとは、どのカラスも知りませんでした。もし知ったとすれば、みんなはどんなにか驚いたことでしょう。なぜって、ノロ公などが、人間の住居に近よる勇気をもっていようとは、とても信じられませんから。ノロ公は、そのことをだれにも話しませんでした。それには、じつは、ノロ公だけのとくべつのわけがあるのです。アラシとハヤテは、昼のあいだや、ほかのカラスたちがまわりにいるときは、ノロ公にたいしていつも親切でした。ところが、あるまっくらな晩のこと、仲間のカラスたちが、枝の上にとまって眠っていたとき、ノロ公は、とつぜんアラシ夫婦におそわれて、もうすこしで、殺されそうになったのです。それからは、まい晩、くらくなりますと、ノロ公はじぶんのいつもの寝場所をぬけだして、あき小屋へいくことにしているのでした。
　ある日の午後、カラスたちは、カラス山の巣をしゅうぜんしましたが、そのあとで、すばらしい見つけものをしました。アラシは、ノロ公とほかの二羽のカラスをつれて、荒れ地の片すみにある大きなくぼ地に飛んでいきました。そのくぼ地には砂利しかありませんでしたが、カラスたちは、そんなことぐらいで満足することができません。人間がこのくぼ地を掘ったのには、なにかわけがあるにちがいないと思って、そこに飛びおりていっては、さかんにひっかきまわしました。そうしているうちに、片がわの砂利が、ガサガサと、きゅうにくずれおちました。カラスたちは、びっくりしてかけよりました。と、はたして、くずれおちた石と砂利のあいだに、木のふたをした土の大きなかめが見えるではありませんか？　もちろんみんなは、すぐに、中に何がはいっているか知りたくなりました。そこで、かめに穴をつつきあけようとしたり、ふたをあけようとしたりしましたが、どうしてもうまくいきません。
　カラスたちは、とほうにくれて、かめをながめていました。そのとき、とつぜん、
「おい、おい、カラスくん、おりていって、手つだってやろうか？」という声がしました。
　みんなが、はっとして上を見ますと、くぼ地のふちに一ぴきのキツネがすわって、こちらを見おろしています。色つやも姿も、いままでに見たなかで、一ばん美しいキツネです。ただ一つおしいことには、片ほうの耳がありません。
「手つだってくれるって言うんなら、いやとは言わんぜ。」と、アラシは言うといっしょに、くぼみから飛びあがりました。ほかのカラスたちも、すぐそのあとにつづきました。すると、キツネは穴の中にとびおりて、かめをかじったり、ふたをひっぱったりしてみました。けれど、やっぱりどうしても、あけることができません。
「何がはいっているか、わかるかい？」と、アラシがたずねました。
　キツネは、かめをあっちこっちにころがして、耳をすましました。
「こいつは銀貨にちがいないぞ。」と、キツネは言いました。
　銀貨ならたいしたものです。カラスたちは、それほどのものとは思っていませんでした。
「ほんとうに、銀貨だと思うかい？」と、カラスたちは言いました。そして、その目は欲にくらんでキラキラ光りました。こう言えばへんに聞こえるかもしれませんが、なにしろカラスたちにとって、銀貨ぐらいすきなものはなかったのです。
「ほら、ガチャガチャ音がするだろう！」と、キツネはもう一ど、かめをころがしながら言いました。「しかし、どうして出したもんだろうなあ。」
「きっと、だめさ。」と、カラスたちはため息をついて言いました。
　キツネは立ったまま、左の前足で頭をかきながら、考えました。うんそうだ、このカラスたちの助けをかりて、いつも逃げられてばかりいる、あのガチョウにのったチビスケのやつをつかまえることができるかもしれないぞ。
「おい、おれは、このかめをあけられるやつを知ってるんだがなあ。」と、キツネは言いました。
「だれだい？　だれだい？」と、カラスたちはさけびながら、むちゅうになって、また穴の中にとびこんできました。
「あとで、そいつをおれに引きわたすと約束するんなら、教えてもいいぜ。」と、キツネは言いました。
　そして、キツネはカラスたちに、ニールスのことを話してきかせました。もし、オヤユビ小僧のニールスをここへつれてくることができれば、きっとこのかめはあけさせることができる、と言いました。しかし、こういう、うまいちえをかしてやったんだから、そのお礼に、オヤユビ小僧が銀貨を取りだしたら、すぐさま、その小僧をおれに引きわたせ、と言いはりました。カラスたちのほうでは、オヤユビ小僧なんてべつにおしいとは思いません。で、すぐにこの申し出を承知しました。
　この約束はかんたんにできあがりましたが、さて、オヤユビくんとガンたちがどこにいるかを、さがしだすとなると、なかなかたいへんなことです。アラシはじぶんで十五羽のカラスを引きつれて、すぐ帰ってくると言いのこして、出かけていきました。しかし、いく日たっても、カラス山にもどってはきませんでした。

カラスにさらわれる

四月十三日　水曜日
　ニールスの仲間のガンたちは、エステルイエートランドにむかって旅だつまえに、たべものをとる時間が十分あるように、朝早く起きました。ガンたちのとまった島は、ガン湾の中にある小さな島でした。この島には草や木は生えていませんでしたが、まわりの水の中には、いろんな水草がありましたので、みんなはそれを腹いっぱいたべました。ところが、ニールスのほうは、たべるものがなんにも見つからなくて、ひどいめにあってしまいました。
　ニールスはおなかがへって、朝の寒さにふるえながら、あっちこっちを見まわしていました。と、ちょうどむこうにある岩ばかりの島の、木の茂った岬で、二ひきのリスが遊んでいるのが目にとまりました。もしかしたら、あのリスが冬のたくわえの残りをもっているかもしれない、と、ふと思いつきました。そこで、白いガチョウに、ハシバミをすこしわけてもらいたいから、あの岬までつれていってくれ、とたのみました。
　白いガチョウは、すぐにニールスを乗せて、その岬へ泳いでいきました。ところが、運のわるいことに、リスたちはむちゅうになって、木から木へと追いかけっこをしているものですから、ニールスの呼ぶ声がちっとも耳にはいりません。リスたちは、だんだん林の奥へ奥へとはいっていきました。ニールスも、いそいでそのあとを追いかけていきましたので、まもなくガチョウの目のとどかないところまでいってしまいました。そのあいだ、ガチョウはおとなしく岸べで待っていました。
　ニールスは、白いアネモネが、あごにとどくほど高く生えている草地にはいっていきました。と、だしぬけに、だれかがうしろから、じぶんをつかんで持ちあげようとするようすです。はっとしてふりむいてみますと、一羽のカラスが、えりのところをつかんでいるではありませんか。ニールスは一生けんめい身をふりはなそうとしました。けれども、そうしているうちに、もう一羽のカラスが飛んできて、こんどは靴下をひっぱりましたので、ニールスは地べたにたおされてしまいました。
　もしもこのとき、ニールスがすぐに、助けて！　とさけびさえすれば、白いガチョウに助けてもらえたにちがいありません。ところが、ニールスは、カラスの二羽ぐらい、じぶんひとりでも平気だと思ったのでしょう。しかし、いくらなぐったり、けとばしたりしてみても、カラスたちはどうしてもはなしません。とうとう、ニールスをつかんで空に飛びあがってしまいました。しかも、わざとらんぼうに飛んで、ニールスの頭を木の枝にぶっつけました。そのぶっつけかたがあんまりひどかったので、ニールスはとうとう気をうしなってしまいました。
　目をあいたときには、空高く飛んでいました。そのうちに、だんだん意識がはっきりしてきました。はじめは、どこにいるのかも、何を見ているのかも、さっぱりわかりませんでした。下を見おろしますと、とても大きな毛織りのじゅうたんがひろがっているようでした。そのじゅうたんは緑と赤とに織りだされていて、いろいろな形をしています。たいそう厚くて、美しいじゅうたんです。けれども、ニールスは、おしいことにひどく使い古してあるな、と思いました。じっさい、もうぼろぼろになっているのです。まんなかのところが長く裂けていますし、また場所によっては、ちぎれて、なくなっているところもあります。そして、なによりもふしぎなのは、そのじゅうたんが鏡の上にひろげられているように見えることでした。なぜかといえば、そのじゅうたんの穴や裂けめのあるところからは、鏡があかるく、キラキラ輝いているのです。
　むこうを見れば、ちょうどいま地平線の上に姿をあらわしたお日さまが、しずかにのぼってきます。と見るまに、じゅうたんの穴や裂けめの下の鏡が、赤や金色に輝きはじめました。なんという美しいながめでしょう。ニールスはむちゅうになって喜びました。もっとも、じぶんのながめているものが、なんであるかは、ちっともわかってはいませんでした。そのとき、カラスたちは下におりはじめました。すると、いままで大きなじゅうたんに見えていたものは、じつは、緑の針葉樹や、葉のない褐色の闊葉樹の茂っている地面だったことがわかりました。そして、じゅうたんの穴や裂けめに見えたのは、キラキラ光る入江や小さな湖だったのです。
　ガチョウのせなかに乗っかって、はじめて空を飛んだとき、スコーネの土地が市松もようの布のように見えたことを、そのとき、ふと思いだしました。それにしても、ぼろぼろのじゅうたんのように見えるこの土地は、いったいどこなのでしょう？
　つぎからつぎへと、いろんな疑いがわいてきました。どうしてガチョウのせなかに乗っていないんだろう？　どうしてじぶんのまわりをこんなにたくさんのカラスが飛んでいるんだろう？　そしてまた、どうして落っこちそうになるほど、あっちこっちへ引っぱりまわされたり、ぶたれたりするんだろう？　と、たちまち、なにもかもがはっきりとしてきました。じぶんは二羽のカラスにさらわれたんだ。白いガチョウは、まだ岸べで待っているにちがいない。きょうみんなは、エステルイエートランドにむかって出発するはずだ。それなのに、じぶんは南西のほうにつれられてゆく。お日さまがうしろのほうにあるから、きっとそうにちがいない。そうしてみると、下に見える森のじゅうたんは、きっとスモーランドだ。
「ぼくがせわをしてやれなくなったら、あの白ガチョウはどうなるだろう？」と、ニールスは思いました。そして、カラスたちに、じぶんをガンたちのところへ、すぐにつれていってくれるようにたのみました。ニールスは、じぶんのことはちっとも心配していませんでした。だって、カラスたちがじぶんをつれていくのは、ただふざけているんだろうと思っていたのです。
　ところが、カラスたちは、ニールスの言うことなどには耳をもかさず、おおいそぎで飛んでいきました。しばらくすると、なかの一羽が、「気をつけな！　あぶないぜ！」とでもいうように、つばさをばたばたやりました。まもなく、みんなはエゾマツの森におりました。そして、とげとげした枝のあいだをおしわけて、地面につきました。そこで、ニールスは太いエゾマツの下におろされましたが、たいそう、うまくかくされてしまったために、これではタカでさえもニールスの姿を見つけることができません。
　十五羽のカラスが、ニールスの見はりをするために、くちばしをつきだしながら、ぐるりをとりかこみました。
「おい、カラスたち、なんのためにぼくをさらったんだ。」と、ニールスがききました。
　ところが、ニールスが言いおわるか、おわらないうちに、一羽の大きなカラスが、しかりつけました。
「しずかにしろ！　さもないと、きさまの目の玉をくりぬくぞ！」
　カラスが本気でそう言っていることはたしかです。こうなったからには、カラスの言うとおりにするほかはありません。そこで、ニールスは、おとなしくすわって、じっとカラスたちを見つめました。カラスたちもニールスをじっと見つめました。見れば見るほど、このカラスたちは気にくわないやつらです。はね毛は、ものすごくほこりだらけで、ぼうぼうとしています。まるで一ども水あびをしたり、油をつけたことがないようです。そして、足指や爪には、かわいた泥がこびりついています。それから、くちばしのまわりには、食いものの残りがくっついています。同じ鳥ではあっても、ガンたちとはなんというちがいかたでしょう。このカラスたちは、ざんこくで、ひきょうもので、よくばりで、しかも、だいたんふてきな顔つきをしています。まるで人殺しか、ごろつきのように見えます。
「こいつは、ほんとうの強盗団につかまっちまったんだな。」と、ニールスは思いました。
　ちょうどそのとき、上のほうで、ガンの仲間のさけぶ声が聞こえました。
「どこにいるの？　ぼくはここだよ。どこにいるの？　ぼくはここだよ。」
　アッカをはじめ、みんながじぶんをさがしにきてくれたのです。けれども、返事をしようと思っているうちに、このカラスの一団のおかしららしい、さっきの大ガラスが、ニールスの耳もとで、「目玉のことを忘れるな！」と、しかりつけました。これでは、だまっているよりほかはありません。
　ガンの仲間は、ニールスが、こんなに近くにいようとは気がつかないようすです。ただ、ぐうぜんに、この森の上に飛んできたものでしょう。また二どばかり、ガンたちのさけぶ声が聞こえましたが、それから消えてしまいました。
「さあ、じぶんひとりで、助かる工夫をしなくちゃならないぞ。」と、ニールスはひとりごとを言いました。「もう何週間も、野の生活をして苦労しているんだから、ひとつ、そのうでまえを見せるかな。」
　しばらくするとカラスたちは、出かけるしたくをはじめました。またこんども、一羽がニールスのえりをつかみ、もう一羽が靴下をつかんで、つれていくつもりとみえます。そこで、ニールスはあわてて言いました。
「きみたちの中には、ぼくをせなかに乗っけていけるものはないのかい？　きみたちがあんまりらんぼうに、ぼくをあつかうから、ぼくは、こなごなになっちまうんじゃないかと思ったよ。まあ、乗せてごらんよ！　せなかからとびおりたりはしないから。」
「やい、やい、どうされたって、きさまの知ったこっちゃないんだ。」と、おかしらが言いました。
　そのとき、いちばん大きい、つばさに白いはねのあるカラスが、前に進みでてきました。頭をぼうぼうにして、いかにもやぼくさいカラスでしたが、
「おかしら、このオヤユビ小僧を落して、かたわにするよりも、まるまる生かしておいたほうが、とくじゃありませんか。だから、わたしがせなかに乗せていきましょう。」と、言いました。
「ノロ公、てめえにできるんなら、おれに文句はねえ。だが、そいつをなくすんじゃあねえぞ！」と、アラシは言いました。
　ありがたいことです。ニールスは大よろこびでした。
「カラスにさらわれたからって、もう気をおとすことはないぞ。きっと、こいつらをやっつけてやれるさ。」と、ニールスは思いました。
　カラスたちは、スモーランドの上を南西にむかって飛びつづけました。うららかに晴れわたった、あたたかい朝でした。地上の鳥たちは、やさしい愛の歌をうたっていました。高い、黒々とした森の中の、エゾマツのこずえで、ツグミがつばさをたれ、のどをふくらまして、
「なんてあなたはきれいなんでしょう！　なんてあなたはきれいなんでしょう！　なんてあなたはきれいなんでしょう！　あなたほどきれいなものはない。あなたほどきれいなものはない。」と、なんどもなんども、うたっていました。
　ちょうどそのとき、ニールスがこの森の上を通りかかりました。ニールスは、ツグミの歌を二ど聞いて、ははあ、ほかの歌は知らないんだな、と気がつきますと、両手をラッパのようにして口にあてて、下にむかってさけびました。
「そんな歌はまえにも聞いたよ！　そんな歌は、まえにも聞いたよ！」
「だれだい？　だれだい？　だれだい？　わたしの歌をひやかすのは？」と、ツグミは言いながら、からかったものの姿を見つけようとしました。
「カラスにさらわれたものだよ。」と、ニールスは答えました。
　そのとたんに、カラスのかしらがふりむいて、
「やい、チビスケ、目玉に気をつけろ！」と、言いました。
　けれども、ニールスは、「ふん、そんなこと、かまうもんか。きさまなんかこわくないぞ。いまに見てろ。」と、心の中で思いました。
　カラスたちは、ずんずん飛んでいきました。いたるところに、森や湖がありました。とあるカバの森では、葉のない枝に森バトのメスがすわって、そのまえにオスのハトが立っていました。オスのハトは、はね毛をふくらまし、頭をまっすぐに立てて、からだをあげたりさげたりするので、そのたびに胸毛が枝にさわりました。そして、ひっきりなしに、
「おまえは、おまえは、森の中でいちばんかわいいね。森じゅうで、おまえぐらい、おまえぐらい、かわいいものはないよ！」と、鳴いていました。
　ニールスは、その上を通りかかって、オスのハトの言うのを耳にしたとき、だまってはいられなくなりました。
「そいつの言うことを信じちゃいけない！　そいつの言うことを信じちゃいけない！」と、ニールスはさけびました。
「おれをけなすのはだれだ？　おれをけなすのはだれだ？」と、オスのハトはクウ、クウ鳴きながら、からかったものの姿を見つけようとしました。
「カラスにさらわれたものだよ。」と、ニールスは答えました。
　と、またもアラシがふりむいて、だまれ、と言いつけました。けれども、ニールスをせなかに乗せているノロ公は、
「しゃべらせておきなさいよ。そうすりゃ小鳥どもは、われわれカラスが、とんちのある、おもしろい鳥になったと思いまさあ。」と、言いました。
「ふん、あいつらだって、それほどばかじゃああるめえ。」と、アラシは言いました。けれども、内心ノロ公の考えが気にいったもので、それからは、ニールスのすきなように言わせておきました。
　カラスたちは、たいていは、森や森のあいだにある牧場の上を飛んでいきましたが、ときには教会や、村や、森のそばの小屋の上も飛びました。あるところでは、古い美しいお屋敷が見えました。それは、森をうしろに、海を前にして建てられていました。壁は赤く塗ってあり、屋根はキリのように、とがっていました。お屋敷の前には、大きなカエデの木が立っていて、庭園には、大きなスグリの茂みがありました。
　風見の上に、ムクドリのオスがすわって、大声でさえずっていました。その声は、ナシの木の巣箱の中で、卵をだいているメスにまでよく聞こえました。
「かわいい卵が四つある。」と、ムクドリは歌っていました。「まあるい、きれいな卵が四つある。巣の中は、きれいな卵でいっぱいだ。」
　ムクドリが、ちょうど千べんめをうたったとき、ニールスがその上を通りかかりました。そして、両手を笛のように口にあてて、さけびました。
「カササギに卵をとられるよ！　カササギに卵をとられるよ！」
「わたしをおどかそうとするのは、だれだね？」と、ムクドリはたずねながら、不安そうにはねをバタバタやりました。
「カラスにつかまってるものだよ！」と、ニールスは言いました。
　こんどは、カラスのおかしらも、だまれとは言いませんでした。それどころか、たいそうおもしろがって、みんなといっしょに、ゆかいそうに、カアカア鳴きました。
　陸地に進むにつれて、湖は大きくなり、その中の島や岬も多くなりました。とある湖の岸べでは、一羽のオスのカモが、メスの前で、ていねいにおじぎをしていました。
「一生のあいだ、あなたへのまごころはかわりません。一生のあいだ、あなたへのまごころはかわりません。」と、オスはねっしんに言っていました。
「ひと夏もつづかないぜ！」と、このとき通りかかったニールスが言いました。
「だれだ？」と、カモのオスはさけびました。
「カラスにぬすまれたものだよ！」と、ニールスはさけびました。
　お昼ごろ、カラスたちは、森のあいだの、とある草地におりました。みんなはあるきまわってたべものをひろいましたが、ニールスにも何かやろうということは、だれひとり思いつきませんでした。そのとき、ノロ公が、ひからびた赤い実の二つ三つついている野バラの枝をくわえて、おかしらのところへ飛んできました。
「おかしら、これを召しあがってください。うまいものですから、あなたにもお気にめしましょう。」と、ノロ公が言いました。
　アラシは、ばかにしきったように、フフンと笑って、言いました。
「てめえ、こんなひからびた実を、おれが食うとでも思ってるのか？」
「よろこんでいただけると思ったんですが。」と、ノロ公は言いながら、がっかりして、その枝を投げすてました。ところが、その枝がちょうど、ニールスの目の前に落ちましたので、ニールスは、すぐさまそれをひろって、すいたおなかをふさぎました。
　カラスたちはたべおわりますと、おしゃべりをはじめました。
「おかしら、何を考えているんです？　あんたは、きょうは、えらくだまりこんでいますね。」と、一羽のカラスがアラシに言いました。
「おれはな、むかし、この地方に一羽のメンドリがいたのを思いだしていたところさ。そいつは、飼い主のおくさんが大すきだったんだ。それで、そのおくさんを喜ばせてやろうと思って、とてつもなくでかい卵をうんでよ、それを穀物倉の床下にかくしておいたんだ。そのメンドリのやつめ、卵がかえったら、おくさんがさぞ喜ぶだろうと思って、ひとりでうれしがっていたのよ。おくさんのほうじゃ、メンドリの姿が長いあいだ見えないもんだから、どうしたんだろうと、ふしぎに思って、あっちこっちさがしてみた。しかし、どうしても見つかりゃしない。おい、口なが、そのメンドリを見つけたなあ、だれだかわかるか？」
「わかりますとも、おかしら。だが、それじゃ、わっしもそれに似た話を、お聞かせしやしょう。おかしらは、ヒンネリュードの牧師館にいた大きな黒ネコを、おぼえていなさるかね？　あのやろうは、子をうむと、いつも人間がとって、川んなかにほうりこんじまうもんだから、不平たらたらだったんでさ。ところが、一どだけ、おもてのほし草の中に、うまくかくしたことがあるんですよ。あいつは、うまくかくしたと大よろこびでしたが、あいつよりも、じつは、このわっしのほうが大よろこびでしたのさ。」
　すると、ほかのカラスたちも、むちゅうになってきて、みんながいっぺんにしゃべりだしました。
「へえ、それが、卵や赤んぼネコを盗みだすひけつですかい？」と、一羽が言いました。「おれなんざ、一人まえになりかけた若いウサギを追いかけたもんだぜ。やぶからやぶへと追いかけてよ——」
　みんなまで言いおわらないうちに、べつの一羽が口をはさみました。
「トリやネコをおこらすってのも、おもしろいかもしれねえが、人間をこまらせてやるほうが、ずっとゆかいだろうぜ。おれはな、いつだったか銀のさじをぬすんでよ——」
　ニールスは、もうこんなおしゃべりを、だまって聞いてはいられなくなりました。
「おい、カラスくん、ぼくの言うことを聞きたまえ！」と、ニールスは言いました。「きみたちは、そんなひどいことをしゃべりたてて、はずかしくないのかい。ぼくは三週間も、ガンたちといっしょに暮らしているが、聞くこと見ること、みんないいことばかりだぜ。きみたちには、悪いかしらがいるにちがいない。きっとそいつが、そんなふうに盗んだり殺したりさせているんだ。いまのうちに、きみたちは、暮らしかたをかえるがいい。なぜって、人間は、きみたちの悪いのにすっかり腹をたてて、きみたちを根だやしにしようと、けんめいになっているんだよ。だから、このままだと、きみたちは、まもなくおしまいだぜ。」
　アラシをはじめ、ほかのカラスたちはこれを聞くと、怒りくるって、もうすこしで、ニールスにおどりかかって、ズタズタに引きさこうとしました。ところが、そのとき、ノロ公が笑いながら、カアカアと鳴いて、ニールスの前に進みでました。
「いや、いけない、いけない！　このオヤユビ小僧に、銀貨をださせないうちに、ひき裂いてしまったら、ハヤテさんはなんて言うだろうかね？」と、ノロ公は言いましたが、そのようすは、いかにもおどおどしていました。
「やい、ノロ公、女をこわがるってのは、てめえのことか。」と、アラシは言いました。
　けれど、とにかく、アラシもほかのカラスたちも、オヤユビくんに手だしはしませんでした。
　それからまもなく、カラスたちは出発しました。いままでのところでは、スモーランドは話に聞いているほど、みすぼらしい土地のようではありませんでした。森も山もありますし、川や湖のほとりには、耕された畑も見えます。まだ、ほんとうの荒れ地には、一つも出あっておりません。しかし奥に進めば進むほど、村も小屋もすくなくなりました。しまいには、ほんとうの荒れ地の上を飛んでいるのではないかと思われてきました。むりもありません。下に見えるものといえば、沼と荒れ地とネズの生えている丘だけなのですから。
　お日さまは沈みましたが、カラスたちはまだあかるいうちに、ヒースの生えている、あの大きな荒れ地につきました。アラシは、一羽のカラスをさきにやって、オヤユビ小僧をうまく見つけたことを、みんなに知らせました。すると、ハヤテは数百羽のカラスをひきつれて、出むかえに飛んできました。カラスたちが両方から、カア、カアと鳴きさけんで、あたりは、たいへんなさわぎでした。そのとき、ノロ公が、そっとニールスに言いました。
「おまえはゆかいなやつだ。おかげで旅のあいだ、とてもおもしろくすごさせてもらった。おれは、おまえがすきになったよ。だから、いいことを教えてやる。おまえは、下におろされると、すぐに、なんでもないような仕事を言いつけられるが、それをやるときには、気をつけるんだぜ。」
　まもなく、ノロ公は砂利穴の底に、ニールスをおろしました。ニールスは、ころがるようにおりて、そのまま、いかにも疲れきったように、あおむけにねころんでしまいました。そして、たくさんのカラスが、まわりをとりまいて、嵐のように、ものすごく羽ばたいても、いっこうに目をあけませんでした。
「こら、小僧、起きろ！」と、アラシが言いました。「やい、仕事があるんだ。きさまには、なんでもないことだ。」
　ニールスは、身動きもしないで、眠ったふりをしていました。すると、アラシは、ニールスの腕をつかんで、くぼ地のまんなかにある、古風な土のかめのところへ、砂の上をひきずっていきました。
「やい、小僧、起きろ！」と、アラシは言いました。「さあ、このかめをあけるんだ！」
「どうして、ぼくをねかせておいてくれないんだい？」と、ニールスは言いました。「今夜は、くたびれすぎちゃって、なんにもできやしないぜ。あしたまで待ってくれよ！」
「かめをあけろったら！」と、アラシは、ニールスをゆすぶりながら、言いました。
　ニールスは、しかたなくからだを起こして、かめをながめまわしました。
「ぼくみたいな、ちっぽけな子どもに、こんなかめがあけられるはずがないじゃないか。このかめは、ぼくぐらいあるぜ。」
「さっさとあけろ！」と、アラシは、もう一ど言いつけました。「あけないと、ためにならんぞ！」
　ニールスは、立ちあがって、かめのところにいき、ふたをいじくりました。でも、すぐに腕をさげてしまいました。
「ぼくは、いつもなら、こんなに弱虫じゃないんだ。」と、ニールスは言いました。「あしたまで、ねかせてさえくれりゃ、このふたぐらい、きっとあけられると思うがなあ。」
　ところが、アラシは、気がいらいらしていましたので、いきなり前に進みでて、ニールスの足をつつきました。しかし、いくらなんでも、カラスにこんなことをされては、だまっていられません。ニールスは、すぐさま身をふりはなして、二歩ほどうしろへさがりました。そして、ナイフをさやから引きぬいて、目の前につきだしました。
「やい、気をつけろ！」と、ニールスは、アラシにむかってさけびました。
　アラシは、怒りくるっていたものですから、危険をさけようともしないで、めくらめっぽうにニールスめがけて、とびかかりました。そのため、ナイフがぐさっと目玉につきささって、頭にまでもくい入りました。ニールスは、すばやくナイフを引きぬきましたが、アラシは一、二ど、つばさをバタバタやっただけで、そのままたおれて、死んでしまいました。
「おかしらが死んだぞ！　こいつがおかしらを殺したぞ！」と、すぐ近くにいる、カラスたちが口ぐちにさけびました。それから、たいへんなさわぎになりました。オイオイ泣きだすものもあれば、かたきをうて、とさけびたてるものもあります。みんなは、四方八方から、ニールスめがけて駆けよりました。ノロ公が、その先頭に立っていました。いつものように、ノロノロしてはいましたが、つばさをひろげて、ニールスをその下にかくし、ほかのカラスたちが、くちばしをむけてくるのをふせいでくれました。
　ニールスは、進退ここにきわまってしまいました。カラスたちから逃げることもできませんし、身をかくす場所一つありません。と、そのとき、土のかめのことを思いだしました。そこで、ふたを力いっぱいつかんで、ぐいと、はずしました。そして、その中にかくれようと思って、とびこみました。ところが、ここにもかくれるわけにはいきませんでした。なぜって、かめの中は、ほとんどふちまで、小さな、うすい銀貨が、いっぱいにつまっていたのです。これでは、中にはいることもできません。そこで、とっさに、身をかがめて、銀貨をつかんでは投げはじめました。
　いままで、カラスたちは、ニールスのまわりをとりまいて、つばさをバタバタやりながら、つつき殺そうとしていました。ところが、ニールスが銀貨をほうり投げるのを見たとたんに、みんなは、たちまち、かたきうちのことなどは、忘れてしまって、あわてふためいて、銀貨をひろいはじめました。ニールスは、銀貨を手にいっぱいつかんでは投げました。すると、どのカラスもどのカラスも、ハヤテまでもいっしょになって、むちゅうで、それをひろいました。そして、うまく銀貨をひろったものは、こんどは、それをかくそうと、大いそぎで巣のほうへ飛んでいきました。
　ニールスは、かめの中の銀貨を、すっかり投げだしてしまったとき、あたりを見まわしました。すると、そのくぼ地には、一羽のカラスしか残っていませんでした。それは、つばさに白いはねのある、じぶんを乗せてきてくれた、あのノロ公でした。
「きみには、わからないでしょうが、きみはたいへんな仕事をしてくれたんですよ。」と、ノロ公は言いました。その声も調子も、いままでとはまるでちがっていました。「それで、こんどは、わたしがきみの命をすくってあげます。さあ、わたしのせなかにお乗りなさい。今夜安心して眠れる、隠れがにつれていってあげますから。あしたになったら、ガンたちのところへ帰れるように、なんとかしてあげましょう。」

小屋

四月十四日　木曜日
　あくる朝、目がさめたとき、ニールスは、ベッドの中に寝ていました。そして、ぐるりには壁があり、上には屋根があるのを見て、じぶんは、家にいるんだな、と思いました。
「おかあさんが、じきにコーヒーを持ってきてくれるんだろうなあ？」ニールスは、ねぼけまなこで、こんなことをブツブツ言いました。そのうちに、じぶんはいまカラス山の小屋の中にいるんだ、そうだ、ゆうべ、白いはねのノロ公が、ここへつれてきてくれたんだっけ、と思いだしました。
　ニールスは、きのうの旅のために、からだじゅうが痛くてたまりませんでした。ですから、じっと寝ているのが、なによりも楽しく思われました。そして、ガンたちのところへ、つれていつてくれると約束したノロ公がくるのを待っていました。
　市松もようのもめんのカーテンが、ベッドの前にかかっていました。ニールスは小屋の中を見ようと思って、カーテンをわきにのけました。と、まあ、なんという小屋でしょう。いままでに、こんな小屋は見たことがありません！　壁は、丸太が二列にならんでいるだけで、すぐそれから屋根になっています。天井張りがないために、棟木までも見えます。小屋ぜんたいが、たいへん小さいので、ふつうの人間のために建てられたのではなくて、どちらかといえば、ニールスのような小人のために建てられたのではないかと思われます。けれども、かまどと煙突は、とても大きくて、これより大きいのは見たことがないとさえ思われるくらいでした。入口の戸は、かまどのそばの、破風のある壁についていました。でも、これがまた、たいそうせまいので、戸というよりは小窓のようでした。もうかたほうの破風のある壁には、低くて、はばの広い窓がありました。これには、小さいガラスがたくさんはまっていました。この部屋には、動かせる家具というものは、ほとんどありませんでした。腰掛けも、窓ぎわのテーブルも、それから、いまニールスのねている大きなベッドも、いろんな色どりをした戸棚も、みんな壁にくっついていました。
　ニールスは、この小屋はだれのものだろう、そしてまた、どうしていまは人が住んでいないんだろう、と思わずにはいられませんでした。この小屋に住んでいた人たちは、またもどってくるつもりのようです。かまどの上には、コーヒーつぼとか、ゆなべがのったままになっていますし、炉ばたには、まきもおいてあります。すみのほうには、火ばさみと、木べらがあり、紡車は、腰かけの上にあがっています。窓の上の棚には、麻と、二かせの織糸と、ロウソクと、一たばのマッチがおいてあります。
　ここに住んでいた人たちは、たしかに、もう一ど、もどってくる気にちがいありません。
　ベッドには、ちゃんと掛けぶとんがありますし、壁には、三人の騎士の絵のかいてある、長い布もかかっています。
　ところが、上の棚に目をやったとき、ニールスは、はっとわれにかえりました。そこには、ひからびた大きな菓子パンが二つ、くしにささっているではありませんか。もちろん、古くなって、かびも生えているようですが、パンであることにはかわりありません。火ばさみでたたきますと、そのうちの一つが下に落ちました。さっそく、すいたおなかを満足させて、残りをポケットにいっぱいつめこみました。それにしても、パンの味はすばらしいものでした。
　ニールスは、ほかにもなにか役にたつものはないだろうかと思って、もう一ど部屋の中を見まわしました。
「ぼくがいるものは、持っていってもいいだろう。だって、だれのめいわくにもならないんだもの。」と、ニールスは思いました。でも、ニールスには、たいていのものが、大きくて、重たすぎました。持っていけそうなものといえば、せいぜいマッチぐらいのものでした。
　ニールスは、テーブルの上によじのぼり、そこからカーテンにつかまって、窓の上の棚にとびうつりました。ニールスが、そこで袋の中にマッチをつめこんでいますと、あの白いはねのカラスが窓からはいってきました。
「ほら、きましたよ。」と、ノロ公は言いながら、テーブルの上にとびおりました。「おそくなってしまいましたが、きょうは、アラシのかわりに、新しいおかしらをえらんでいたので、なかなかこられなかったんですよ。」
「だれが、おかしらにえらばれたの？」と、ニールスはたずねました。
「それはね、盗みや悪いことをゆるさないもの、つまり、いままでノロ公と言われていた、この白いはねのわたしがえらばれたんです。」
　ノロ公は、からだを起こして、もったいをつけながら、こう言いました。
「それは、いいひとがえらばれたね。」と、ニールスは言って、ノロ公におめでとう、と言いました。
「いや、ありがとう。」と、ノロ公は言いました。それから、アラシがかしらだったころのことを話しはじめました。
　と、だしぬけに、窓のそとで、よく耳なれた声がしました。
「あいつは、ここにいるのか？」と、キツネのズルスケが言っています。すると、
「ええ、この中にかくれているんです。」と、カラスの声が答えました。
「用心なさいよ、オヤユビさん！」と、白いはねのノロ公がさけびました。「ハヤテのやつが、きみを食いたがっているキツネをつれて、外にきているんですよ！」
　ノロ公は、それいじょう言うことができませんでした。そのとき、早くも、キツネのズルスケが窓をめがけて、おどりかかっていたからです。古い、くされかかった窓わくは、たちまちとびちって、あっというまに、ズルスケは窓ぎわのテーブルの上に立っていました。そして、かしらにえらばれたばかりの、白いはねのノロ公は、逃げるひまもなく、たちまちかみ殺されてしまいました。それから、キツネは、床にとびおりて、ニールスの姿をさがしました。ニールスはあわてて、大きな糸車のうしろにかくれようとしましたが、ズルスケは早くも、それを見つけて、おどりかかろうと身がまえました。この小屋は、たいへん小さい上に、しかも低いので、もうどうすることもできません。すぐにキツネにつかまってしまいます。けれども、ふせぐ武器がまったくないわけではありません。ニールスは、いそいでマッチをすって、そばの麻の束に火をつけました。そして、それがメラメラと燃えあがったのを見るや、キツネのズルスケめがけて力いっぱい投げつけました。さすがのズルスケも、ほのおにつつまれてはたまりません。恐ろしさに気ちがいのようになって、もうニールスをつかまえるどころではなく、あわてふためいて、小屋からとびだしていきました。
　こうして、ニールスは、やっと一つの危険からまぬがれはしましたが、こんどは、もっと大きな危険にせまられることになりました。というのは、いまズルスケにむかって投げつけた麻の束から、とうとうベッドのカーテンにまで火が燃えうつってしまったのです。ニールスはとびおりて、あわててもみけそうとしましたが、火の手ははげしくなるばかりです。みるみるうちに、部屋じゅうが煙だらけになってしまいました。ズルスケは窓の外に立って、オヤユビくんが、部屋の中でこまっているようすをさっして、言いました。
「やい、オヤユビ小僧、そこで焼き殺されるのと、おれのところへ出てくるのと、どっちがいい？　もちろんおれは、きさまを食い殺してやりてえが、きさまが、かわった死にかたをするのもおもしれえや。」
　ニールスは、ほんとうにキツネの言うとおりだと思いました。なぜなら、火の手は、ずんずんひろがって、もうベッドもほのおにつつまれてしまいましたし、床からも、煙が立ちのぼっています。ニールスは、かまどの上にとびあがって、パン焼きかまどの口をあけようとしました。と、そのとき、だれかが戸の鍵穴に鍵をつっこんで、しずかにまわす音が聞こえました。きっと人間がきたのにちがいありません。けれども、いまのようにこまりきっているときには、人間もこわくはありません。それどころか、大よろこびで、すぐさま戸口に駆けていきました。ちょうどそのとき、戸があいて、目の前にふたりの子どもがあらわれました。でも、その子どもたちが小屋が燃えているのを見たとき、どんな顔をしたか、見ているひまはありませんでした。ニールスはふたりのそばをすりぬけて、おもてにとびだしました。でも、遠くへ走っていく気にはなれませんでした。なぜって、キツネのズルスケが待ちぶせしているにきまっています。だから、この子どもたちのそばにいるのが、いちばん安全です。そこでニールスは、どんな子どもたちかと思って、ふりかえってみました。ところが、ひと目見るより早く、ふたりのそばにかけよって、さけびました。
「やあ、こんちは、オーサちゃん、マッツちゃん。」
　ニールスは、ふたりの子どもを見たしゅんかん、じぶんがどこにいるかを、すっかり忘れてしまったのでした。カラスのことも、燃えている小屋のことも、動物たちのことも、なにもかも忘れてしまったのでした。じぶんは西ヴェンメンヘーイの畑で、ガチョウの番をしながらあるいている、そして、すぐ近くの畑では、スモーランドうまれのこのふたりの子どもたちが、やっぱりガチョウの番をしながらあるいているような気になったのでした。そこでニールスは、ふたりの姿を見ると、すぐさま石垣の上にかけあがって、「やあ、こんちは、オーサちゃん、マッツちゃん。」と、さけんだのです。
　ところが、子どもたちのほうでは、そんなちっぽけな生き物が、両手をひろげて、じぶんたちのほうへ、駆けてくるのを見ますと、生きた心地もないほど、びっくりしてしまいました。そして、たがいにしっかりとだきあって、一、二歩あとへさがりました。
　ニールスのほうでも、ふたりがびっくりしたのを見たとき、はっとわれにかえって、いまのじぶんの身を思いだしました。と、同時に、魔法にかけられているじぶんの、ちっぽけな姿を、この子どもたちに見られるくらい、まずいことはない、と思いました。そして、じぶんはもう人間ではないという、はずかしさと悲しさとに打ちまけて、身をひるがえして、いちもくさんに駆けだしました。どこへというあてもなく。
　ところが、あの荒れ地まできますと、うれしいことが待っていました。ヒースのあいだに、なにか白いものが、チラチラしているではありませんか。と思っているうちに、白いガチョウが、灰色ガンのダンフィンをつれてニールスのほうへやってきました。ガチョウは、ニールスが一生けんめい走ってくるのを見ますと、すぐ、恐ろしい敵に追いかけられているにちがいない、とさとりました。そこで、ニールスをせなかに乗せるが早いか、大いそぎで、空高く飛びあがりました。

17　百姓のおばあさん

四月十四日　木曜日
　ニールスとガチョウのモルテンと灰色ガンのダンフィンは、疲れきったからだで、日が暮れてからも、まだ夜のかくれ場所をさがしあるいていました。ここは、北部スモーランドの荒れはてた地方です。でも、三人は、やわらかい寝床や、気もちのいい部屋をほしがるような弱虫ではありませんから、きっとどこかに、みんなのがまんできるような休み場所が、見つかるでしょう。
「このずっとつづいた山の頂きが、もっと高くて、けわしかったら、キツネものぼれなくて、いい寝場所になるんだけどなあ。」と、ひとりが言いました。
「いままで通ってきた大きな湖の氷がゆるんでいて、キツネがわたれないようになっていたら、もってこいの場所なんだけどなあ。」と、もうひとりが言いました。
　こまったことに、お日さまが沈んでからは、モルテンとダンフィンがねむくなってきて、いまにも地上に落ちそうになるのでした。ニールスだけは、目をさましていられましたが、だんだんあたりが暗くなってくるにつれて、心配になってきました。
「ぼくたちが、湖や沼のこおりついている土地へやってきたのは、運がわるいんだ。これじゃ、どこからでもキツネがやってくる。ほかのところは、みんな氷がとけてしまってるんだけど、ここは一ばん寒いスモーランドなものだから、まだ春にならないんだ。どうやって、いい寝場所を見つけたらいいんだろうなあ。早く安全な場所を見つけないと、夜のうちに、ズルスケにおそわれちまうぞ。」
　どこを見まわしても、つごうのいいかくれ場所は見あたりません。今夜はまた、風と霧雨をまじえた、うすら寒い、まっくらな夜です。おまけに、あたりは刻一刻ときみわるくなってくるではありませんか。
　こういうと、へんに聞こえるかもしれませんが、ニールスたちは、どうも、農園に泊めてもらう気には、なれないらしいのです。いままでにも、たくさんの部落を通りすぎてきたのですが、どの家にもよってみようとはしませんでした。森のはずれの丘のそばにあった小さな小屋などは、疲れきった旅人ならだれでも大よろこびをして、泊めてもらうところですが、ニールスたちは気にもとめませんでした。ですから、せっかくさしのべられた救いの手を、受けいれようとしないのでは、こまるのもあたりまえだ、と言われてもしかたがないかもしれません。
　そのうちに、いよいよ空のうすあかりもすっかり消えて、まっくらになりました。モルテンたちも、もう眠いのをがまんできなくなって、うつらうつらしながら、飛びはじめました。そのとき、一軒だけ、ぽつんと立っている百姓家が見えてきました。見れば、荒れはてているうえに、人は住んでいないようすです。煙突からは、煙ものぼってはいませんし、窓からは、あかりも、もれておりません。家の中には、だれもいないようにみえます。ニールスは、この家を見たとき、こう思いました。
「さあ、いまとなっては、とにかく、この家にはいってみるよりほかはない。これよりいいところは見つかりそうもないんだから。」
　それから、まもなく三人は、その農家の庭におりました。ガチョウたちは、おりるといっしょに、すぐ眠りこんでしまいましたが、ニールスは、どこか屋根になるようなところはないかと思って、一生けんめいに、あちこちを見まわしました。よく見ると、この家は、小さな百姓家ではありませんでした。母屋をはじめ、牛小屋や馬小屋があるばかりでなく、乾燥場や、穀物倉や、物置などもならんでいました。しかし、どれもこれもこわれていて、ひどくみすぼらしいものばかりでした。コケの生えた灰色の壁は、かたむいていて、いまにもたおれそうです。屋根には、大きな穴が口をあけていますし、戸は蝶番がこわれて、はずれかかっています。ひと目見ただけで、長いあいだほったらかされていたものであることがわかります。
　そのうちに、ニールスは牛小屋らしい建物を見つけました。そこで、ガチョウたちをゆり起こして、その入口へつれていきました。ありがたいことに、戸はかるく鍵がかけてあるだけでしたので、すぐに棒で押しあけることができました。ニールスは、これでやっと安心して眠れるぞ、と思って、ほっとため息をつきました。ところが、戸がギイッとあいたとたんに、一ぴきの牝牛がなきだしました。
「おくさん、おそかったですね。今夜は、もう夕飯がいただけないのかと思いましたよ。」
　ニールスは、牛小屋が、からっぽではなかったので、びっくりして、戸口に立ちどまってしまいました。けれども、よく見ますと、牝牛が一ぴきと、ニワトリが、三、四羽いるだけです。で、また元気をとりもどしました。
「ぼくたちは、あわれな旅の者ですが、キツネにおそわれたり、人間につかまらないような、一夜の宿をさがしているのです。ここは安全な場所でしょうか？」と、ニールスはたずねました。
「だいじょうぶですとも。」と、牝牛は答えました。「このとおり、壁はいたんではいますけど、これまでに、キツネがそこからはいってきたためしはありません。それに、この家には、おばさんがひとり住んでいるだけですが、あのおばあさんは、生き物をつかまえたりはしませんよ。ところで、おまえさんたちは、いったいだれですね？」と、牝牛は言いながらからだをねじまげて、ニールスたちの姿をよく見ようとしました。
「ぼくは、いまでこそ小人にされてしまっていますが、ニールス・ホルゲルッソンといって、西ヴェンメンヘーイうまれのものです。」と、ニールスは答えました。「いっしょにいるのは、ぼくがいつもせなかに乗せてもらっている、家で飼っていたガチョウと、新しく道づれになった灰色ガンです。」
「こんなめずらしいお客さんは、はじめてです。」と、牝牛は言いました。「まあ、よくきてくださいました。でも、ほんとのところは、おくさんが夕飯をもってきてくださったんなら、もっとよかったんですがね。」
　ニールスは、ガチョウたちを、かなり大きい牛小屋の中につれていって、からっぽのかいば桶の中にいれてやりました。ガチョウたちはすぐねむりこんでしまいました。ニールスは、わらで小さな寝床をこしらえて、じぶんもすぐにねようとしました。
　ところが、とても眠るわけにはいきません。なぜって、すぐそばでは、あわれな牝牛が、夕飯をもらえないので、一ときもじっとしてはいないのです。首のくさりをガチャガチャやったり、ドタドタあるきまわったり、腹がへった、腹がへった、と、ひっきりなしにこぼしているのです。ニールスは眠れないままに、わらの上に横になって、近ごろおこったさまざまのできごとを思いだしました。
　まずさいしょに、思いがけなく出あった、ガチョウ番のオーサとマッツのことを思いだしました。そして、じぶんが火をつけた小さな小屋は、あのふたりのスモーランド人の家にちがいない、と思いました。そういえば、いつだったか、ふたりがあんな小屋や、ヒースの生えているひろい荒れ地のことを話していたことがありました。きっとふたりは、もう一どなつかしいわが家を見るために、もどってきたのです。ところが、せっかく帰ってみると、その小屋は、ほのおにつつまれていたのです。
　あのふたりは、どんなに悲しんだことでしょう！　しかも、それは、このじぶんのせいなのです。そう思うと、ニールスはたまらなくなりました。そして、いつか人間にもどったら、心からこのおわびをしようと思いました。
　それから、思いはカラスたちのことにうつりました。そして、じぶんの命を助けてくれたものの、かしらにえらばれるとすぐに殺されてしまったノロ公の身の上を考えますと、あまりにも悲しくなって、おもわず涙がうかんできました。
　じっさい、この二、三日のあいだに、ずいぶんひどいめにあったものです。けれども、とにかく、モルテンとダンフィンとが、じぶんを見つけだしてくれたのは、ほんとうにしあわせなことでした。
　ガチョウからあとで聞いた話では、ガンたちは、オヤユビくんの姿が見えないのに気がつくと、すぐに森じゅうの小さな動物たちにたずねてみたのでした。すると、スモーランドのカラスの一隊にさらわれた、ということがすぐわかりました。けれども、そのときには、もうカラスたちは姿を消してしまっていたのでした。しかも、カラスたちが、どっちへいったかは、だれひとり知らないのです。そこでアッカは、オヤユビくんを一刻も早くさがしだすために、ガンたちに命じて、二羽ずつわかれわかれになって、べつべつの方面をさがすことにさせました。そして、オヤユビくんが見つかっても見つからなくても、ともかく二日さがしたら、北西スモーランドのターベルイという山の頂きでおちあうことにきめました。その山は、まるで、先をたちきられた塔のようにけわしいということでした。それから、アッカは、めいめいに方向をきめてやり、ターベルイにいくまでの道すじを、ていねいに教えてやりました。こうして、みんなはちりぢりになったのでした。
　白いガチョウは、灰色ガンのダンフィンを旅の道づれにえらびました。ふたりは、オヤユビくんのことをひどく心配しながら、あっちこっちさがしまわりました。そうしているうちに、木の頂きにとまっている一羽のツグミが、「カラスにさらわれた」というやつに、からかわれたといって、泣いているのを聞きつけました。それで、さっそく、ツグミにきいてみますと、その「カラスにさらわれた」というものが、どっちへいったかを教えてくれました。それからも、森バトや、ムクドリや、野ガモにであいましたが、みんな口ぐちに、チビスケのいたずら小僧に歌のじゃまをされたといっては、くやしがっていました。そして、そいつの名まえは、「カラスにさらわれたもの」とか、「カラスに盗まれたもの」とか、言っていたということでした。こんなふうにして、ふたりは、スンネルブー地方のヒースの生えている、あの荒れ地まで、オヤユビくんのあとをたどっていくことができたのでした。
　そして、モルテンとダンフィンは、オヤユビくんを見つけると、すぐに、ターベルイへいくために、北のほうをさして飛んできたのです。しかし、ターベルイまでは、ずいぶん道のりがありました。そこで、いま、山の頂きがまだ見えないうちに、早くも日が暮れてしまったのでした。
「あした、ターベルイにいきさえすれば、もう心配はないんだ。」と、ニールスは思いながら、わらの中にもぐりこんで、あたたまろうとしました。
　牝牛は、そのあいだじゅうさわいでいましたが、とつぜん、ニールスにむかって話しだしました。
「おまえさんたちのうちのひとりは、たしか小人だと言いましたね？　もし、ほんとうにそうなら、牛のせわができるでしょう？」
「いったい、何がたりないのさ？」と、ニールスはききました。
「なにもかもないんですよ。」と、牝牛は言いました。「乳もしぼってもらえないし、せわもしてもらえない。夜のかいばもなければ、寝るところもない。おくさんは、夕方ここへきて、いつものようにせわをしてくださっていたんですが、急に気もちがわるくなって、いそいで帰ってしまいました。それっきり、こないんですよ。」
「お気のどくだが、ぼくは、このとおりちっぽけで、力もない。」と、ニールスは言いました。「とてもきみのお役にはたてそうもないよ。」
「ちっちゃいからといって、力がないとは思えませんね。」と、牝牛は言いました。「いままで話に聞いている小人というのは、みんな力が強くって、車いっぱい積んだ枯れ草をひっぱることもできるし、げんこで牛を一打ちに殺すこともできたということですよ。」
　それを聞いて、ニールスは、思わずふきだしてしまいました。そして、
「ぼくは、そんな小人とはちがうんだよ。でも、きみの首のくさりをといて、入口の戸をあけてあげるよ。そうすりゃ、きみはおもてへいって、水を飲めるだろう。それから、枯れ草の置場によじのぼって、きみの桶の中に枯れ草を投げおとしてみるよ。」と、言いました。
「ええ、そうしてもらえば、すこしは助かりますよ。」と、牝牛は言いました。
　ニールスは、そのとおりにしました。こうして、牝牛の桶には、枯草がいっぱいになりました。ニールスは、こんどこそおちついてねられるだろうと思いました。ところが、まだわらの中にもぐりこんだか、もぐりこまないうちに、またも牝牛が話しかけました。
「もうひとつお願いがあるんですけど、どうでしょうね？」
「ぼくにできることならばね。」と、ニールスは言いました。
「それじゃ、お願いしますが、このまむかいにある母屋にいって、おくさんのようすを見てきてください。どうかしたんじゃないかと心配でたまらないんです。」
「いや、そりゃあ、こまるよ。ぼくは人間の前にでていく勇気はないもの。」と、ニールスは言いました。
「病気のおばあさんをこわがることはないじゃありませんか。それに、部屋の中まではいっていかなくても、戸口に立って、すきまからのぞいてくれりゃいいんですもの。」と、牝牛は言いました。
「うん、それだけのことなら、ひきうけたよ。」と、ニールスは言いました。
　そこで、牛小屋の戸をあけて、中庭にでました。ところが、なんという恐ろしい晩でしょう。空には、お月さまもお星さまもなく、風がヒュウ、ヒュウとものすごいうなり声をあげ、雨がザア、ザアとはげしくふっています。それに、なによりも恐ろしいことには、母屋の軒に、大きなフクロウが七羽もならんでとまっているではありませんか。そのフクロウたちが、雨風にむかってうなっている声を耳にしますと、思わずぞっとしてしまいます。しかも、その一羽にでも見つかったら、いったいじぶんの身はどうなるでしょう。そのときこそ、この身のさいごにちがいありません。そう思うと、ますます恐ろしくなりました。
　それでも、ニールスは思いきって、中庭にでました。そして、「ちっぽけなものは、あわれだなあ！」と、ひとりごとを言いました。ほんとうに、そのとおりでした。なぜって、母屋につくまでに、風のために二どまでも、吹きとばされてしまったのです。一どなどは、水たまりの中に吹きたおされました。しかもその水たまりは深かったので、もうすこしでおぼれそうになりました。でも、ようやくのことで母屋にたどりつきました。
　段々をのぼり、しきいをこえて、玄関にはいりました。部屋の戸はしまっていましたが、すみのほうに、ネコが出はいりできるくらいの穴があいていました。ニールスは、そこから中のようすをのぞいて見ました。
　ところが、ひと目見たしゅんかん、びっくりして、おもわず頭をひっこめました。白髪のおばあさんが、床の上にたおれているではありませんか。身動きもしませんし、うめき声一つあげません。それでいて、顔はふしぎに白く輝いていました。まるで、雲間にかくれたお月さまの弱い光に照らされているようでした。
　ニールスは、じぶんのおじいさんが死んだときにも、やっぱりこんなふうに、ふしぎに白い顔をしていたことを思いだしました。そうしてみると、床の上にたおれているおばあさんは、きっと死んでいるのにちがいありません。おそらく、寝床にはいるひまもなく、急にたおれてしまったものでしょう。
　こんな暗い真夜中に、死んだ人とふたりきりかと思いますと、たまらないほど恐ろしくなりました。ころがるように段々をかけおりて、大いそぎで牛小屋にとんで帰りました。
　ニールスが母屋で見てきたことを話しますと、牝牛はたべるのをやめて、
「それじゃ、おくさんは死んだんですね。すると、このわたしも、もうおしまいですよ。」と、言いました。
「だれか、きみのせわをしてくれる人が、じきにくるよ。」と、ニールスはなぐさめて言いました。
「ああ、おまえさんは知らないけれども、」と、牝牛は言いました。「わたしはね、ふつう屠殺台につれていかれる牛よりも、倍も年をとっているんですよ。でも、もうあのおくさんにめんどうをみてもらえないんなら、生きていたいとも思いません。」
　牝牛は、しばらくのあいだ、ひとことも言いませんでした。しかし、ニールスが気をつけて見ていますと、牝牛は眠ってもいなければ、草をたべてもいませんでした。そして、やがてまた話しはじめました。
「おくさんは、何もない床の上にたおれているんですか？」と、牝牛はたずねました。
「そうだよ。」と、ニールスは答えました。
「おくさんは、この小屋へきては、いつも苦しいことを話していましたっけ。わたしには、答えることはできませんでしたが、言うことはみんなわかりましたよ。この二、三日は、じぶんが死んだとき、だれもそばにいてくれないのが、とっても心配だと言つていました。死んでも、目をとじてくれたり、両手を胸の上で組み合わせてくれる人のいないのが、気になってしかたがなかったんですね。どうか、おまえさん、もう一どいって、そうしてやってくれませんか？」
　ニールスはためらいました。けれども、おじいさんが死んだときには、おかあさんが、なにもかも、うまくしまつしたことを思いだしました。そして、だれかがそうしなければならないんだ、と思いました。とはいっても、こんなきみわるいよなかに、死んだ人のところへいく気にはとてもなれません。ニールスはいやとも言わず、そうかといって、戸口にいこうともしませんでした。
　年とった牝牛は、返事を待っているらしく、しばらくだまっていました。しかし、ニールスがなんにも言わないので、また話しだしました。でも、もう一どたのもうとするのではなくて、こんどは、おくさんのことを話しはじめました。
　話したいことは山ほどありますが、まずさいしょは、おばあさんのそだてた子どもたちのことです。子どもたちは、まいにち牛小屋へきました。そして、夏になると、沼やこんもりとした森の中に、牝牛をつれていきました。だから、この牝牛は子どもたちのことは、なんでも知っていました。どの子もじょうぶで、ほがらかで、きんべんでした。「ウシというものは、じぶんのせわをしてくれる人が、いい人かどうかを、よく知っているものですよ。」と、牝牛は言いました。
　農場についても、いろいろ話がありました。それは、たいへん大きくて、といっても、大部分が沼や石だらけの荒れ地だったのですが、いまのようにみすぼらしいものではありませんでした。畑になるようなところこそ、あまりありませんでしたが、牧草はどこにもたくさん生えていました。ひところなどは、牛小屋のどの区画の中にも、牛が一頭ずついましたし、いまはからっぽになっている牡牛小屋にも、りっぱな牡牛がたくさんいたものでした。だから、そのころは、母屋をみても、牛小屋をみても、みんな陽気で、よろこびにみちあふれていました。おくさんは牛小屋の戸をあけるときは、いつも鼻歌をうたっていたものですし、牛たちはおくさんがきたのをよろこんで、モウモウとないていたものでした。
　ところが、この家のご主人は、子どもたちがまだ小さくて、仕事の手だすけもできないころに死んでしまいました。そのため、おくさんは農場のことを、いっさいひとりでやらなければならなくなったのです。おくさんは男のようにしっかりした人で、じぶんで耕しもしたり、とりいれもしました。でも、夕がた、乳をしぼりに牛小屋へきたとき、くたびれすぎて、泣いていることもありました。しかし、すぐに子どもたちのことを思いだしては、元気になりました。そして、涙をふきながら、こう言ったものでした。
「なんでもない。なんでもない。あたしにだって、またいい時がくるわ。子どもたちが大きくさえなれば。そうだわ、子どもたちが大きくさえなれば。」
　しかし、子どもたちは大きくなりますと、それぞれふしぎなあこがれをもつようになりました。故郷にいるのがいやになって、みんな遠い外国へいってしまいました。おかあさんは、子どもたちになにひとつ、手だすけをしてもらったことはありませんでした。それどころか、子どもたちのなかのふたりは、出かけるまえに結婚していて、うまれた小さい子どもたちを、おばあさんのところにあずけて、いってしまったのです。で、こんどは、この孫たちが、おばあさんを牛小屋につれてきました。ちょうど、むかし、子どもたちがしたように、孫たちはよく牛のめんどうをみました。ほんとうにいい子どもたちでした。おばあさんは、夕がた、乳をしぼりながら、くたびれすぎて、いねむりをしそうになりますと、いつも孫たちのことを考えては、気をひきたてるのでした。「わたしにだって、いつかいい時がくるさ。」と、おばあさんは、ねむけをはらいのけながら、言いました。「孫たちが大きくさえなれば。」
　ところが、孫たちも大きくなりますと、外国にいる、おとうさんとおかあさんのところへいってしまいました。だれひとり家にのこるものもなければ、もどってくるものもありませんでした。年とったおばあさんは、この農場でひとりぽっちになってしまったのです。
　おそらく、おばあさんは、孫たちに、じぶんのそばにいてくれ、とはたのまなかったのでしょう。
「ねえ、赤や。おまえ、孫たちが一人まえになったときに、ここにいっしょにいてくれ、とたのめると思うかい？」おばあさんは牛小屋へきて、牝牛のそばに立っては、いつもこう言うのでした。「このスモーランドにいたんじゃ、いつまでたっても貧乏ぐらしだものね。」
　しかし、一ばん下の孫がいってしまったときには、さすがに、おばあさんもすっかりがっかりしてしまいました。急に腰がまがり、白髪もふえてきました。そして、あるくのにもよろよろとして、まるで、動く力がなくなってしまったようでした。それからは、働くのもやめてしまいました。農場のせわもしなくなりましたし、なにもかも、ほったらかしておきました。家も荒れはてるにまかせて、修繕もしませんでした。牝牛も牡牛も売ってしまいました。けれども、いまオヤユビくんと話をしている、年とった牝牛だけは売らずにおきました。この牝牛だけは、生かしておきたかったのです。思えば、どの子も、どの孫も、一生けんめいせわをしてやった牛でしたから。
　おばあさんは、仕事の手つだいに、下男や下女をやとうこともできたでしょう。けれども、じぶんの子どもたちが、おばあさんを残していってしまってからは、身ぢかに他人を見たくなかったのです。それに、じぶんが死んだのちに、子どもたちがもどってきて、この農場を受けつごうというわけではないのですから、荒れはてるにまかせておいたほうが、かえってよかったのでしょう。こうして、じぶんのものも、ちっともだいじにしませんでしたから、貧乏になっても、平気でいました。ただ、じぶんがこんなひどい暮らしをしていることを、子どもたちが聞かなければいいが、と、そればかりを気にしていました。
「子どもたちの耳に、はいらなければいいが！　子どもたちの耳に、はいらなければいいが！」おばあさんは、牛小屋の中をよろよろとあるきながら、ため息をついてはこう言いました。
　子どもたちは、しょっちゅう手紙をよこしては、おばあさんにもきてくれるように言いました。しかし、おばあさんはいこうとはしませんでした。おばあさんとしては、子どもたちをじぶんから、うばってしまった国などを見たくなかったのです。おばあさんは、その国にたいして腹をたてていました。
「子どもたちが、あんなにすきな国をきらうなんて、わたしのほうがどうかしているんだろう。」と、おばあさんは言いました。「でも、わたしはそんな国は見たくない。」
　おばあさんは、いつもいつも、子どもたちのことと、けっきょく子どもたちは、外国へいかねばならなかったのだ、ということばかり考えていました。夏になると、おばあさんは牝牛をつれて大きな沼にいきました。そして、一日じゅう、手を着物の中につっこんで、沼のはずれにすわっていました。帰り道には、きまってこう言いました。
「ねえ、赤や、ここがこんなやせた沼地ばかりでなくって、大きな肥えた畑もあったら、あの子たちも、よそへはいかなくてもよかったろうにねえ。」
　おばあさんは、目の前にひろびろとひろがってはいても、なんの役にもたたないこの沼地にたいして、ほんとうに腹をたてることもありました。そして、子どもたちがじぶんを残していってしまったのは、みんなこの沼地のせいだと言いたてました。
　ゆうべは、おばあさんは、いつもよりもよろよろしていて、とてもあぶなっかしそうでした。乳をしぼることさえもできませんでした。かいば桶によりかかりながら、さっきおばあさんをたずねてきて、この沼地を買いたいと言った、ふたりの見知らぬお百姓さんのことを話していました。その人たちは、沼の水をほして、畑にしようというのだそうです。この話に、おばあさんはうれしいような、心配のような気もちになっていました。
「いいかい、赤や。いいかい。この沼にライムギが生えるようになるんだってよ。さあ、子どもたちに手紙でも書いて、帰ってくるように言ってやろうよ。もうよその国にいっている必要はないんだよ。だって、これからは、家にいても、たべていけるようになるんだもの。」
　その手紙を書くために、おばあさんは母屋にもどったのでした。————
　ニールスは、牝牛が話しつづけるのを、もう聞いてはいませんでした。牛小屋の戸をあけて、中庭をよこぎり、さっきまではあんなにこわがっていた、死人のいる部屋にはいっていきました。
　部屋の中は、思ったほどみすぼらしくはありませんでした。アメリカに知りあいのある人の家に、よく見られるようなものが、たくさんならんでいました。すみのほうには、アメリカ製の揺りいすがありますし、窓ぎわのテーブルには、美しくぬいとりをしたビロードのきれがかけてあります。それから、ベッドには美しいおおいがかけてあります。壁には、外国にいっている子どもや孫たちの写真が、木彫りの額ぶちにいれられて、かかっています。机の上には、たけの高い花びんと、ふとい、らせん形のロウソクを立てた、一対のロウソク立てがおいてあります。
　ニールスは、マッチ箱をさがして、そのロウソクに火をともしました。ニールスがそうしたのは、部屋の中をもっとあかるくするためではなくて、そうすることが死んだ人にたいする礼儀だと思ったのです。
　それから、おばあさんのところへいって、しずかに目をとじてやり、両手を胸の上に組ませてやりました。そうして、顔にかかっている、うすい白髪をきれいになおしてやりました。
　ニールスは、もうちっともこわくはなくなりました。それどころか、おばあさんが死ぬときまで、子どもたちのことを思いながら、ひとりさびしく暮らさなければならなかったことを思いますと、心から気のどくになりました。そして、せめてこんや一晩は、このおばあさんのなきがらを見守っていてあげようと思いました。
　ニールスは、讃美歌の本をさがしだして、ひくい声で二つ三つ読みはじめました。ところが、読んでいるさいちゅうに、とつぜん、途中でやめてしまいました。なぜって、急におとうさんとおかあさんのことが頭に浮かんできたからです。
　親というものは、こんなにまで子どものことを思っているんだなあ！　ニールスは、いままでそんなことは夢にも考えたことがありませんでした。子どもが遠くへいってしまえば、まるで生きがいがなくなってしまうんだなあ！　そうしてみると、このおばあさんとおなじように、ぼくのおとうさんとおかあさんも、ぼくのことばかり思っているかなあ！
　ニールスはこう考えますと、うれしくなりましたが、そう信じることはできませんでした。だって、いくらなんでも、じぶんみたいな者のことは、だれもそんなに思ってはくれないでしょうから。
　でも、いままではそうであったにしても、これからは、じぶんも、もっとちがった人間になるでしょう。
　ニールスは、まわりにかかっている、外国へいってしまった人たちの写真をながめました。男の人も女の人も、強そうな大きな人たちです。長いヴェールをかぶった花よめもいますし、りっぱな服をきた紳士もいます。それから、美しいまっ白な服をきた、まき毛の子もいます。そして、どの人もどの人も、みんな遠くのほうを、じいっと見つめているように見えました。
「あなたがたはかわいそうに！」と、ニールスは写真にむかって言いました。「あなたがたのおかあさんは死んだんですよ。あなたがたが、おかあさんのそばを、はなれていったことを、いくら後悔しても、もうそのつぐないはできないんですよ。でも、ぼくのおかあさんはまだ生きているんだ！」
　ここで、ことばをきって、ひとりでうなずきながら、ニコニコしました。そして、また、
「ぼくのおかあさんは生きているんだ。おとうさんもおかあさんも生きているんだ。」と言いました。

18　ターベルイからフースクヴァルナまで

四月十五日　金曜日
　ニールスは、ほとんど一晩じゅう目がさめていました。あけがたになって、すこし眠りましたが、そのとき、おとうさんとおかあさんの夢をみました。けれども、ふたりともすっかり年よりになっていて、白髪が多くなり、顔にはしわがよっていました。いつものおとうさんおかあさんとは思えないくらいでした。ニールスはびっくりして、どうしたんですか、とたずねました。すると、ふたりは、おまえのことばかり考えて心配しているものだから、こんなに年とってしまったんだよ、と答えました。ニールスは、深く心をうごかされました。と、同時に、驚ろきました。だって、いままでは、おとうさんとおかあさんは、じぶんがいなくなって、喜んでいるだろうと思っていたんですもの。
　目がさめたときには、もう朝になっていました。外はあかるい、よいお天気でした。まず部屋の中で見つけたパンをたべて、それから、ガチョウと牝牛に朝のたべものをやりました。さいごに、牛小屋の戸をあけて、牝牛に、となりの農場へいくように言いきかせました。となりの人たちは、牝牛がひとりでやってきたのを見れば、おばあさんに何か、かわったことでもおこったんだろうと思うでしょう。そして、みんなは、どうしたことだろうと、この荒れはてた農場へ駆けつけてくるでしょう。そうすれば、おばあさんのなきがらを見つけて、お葬式をしてくれるでしょう。
　ニールスとガチョウたちが、空に舞いあがりますと、まもなく高い山が見えてきました。見れば、その山壁は、ほとんど切り立っていて、頂きは切りおとされたようになっています。それこそターベルイ山にちがいありません。頂きには、アッカをはじめ、ユクシ、カクシ、コルメ、ネリエー、ヴィシ、クウシのほかに、六羽の若いガンたちが三人を待っていました。みんなは、モルテンとダンフィンがうまくオヤユビくんをさがしだしてきたのを見ますと、大よろこびで、うれしそうなさけび声をあげながら、つばさをバタバタやりました。その喜びさわぐありさまは、まったく、たいへんなものでした。
　ターベルイ山の山腹には、かなり高くまで森が茂っていますが、山の頂きには木が一本もありません。そこからは四方八方を見わたすことができます。東を見ても、南を見ても、西を見ても、なにも生えていない高地のほかはほとんど何も見えません。そこには、黒々としたモミの森と、褐色の沼と、氷におおわれた湖と、青みがかった山の峰とが見えるばかりです。ニールスは、いつかマッツの話していた、昔からの言いつたえを思いだしました。この地方はあまり骨をおらずに、大いそぎでつくられたという話だ、だがあの話は、たしかにほんとうだ、と思いました。ところが、こちらのほうを見れば、まるでちがっています。こちらは、恵みぶかい心で、ていねいにつくられているように見えました。こちらのほうには、美しい山々や、低い谷や、ゆるやかにうねっている川がいくつも見えます。そして、それらの川は、ヴェッテルン湖という、氷一つない、澄みきった大きな湖にそそいでいるのです。ヴェッテルン湖は、まるで水のかわりに青い光でもたたえているかのように、キラキラと輝いていました。
　北へのながめをこんなにも美しくしているのは、まぎれもなくヴェッテルン湖です。なぜなら、青い光が一すじ、この湖から立ちのぼって、それがこの地方ぜんたいにひろがっているように見えるのでした。こんもりとした森や、丘や、ヴェッテルン湖の岸べにそって、キラキラ光っているエンチェーピング市の屋根や、塔などが、うす青色につつまれて、人の目をひきつけているのです。もしも天上に国があるとすれば、それもやっぱりこんなふうに青いにちがいありません。ニールスは、楽園というところがどんなふうか、おぼろげながらわかったような気がしました。
　ガンたちは、その日、旅をつづけることになって、その青い谷のほうへ飛んでいきました。みんなは、たのしいお祭り気分になっていて、鳴いたり、さけんだり、大さわぎをしながら飛んでいきました。
　この地方では、きょうが、ほんとうに春らしい、はじめてのいいお天気でした。いままでは、春とはいっても、雨風にたたられてばかりいたのです。それが、きょう急にすばらしい天気になりましたので、地上の人たちは、あたたかいお日さまの光と、緑の森が恋しくなって、じっと仕事をしていることができなくなりました。それで、ガンのむれが楽しそうに、のびのびと空を飛んできたとき、みんなは手をやすめて、ガンのむれをながめました。
　この日、ガンのむれの姿をさいしょに見た者は、ターベルイの鉱山で、鉱石を掘っている鉱夫たちでした。鉱夫たちは、ガンの鳴く声を耳にしますと、仕事をやめました。そして、
「どこへいくんだ？　どこへいくんだ？」と、中のひとりが、ガンたちにむかってさけびました。
　ガンたちには、人間のことばはわかりません。それで、ニールスがかわって、ガチョウのせなかから身をのりだして、答えました。
「つるはしもハンマーもないところへ、いくんだよォ！」
　鉱夫たちは、このことばをきいたとき、ガンの声が、まるで人間のことばのように聞こえるのは、じぶんたちが心にもっている、あこがれのせいだろうと思いました。そして、
「いっしょにつれてってくれえ！　いっしょにつれてってくれえ！」と、さけびました。
「ことしはだめだよォ！　ことしはだめだよォ！」と、ニールスはさけびかえしました。
　ガンのむれは、ターベルイ川にそって、ムンク湖のほうに飛んでいきましたが、そのあいだも大さわぎをしていました。このムンク湖とヴェッテルン湖とのあいだのせまい土地には、エンチェーピング市があって、ここには、大きな工場がたくさんあります。ガンのむれは、まずムンク製紙工場の上を飛びました。ちょうど昼休みがおわって、大ぜいの職工たちが、工場の門をはいっていくところでした。職工たちは、ガンの鳴き声をききつけますと、ちょっと立ちどまって、
「どこへいくんだい？　どこへいくんだい？」と、さけびました。
　ガンには何もわかりませんでしたが、ニールスがかわって答えました。
「機械もボイラーもないところへいくんだよォ！」
　職工たちは、この答えをきいて、ガンの鳴き声が人間のことばのように聞こえるのは、じぶんたちが心にもっているあこがれのせいだろうと思いました、そして、
「いっしょにつれてってくれよォ！　いっしょにつれてってくれよォ！」と、みんなでさけびました。
「ことしはだめだよォ！　ことしはだめだよォ！」と、ニールスはさけびかえしました。
　そのつぎには、ガンたちは、ヴェッテルン湖の岸べにある、有名なマッチ工場の上を飛びました。とりでのように大きな工場で、たくさんの煙突が、空高く突きでていました。外にはだれもいませんでしたが、大きな部屋の中には、若い女工たちがすわって、マッチを箱につめていました。天気がいいので、窓はあけはなされていました。そこから、ガンの鳴き声が聞こえてきました。窓ぎわにすわっていたひとりの女工が、マッチ箱を手にしたまま、窓から顔をだして、
「どこへいくの？　どこへいくの？」と、さけびました。
「あかりもマッチもいらない国へ、いくんだよォ！」と、ニールスが答えました。
　少女は、ガンが鳴いているのだろうと思いましたが、そのことばが、はっきり耳にはいりましたので、思わず、
「あたしもいっしょにつれてってえ！」と、さけびました。
「ことしはだめだよォ！　ことしはだめだよォ！」と、ニールスは答えました。
　工場の東にあたる、じつにすばらしい場所に、エンチェーピング市があります、細長いヴェッテルン湖の東がわと西がわには、高くてけわしい砂丘があります。けれども、南がわは、砂丘の壁がくずれおちて、まるで大きな門のようになっています。そこを通って、ヴェッテルン湖にでることができるのです。そして、この門のまんなかに、左てと右てには山をひかえ、うしろにはムンク湖、前にはヴェッテルン湖をのぞんで、エンチェーピング市があるのです。
　ガンたちは、この細長い市の上を飛びながら、あいかわらず鳴きさけびました。ところが、この市では、だれも答えてくれる者はありませんでした。むりもありません。市の人たちが通りに立ちどまって、ガンにむかってさけぶなんてことは、考えられませんもの。
　やがて、詩人ヴィクトル・リュドベルイの胸像のある、公園の上にきました。公園の中はひっそりとしていて、高い木々の下には、散歩をしている人の姿も見うけられませんでした。ところが、とつぜん、どこからともなく、力づよい声が、ガンたちの耳に聞こえてきました。
「どこへいく？　どこへいく？」
「通りも広場もないところへ、いくんだよォ！」と、ニールスはさけびました。
「いっしょにつれていってくれ！」と、その力づよい声がさけびました。その声は、まるで青銅ののどからでてくるようでした。
「ことしはだめだよォ！　ことしはだめだよォ！」と、ニールスは答えました。
　それから、ガンのむれは、ヴェッテルン湖の岸にそって飛びました。しばらくすると、アンナ病院の上にきました。病人が二、三人、露台にでて、すがすがしい春の空気をたのしんでいましたが、ちょうどそのとき、ガンの鳴き声を耳にしました。
「どこへいくの？」と、その中のひとりが、ほとんど聞きとれないくらいの、弱々しい声でたずねました。
「心配も病気もない国へ、いくんだよォ！」と、ニールスは答えました。
「いっしょにつれていって！」と、病人は言いました。
「ことしはだめだよォ！　ことしはだめだよォ！」と、ニールスはさけびました。
　みんなは飛びつづけて、フースクヴァルナにきました。この村は谷間にあって、ぐるりの山々は、けわしいけれど美しい形をしていました。一つの川が細長い滝になって、丘にそって流れ落ちていました。山のふもとには大きな工場がいくつもありました。そして、谷間には小さい庭のある職工たちの家々が、あちこちに見えました。谷間のまんなかには学校がありました。ちょうど、ガンがその上にきたとき、おおぜいの生徒たちがならんで出てきて、たちまち校庭にいっぱいあらわれました。
「どこへいくの？　どこへいくの？」と、子どもたちは、ガンの鳴き声をききつけて、さけびました。
「本も宿題もないところへ、いくんだよォ！」とニールスは答えました。
「いっしょにつれてってよォ！」と、子どもたちはさけびました。
「ことしはだめ、来年来年！」と、ニールスはさけびました。「ことしはだめ、来年来年！」

19　大きな鳥の湖

野ガモのヤッロー

　ヴェッテルン湖の東岸には、オムベルイ山がそびえています。そのオムベルイ山の東には、ダーグスモッセがあり、さらにダーグスモッセの東にはトーケルン湖があります。そして、トーケルン湖のまわりには、大きなエステルイエータ平野がひろびろとひろがっています。
　トーケルン湖は大きな美しい湖です。けれども、むかしはもっと大きかったにちがいありません。そのころの人たちは、この湖が、肥えた豊かな平野を大きく占領しているので、その水を干してしまって、そこに畑をつくろうとしました。しかし、みんなの考えていたように、湖ぜんぶをうまく干してしまうことはできませんでした。そのために、いまでもこんなに大きいのです。しかし、湖の水を干そうとしてからは、ずっと浅くなって、いまでは二メートル以上の深さのところは、ほとんどありません。岸べは沼地のようにどろどろしていますし、湖の中には、泥の小島があっちにもこっちにも水面に顔を出しています。
　さて、この湖には、足だけ水の中に入れて、頭と胴を水のおもてにつきだしたがっているものがあります。それはアシです。しかも、浅くて長くつづいているこのトーケルン湖の岸べと、泥の小島のまわりぐらい、アシが生えるのにもってこいの場所はないのです。アシは、人間の背よりも高く、びっしりと生い茂るものですから、小舟でさえも、その中にわけいることはできません。この湖のまわりにも、みどりのアシが広い垣をつくっているために、人間はアシを刈りとった、ごくわずかのところにしか近づくことができないのです。
　アシは人間をよせつけないかわりに、ほかのたくさんの生き物にとっては、絶好のかくれ場所となるのです。アシのあいだには、静かな緑の水をたたえた、小さな池や堀割があります。そこには、ウキクサやヒルムシロがはびこりますし、ボウフラや、魚の子や、オタマジャクシなどが、うじゃうじゃとかえります。そして、こういう小さい池や堀割にそっては、水鳥たちが、敵におそわれたり、たべものに不自由する心配もなく、安心して、卵をかえしたり、ひなをそだてたりすることのできるところがたくさんあるのです。
　このアシのあいだには、信じられないほどたくさんの鳥が住んでいます。しかもそこが、すばらしい住みかだということが知れわたってしまいましたので、年々その数はふえるばかりです。さいしょに、ここに住みついたのは、野ガモでしたが、いまでもまだいく千羽も住んでいます。しかし、もう湖ぜんぶをひとりで占領しているわけにはいきません。白鳥や、モグリドリや、黒ガモや、アビや、ハイシロガモや、そのほかたくさんの鳥に領地をわけてやらなければならなくなりました。
　トーケルン湖は、たしかに、スウェーデンじゅうでも、いちばん大きな、いちばんすばらしい鳥の湖です。ですから、鳥たちは、こういう隠れ場所をもっていられるあいだは、身のしあわせをよろこばなければなりません。しかし、これからさき、どのくらいのあいだ、このアシと泥の岸とを、鳥たちがじぶんのものとしていられるかは、ちょっと見当がつきません。なぜなら、人間は、この湖が肥えた豊かな平野の大きな部分に、ひろがっていることを忘れてはいないからです。それどころか、人間のあいだには、またこの湖の水を干そうかという相談が、ときおりもちあがっているのです。もしこの計画が実行されることになりますと、いく千という水鳥がここから立ちのかなければならないことになるでしょう。
　ニールス・ホルゲルッソンが、ガンの仲間といっしょに旅をしていたころ、このトーケルン湖に、ヤッローという名まえの野ガモが住んでいました。ヤッローは、まだ夏と秋と冬としか、すごしたことのない若い鳥でした。ですから、こんどはじめて春をむかえたわけでした。そして、ついさいきん、北アフリカから帰ってきたばかりでした。ヤッローがトーケルン湖に帰ってきたころは、まだ湖の上には氷がはっていました。
　ある夕方、ヤッローは、ほかの若いカモたちといっしょに、湖の上をあっちこっち飛びまわって遊んでいました。と、とつぜん、ヒュウッと二発の弾が飛んできて、ヤッローの胸にあたりました。ヤッローは、もうだめだ、とは思いましたが、かりゅうどにつかまらないように、一生けんめい飛びました。どこへというあてはありませんが、ただ遠くへ遠くへと飛んでいきました。だんだん力が弱って、もうこれ以上飛ぶことができなくなったときには、トーケルン湖の上をすぎて、湖のほとりにある大きな農家の上にきていました。そして、とうとうつかれはてて、その農家の入口の前に落ちてしまいました。
　まもなく、ひとりの作男がでてきました。男はヤッローを見ると、つかつかとやってきて、いきなりヤッローをつかまえました。しかし、ヤッローの身になってみれば、ひとりで静かに死にたいのです。そこで、なんとかしてのがれようと、さいごの力をふりしぼって、作男の指にかみつきました。
　ヤッローは逃げることはできませんでしたが、あばれたおかげで、作男はヤッローがまだ死んでいないことに気がつきました。それで、そっとかかえて、家の中にはいり、おかみさんに見せました。おかみさんは、親切そうな顔をした若い人でした。そして、すぐに作男からヤッローを受けとって、せなかをさすってやったり、首の毛から流れおちる血をふいてやったりしました。それから、じっとヤッローをながめました。見れば、頭は濃緑色につやつやしていて、首すじは白く、せなかは赤褐色で、つばさは青く、じつに美しい鳥です。で、おかみさんは、このまま死なしてしまうのは、おしいと思いました。そこで、さっそく鳥かごをなおして、ヤッローをその中に入れてやりました。
　ヤッローはひっきりなしに、はねをバタバタやっては、逃げようとしました。しかし、人間に、じぶんを殺すつもりがないことがわかりましたので、安心してかごの中でじっとしていました。いまは、傷の痛みと出血のために疲れきっていることが、じぶんでもよくわかりました。おかみさんは、かごを炉ばたにもっていきましたが、それをおろしたときには、ヤッローはもう目をとじて、眠っていました。
　しばらくすると、ヤッローはだれかにそっとつつかれて、目をさましました。目をあいたとたんに、気が遠くなるほどびっくりしました。ああ、もうだめです！　目の前には人間よりも肉食の鳥よりも、もっと恐ろしいものがつっ立っているではありませんか。それはセーサルです。毛の長い、あの猟犬のセーサルが、いまじぶんをかぎまわっているのです。
　去年の夏、ヤッローがまだ毛の黄色い子ガモだったころ、アシのあいだから、「セーサルがきたぞォ！　セーサルがきたぞォ！」というさけび声が聞こえるたびに、どんなに恐ろしい思いをしたことでしょう。
　恐ろしい歯をむきだした、茶と白のブチ犬が、アシのあいだをつき進んでくるのを見ますと、それこそ命のちぢまる思いをしました。そして、セーサルとむかいあったがさいご、もう生きてはいられないと思ったものでした。
　ところが、ヤッローは、運のわるいことに、セーサルのいる農家に落ちてしまったにちがいありません。なぜって、そのセーサルが目の前にいるではありませんか。
「きさまはだれだ？」とセーサルはうなりました。「どうしてこの家へきたんだ？　きさまの家は、あのアシのあいだにあるんじゃないのか？」
　やっとの思いで、ヤッローはこう答えました。「ぼくがこの家へきたからって、そんなにおこらないでください、セーサルさん！　ぼくのせいじゃないんですもの。ぼくは弾に射たれて、けがをしたんです。そしたら、ここの家の人たちが、ぼくをこのかごの中にいれてくれたんです。」
「ふふん。それじゃ、きさまをここにいれたのは、家の人なんだな。そうしてみると、きさまの傷をなおしてやろうってつもりか。だが、おれはな、きさまなんか食っちまうほうがいいと思うな。なにしろ、きさまはもうじたばたすることは、できねえんだから。が、とにかく、ここは安全なところよ。そんなにびくびくするこたあないぜ。ここはトーケルン湖じゃねえからな。」
　こう言うと、セーサルは、まきの燃えている炉の前にねそべりました。ヤッローは、おそろしい危険もぶじにすぎさったかと思いますと、たちまちくたびれを感じて、またもや眠りこんでしまいました。
　そのつぎに目がさめたときには、そばに穀物と水のはいったお皿がおいてありました。からだはまだ弱りきっていましたが、それでもおなかはすいていましたので、さっそくたべはじめました。おかみさんは、ヤッローがたべているのを見ますと、そばへやってきて、せなかをさすってくれました。そして、たいそう喜んでいるように見えました。それから、またヤッローは眠りました。こうして、数日のあいだは、眠ってはたべ、眠ってはたべてばかりいました。
　ある朝、ヤッローは、からだぐあいが、だいぶよくなりましたので、かごからでて、床の上をあるいてみました。ところが、まだいくらもいかないうちに、ころんでしまって、もうおきあがることができなくなりました。と、そこへセーサルがやってきて、大きな口をあけて、ヤッローをくわえました。ヤッローは、もちろんかみ殺されるものと、かくごしました。けれども、セーサルは、なんにもしないで、そのまま、かごの中へつれていってくれました。このことから、ヤッローはセーサルを、とても信頼するようになりました。そんなわけで、二どめにあるいたときには、ヤッローはじぶんから、セーサルのところへいって、そのそばにすわりました。それからというものは、セーサルとヤッローは、だいの仲よしになりました。そして、ヤッローは、まいにち、セーサルの足のあいだにはいって、しずかに眠りました。
　けれども、ヤッローは、このセーサルよりも、おかみさんのほうが、もっとすきでした。いまでは、おかみさんを、ちっともこわがらなくなりました。それどころか、えさをもってきてくれるときなどは、おかみさんの手に喜んで頭をこすりつけました。それから、おかみさんがどこかよそへ出かけるときには、さびしがって鳴きました。そして、帰ってくると、野ガモのことばで、うれしそうにおむかえをしました。
　ヤッローは、まえに、犬や人間をあんなにこわがっていたことを、すっかり忘れてしまいました。いまでは、どちらも、やさしい、親切なものに思われて、心からすきになりました。そして、早くじょうぶになって、トーケルン湖に飛んでいき、みんなに、敵と思っていた犬や人間は危険なものではないから、こわがることはない、と教えてやりたいと思うのでした。
　この家の人たちも、セーサルも、やさしい目つきをしているので、ヤッローはみんなが大すきでした。ところが、この家にひとりだけ、どうしても目を合わすのが、いやでたまらないものがおりました。それはネコのクローリナでした。クローリナも、ヤッローにたいしてなんにもわるいことはしませんでしたが、でも、このネコだけはどうしても信用する気にはなれなかったのです。クローリナは、ヤッローがだんだん人間をすきになるのを見て、しょっちゅう口げんかをしては、
「人間がおまえさんをだいじにしてくれるのは、おまえさんがすきだからだと思っちゃ、まちがいだよ。」と、言いました。「まあ、いまに見ておいで。おまえさんがいいぐあいに太ってくると、首をしめられちまうんだよ。あたしゃ、これでも人間てものをよく知ってるんだからね。」
　ヤッローは、ほかの鳥とおなじように、やさしい心の持ち主でした。ですから、ネコがこんなことを言うのを聞きますと、ほんとうに悲しくなってしまいました。あのおかみさんがじぶんの首をしめる！　いや、そんなことは考えられません。ぼっちゃんにしたって、そんなことをしようとは夢にも思えません。あのちっちゃなぼっちゃんは、何時間ものあいだ、じぶんのかごのそばにすわって、かわいい片言でおしゃべりをしているではありませんか。ヤッローは、じぶんがおかみさんとぼっちゃんを大すきなのとおなじように、ふたりのほうでも、じぶんが大すきなんだと思っていました。
　ある日、ヤッローとセーサルがいつもどおり、炉の前にすわっていますと、クローリナがかまどの上からヤッローをからかいはじめました。
「ヤッローさん、トーケルン湖の水が干されて、畑になったら、おまえさんたち野ガモは、来年は、いったいどうなさるんだね？」
「なんですって、クローリナさん？」と、ヤッローはさけびながら、びっくりしてとびあがりました。
「そうそう、おまえさんは、セーサルさんやあたしとはちがって、人間のことばがわからないんだったね。」と、ネコは答えました。「さもなけりゃ、きのう、この家にいた人たちが話していたことを聞いたはずだもの。みんなはね、トーケルン湖の水を干してしまうから、来年は、湖の底が部屋の床のようにかわいてしまうだろうって言ってたのさ。だから、そうなったら、おまえさんたち野ガモは、どこへいくのかと思ってね。」
　ヤッローは、この話を聞きますと、すっかり腹をたててしまいました。
「きみは、黒ガモみたいにひきょう者だね！」と、ヤッローはクローリナにむかってどなりました。「きみは、ぼくを人間ぎらいにさせたいんだろう。だけどぼくは、人間がそんなことをしようとは思わないね。だって、あのトーケルン湖が野ガモのものだってことは、人間だって知っているはずだもの。あんなにたくさんの鳥を宿なしにして、ふしあわせになんかするものか。きみは、ぼくをおどかそうと思って、そんなことを言ってるんだろう。きみなんか、ワシのゴルゴさんに八つ裂きにされちまうといいや！　そんなひげなんか、おくさんに切られちまうといいや！」
　しかし、これだけ言っても、まだクローリナをだまらせることはできませんでした。
「じゃあ、おまえさんは、あたしがウソを言ってると思ってるんだね。」と、クローリナは言いました。「それなら、セーサルさんにきいてごらんよ。セーサルさんも、ゆうべは家にいたんだからね。それに、セーサルさんはけっしてウソは言わないよ。」
「セーサルさん、」と、ヤッローはセーサルにむかって言いました。「きみは、クローリナなんかよりも、人間のことばがずっとよくわかるね。クローリナの言ってることはウソだねえ！　だって、もしトーケルン湖を干して、畑にしてしまったら、いったいどういうことになると思う。野ガモには、ヒルムシロもエビもなくなっちまうし、子ガモには、ボウフラも、魚の子も、オタマジャクシもみんななくなっちまうんだよ。それに、アシもなくなっちまうから、子ガモが飛べるようになるまで隠れていられるところもなくなっちまうんだ。そうなりゃ、いやでも野ガモはあそこを立ちのいて、新しい住みかをさがさなきゃならない。でも、トーケルン湖のようないい隠れがは、どこにもありゃしない。ねえ、セーサルさん、クローリナはウソをついてるんだねえ。」
　この話のあいだのセーサルのようすは、じつにみょうなものでした。ついさっきまでは、たしかに目をさましていたのですが、ヤッローがセーサルのほうをむいたとたんに、大きなあくびをして、長い鼻づらを前足の上にのせたかとおもうと、たちまち、ぐうぐうねこんでしまったのです。
　ネコはずるそうなうす笑いをうかべながら、セーサルを見おろしました。
「セーサルさんは、おまえさんに返事をするのがいやらしいね。」と、ネコはヤッローに言いました。「セーサルさんだって、ほかの犬とおなじように、もし人間が悪いことをやれば、だまっちゃいないよ。まあ、とにかく、あたしの言うことは、ほんとうさ。人間が湖を干したがるわけを、いま聞かしてやるよ。おまえさんたち野ガモがトーケルン湖をひとりじめにしていたころは、人間だって湖を干そうなんて思やしなかったのさ。だって、おまえさんたちは役にたつんだからね。それが、いまじゃ、モグリドリだとか、黒ガモだとか、たべられもしない、いろんな鳥が、ほとんどアシを占領しちまっている。それで人間は、そんな鳥のために湖をほったらかしておくことはないって考えたってわけさ。」
　ヤッローは、もうクローリナには答える必要はないと思いましたが、セーサルの耳もとでこう言いました。
「セーサルさん、きみも知ってのとおり、トーケルン湖には、いまでもまだ、たくさんの野ガモがいるんだよ。それをみんな人間が宿なしにしてしまうなんて、そんなことはウソだねえ。」
　そのとき、セーサルはとつぜんはねおきて、クローリナにおどりかかりました。ネコは、あわてて棚の上にとびあがりました。
「やい、やい、おれがねたいときにゃ、ちったあ静かにしているもんだ。」と、セーサルはかみなりのような声でどなりつけました。「もちろん、おれだって、ことし、あの湖を干すって話のあることぐらい、知ってらあ。だが、こんな話は、いままでにもたびたびあったって、一どだって実行されたためしがねえんだ。それに、湖を干すなんてこたあ、おれの知ったこっちゃねえ。あの湖が干されちまったら、狩りはいったいどうなるんだ。そんなことをいい気になってしゃべりたてやがって、この大ばかやろう。トーケルン湖に鳥が一羽もいなくなったら、おればかりか、きさまだって、おもしろいことはなくなっちまうじゃねえか。」

おとりガモ

四月十七日　日曜日
　二、三日しますと、ヤッローは、すっかり元気になって、家じゅうを飛びまわることができるようになりました。おかみさんはたいそうかわいがってくれますし、ぼっちゃんは庭にかけていっては、春の新しい草をむしりとってきてくれます。
　ヤッローは、いまではもう、いつでもすきなときに、トーケルン湖へ飛んで帰れるほど、すっかりじょうぶになりました。でも、おかみさんがやさしくなでてくれたりしますと、そんなときには人間たちから、はなれたくないような気になるのでした。いや、それどころか、死ぬまで人間のところにいたいと思うようにさえなりました。
　ところが、ある朝早く、おかみさんはヤッローの首に輪なわをかけました。そのため、ヤッローはつばさが使えなくなりました。それから、おかみさんはヤッローを、いちばんさいしょに中庭で見つけた作男にわたしました。作男はヤッローをかかえて、トーケルン湖にいきました。
　湖の氷は、ヤッローが病気でねているうちに、すっかりとけてしまいました。去年の秋のアシは、岸べや小島のまわりに、まだ枯れのこっていましたが、新しい水草は底深くに根をおろして、その緑のさきは早くも水の上にまでとどいていました。そして、たいがいの渡り鳥がもう湖の古巣にもどってきていました。タイシャクシギのかぎ型をしたくちばしが、アシのあいだからのぞいていますし、モグリドリは首のまわりに新しい毛なみをみせて、しずかに泳ぎまわっています。それから、コシギたちは、巣をつくろうとして、さかんに、わらを集めています。
　作男は小舟に乗って、ヤッローを舟底におきました。それから、さおをさして湖の中にでていきました。ヤッローは、このごろでは、人間はいいものとばかり信じていましたので、そばにいるセーサルにむかって、じぶんは、湖につれてきてくれた、この人にとっても感謝している、と言いました。だけど、じぶんは逃げるつもりはないんだから、こんなにきつくしばらなくったっていいのに、とも言いました。セーサルはなんとも返事をしませんでした。そして、けさはまた、ひどくだまりこんでいます。
　ただ一つ、ヤッローがへんに思ったのは、その男が鉄砲をもっていることでした。あの農家のいい人たちが鳥を射とうなんて、そんなことはとうてい信じられません。それに、セーサルの話では、いまごろはだれも猟にでかけないということでした。
「いまは禁猟期なのさ。」と、セーサルは言いました。「もちろん、わしには関係はないがね。」
　作男は、アシでかこまれている泥の小島にこいでいきました。そこで、小舟からおりて、枯れたアシを集めて、高くつみかさねました。そうして、そのうしろに腰をおろしました。ヤッローは、首に輪なわをかけられ、長いひもで小舟につながれていましたが、そこらをあるきまわることができました。
　そのとき、まえにこの湖で、ヤッローといっしょに遊んだことのある若い野ガモたちの姿が見えました。みんなは遠くにいましたが、ヤッローは二、三ど、大きなさけび声をあげて呼びかけました。すると、たくさんの野ガモたちがそれに答えながら、近づいてきました。けれども、みんなのくるのが待ちきれずに、ヤッローは、じぶんが奇蹟的に助かったことや、人間が親切なことを話しはじめました。と、そのとき、うしろでダン、ダンという鉄砲の音がしました。とたんに、三羽の野ガモがアシのあいだに射ちおとされました。と、見るより早く、セーサルがとんでいって、野ガモたちをくわえてきました。
　これで、ヤッローには、なにもかもわかりました。人間たちは、じぶんをおとりに使おうと思って、助けたのです。しかも、それはみごとに成功したのです。野ガモが三羽も、じぶんのために殺されたではありませんか。はずかしくて、もう生きてはいられません。これでは、友だちのセーサルにも見さげられるでしょう。家へ帰ってからも、ヤッローは、いつものように、セーサルのそばへいって、ねようとはしませんでした。
　つぎの朝も、ヤッローはまた、その小島につれていかれました。こんどもまた、野ガモたちの姿が見えました。けれども、みんながじぶんのほうへ飛んできそうになりますと、そのたびにさけびました。
「あっちへ！　あっちへ！　気をつけたまえ！　アシの山のうしろには、かりゅうどが、かくれているんだよ。ぼくはおとりなんだから！」
　こうして、みんなが弾のとどくところに近づかないように、うまくかばってやりました。
　ヤッローは、見はりにいそがしくて、草の葉をつついているひまは、ほとんどありませんでした。鳥が近づいてくるとみれば、ただちにあぶないとさけびました。黒ガモは、野ガモたちのいちばんいい隠れがをとってしまうので、ふだんは大きらいでしたが、その黒ガモたちにさえも知らせてやりました。いまは、じぶんのために、どんな鳥をもふしあわせなめにあわせたくなかったのです。こうして、ヤッローが警戒していたために、男は家へ帰るまで、とうとう一発も射つことができませんでした。
　それにもかかわらず、セーサルは、きのうよりも、きげんがよくなったようでした。夕がたには、ヤッローを口にくわえて、炉のそばへつれていき、じぶんの足のあいだで眠らせました。
　しかし、ヤッローは部屋の中にいても、もう、すこしも楽しくはありませんでした。それどころか、じぶんの身をたいそうふしあわせに感じました。人間たちがじぶんを、ほんとうにかわいがってくれているのではないと思いますと、たまらなくなりました。おかみさんや、ぼっちゃんがそばにきて、なでてくれても、くちばしをつばさの下につっこんで、眠ったふりをしました。
　いく日かのあいだ、ヤッローはこんな悲しい見はり番をさせられました。ですから、ヤッローのことも、いまでは、湖じゅうに知れわたっていました。
　ある朝のこと、いつものように、「みんな、気をつけたまえ！　ぼくに近よっちゃいけないよ！　ぼくはおとりなんだから！」とさけんでいますと、むこうのほうからこの小島にむかって、モグリドリの巣が一つプカプカと浮いてきました。といっても、これはべつにかわったことではありません。それは去年の巣でしたが、モグリドリの巣というものは、ボートのように、水の上を動くことができるようにつくられているのです。それで、湖の上に浮いていることもよくあるのです。けれども、ヤッローはその小島に立って、その巣をじっと見つめていました。なぜかと言えば、その巣は、まるでだれかが乗って舵でもとっているように、まっすぐこの小島のほうへむかってくるのです。
　だんだん近づいてくるのを見れば、その巣の中には、いままで見たこともないほどのちっぽけな人間がすわって、二本の小さな棒でこいでいるではありませんか。そのとき、そのちっぽけな人間がヤッローにむかってさけびました。
「おーい、ヤッロー、いつでも飛べるように、できるだけ水ぎわに近よっているんだぜ。いますぐ自由にしてやるよ。」
　それからすぐに、その巣は小島の近くにつきました。けれども、そのちっぽけなこぎてはすぐにでてこないで、枝とわらとのあいだにちぢこまって、かくれていました。ヤッローもほとんど身動き一つしませんでした。その小人が、いまにも見つかりはしないかと、ハラハラして、じっとかたくなっていたのです。
　と、つづいてガンの一むれが飛んできました。それと見るや、ヤッローは、はっとわれにかえって、危い、と大声で注意しました。ところが、ガンたちは、それでも、この小島の上を何回も何回もいったりきたりするのです。ガンたちは、弾がとどかないほど高いところを飛んでいますが、男は、つい射ってみたくなって、思わずダン、ダンと二発射ってしまいました。と、そのとたんに、そのちっぽけなものは、小島にとびあがって、小さなナイフをさやから引きぬくが早いか、すばやくヤッローの輪なわを切りはなしました。そして、
「さあ、飛ぶんだ、ヤッロー、弾をつめかえないうちに！」と、さけびながら、モグリドリの巣にとびのって、いそいで岸をはなれました。
　男はガンにばかり気をとられていましたので、ヤッローが逃げるのには気がつきませんでした。しかし、セーサルのほうは、よく見はっていました。で、ヤッローがつばさをあげたとたんにおどりかかって、首っ玉をくわえました。
　ヤッローは、あわれなさけび声をあげました。すると、ヤッローを逃がしてくれたチビスケが、おちつきはらって、セーサルに言いました。
「おまえの心が、おまえの姿とおなじようにりっぱだったら、こんなおとなしい鳥に、おとりのようないやしい仕事をさせておきゃあしないだろうなあ！」
　セーサルはこれを聞きますと、にくにくしそうに上くちびるをむいて、歯を見せました。が、すぐに、ヤッローをはなしてやりました。そして、
「飛んでいけよ、ヤッロー！」と、セーサルは言いました。「まったく、おまえはひとがよすぎて、おとりにゃなれない。おれが、おまえをとめておこうとしたのは、そのためじゃない。おまえがいなくなると、家の中が、さびしくなっちまうからなのさ。」

湖を干す

四月二十日　水曜日
　ヤッローがいなくなってからは、家の中がほんとうにさびしくなりました。犬とネコとは、もうヤッローのことでけんかをすることもなくなったものですから、まいにち、たいくつでしかたがありませんでした。おかみさんにとっても、いままで、じぶんが、家の中へはいるたびに、喜んで鳴きさけんだヤッローの声が聞けなくなりました。けれども、ヤッローをいちばん恋しがったのは、ぼっちゃんのペール・オーラでした。オーラはやっと、三つになったばかりで、この家のひとりっ子でした。オーラは、これまでにヤッローのようないい遊び相手をもったことはありませんでした。ですから、ヤッローがトーケルン湖の野ガモたちのところへ帰ってしまったと聞かされても、どうしても、あきらめることができませんでした。そして、どうしたらヤッローをつれもどせるだろうかと、そればかり思っていました。
　ペール・オーラはヤッローがかごの中にいたとき、ヤッローとなんども話をしました。そしてこの子は、じぶんの言ったことが、ヤッローにわかったものと思いこんでいました。それで、ヤッローをさがして、家へもどるように言いきかせたいから、いっしょに湖へつれていってくれ、と、なんどもなんどもおかあさんにせがみました。もちろん、きいてはもらえませんでしたが、それでも、なかなか、あきらめようとはしませんでした。
　ヤッローがいなくなったつぎの日に、ペール・オーラは中庭をかけまわって、いつものようにひとりで遊んでいました。セーサルは段々の上にねそべっていました。おかあさんはオーラをおもてにだすときには、いつもこう言いました。
「セーサルや、オーラに気をつけておくれよ！」
　なにもかもが、ふだんどおりだったら、セーサルもこの言いつけをよく守って、子どもを危いところに近よらせるようなことはしなかったでしょう。ところが、このごろのセーサルは、いつものセーサルとはちがっていました。それは、トーケルン湖の附近に住んでいる百姓たちが、湖を干す相談をいくどもして、いよいよそれがきまりかかっていることを知っていたからです。そうなれば、野ガモたちは立ちのかなければなりませんし、セーサルじしんも、あのすばらしい狩りをすることができなくなってしまうでしょう。こんないやなことばかり考えていましたので、セーサルは子どものお守りを、つい忘れてしまっていました。
　いっぽう、オーラは中庭にいるのは、じぶんひとりきりだと見てとりますと、いまこそトーケルン湖にいって、ヤッローと話をする絶好の機会だと思ったのでしょう。小門をあけて、せまい道を湖のほうにむかっておりていきました。家から見えるあいだは、ゆっくりあるいていましたが、見えなくなると、たちまち足を早めました。
　オーラは、おかあさんか、だれかに呼びとめられやしないかと、びくびくしていました。べつにいたずらをするつもりはなく、ただヤッローをつれもどしたいだけなのですが、家の人に知れたら、きっと、とめられるだろうと思っていたのです。
　ペール・オーラは岸べについたとき、ヤッロー、ヤッローと、なんども、なんどもよんでみました。それから、長いあいだ立って待っていました。けれども、ヤッローは姿を見せませんでした。野ガモらしい鳥はいく羽もいましたが、みんな、オーラのほうなどは見むきもしないで、飛んでいってしまいました。それで、オーラにも、その中にはヤッローはいないのだ、ということがわかりました。
　いつまでたっても、ヤッローの姿が見えないので、湖の上にでていったら、もっとかんたんに見つかるだろうと思いつきました。見れば、岸べには、いい舟がいくそうもあります。どれもこれもしっかりとつないでありますが、ただ一つ、古い、水のもる小舟だけは、すぐにほどけそうです。しかし、それはとても使いものにはなりません。けれども、オーラは、そんなことにはおかまいなく、やっとのことで、水びたしの舟の中にはいこみました。そしてまだかいでこぐだけの力がありませんので、すわりこんで舟をゆすぶりはじめました。もちろん、ゆすったぐらいでは、おとなだって舟をだすことはできないでしょう。ところが、水かさが増していたりして、ひょっとしたはずみには、小さな子どもでも、舟を湖にのりだすことができるものです。ペール・オーラも、まもなくトーケルン湖にのりだして、大すきなヤッローの名まえをしきりに呼びまわりました。
　こうして、この古ぼけた小舟が、湖の上でゆられているうちに、小舟のあちこちにある裂けめがだんだん大きくなって、水がますますしみこんできました。ところが、ペール・オーラは平気なものです。前のほうの小さな舟板に腰かけて、鳥の姿を見るたびに、ヤッロー、ヤッローと呼びました。そして、どうしてヤッローが姿を見せないのかと、ふしぎがっていました。
　とうとう、ヤッローはペール・オーラの姿を見つけました。と、同時に、だれかが、人間のつけてくれたヤッローという、じぶんの名まえを呼んでいるのを耳にしました。で、はじめて、このちいさなぼっちゃんが、トーケルン湖まで、わざわざ、じぶんをさがしにきてくれたのだということがわかりました。ヤッローは、人間がじぶんをほんとうにかわいがってくれているということを知って、なんともいえないほど、しあわせな気もちになりました。そこで、すぐさま、ペール・オーラのところへ矢のように飛んでいきました。そしてぼっちゃんのとなりにすわって、うれしそうに、からだをこすりつけました。ふたりはめぐりあったよろこびに、むちゅうになっていましたが、とつぜん、ヤッローは舟のありさまに気がつきました。舟は水びたしになっていて、いまにも沈みそうではありませんか。ヤッローは、なんとかしてぼっちゃんに、早くおかにあがるようにしなければいけないことを知らせようとしました。といって、ぼっちゃんは飛ぶことも泳ぐこともできません。それにぼっちゃんには、ヤッローの言うことが、ちっともわかりません。こうなっては、一時のゆうよもならないので、ヤッローは、救いをもとめに、いそいでどこかへ飛んでいきました。
　しばらくして、ヤッローがもどってきました。見れば、せなかに、ペール・オーラよりもずっと小さいものをのっけています。もしも、それがしゃべったり、動いたりしなかったら、オーラはきっとお人形だと思ったでしょう。ところが、そのチビさんは、すぐオーラに舟底にある細長いさおを取って、アシの島のほうにむかって、舟をうごかすように言いつけました。ペール・オーラは言われたとおりにして、ふたりは力をあわせて舟を進めていきました。まもなく、アシにかこまれた小さな島につきますと、オーラはいそいで島にあがるように言われました。そして、オーラが島に足をおろしたとたんに、舟はすっかり水をかぶって、沈んでしまいました。
　ペール・オーラはこれを見て、きっと、おとうさんとおかあさんに、おこられるだろうと思いました。そして、もうすこしで泣きだしそうになりました。が、ちょうどそこへ、一むれの大きな灰色の鳥が飛んできて、島におりましたので、それに気をとられてしまいました。すると、そのチビさんは、オーラをそのむれのところへつれていって、みんなの名まえをオーラに教えてやったり、みんなの言っていることを話してやったりしました。それがとってもおもしろいので、オーラは、ほかのことはなにもかも忘れてしまいました。
　そのあいだに、ヤッローは大いそぎで、農家に飛んでいって、セーサルにぼっちゃんのいるところを知らせてやりました。そこで、セーサルはヤッローのあとについてきて、岸から泥の小島に泳いでわたりました。見れば、ぼっちゃんは枯れたアシの山の上にすわって、ガンや野ガモたちに取りかこまれて、うれしそうにキャッキャッと笑いながら遊んでいます。
　セーサルは長いことその小島にいましたが、それは、ぼっちゃんのためばかりではありませんでした。うまれてはじめて、セーサルはトーケルン湖の鳥たちと仲よしになったのです。そして、鳥たちの、りこうなのには、ただ、ただ驚いてしまいました。そのうちに、みんなは、ヤッローから聞いたけれども、この湖を干してしまうという話は、ほんとうかと、セーサルに聞きました。
「まだきまったわけじゃないがね、」と、セーサルが言いました。「あした、さいごの相談をすることになっているんだよ。しかし、どうやら、こんどはきまりそうだね。あんたたちにとっては、まったくお気のどくだよ。だけど、ぼくの身になったって、こんなにいい猟場がなくなっちまうんだから、じょうだんごとじゃないさ。」
　ヤッローの話していたことが、いまのセーサルの話で、いよいよほんとうとわかりますと、鳥たちはなげき悲しみました。このことが、つぎからつぎへとつたえられて、湖じゅうに知れわたりますと、いたるところに悲しみの声があふれました。小さなアシスズメから、気ぐらいの高い白鳥にいたるまで、みんなが、なげき悲しみました。ふだんは仲のわるい野ガモと黒ガモも、いっしょになって恐ろしいさいなんのきたことを悲しみました。
　やがて、セーサルが家に帰ろうとしたとき、ガンの隊長のアッカが言いました。
「わしは、通りがかりの渡り鳥だから、わしにとっては、どっちでもいいことなんだが、もしおまえさんが、ほんとうに、このトーケルン湖の鳥たちを、このままにしておきたいと思うんなら、このぼっちゃんのいどころを、すぐご両親に教えちまっちゃいけないよ。」
　セーサルは、目をまんまるくして、じっとアッカを見つめていましたが、
「きみは、まったくりこうだね。」と、言いました。
「そりゃあ、いままでにずいぶん、いろんなめにあっているからね。」と、アッカが言いました。「それにしても、じぶんの子をなくすってのは、とってもつらいことなんだよ。」
「おれは、きみの忠告にしたがうことにするよ。」と、セーサルは言いました。「そのかわり、ぼっちゃんのことは、たのんだよ。」
　いっぽう、農家の人たちは、ペール・オーラの姿が見えないので、びっくりしてさがしはじめました。納屋から、井戸から、地下室までも、みんなさがしてみました。おもての道や、小道にもでてみました。もしかしたら、となりの農場に迷いこみはしなかったかと、そこへもいってみました。とうとうしまいには、トーケルン湖の岸べもさがしてみました。しかし、いくらさがしても、オーラの姿は見えません。
　犬のセーサルは、家の人たちが、ぼっちゃんをさがしまわっていることは、ちゃんと知っていましたが、オーラのいるところへ、案内してやろうともせずに、知らん顔をして、ねころんでいました。
　その日おそくなってから、舟着場で、オーラの足あとが見つかりました。そして、みんなは、いつも岸にあった水びたしの古い小舟がなくなっているのに気がつきました。これで、なにもかもが、はっきりしてきました。
　そこで、すぐさま、人びとはオーラをさがすために、舟をだしました。そして、夕方おそくまで、湖じゅうをさがしましたが、オーラの姿は影も形もありません。それで、あの古い小舟は沈んでしまい、子どもは湖におぼれて死んだものと考えるよりほかなくなりました。
　晩がたになっても、オーラのおかあさんは、岸べをさがしまわっていました。ほかの人たちは、みんな、オーラは、おぼれてしまったものと思いこんでいましたが、おかあさんだけは、どうしても、そう信じることができなかったのです。アシやトウシングサのあいだをわけてさがしたり、どろだらけの岸べをあるいたりしました。足がどんなにもぐろうと、着物がどんなにぬれようと、いまはそんなことにかまってはいられません。おかあさんの心は、絶望のあまり、いまにもはりさけそうです。両手をふりしぼりながら、訴えるように、わが子の名まえを大きな声で呼びあるきました。
　あたりには、白鳥やカモやタイシャクシギの鳴き声がしていました。おかあさんには、なんだかこの鳥たちも、悲しみなげきながら、じぶんのあとからついてくるような気がしました。
「ああして悲しそうに鳴いているところをみれば、この鳥たちにもきっと心配事があるのにちがいないわ。」と、おかあさんは思いました。けれども、すぐまた、「いいえ、鳥ですもの、ああして鳴いていたって、きっとなんの悲しみもないのだわ。」と、思いかえしました。
　ところが、ふしぎなことには、お日さまが沈んでからも、鳥の鳴き声はいっこうにしずまりませんでした。それどころか、湖じゅうに住んでいる、それこそ数えきれないほどたくさんの鳥が、いっせいに悲しい鳴き声をあげているではありませんか。中には、おかあさんのあとを、どこまでもどこまでも、ついてくるものもありますし、また軽く羽ばたきながら、飛び立っていくものもあります。しかも、どの鳥もどの鳥も、なげき悲しんでいるのです。
　悲しみに悲しんだあげく、おかあさんの心はいくらかおちついてきました。すると、ほかの生き物も、人間と、たいしてかわらないような気がしてきました。そう思えば、鳥たちの悲しんでいるようすが、まえよりも、ずっとよくわかるような気がします。鳥にしたって、人間とおなじように、家のことや子どものことが、いつもいつも気になるにちがいありません。たしかに、人間と鳥のあいだには、そんなに大きなちがいはないのです。
　そのとき、おかあさんは、ふと、湖を干す話を思いだしました。これはもうほとんど、きまったもおなじですが、そうなったら、いく千という白鳥や、カモや、モグリドリが、このトーケルン湖の住みかを失うことになるのです！
「鳥にとっては、この上もなく悲しいことね。」と、おかあさんは思いました。「そうなったら、みんな、いったいどこへいって、ヒナを育てるのかしら？」
　おかあさんは立ちどまって、いろいろと考えてみました。「たしかに、湖を干して、畑や牧場にするのは、利益のある、いい計画にちがいないわ。でも、トーケルン湖でない、ほかの湖だっていいわけだわ。こんなにもたくさんの鳥が住んでいない湖にすればいいんだわ。」
「あしたは、湖を干すかどうかが、いよいよきまるんだったわ。」と、おかあさんは考えつづけました。それが、そのまえの日のきょう、かわいい、わが子がいなくなったのには、なにかわけがあるのではないだろうか、と思ってみました。
　神さまが、ああいうひどい行いをやめさせるために、きょうのうちに、こんな悲しみをくだされて、あたしの心を動かそうとなさっているのではないかしら？
　おかあさんは、いそいで家にもどって、オーラのおとうさんに、このことを話しました。湖のこと、鳥のこと、それから、オーラがいなくなったのは、つまりは、神さまが、じぶんたちにくだされた罰にちがいないと思われること、などを話しました。すると、おとうさんも同じ考えでした。
　このふたりは、すでに大きな土地をもっていましたが、もし湖をうまく干すことができれば、それこそ、その土地が、倍ちかくにもなるのです、そんなわけで、ふたりは、ほかの地主たちよりも、この計画にたいしては、ずっと熱心でした。ほかの人たちは、費用がかかりすぎることや、またこんども、まえのときのように、うまくいかないのではないか、と心配していました。それをオーラのおとうさんが、説きつけて、この計画をたてることになったのです。それは、おとうさんもよく知っていました。オーラのおとうさんとしては、じぶんが親からもらった土地を、子どもには、倍にして残してやりたいと思っていたからです。そこで、おとうさんは弁舌のかぎりをつくして、みんなを説きつけたわけでした。
　それが、おりもおり、いよいよ、その相談がきまろうというまえの日になって、わが子の命がトーケルン湖にうばわれたということは、きっとなにか神さまの思し召しがあるのにちがいありません。ですから、おかあさんがいろいろ言うまでもなく、おとうさんもすぐに、
「うん、湖を干すのは、神さまの御心に反するのかもしれない。あした、このことをみんなに話してみよう。おそらく、湖はもとのままにしておくことになるだろうよ。」と、言いました。
　ふたりがこんな話をしているとき、セーサルは炉の前にねそべっていました。そして、頭をおこして、じっと耳をすまして聞いていました。やがて、事のなりゆきがわかりますと、おかあさんのところへあるいていって、すそをくわえて、戸口に引っぱっていきました。
「まあ、セーサル！」と、おかあさんは言いながら、すそをふりはなそうとしました。そして、「おまえ、オーラがどこにいるのか、知ってるのかい？」と、ききました。
　すると、セーサルはうれしそうに、ワン、ワン吠えては、戸にからだをぶっつけました。おかあさんが戸をあけますと、セーサルはトーケルン湖のほうにむかって駆けだしました。おかあさんも、セーサルがきっと、オーラのいどころを知っているにちがいないと思いましたので、そのあとについて走っていきました。そして、岸まできますと、たちまち湖のむこうから、子どもの泣き声が聞こえてきました。
　ペール・オーラは、オヤユビくんや鳥たちといっしょに、ほんとに楽しい一日をすごしました。けれども、いまは、おなかがすいてきたのと、暗くなってきたのがこわくて、泣きだしたのでした。でも、おとうさんとおかあさんとセーサルが、むかえにきてくれたのを見て、オーラは大よろこびしました。
　トーケルン湖の鳥たちは、うれしそうに羽ばたきながら、美しいお月さまの光をあびて、みんなが家へ帰っていくのを見送っていました。

20　予言

八月二十二日　金曜日
　ある晩、ニールスがトーケルン湖の中の小島で眠っていますと、かいの音がするので、びっくりして目をさましました。けれども、目をあけたとたんに、まぶしい光が目にさしこんで思わずパチパチとやりました。
　湖の上で、こんなにキラキラ光るのは、いったいなんだろうと考えてみましたが、さいしょのうちは、さっぱり見当がつきません。でも、だんだん目がなれてきますと、一そうの小舟がアシのきわにいるのが見えました。そして、そのせんびにとりつけた鉄の棒の上で、大きなたいまつがさかんに燃えているのでした。赤いほのおは、暗い夜の湖に、あかあかとうつっていました。そして、そのあかるい光が、魚をよび集めたのにちがいありません。ほのおの下の水の中には、たくさんの魚が集まって、ひっきりなしに泳ぎまわっていました。
　小舟には、年とったふたりの男が乗っていました。ひとりは、すわって、かいをにぎっていました。もうひとりは、かかりのあるみじかいもりを持って、せんびに立っていました。こいでいるほうの男は、見たところ、貧しい漁師のようでした。こがらで、やせこけて、いかにも雨風に打たれたという顔をしていました。そして、うすっぺらな、すりきれた上着を着ていました。どんな天気にでも、外にいるのになれているらしく、寒いのなどは、平気のように見えました。もうひとりのほうは、太っていて、身なりもりっぱで、何不足ないお百姓さんのようでした。
　小舟が、ニールスのいる小島のむこうがわにきたとき、お百姓さんが、「とめろ！」と、言いました。と、同時に、はげしく水の中にもりを突っこみました。もりを引きあげたときには、みごとなウナギが突きささっていました。
「こいつを見てくれ！」と、お百姓さんは、ウナギをもりからはずしながら、言いました。「いいウナギじゃないか。もうこのくらいでたくさんだ。ぼつぼつ帰ろうか。」
　けれども、もうひとりの男は、かいも動かさないで、あたりをながめていました。そして、
「こんやは、すごくいいなあ！」と、言いました。じっさい、そのとおりでした。湖の上は風一つなく、水の上は鏡のように、なめらかで、ただ小舟の通ったあとだけが、たいまつの光に照らされて、黄金の道のように、キラキラと光っています。
　すみわたった、あい色の空には、お星さまがいちめんにきらめいていました。岸べは、アシの小島にかくされて見えませんが、西のほうには、オムベルイ山が高く、黒ぐろとそびえていて、いつもよりもずっと大きく見えました。そして、まるい大空の一角を、三角形にくぎっていました。
　お百姓さんは、まぶしい光から顔をそむけながら、あたりを見まわしました。
「なるほど、ここはきれいだなあ。」と、お百姓さんは言いました。「だが、この地方でのいちばんいいものは、風景の美しさじゃないよ。」
「じゃあ、いったい何がいちばんいいんです？」と、かいをにぎっている男はききました。
「つまり、ここは、あがめられ、尊敬されている地方なんだ。」
「そりゃあそうです。」
「そして、これからさきも、ずっとそうだとわかっているのさ。」
「どうして、そんなことがわかるんです？」と、こぎてがたずねました。
　お百姓さんは、からだを起こしてもりにもたれかかりました。
「わしの家には、むかしから語りつたえられている古い話がある。その話で、これからさき、エステルイエートランドにどんな事がおこるか、ちゃんとわかるのさ。」
「じゃあ、わたしにもそれを聞かせてください。」と、こぎては言いました。
「ほんとうは、だれにも話さないことになっているんだが、むかしからの知りあいにかくしておこうとも思わない。」と、お百姓さんは言って、話しはじめました。その話しぶりからみますと、だれかに聞いたのを、そらでおぼえていて、それをそのまま話しているようでした。
「このエステルイエートランドのウルヴォーサに、ずっとむかし、ひとりの婦人がいた。その婦人は、将来どんな事がおこるかを、まるでいままでおこった事がらを言うように、ぴったりと言いあてることができた。そのことが広く知れわたると、近所の人たちはもちろんのこと、遠くからも大ぜいの人びとがやってきて、いろんな事を占ってもらった。
　ある日のこと、その婦人が広間にすわって、糸をつむいでいると——これは、そのころの習慣だったんだ——ひとりの貧しい百姓がはいってきて、戸口の腰かけに腰をおろした。
『あなたは、そうして、いま何を考えていらっしゃるんですか？』と、しばらくして百姓が言った。
『あたしは、気高い、清らかなもののことを考えているのです。』と、婦人は答えた。
『それでは、わたしの気にかかっていることを、おたずねするのは、やめておいたほうがいいですね。』と、百姓は言った。
『おまえの気にかかっているというのは、きっと、おまえの畑で穀物が、たくさんとれるかどうか、というようなことでしょう。でも、あたしは、いつも、王さまからは、王冠がどうなるだろうとか、法王からは、鍵がどうなるだろうとか、そういうようなことばかりきかれているのですよ。』
『そんなことは、かんたんに答えられるものじゃございませんね。』と、百姓は言った。
『ところで、わたしは、あなたが答えてくださったことに満足して帰るものは、ひとりもないと聞いておりますが。』
　百姓がこう言うと、婦人はくちびるをかみしめながら、身を起こして、腰かけに腰をおろした。
『そんなうわさを聞いているんですね。』と、婦人は言った。『それでは、おまえのききたいことを言ってごらん。そうすれば、おまえが満足するような返事を、あたしがしてあげるかどうかが、わかるでしょう。』
　そこで、百姓は、えんりょせずに、ききたいと思っていたことを言った。つまり、この百姓は、エステルイエートランドが、このさき、どうなるだろうかということをききにきたのだった。この百姓にとっては、じぶんのうまれた土地ほど、だいじなものはなかったのだ。だから、じぶんの死ぬ日までに、このことがはっきりわかったら、どんなにかしあわせだと思っていたわけだ。
『そう、おまえのききたいことが、それだけなら、きっとおまえを満足させられると思いますよ。なぜなら、エステルイエートランドは、いつになっても、ほかの地方に誇れるようなものをもっていると、予言できますからね。』と、賢い婦人は言った。
『はい、それはありがたいことです。でも、どうしてそういうことになれるのか、それがわかりさえしましたら、ほんとうに満足できるのですが。』と、百姓は言った。
『どうして、そんなことを言うのです？』と、婦人は言った。『おまえは、エステルイエートランドが、いまでも、もう有名なのを知らないのですか？　それとも、アルヴァストラや、ヴレタの僧院や、リンチェーピングの美しい教会のようなものを、もっていると誇れるところが、スウェーデンのどこかにあるとでも思っているの？』
『そうかもしれませんが、』と、百姓は言った。『わたしは、年をとっておりますので、人間の心がかわりやすいものだということを、よく存じております。ですから、アルヴァストラやヴレタにたいしても、またエンチェーピングの教会にたいしても、人びとが尊敬をはらわなくなるようなときが、いつかきはしないかと、心配なのです。』
『それは、おまえの言うとおりかもしれないけれど、』と、婦人は言った。『だからといって、あたしの予言を疑わなくてもいいのですよ。あたしは、こんど、ヴァードステーナに新しい僧院を建てさせますが、それは、この北の地方で一ばん有名なものになるでしょうよ。身分の高い人もひくい人も、みんなそこへお参りにやってきて、そのような神聖な場所のあるこの地方を、ほめたたえることになるでしょう。』
　百姓は、いまのお話をうかがって、たいへんうれしい、と答えた。しかし、この百姓は、どんなものも、いつかはほろびるものだ、ということを知っていた。それで、そのヴァードステーナ僧院の名声がおちてしまったら、いったい何がこの地方の評判を高めることになるだろうかと疑った。
『おまえは、なかなか満足しないのね。』と、婦人が言った。『でも、あたしには、もっとさきのことが見とおせます。ヴァードステーナ僧院の栄誉がくずれないうちに、そのすぐそばに御殿が建てられて、それがその時代では、もっともすばらしいものとなるでしょう。王さまをはじめ諸侯が、そこにお見えになるのよ。そして、そういうすばらしい御殿のあることが、この地方の名誉となるでしょう。』
『それをうかがって、うれしゅうございます。』と、百姓は言った。『しかし、わたしは年とっておりますので、そういうこの世の華やかなものが、やがてどうなるか、よく存じております。で、その御殿がほろびることになったら、いったい何が人びとの目を、この地方にひきつけておくことになるのでしょう。』
『おまえは、いろいろのことが知りたいのね。』と、婦人は言った。『でも、あたしには、もちろんそのさきも見とおせます。フィンスポングのまわりの森が開発されて、そこに製鉄場や、鍛冶場が建てられるでしょう。そして、この地方は、鉄を製するので、名高くなると思います。』
　百姓は、それを聞いて、たいへんよろこんだ。
『けれども、フィンスポングの製鉄場のぐあいが悪くなったときには、それにかわって、エステルイエートランドの誇になるようなものは、もう何もなくなると思いますが。』
『おまえは、なかなか承知しないのね。でも、あたしには、そのさきも予言できます。がいせんした将軍たちが、湖の岸に、御殿のように、りっぱな大きい別荘を建てるようになります。このすばらしいたくさんの別荘が、やっぱりこの地方の名誉になるのです。』
『でも、だれもその大きな別荘をほめないようなときがきましたら？』と、百姓は言った。
『けっして、心配はいりませんよ。』と、婦人は言った。『ヴェッテルン湖の近くの、メデヴィの平原に、鉱泉がわきでるようになります。そして、その鉱泉のおかげで、この地方は有名になるでしょう。』
『それは、たいへんうれしいお話ですが、人びとが、ほかの鉱泉にいくようになりましたら？』
『そんなことを心配する必要はありません。そのうちには、ムタラからメームにかけて運河が掘られます。そして、その運河によって、エステルイエートランドの名声は、国じゅうに知れわたります。』
　それでも、まだ百姓は心配のようだった。
『ムタラ川の急流では、水車がまわりだしますよ。』と、婦人は言ったが、いらいらしてきたので、ほおは赤くほてってきた。『そして、ムタラでは槌の音がひびきますし、ノルチェーピングでは織機の音が聞かれます。』
『それは、けっこうなお話ですが、』と、百姓は言った。『しかし、すべては、はかないものですから、そういうものも、いつかは忘れられ、すてさられてしまうだろうと思いますが。』
　百姓が、これでも満足しないのを見ると、婦人はとうとうがまんができなくなった。
『おまえは、どんなものもほろびてしまうと言うけれども、』と、婦人は言った。『それでは、いつまでたってもかわらないものを言いましょう。それは、この地方には、おまえのように、強情で、こうまんな百姓が、いつまでも、あとをたたないということです。』
　婦人が、こう言いおわるかおわらないうちに、百姓は、うれしそうな顔をして、満足げに立ちあがった。そして、婦人が親切に答えてくれたことを感謝して、じぶんはこれでやっと満足しました、と言った。
『あたしには、おまえの気もちがよくわかりません。』と、婦人は言った。
『つまり、わたしには、こう考えられるのです。』と、百姓は答えた。『王さまや、坊さんや、貴族や、商人などが建てるものは、ごくわずかの年月しか、つづかないものだと思います。けれども、いまあなたが、エステルイエートランドには、名誉を愛する、がんこな百姓たちが、いつまでもあとをたたないだろうとおっしゃったのをうかがいまして、それこそ、この地方の名誉を、いつまでも、もちつづけていくものだと思いました。なぜなら、土とともに働く者のみが、その地方の評判をいつまでも保っていくことができるのですから。』」

21　珍らしい拾いもの

四月二十三日　土曜日
　ニールスは、空高くを飛んでいきました。下を見おろせば、エステルイエートランドの大平野がひろがっています。ニールスは、こんもりとした森のあいだに見える、白い教会の数をかぞえていましたが、すぐに五十になりました。それからあとは、ごちゃごちゃになって、ちゃんとかぞえることができなくなりました。
　たいていの農家が、白塗りの大きな二階建てでした。どの家も、いかにもりっぱに見えるので、ニールスは感心して、
「このあたりには、お屋敷しかないところを見ると、お百姓はいないんだな。」と、ひとりごとを言いました、
　すると、すぐにガンの仲間がいっせいにさけびました。
「ここのお百姓は、金持ちのような暮らしをしているんだよ！　ここのお百姓は、金持ちのような暮らしをしているんだよ！」
　平野の上では、氷も雪も消えて、もう春の仕事がはじまっていました。
「あの畑の上をはっている、長いカニみたいなのは何だろう？」と、しばらくしてニールスがたずねました。
「すきと牡牛だよ、すきと牡牛だよ。」と、ガンが答えました。
　牡牛は、畑の上をノロノロとあるいているものですから、動いているのがほとんどわからないくらいです。それを見て、ガンたちは、
「そこへいくのに来年までかかるぜ！　そこへいくのに来年までかかるぜ！」と、牡牛にむかってさけびました。
　ところが、牡牛たちは平気なものです。鼻づらを上にむけて、モウと大声で言いました。
「おれたちはな、おまえらみたいな宿なしが、一生かかってするよりも、もっといいことを一時間のうちにやってのけるんだぞ！」
　二、三の場所では、馬にすきを引かせていました、馬は牛よりも、ずっとキビキビ働いていましたが、ガンたちは、つい、馬もからかわずにはいられませんでした。
「きみたちは、牡牛のすることなんかやって、はずかしくないのかい？」と、ガンたちはさけびました。
「おまえたちこそ、年じゅう、のらくらしていて、はずかしくないのか？」と、馬はいななきかえしました。
　しかし、馬や牡牛は、畑で働いていましたが、納屋の前の庭では、牡羊がぶらついていました。この羊は、近ごろ毛を刈りとられたために怒りっぽくなっていて、小さな子どもを押したおしたり、犬を犬小屋へ追いかえしたりして、まるでその庭が、じぶんひとりのもののような顔をして、いばってあるきまわっていました。
「羊さん、羊さん、あんた、毛はどうしたの？」と、そのとき、牡羊の上に飛んできたガンたちがたずねました。
「ノルチェーピングの羊毛工場へ、やっちゃったよお！」と、牡羊があとを長くひっぱって、答えました。
「羊さん、羊さん、あんた、角はどうしたの？」と、ガンたちが、またたずねました。
　ところが、この牡羊は、角なしなので、角のことをきかれるのが何よりもくやしいのです。それで、すっかり腹をたてて、しばらくは、めちゃめちゃに駈けまわったり、空をついたりしました。
　いなか道を、ひとりの男が、スコーネ産のブタのむれを追いながらやってきました。まだうまれて、二、三週間ぐらいの子ブタたちでしたが、これから売られるところでした。みんなは小さいけれども、勇ましくあるいていました。そして、たがいに助けをもとめようとでもするように、ぴったりとかたまりあっていました。
「ブウ、ブウ、ブウ、ぼくたちは、小さいうちに、おとうさんとおかあさんに別れてしまった。ブウ、ブウ、ブウ、こんなあわれなぼくたちは、いったいどうなるんだろう？」と、子ブタたちは言いました。
　ガンたちも、こんなあわれな生き物をからかう気にはなれません。
「心配しないでもだいじょうぶ。なんとかなるよ。」と、ガンたちはさけびながら、飛びすぎました。
　ガンたちは、平地の上を飛ぶときぐらい、楽しいことはありません。そんなときには、農場から農場へと飛んでいっては、つぎつぎに家畜をからかってやるのです。
　ニールスがこうして平野の上を飛んでいたとき、ふと、だいぶまえに聞いた話を思いだしました。はっきりとは思いだせませんが、なんでも、それは女の人の着物のことでした。その着物は、半分は金で織ったビロードでできていて、もう半分は、灰色の手織の布でできていました。けれども、その着物を持っている人は、灰色の布のほうに、たくさんの真珠や宝石をかざりつけて、金のビロードのほうよりも、美しくりっぱに見せていたという話でした。
　いま、ニールスが、エステルイエートランドを見おろしたとき、その手織の布を思いだしました。エステルイエートランドは、大きな平野ですが、北と南にむかって、こんもりとした森の茂っている山がのびています。その二つの山並は、朝の光を受けて、まるで、黄金のヴェールにつつまれているように、青くキラキラと輝いていました。いっぽう、平野そのものは、冬のなごりの裸の畑がつづいているばかりなので、灰色の手織の布よりも美しいとは言えませんでした。
　けれども、人びとは、この平野が豊かで、親切なのに、満足したものでしょう。できるだけこれを飾りたててやろうとしました。ニールスがガチョウのせなかから見おろしますと、町や、農場や、教会や、工場や、お城や、停車場などが、大小さまざまの飾りもののように、まきちらされているように見えました。屋根は、お日さまの光をうけて、キラキラと輝き、窓ガラスは、宝石のように、きらめいていました。黄色い、いなか道や、ぴかぴかした鉄道線路や、青い運河などが、村々のあいだを、縫いとりしたように走っていました。リンチェーピング市は、宝石のまわりに真珠をはめこんだようなぐあいに、その伽藍のぐるりを取りまいていました。農園はブローチかボタンのように見えました。あまり整然と飾りたててはありませんが、その美しさは、いつまで見ていてもあきることはありませんでした。
　ガンたちは、オムベルイ地方を去って、イエータ運河にそって東に飛びました。ここでは、夏のためのじゅんびをしていました。人夫たちが運河の堤をなおしたり、大きな水門にタールを塗ったりしていました。
　どこをながめても、人びとは気もちよく、春をむかえようとして、いそがしそうに立ち働いていました。町なかもやっぱりそうでした。家の外では、左官やペンキ屋が、足場をきずいて、家のまわりを塗っていますし、中では女中たちが、窓ガラスをきれいにふいています。港では、帆船や汽船をさかんに修理しています。
　ノルチェーピングで、ガンたちは平野をはなれて、コルモールデンのほうにむかって飛びました。しばらくのあいだ、がけっぷちをうねったり、絶壁の下を通っている、けわしい旧道について進んでいきました。と、とつぜん、ニールスが鋭いさけび声をあげました。ニールスはガチョウのせなかにまたがって、足をぶらぶらやっているうちに、片っぽうの木靴がぬげてしまったのです。
「おい、モルテン、モルテン！　靴がぬげちゃったよォ！」と、ニールスはさけびました。
　ガチョウは、すぐにむきをかえて、地上におりていきました。ところが、ぐうぜんにも、ふたりの子どもが、その道をあるいてきて、落したニールスの靴をひろいあげてしまいました。それと見るや、ニールスはあわてて、
「モルテン、モルテン！」と、さけびました。「また上へ飛ぶんだよ！　おそすぎたんだ！　あの靴はひろわれちまったよ！」
　下の道では、ガチョウ番のオーサと弟のマッツが、空から落ちてきた、ちっぽけな木靴を見ながら立っていました。
　オーサは、しばらくだまったまま、この拾い物のことを考えていました。それから、ゆっくりと、考え考え言いました。
「マッツちやん、あんたおぼえている？　ほら、あたしたちがエーヴェードスクローステルを通ったとき、農家の人たちが、職人みたいに、革の半ズボンに、木靴をはいた小人を見たって言ったでしょう？　それからさ、ヴィットシェーヴレにいったときには、木靴をはいた小人がガチョウのせなかに乗って飛んでいくのを見たって、女の子が話してたじゃないの？　それにね、マッツちゃん、あたしたちだって、家へ帰ったとき、それとおなじかっこうをした小人が、ガチョウのせなかに乗って飛んでいくのを見たじゃないの？　いまこの木靴を落して、飛んでいったのは、それとおなじ小人じゃないかしら？」
「うん、きっとそうだよ。」と、マッツは言いました。
　ふたりは、木靴をさかんにひっくりかえしては、珍らしそうにながめていました、だって、小人の木靴が、道に落ちているなんてことは、めったにありませんもの。
「お待ちよ、マッツちゃん！」と、オーサがさけびました。「こっちがわに、なにか書いてあるよ。」
「あっ、ほんとうだ。でも、ずいぶんちっぽけな字だね。」
「あたしに見せてごらん！　ええと——ええと、『西ヴェンメンヘーイのニールス・ホルゲルッソン』」
「こんなふしぎなことってあるかねえ！」と、マッツが言いました。
第一編　おわり

その後のニールス

　さて、みなさん、ニールスは、ガンのむれといっしょに目ざすラプランドまでいき、それからまたなつかしいおとうさん、おかあさんの家まで、ぶじに帰ってくることができたでしょうか。「ニールスのふしぎな旅」続編のあらすじを、つぎにご紹介いたしましょう。

ラプランドさして
　ニールスとガンのむれは、それからも空の旅をつづけました。みんながスウェーデンの都のストックホルムの上空へ飛んできたときには、もう五月にはいっていました。それまでにも、ニールスはいろいろな土地にいって、その土地の古い伝説を聞いたり、大きな町や都会を見物したり、美しい景色を楽しんだりしてきました。それからまた、いまにもクマに食われそうになりながら、そのクマが人間にねらわれていることを教えてやって、危いところを救ってやったり、もと羊飼いをしていたオーサとマッツのきょうだいが凍りついた湖の上を歩いているとき、きゅうに氷がとけはじめて、ふたりがどうしていいかこまっているのを助けてやったり、かずかずのりっぱな行いもしてきました。
　五月六日の朝、ガンのむれが朝霧をついて、メラール湖の上を飛んでいくと、湖の上に高い塔や、長い窓ガラスのある家々が見えてきました。けれども、流れる霧のために、そのような景色はすぐまたかくれてしまいました。なにもかもが水の上に静かに休らっているようでした。やがて、お日さまの光がすこしもれてきますと、霧はバラ色にそまりました。そして、あるいは青く、あるいは赤く、あるいは黄色く、色さまざまに輝きながら流れていきました。下のほうに見える家々は、お日さまの光ででもできているように、キラキラと輝き、窓ガラスや高い塔は、火のように赤くもえていました。まるで、この世のものでないようなながめでした。この「水の上に浮かぶ都」こそ、ストックホルムだったのです。
　ところが、ここでニールスはガチョウのせなかから落っこちて、猟師につかまってしまいました。でも、さいわい、ストックホルムのスカンセンという公園の番人のおじいさんにもらわれて、一月ばかりその公園の中でくらしました。それから、そこの動物園につかまっていたゴルゴという大ワシを助けてやり、そのせなかに乗って、ガンのアッカたちのあとを追ったのでした。
　それからは長い旅がつづきました。森また森、山また山の上を飛びつづけて、オンゲルマンランドやヴェステルボッテンをすぎて、北へ北へと進みました。この北の地方には、スウェーデンの国にとっていちばんだいじな森林や鉱山がたくさんありました。

めぐりあい
　ニールスはいつまでもつづく同じような景色にあきあきして、ワシのせなかでうとうとしはじめました。そうして、いつのまにか、ほんとうに寝こんでしまいました。やがて目がさめてみますと、どうやら谷間の奥にいるようでした。あたりを見まわしても、大ワシのゴルゴの姿がどこにも見えません。そういえば、いよいよラプランドにきたよ、とゴルゴが言っていたっけ。じゃあ、このへんにアッカたちがいるのかもしれない。ニールスはこう思って、みんなをさがしに、そろそろと歩きだしました。
　六月十九日の朝早くのことです。谷間はひっそりとしていて、まだお日さまはのぼっていませんでした。ニールスが二あし三あしいくかいかないうちに、なんだかきれいなものが目にはいりました。近よってみますと、それは草むらの巣の中にいるメスのガンでした。そばには、オスのガンが立っています。気がついてみれば、草むらや地面のくぼみに、あっちにもこっちにも、ガンの巣がいっぱいありました。ガンたちはまだみんな眠っていました。久しぶりにガンの姿を見たニールスは、うれしくてうれしくてたまりません。ふとむこうを見ますと、草のかげに白いものが見えます。ニールスは胸をおどらせながら、かけよりました。見れば、細いヤナギの草むらの中に、あのかわいらしいダンフィンが卵をだいているではありませんか！　そばには、白ガチョウのモルテンが、ダンフィンを守るようにして、立っています。ああ、なつかしいモルテンに、やっとめぐりあえたのです！　思わずしらず、熱い涙がこみあげてきました。アッカはと見れば、ずっとむこうの、いちだんと高いところにすわっています。まるで、谷じゅうを見はっているようでした。
「アッカおばさん、おはよう！」と、ニールスはかけよりながらさけびました。
　アッカは、ニールスの姿を見つけるが早いか、飛んできました。そして、うれしそうにニールスにとびついて、くちばしで頭のてっぺんからつま先まで、なでまわしました。
　そこで、ニールスは、みんなと別れてからのことをすっかり話しました。そして、
「それから、アッカおばさん、いま話したスカンセン公園にはね、ズルスケのやつもつかまってたんですよ！」と、話してきかせました。「あいつはぼくたちをさんざん苦しめたけど、あそこで、しょんぼりしているところを見たら、ほんとにかわいそうになりましたよ。そのうちに、ぼく、ラプランド犬から、ひとりの男がキツネを買いにきているって話を聞いたんです。その人はどこかの島に住んでるんだそうですけど、なんでもその島ではキツネをみな殺しにしてしまったんで、そのため、ネズミがうんとふえてきたんですって。それで、こんどは、ネズミをたやすために、またキツネをつれていくことにしたんですって。ぼく、その話を聞いたから、すぐにキツネのおりのところにとんでいって、ズルスケに言ってやりました。
『おい、ズルスケ、もうすぐ、ここへキツネを買いにくる人があるから、その人がきたら、おまえ、かくれたりしないで、おとなしくつかまるんだよ。そうすりゃ、また自由になれるから。』
　そしたら、ズルスケのやつ、ぼくの言うとおりにしたんです。だから、いまごろはその島へいって、きっと自由にとびまわっているでしょうよ。どうですか、アッカおばさん、ぼくのやったことはいいことでしょうか？」
「ああ、わたしだってそうしたろうよ！」と、アッカは満足そうに答えました。

南へ、南へ
　ラプランドの夏もすぎて、いつのまにか、九月の末になりました。地上は見わたすかぎり、いちめんの雪におおわれて、まっ白です。雨や嵐の日が多くなりました。たまにお天気の日があっても、すぐに氷がはってしまいました。こうなっては、もうこのラプランドに、いつまでも、ぐずぐずしているわけにはいきません。さいわい、ひなどりたちもすっかり大きくなって、はねも強くなりました。そこで、十月一日の朝早く、アッカを隊長として、三十一羽のガンが南をめざして飛びたちました。くるときいっしょにいた六羽の若いガンがいなくなって、そのかわりに、新しく生まれたガンが二十二羽加わっていたのです。若いガンたちは、さいしょは旅になれないので、もうくたびれちゃったとか、おなかがへったとか、ブツブツ不平ばかりこぼしていましたが、だんだんなれるにつれて、みんなといっしょに元気よく飛んでいきました。
　みんなは南へ南へと飛びつづけ、イエムトランドをすぎ、ダラルナをへて、やがてヴェルムランドにはいりました。こんどもいったときと同じように、ニールスはいくさきざきで、珍らしい伝説を聞いたり、美しい風景をながめたりしていました。こうして、日一日と生まれ故郷に近づくのを心から楽しみにしていました。ところが、そうしたある日のこと、カラスのバタキーから思いがけないことを聞かされました。ニールスは、いまのいままで、白ガチョウをぶじに家までつれていってやりさえすれば、自分は魔法をとかれて、もとの人間にもどれるものとばかり思っていました。ところが、どうでしょう。ほんとうは、白ガチョウを家へつれていっても、ニールスのおかあさんがガチョウを殺さなければ、ニールスは人間にもどれないというのです。それを聞いたときの、ニールスの驚きはどんなだったでしょう！　あのモルテンを、どうしてそんなかわいそうなめにあわせることができましょう！　そうかといって、このままでは、じぶんは人間にもどることはできません。ニールスの心は、すっかり暗くなってしまいました。

小説家のおばさん
　十月六日、ガンたちはクラレルフ川にそって、ムンクフォルスまで飛びました。そこからフリューケン湖をさして西にむかって飛んでいきましたが、まだ湖にいきつかないうちに、もう暗くなりはじめてしまいました。ガンたちは森の中の沼地に泊まり場所を見つけて、そこに舞いおりました。けれども、ニールスにはねるような所がありません。そこで、ただひとり森をぬけて、やがて、とある屋敷のまえにでました。
　あたりに人の姿が見えないのをさいわい、ニールスは庭の小道のそばにあるリンゴの木から、まっかなリンゴをもぎとりました。そして、その木の下の芝生に腰をおろして、小さく切りはじめました。と、そのとき、頭の上でかすかなうなり声がしたかと思うと、一羽のフクロウが舞いおりてきました。ニールスは、ここはどこですか、ときいてみました。すると、フクロウは、ここはモールバッカというお屋敷だよ、と答えました。ところが、このフクロウは、こんやはさっぱり獲物がなくて、プンプン腹をたてていたところでした。で、このチビスケをやっつけてやれとばかりに、ニールスのすきをうかがって、さっと襲いかかりました。ニールスは両手でフクロウをふせぎながら、助けてえ！　と声をかぎりにさけびました。
　ここで、ちょっとお話がかわります。ニールスがガンたちといっしょに空の旅をつづけていたちょうどその年に、ひとりの小説家のおばさんが、小学校で使う読本にスウェーデンのことを書きたいと思って、いっしょうけんめい考えていました。このおばさんのつもりでは、クリスマスからつぎの年の秋までのことを、いろいろおもしろく書きたいと思っていたのです。それが、まだ一行も書けないので、すっかりこまってしまいました。そしてとうとう、「子どもたちのためになる、まじめな本、それもウソをひとことも書かない本、そういうような本は、わたしにはとても書けそうもない。だれかほかの人に書いてもらうほうがいい。」と、思いました。でも、そうは思っても、おばさんは、なかなかあきらめることができませんでした。そのうちに、ふと、こんなにじぶんが書けないのは、年がら年じゅう、壁だの街路だのしか目にはいらない、こういう町なかにいるからじゃないだろうか。いなかへいって、畑や森でも見れば、うまく書けるかもしれない、と思いつきました。
　このおばさんはヴェルムランドうまれの人でした。それで、まず故郷のヴェルムランドのことから書いてみようと思いました。あそこにはおもしろい話や行事がたくさんある。クリスマスや、お正月や、お祭りのようすなどを書けば、子どもたちはきっと喜ぶだろう。おばさんはそう思って、ペンを取りました。こういうことを、おばさんははっきりとおぼえていたのです。それなのに、いざ書こうとすると、どうしてもペンが進まないのです。これは、どうしても故郷に帰るよりほかはありません。
　けれども、おばさんのうまれた家屋敷は、いまでは、知らない人の手にわたっていました。ですから、じぶんのいなかとはいえ、気軽に帰るわけにはいかなかったのです。もちろん、おばさんがたずねていけば、いまいる人たちも、きっと気もちよくもてなしてくれるでしょう。けれど、おばさんとしては、その人たちと話をしなければならないのが、ひどくおっくうでした。
　そうはいっても、おばさんはうまれた家がなつかしくてたまらず、思いきって出かけていきました。屋敷の入口で馬車をおりたときは、もう夕闇がたちこめていました。おばさんは大きなカエデの木の下にたたずんで、あたりを見まわしました。すると、ふしぎなことに、ハトのむれが、おばさんの足もとにバラバラと舞いおりてきました。ハトというものは、お日さまが沈んでからは飛ばないものですが、こんやは、あんまりお月さまが美しいので、ついさそいだされて、飛びだしてきたのにちがいありません。それとも、おばさんをなつかしがって、迎えにきてくれたのでしょうか。おばさんのほうでもハトの姿を見て、なつかしそうに話しかけました。
　やがて、ハトが飛んでいったとき、庭のほうでキャッというさけび声がしました。おばさんがかけよってみますと、ちっぽけな小人が、フクロウを相手にむちゅうで戦っているではありませんか。おばさんはあっと驚いて、思わずその場に立ちすくんでしまいました。けれども、小人のさけび声が、ますますあわれっぽくなってきましたので、おばさんは、ふたりのあいだに分けてはいりました。すると、フクロウはすばやく木の上に飛びあがりましたが、小人のほうはそのままそこに立ちどまっています。
「おかげで助かりました。ありがとう、おばさん！」と、その小人は言いました。「だけど、フクロウのやつがあそこで見はってるから、ぼく、帰れません！」
「じゃ、あんたの家まで、わたしが送っていってあげればいいでしょう。」と、おばさんは言いました。
「ぼく、ほんとうは、一晩じゅうこの家にいるつもりだったんです。」と、小人は言いました。「でも、どこか安全な寝場所を教えてくだされば、あしたの朝まで家に帰らなくってもいいんですけど！」
「わたしに、寝場所を教えてくれって？　それじゃ、あんたはここに住んでいるんじゃないの？」
「ああ、おばさんはぼくをほんとの小人だと思ってるんですね。ぼくは、おばさんとおんなじ人間なんですよ。こんな姿になってはいますけど。」
「まあ、驚いた！　いったい、どうしたわけなの？　話してちょうだいな！」
　そこで、ニールスはいままでの冒険を話しはじめました。話がすすむにつれて、おばさんはますますびっくりしました。なんという珍らしい話だろう！　おばさんは心の中で喜びました。
「まあ、ガチョウのせなかに乗って、スウェーデンじゅうを旅行してまわった子どもに会うなんて、あたしはなんて運がいいんでしょう！」と、おばさんは思いました。「この子の話してくれたことをそのまま書けば、本になるわ。もう、これで心配はいらない！　やっぱり家に帰ってきてよかったこと！」

なつかしいわが家に
　それから、ガンたちはすこし廻り道をして、一月ばかりたった十一月の八日に、いよいよヴェンメンヘーイに近づきました。
　霧がうっすらとかかって、空はどんよりと曇っていました。みんなが昼寝をしているとき、アッカがニールスのそばにやってきて、
「とうぶんお天気がいいようだから、あしたあたり、バルト海をこそうと思っているよ。」と、言いました。
「ええ、いいですとも。」と、ニールスは答えました。ニールスとしては、白ガチョウが殺されるくらいなら、じぶんはこのまま人間にはもどらずに、みんなといっしょに旅をつづけよう、と腹をきめていたのです。とはいうものの、こうして、家の近くまできてみますと、やっぱり、おとうさん、おかあさんはじめ、なにもかもがなつかしくてたまりません。
「だが、おまえの家は、ここからすぐ近くなんだよ。遠い旅に出るまえに、一ど家へ寄っていったらどうだい？　小人の話じゃ、おまえがいなくなってからというもの、おとうさんは運が悪くって、借金はかさなるし、だいじな牝牛は二頭までも売ってしまう。それに、せっかく買った馬は、びっこで役にたたないってことだし、ひょっとすると、畑や家までも手ばなさなければならないかもしれないということだよ。だから、おまえは家へ帰って、おとうさんやおかあさんに元気をつけてあげなければいけないと思うね。ガチョウのことなら、ここにおいていけば、だいじょうぶさ！」
「ほんとに、そうですね！」と、ニールスは元気よく答えました、そう言われたのが、ほんとうは、どんなにかうれしかったのです。
「ところで、おとうさんは鉄砲を持っているかね？」と、アッカはたずねました。
「持ってますとも。その鉄砲があったからこそ、ぼくはいつかの日曜日に教会へいかないで、家に残っていたんですよ！」と、ニールスは答えました。
「それじゃ、家へはひとりでいっておいで。あしたの朝、スミューエ岬で待ってるよ！」と、アッカは言いました。
　ニールスが家に着いたとき、庭にはだれもいませんでした。そこで、さっそく牛小屋をのぞいてみました。
「こんちは、マイルース！」と、ニールスはさけびながら、牛のそばへ走りよりました。「おとうさんとおかあさんはどんなふうだい？」
「あんたがいっちまってからは、苦労のしどおしさ！　やっとの思いで買った馬は、病気で役にもたたないしね。とにかく、あんたのことを思って、気のどくなほど、悲しんでいるよ！」と、マイルースは答えました。
　ニールスはたまらなくなって、牛小屋を出ると、こんどは馬小屋にいきました。
「きみは病気だっていうけど、どこが悪いの？」と、いかにも、じょうぶそうな馬をながめながら、たずねました。
「病気ってわけじゃないんだけど、ひずめのあいだにとげみたいなものがささっちゃって、そいつが痛いもんだから歩けないんだよ！」と、馬は悲しそうに言いました。
「どれ、見せてごらん！」ニールスはこう言って、ひずめの上に、なにやらきざみつけました。
　そのとき、中庭のほうで人声がしました。おとうさんとおかあさんが帰ってきたのです。まもなく、おとうさんは馬小屋にやってきて、馬のどこが悪いのか、もう一ど調べようと思って、びっこをひいているほうの足を高く上げてみました。と、ひずめの上に、なにかきざみつけてあるではありませんか。「おや、なんだろう？」おとうさんはびっくりしてさけびました。そこには、「ひずめのあいだのとげをぬけ！」と、書いてあったのです。
　そのとき、おかあさんがかけこんできて、うれしそうにさけびました。
「あなた、あなた、白ガチョウが帰ってきましたよ！」
　ガチョウのモルテンは、もとの住みかをダンフィンに見せたくて、帰ってきたところを、ニールスのおかあさんにつかまってしまったのです。
「そうかい、こっちでも馬の病気のわけがわかったところだ！」と、おとうさんもうれしそうに言いました。
「ああ、やっと、わたしたちにも運がむいてきましたね！」と、おかあさんは言いました。「ちょうど、もうじきお祭りだから、さっそくあのガチョウを殺しましょうよ！」
　しばらくすると、台所のほうから、「助けてえ！　オヤユビさん、助けてえ！」というモルテンの悲しいさけび声が聞こえてきました。
　ニールスは台所の戸口めがけて、いっさんに走っていきました。ガチョウが殺されれば、じぶんが人間にもどれるなんてことは、いまはすっかり忘れていました。ただ、長い間いっしょに苦労してきたガチョウを救いたい気もちでいっぱいだったのです。
「おかあさん、おかあさん、ガチョウを殺しちゃいけない！」ニールスは気ちがいのようにどなりながら、部屋の中にとびこみました。
「まあ、おまえはニールス！　ニールスじゃないの！　なんて大きく、なんてりっぱになったんでしょう！」と、さけんだおかあさんの声は、うれしさにふるえていました。そうです、このしゅんかんに、小人の魔法がとけて、ニールスはりっぱな若者になっていたのです。

ガンたちとの別れ
　あくる朝早く、ニールスはガンたちと約束しておいた海岸にいきました。きょうはまたすばらしいお天気で、渡り鳥のむれがひっきりなしに飛んでいきます。
　やがて、アッカたちのむれが飛んできました。みんなはニールスに気がつかないのか、そのままいきすぎようとします。ニールスはあわてて呼びとめようとしました。でも、どうしたことか、きょうは舌がこわばって、ちっとも動きません。アッカが空で呼んでいるのが聞こえても、何を言っているのか、さっぱりわかりません。
　ニールスは、がまんができなくなって、「ここだよォ！　ここだよォ！」と、帽子を振りながら、さけびました。
　ところが、それはかえってガンのむれをこわがらせてしまったのでしょう。みんなはさっと高く舞いあがって、海のかなたへと飛んでいってしまいました。
　けれども、すぐまたガンたちの羽ばたきが聞こえてきました。アッカも、このままオヤユビくんとわかれるのがつらかったのです。みんなはニールスのまわりに舞いおりてきて、口ばしでニールスのからだをなでまわしました。
　それから、ニールスは長い間のすばらしい旅のお礼を言おうと思って、ガンたちに話しかけました。すると、ガンたちはきゅうに静かになって、「ああ、オヤユビくんはもう人間になってしまったんだ！　だから、オヤユビくんにはこっちの言うことがわからないし、われわれのほうにもオヤユビくんの言うことがわからないんだ！」とでも言いたいように、ニールスのそばを離れました。
　やがて、楽しそうに鳴きさけぶガンのむれにまじって、アッカたちのむれだけは、さびしそうに飛んでいきました。ニールスは、いつまでも、いつまでもそのあとを見送っていました。そして、もう一ど、ガンたちといっしょに飛びまわることのできる小人になりたいような気がするのでした。
